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一章:傲慢王子は呪われ奴隷を飼う
奴隷と水浴び 04
しおりを挟む「忠告は受けたが、視察として訪れている以上は見ない訳にもいかないだろう。途中まで領主殿の息子に案内して貰っていたんだが、はぐれてしまったようだ。少年、入口まで案内して貰えるか?」
メシアは近付いてくる青年を冷めた眼差しで見詰め溜息を吐き出した。
「そう。本来なら奴隷の僕にそんな義理も義務もないんだけど。スノーレェィン家のお客人なら断れない。着いて来て」
体を拭いた布と汚れた衣服を纏めて布鞄に押し込み、鞄を肩に掛ける。
メシアは泉の外、木々の密集し小動物も通れなさそうな箇所に足を伸ばした。
するり、と木は意思を持っているかの如く隙間を作って行く。
この森の木は意思を持っている。
森に生息する動物は、魔女同様にカースレストに愛されていた。
それ故に、この森を自由に動き回れるのは、魔女とゴッドマーシュの人間と動物達のみだ。
威圧感を放つ無表情の青年がこの泉まで辿り着けたことは、本当に奇跡に近い。
途中までソーマといたと言うことは、近くまではソーマが案内した結果ということだろう。
客人も満足に案内出来ないのか、と頭は悪くないのにおバカで残念な従弟を想い、自然と口角が上がった。
「おい」
「っっ……! さわっ、るな!」
不意に何かが伸びてくる気配を感じ、振り返り様に頭へ触れようとしていた青年の手を叩き落とす。
震える体を抱き締めながら彼から距離を取り後退った瞬間、ガクガクと言うことのきかない足から力が抜け、ヘタリとその場に座り込んでしまう。
青年の漆黒を思わせる黒い瞳がメシアを静かに見下ろしていた。
フッと息だけで笑う彼が、そう距離も離れていないメシアに近付き、目を合わせるためかしゃがみ込む。
「髪に葉が着いている。取るだけだ。そう怯えるな」
「あ、はっ……ぱ? 自分で」
伸びてくる青年の腕を茫然と眺め「取るから」と口にしようとしてメシアは最後までは言えなかった。
音になる前に彼の手が、乾き切らず毛先が肩に触れる程の長さまで伸びた髪に触れた。
頭頂部、耳の後ろ、毛先、と感情の感じられない顔で一枚づつ丁寧に取り除いていく青年は、どことなく楽し気で、メシアは息を止めて身を縮こませているしか出来ず、震えの止まらない体躯を抱く腕に力を込める。
「案外柔らかいんだな」
「はなっ、し、て。さわ、んっ、な!」
他人の手が自分の髪に触れていると考えるだけで、背筋がゾワゾワと粟立ち、得体の知れない恐怖が臓腑の内から這い上がってくるようだった。
もう葉は取り切った筈なのに離れていかない手に、メシアの心は限界を迎える。
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