冤罪悪役令嬢はヤンデレ王太子に溺愛監禁される

三日月深和

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ストーカーと冤罪令嬢

この思いを伝えるならば(2)

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 ***
 
 鳥の鳴き声で目が覚める。
 重たい体を起こしてふと横を見てから、「なんだいつものことか」とあくびをして、

「!」

 はっと昨日の記憶が帰ってきた。
 思い出した時驚き過ぎて声が出そうになってしまい、慌てて手で口を塞ぐ。

「…」

 恐る恐る横を見るとディードリヒはまだ寝息を立てていたので、起こしてしまうのも忍びないと出直すことにした。
 起こさないようにベッドから出て…

「きゃあっ」

 後ろから伸びてきた腕に邪魔されてしまう。
 小さな悲鳴をあげて振り返ると、そこにはまだ寝ぼけ眼でこちらに微笑むディードリヒの姿があった。

「おはよう、リリーナ…」

 その姿に翻弄されない女性は少ないのではないだろうか、それほどまでにディードリヒの寝起きはとろんとぼやけている。

 そもそも普段リリーナに対しては喋り倒しているので表情も崩れがちだが、何も話していなければ丹精な顔立ちが目立つ。一見線が細いようで男性らしい筋肉のついた体ではあるし、もてはやされないわけがない。

 普段は切長の目元のせいか冷静な印象を受けるが、社交界ではお世辞程度の笑顔でも何人かの令嬢が湧き立つほど。

 そんな一見人と壁を作るような相手が、自分に向かって朝微笑んだらどうだろうか、この写真を売るだけでも相当な値がつくことだろう。

「…えぇ、おはようございます」

 しかしリリーナの顔は少しばかり暗い。

 これまでのことでもう見慣れている側面もありそうだが、本人の心としてはそんなことで暗くなったりはしない。
 ディードリヒは彼女の表情に何か感じたのか、優しく声をかける。

「どうしたんだい、こんな…」
「お話を、しにきたんです」
「話?」
「だけど、私が寝てしまって…もう朝ですわ。起こさないでいてくれてありがとうございます。朝の支度をしなくてはいけませんね」

 リリーナは再び布団から出ようと動き出す。しかし、ディードリヒの腕はそれを許さなかった。

「どんな話?」
「え…でもお時間が」
「いいよ、聞かせて?」

 優しく語りかけるディードリヒに、リリーナは少し申し訳なさが先立つ。しかし、相手が話してほしいと言うのなら…と口を開いた。

「私も、うまく言えるわけでなないのですが」
「うん」
「近頃貴方がその…“大人しい”と思いまして」
「大人しい?」
「前ほど言い寄ってこなくなったといいますか、それがよかったはずなのですが」

 自分で言っていて焦ったいと感じてしまう。しかしうまく言えないというのも本当で、着ているネグリジェの裾を握った。

「それでもこのままでは…貴方が遠くへ行ってしまいそうで」
「それが話したかったこと?」
「い、いけなかったでしょうか?」

 話していると、最悪の結果を考えてしまって少し震える。それに対してディードリヒは優しい微笑みを向けた。

「ううん、いいよ。君は僕にどうして欲しい?」
「ど、どうって…」

 言いたいことは実は自分で思うより恥ずかしいことなのではないかと思うと、急に話すのを躊躇ってしまいそうになる。
 しかし言わなければ始まらない。心を決めなければ。

「…もっと、構って欲しいといいますか」
「うん」
「前みたいに、抱きしめたりしてほしい…ような」
「ような?」
「…っ、あぁもう!」

 焦ったさのあまり彼女はディードリヒの上に馬乗りになると、顔を赤くしたまま少しばかりの怒りを表す。驚くディードリヒにはお構いなしで言葉を続けた。

「私は! 貴方の、その変態みたいな行動も含めて貴方を好きになってしまったんですのよ! 責任を取って下さいませ!」

 リリーナは言葉の中で段々と顔の温度を高めていく。その姿を見開いた目で見ているディードリヒに、今度はわずかに涙を浮かべた彼女が映った。

「第一、急にやめるから…あ、愛想を尽かされたのかと、思って…」

 落ち込みきっている彼女は、完全に下を向いてしまっている。ディードリヒは、片腕で目元を覆うと、堪えるように笑い出した。

「くく…ははは…っ」
「!?」

 その姿にリリーナは少し体を跳ねさせ身構える。しかし次の瞬間、ディードリヒは勢いよく上体を起こし彼女を抱きしめて、すぐに視線を合わせた。

「嬉しいよリリーナ!」

 これまでにない喜びようのディードリヒに、今度はリリーナが目を白黒させる。

「嘘みたいだ! リリーナが僕を好きになってくれる日が来るなんて!」
「急になんですのそんなことで…」

 恥ずかしさのあまりリリーナは顔を背ける。相手を引き剥がそうとするも、逆にその腕ごとまた抱きしめられてしまった。

「大事なことだよ! 今日はパーティにしよう! 世界で一番嬉しい日だ!」
「少し落ち着きなさい! もっとゆっくり…」
「僕の愛を理解してくれたってことでもあるもんね! もう我慢しなくて良いんだよね!」

 その言葉にまた顔の熱が帰ってくる。

「そ、それはっ、貴方が急に辞めたりするから、驚いただけで…」
「ミソラから話は聞いてたけど、こんな素敵なサプライズ知らなかった! 今日も最高に、いや今日はもっともっと最高にかわいいよリリーナ!」
「は、話を聞きなさ…ってミソラは何を話したんですの!?」
「僕のそういうところも好きって言ってくれたじゃないか。教えない」

 慌てて怒ればそれはそれでディードリヒがむくれてしまい、リリーナは大きくため息をついてしまう。

「!」

 すると今度は、ディードリヒがなんの前触れもなくリリーナの胸に顔を埋め始めた。

「きゃああっ! なっななななな何をしていますの!?」
「リリーナの心臓の音を聴いてる」

 しかし胸に押し付けられているのは額である。

「それなら耳を向けなさい耳を! というか、淑女の胸に顔を埋めるなど失礼極まりないですわ!」
「仕方ないよ。今日みたいな日こそ、リリーナが生きてるか確認しなきゃ」
「確かめなくても生きてますわよ!」
「わかんないよ。これは今、僕が君を殺して見ている幻覚かもしれない」
「どうして私が死んでいるんですのよ!」

 彼女の問いに、ディードリヒの目に灯っていた光は、蝋燭を吹き消したように失われる。
 そして彼は静かに笑う。

「…死んだら全部僕のものだから」

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