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二章:悲劇の日から
記憶に取り残された幼馴染 03
しおりを挟む何を、しようとしていたのか。
どくどく、と心臓が五月蝿く喚く。
「ぁ、サ……ン、くん? こ、こ……どこ?」
見たこともない部屋にいるのだから、クロが所在無さ気に部屋を見回すのも無理はない。
「ボクの部屋だよ。おはよう、クロ君」
努めて冷静に、いつもの調子で答えたが、内心ではどう切り出せば良いのか解らないでいた。
「でも僕、サン君の高校にいた筈だよね?」
あれ、と首を傾げるクロに、違和感を覚える。
体中、男の精液でベタベタになっていたと言うのに、それを気にした素振りもない。
クロにとっては、輪姦も大したことのない出来事だったのか、それとも記憶自体が朧気なのかもしれない。
「……ボクは校門で待っていろと言ったはずなんだけど、何をしていたのさ?」
探るように質問を投げ掛け、彼の表情から仕草まで観察するように凝視する。
「ごめんよ。校門で待っていたら、照須って言う人が、サン君が呼んでいるから案内するって。それで……倉庫みたいなところに行ったんだけど。……うーん、うーん、あれ? うー、駄目だ。思い出せないや」
徐ろに上体を起こし、説明を始めるクロだったが、途中で頻りに首を捻り、困ったようにボクを見詰めてきた。
記憶に残る出来事から、今の状況までの把握が出来ずに不安なのだろう。
嘘を吐いているとは思えなかった。
そもそもクロは考えていることが直ぐに顔に出るのだ。
嘘など吐ける筈もない。
早く不安を取り除いてあげたいとも思ったが、それよりも確認したいことがあった。
「ねえ、クロ君。変なことを聞くけどね。小学生の時にボクと約束したこと、覚えているかい?」
覚えていないのは無理矢理犯された出来事であり、その直前までの記憶はある。
クロは、実の父親から耐え難い性的虐待を受けており、その父親に母親を殺されている。
一つの推理として、性的なことを無意識に記憶の外に追いやっているのではないかと浮かんだのは、あまりにも辛い出来事があり、忘れてしまいたいと強く望んだ結果、脳が記憶を改竄してしまうことがあるという記述を、何処かで読んだのを思い出したからだ。
あの約束は、クロが父親から性的虐待を受けていると告白してくれた時であり、恐らく、約束を覚えているとなると、忘れたい出来事も忘れられなくなるため、本来何ら性的な要素も持たない約束までも記憶から弾かれているのではないか。
核心には触れずに疑惑を裏付けるのに丁度いい質問だった。
「え? 中学、じゃなくて?」
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