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第三章 学園編
3 入学試験
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オルレアン高等魔導学院は世界宗教アリスト教の総本山があるバッカド国の首都オルレアンに位置する。
学院には二つの顔があった。
一つは、魔法を学ぶ学府として世界最高と言われていること。
もう一つは、二大国や各国の貴族が宗教的影響力を擁するバッカド国との関係を良好に維持するための修道院的な施設であるということだった。
世界中の信者からの寄進で元々豊かなバッカド国が政治的な価値が非常に高い学院に、常に人的、経済的資源を投入していた。
そのため試験も一斉テストではなく数度に渡って行なわれ、複数の試験官から生徒の適性を判定される。
もちろんレオの試験も複数の試験官が担当した。
◆◆◆
「アイリーン先生の推薦したレオ君か?」
五人の試験官の内、もっとも偉そうな試験管がレオに聞く。
名前は分からないが、精悍な顔つきの若い男だった。
ソフィアもその隣で微笑んでいた。
アイリーンとは帝国に滅ぼされた亡国の王女ソフィアの偽名だ。
「はい」
試験場は青空会場には鋼鉄の鎧が人の高さの台に乗せてあり、胸元に二重の丸が書いてあった。
なるほどこれに何かしらの魔法を当てろということだなと思う。
「私は君の試験において責任者を務めるハートリーだ。流石にアイリーン先生の推薦だな」
「まあ。どういうことですか?」
ハートリーにソフィアが笑いかける。
「この会場に入っただけで帰らされるものもいるけど、レオ君の魔力はとてつもなく大きい」
なるほどね、とレオは直感的に気がついた。
このハートリーという試験官はどうもソフィア、ここではアイリーン先生に強い好意を持っているらしい。
そのアイリーンが推薦した自分に関心を持っているのだ。
ハートリーとソフィアのやり取りで主役である自分が蚊帳の外のようではあるが、都合が悪いということはないだろう。
「ありがとうございます」
「うむ」
魔法使いが魔力を隠すのは〝普通〟だ。
しかし試験会場では魔力を全力で誇示するものが、ほとんどだった。
なぜなら会場に入った途端に魔力不足ということで退けられることもある。
レオは〝普通〟だった。
特別、無理に実力の一端である魔力を全て見せるわけもないし、逆に魔力を全て消そうとすることもない。
普通に隠していれば、大きな魔力の持ち主と思われるだけだ。
「ハハハ。君の魔力は底が知れないな」
ハートリーは笑いながら言った。
魔法使いが隠された魔力を読もうとするのも〝普通〟だ。
しかしハートリーがレオの隠された魔力をすべて読めたかどうかは疑わしい。
蟻の大きさしか無い者が、目の前の巨像の大きさに気がついて笑えるだろうか。
ハートリーはレオが会場に入り全力で魔力を誇示していると思ったのかもしれない。
「さて、もう既に実技試験の内容は分かっていると思う」
「あ、はい。あの鎧の的に魔法を当てれば良いのでしょうか?」
「そうだ。自分の得意な攻撃魔法で構わん。出来る限り、的の中心を狙って放て」
「わかりました~」
レオは油断した。
全力で魔法の威力を抑えなくはならなかったのだ。
指向性の高い魔法を適当に放ってしまう。
「ファイアアロー」
瞬間、レオの掌から矢と呼ぶにはあまりに巨大な炎の奔流が現れ鋼鉄の鎧を地面ごと削りとっていた。
その場にあった地面ごとえぐり取っていたが、辛うじて試験官五人があらかじめ貼っていた魔法の障壁に亀裂を入らせるに収まった。
ソフィアが障壁に魔力を注いでいなかったら確実に破壊していたことだろう。
「やべ、ミスった」
「お前! 威力の試験ではなくこれがコントロールの試験だということもわからないのか!」
「ハートリー先生。一応魔法は的には当たっているようですから……」
レオはミスったと言ったが、そもそも彼は魔法の威力の調整が苦手でいつもぶっ放してしまう。
方向性の調整は完璧で的の中心を捉えていたはずだが、その的自体も無くなっている。
ハートリーの態度も好意的なものから百八十度変わっていた。
ひょっとしたらハートリーはアイリーンのことでレオが脅威になると思ったのかもしれない。
「いくらコントロールが苦手だからといってこんな危険な手段で誤魔化すなど言語道断だぞ!」
「す、すいません」
「もういい! 次の試験はまさしく威力の試験なのだが、その実力はわかった。お前は筆記試験に行って構わん」
レオは逃げるようにぐちゃぐちゃになった実技試験の会場を後にした。
◆◆◆
「まあ筆記はあんなことにはならないだろう」
試験用紙を裏返しに置いて開始の合図を待つ。
「試験開始!」
試験官の合図とともにこの日だけ顔を合わせた者(つまり入学できなかった者)とウェステが一斉に用紙を表にする。
パッと見てレオが思ったことはこうだった。
「過去問もそうだったけど、案の定簡単すぎるな。これならウェステも受かるかも知れないぞ」
自分のことよりも他人の心配をしたレオだったが、それは誤りだった。
後にマリーから諭された。
「コートネイ家の魔法理論は地動説で世間の魔法理論は天動説はなの!」
記述式におけるレオの魔法理論は、世間的にも学院的にも全く模範的な解答になっていなかった。
だが、その魔法理論になにも感じない教師ばかりが集まっているわけではない。
たまたま答案を見た副学長のシヴァは
「ここに書かれた魔法理論は三十年か四十年後には正しいものと扱われているかもしれない」
と言ったらしいことがソフィアを通してレオにも伝わった。
ともかく、入学後レオの成績も貼りだされた。
=============================
実技
威力 48点
調整 0点
筆記 判断不能
合計 48/300
=============================
レオの筆記の点数は数字ではなく判断不能という文字が書かれていたが、合計点を見れば0点ということらしかった。
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賢者の転生実験の第二巻が3月25日頃(出荷日23日)
異世界料理バトルの第二巻が4月28日頃に発売されます。
表紙をクリックするとキャラ表や立ち読みもできます。
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オルレアン高等魔導学院は世界宗教アリスト教の総本山があるバッカド国の首都オルレアンに位置する。
学院には二つの顔があった。
一つは、魔法を学ぶ学府として世界最高と言われていること。
もう一つは、二大国や各国の貴族が宗教的影響力を擁するバッカド国との関係を良好に維持するための修道院的な施設であるということだった。
世界中の信者からの寄進で元々豊かなバッカド国が政治的な価値が非常に高い学院に、常に人的、経済的資源を投入していた。
そのため試験も一斉テストではなく数度に渡って行なわれ、複数の試験官から生徒の適性を判定される。
もちろんレオの試験も複数の試験官が担当した。
◆◆◆
「アイリーン先生の推薦したレオ君か?」
五人の試験官の内、もっとも偉そうな試験管がレオに聞く。
名前は分からないが、精悍な顔つきの若い男だった。
ソフィアもその隣で微笑んでいた。
アイリーンとは帝国に滅ぼされた亡国の王女ソフィアの偽名だ。
「はい」
試験場は青空会場には鋼鉄の鎧が人の高さの台に乗せてあり、胸元に二重の丸が書いてあった。
なるほどこれに何かしらの魔法を当てろということだなと思う。
「私は君の試験において責任者を務めるハートリーだ。流石にアイリーン先生の推薦だな」
「まあ。どういうことですか?」
ハートリーにソフィアが笑いかける。
「この会場に入っただけで帰らされるものもいるけど、レオ君の魔力はとてつもなく大きい」
なるほどね、とレオは直感的に気がついた。
このハートリーという試験官はどうもソフィア、ここではアイリーン先生に強い好意を持っているらしい。
そのアイリーンが推薦した自分に関心を持っているのだ。
ハートリーとソフィアのやり取りで主役である自分が蚊帳の外のようではあるが、都合が悪いということはないだろう。
「ありがとうございます」
「うむ」
魔法使いが魔力を隠すのは〝普通〟だ。
しかし試験会場では魔力を全力で誇示するものが、ほとんどだった。
なぜなら会場に入った途端に魔力不足ということで退けられることもある。
レオは〝普通〟だった。
特別、無理に実力の一端である魔力を全て見せるわけもないし、逆に魔力を全て消そうとすることもない。
普通に隠していれば、大きな魔力の持ち主と思われるだけだ。
「ハハハ。君の魔力は底が知れないな」
ハートリーは笑いながら言った。
魔法使いが隠された魔力を読もうとするのも〝普通〟だ。
しかしハートリーがレオの隠された魔力をすべて読めたかどうかは疑わしい。
蟻の大きさしか無い者が、目の前の巨像の大きさに気がついて笑えるだろうか。
ハートリーはレオが会場に入り全力で魔力を誇示していると思ったのかもしれない。
「さて、もう既に実技試験の内容は分かっていると思う」
「あ、はい。あの鎧の的に魔法を当てれば良いのでしょうか?」
「そうだ。自分の得意な攻撃魔法で構わん。出来る限り、的の中心を狙って放て」
「わかりました~」
レオは油断した。
全力で魔法の威力を抑えなくはならなかったのだ。
指向性の高い魔法を適当に放ってしまう。
「ファイアアロー」
瞬間、レオの掌から矢と呼ぶにはあまりに巨大な炎の奔流が現れ鋼鉄の鎧を地面ごと削りとっていた。
その場にあった地面ごとえぐり取っていたが、辛うじて試験官五人があらかじめ貼っていた魔法の障壁に亀裂を入らせるに収まった。
ソフィアが障壁に魔力を注いでいなかったら確実に破壊していたことだろう。
「やべ、ミスった」
「お前! 威力の試験ではなくこれがコントロールの試験だということもわからないのか!」
「ハートリー先生。一応魔法は的には当たっているようですから……」
レオはミスったと言ったが、そもそも彼は魔法の威力の調整が苦手でいつもぶっ放してしまう。
方向性の調整は完璧で的の中心を捉えていたはずだが、その的自体も無くなっている。
ハートリーの態度も好意的なものから百八十度変わっていた。
ひょっとしたらハートリーはアイリーンのことでレオが脅威になると思ったのかもしれない。
「いくらコントロールが苦手だからといってこんな危険な手段で誤魔化すなど言語道断だぞ!」
「す、すいません」
「もういい! 次の試験はまさしく威力の試験なのだが、その実力はわかった。お前は筆記試験に行って構わん」
レオは逃げるようにぐちゃぐちゃになった実技試験の会場を後にした。
◆◆◆
「まあ筆記はあんなことにはならないだろう」
試験用紙を裏返しに置いて開始の合図を待つ。
「試験開始!」
試験官の合図とともにこの日だけ顔を合わせた者(つまり入学できなかった者)とウェステが一斉に用紙を表にする。
パッと見てレオが思ったことはこうだった。
「過去問もそうだったけど、案の定簡単すぎるな。これならウェステも受かるかも知れないぞ」
自分のことよりも他人の心配をしたレオだったが、それは誤りだった。
後にマリーから諭された。
「コートネイ家の魔法理論は地動説で世間の魔法理論は天動説はなの!」
記述式におけるレオの魔法理論は、世間的にも学院的にも全く模範的な解答になっていなかった。
だが、その魔法理論になにも感じない教師ばかりが集まっているわけではない。
たまたま答案を見た副学長のシヴァは
「ここに書かれた魔法理論は三十年か四十年後には正しいものと扱われているかもしれない」
と言ったらしいことがソフィアを通してレオにも伝わった。
ともかく、入学後レオの成績も貼りだされた。
=============================
実技
威力 48点
調整 0点
筆記 判断不能
合計 48/300
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レオの筆記の点数は数字ではなく判断不能という文字が書かれていたが、合計点を見れば0点ということらしかった。
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賢者の転生実験の第二巻が3月25日頃(出荷日23日)
異世界料理バトルの第二巻が4月28日頃に発売されます。
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