冤罪悪役令嬢はヤンデレ王太子に溺愛監禁される

三日月深和

文字の大きさ
20 / 159
ストーカーと冤罪令嬢

この思いを伝えるならば(1)

しおりを挟む
 
 
 ********
 
 
 翌日。
 護身術のレッスンの終わりに汗を拭いながら、講師であるミソラにあることを尋ねてみた。

「だ、男性には、どのような贈り物をするのが喜んでいただけるのかしら…」

 本来なんでもないような質問のはずなのにどうにも恥ずかしくてたまらない。相手や目的が明確なだけに、どうしてもあれやこれやと想像をしてしまう。

 しかしこれも作戦であった。
 ディードリヒが好むものをサプライズで渡して、普段仕立ててくれている身の回りのものや、香水のお礼をしよう、というもの。

「…ディードリヒ様のことでしょうか?」
「! そ、そうですわ。何かいけないことでもあって?」

 顔を赤くしたままつんとした態度をとるリリーナの姿を見たミソラは、一つ深呼吸をして彼女を見つめ返す。

「いえ…おめでとうございます」
「まだ何も言ってなくてよ!?」
「そんな…乙女の顔では…説得力がないかなって…」

 ミソラは心中でディードリヒを祝った。
 一方リリーナは“乙女の顔”にピンとこないのか頬を触って何やら確認しつつ視線をミソラに戻す。

「で! 彼の方は何がお好きかご存知じゃありませんこと?」
「リリーナ様ですよ」
「な…そんなこと、ありませんわ…」

 しょげるリリーナの姿にミソラは近頃の二人を思い返した。確かに最近は以前のようなおもしろ…元気そうな部分はない。

「そうお思いですか?」
「だって最近は…絵に描いたような王子様じゃありませんか…」
「なにかご不満で?」
「!」

 疑問を返されて初めて自分の失言に気づいた。慌てて言葉が口から飛び出す。

「あ、いえ…不満ではないんですのよっ」
「素直に言ってもいいと思いますが」
「素直ですわ! あんな、あんな変態…好きじゃ…」

 言葉を重ねるごとにリリーナはしなしなと元気を失っていく。

「好きじゃ…ないですわ…」

 そこまで言う頃にはすっかり覇気を失ってしまった。枯れた植物のようなしなしな具合である。そこまで落ち込むなら言わなければいいのに、とミソラは思ったものの若さゆえの過ちと思うと楽しみたいとは思えど指摘しようと言う考えはどこかへ飛んでいった。

「素直じゃない方ですね。だからディードリヒ様が最近つまらな…大人しいのではないですか?」
「うぅ…愛想を尽かされてしまったかしら…」

 不安に震えるリリーナだが、ミソラはその姿を大変楽しんでいる。ディードリヒが彼女に愛想を尽かすことなどほぼほぼない、が、リリーナはすっかり踊らされていて、ミソラがそれを言うことはない。本人たちの問題なので本人たちが解決するのが良いだろうとも考えてはいるが、それ以上に状況に翻弄されているリリーナを見ている微笑ましさが優先された結果であった。

 つまり返す言葉はこうなる。

「あら…リリーナ様はディードリヒ様の独特な求愛が理想…ということでしょうか?」
「そ、そうは言っていないでしょう! あれは、あれで…最近多少は慣れてきたといいますか、まぁ、好意を向けられるのは悪くないといいますか…」
「やっぱり好きなんじゃないですか」
「う、うぅ~~! 揚げ足取りですか! 貴女は!」

 顔を真っ赤にして怒るリリーナが激しく微笑ましい。そう考えるが故にミソラは今後もいじり続けると心に決めた。
 しかしそれとこれは別として、やはりなにも手助けしないと言うのも忍びない。

「そうですね、ディードリヒ様はリリーナ様が好きなんですから、普段の仕返しでもして驚かせてみたら如何ですか?」
「…仕返し?」
「リリーナ様さえよろしければ、ですが」
「勿体ぶらないで早く話しなさい」
 
「ディードリヒ様のベッドにでも潜り込んだら良いんですよ」
 
 
 ***
 
 ごそごそとベッドでバレないようにと動く影がある。

 ディードリヒの個室で彼を待つリリーナは、関係性の進展を期待し普段はしないようなことをしていた。普段の彼女であれば、異性の寝所でましてや先に待っているなど不純も甚だしいとやることはないが、側から見れば完全に興奮で冷静さを失っている彼女はなぜかミソラの提案を鵜呑みにして行動している。

 しかし二人きりであればこのある種膠着してしまった状態も脱せるはず! とリリーナは意気込んでいるわけで。少なくともこの屋敷に彼女の熱意を妨げるような使用人は存在しなかった。つまり誰も止めなかったのである。

 こうしてネグリジェの状態で異性のベッドに潜り込む元お嬢様、と言う状況が出来上がった。

「…それにしても、私のベッドより大きいのではなくって!?」

 理不尽な怒りを枕にぶつけるリリーナ。
 確かにディードリヒは身長が高いことも相待ってキングサイズのベッドだが、リリーナの個室に置かれているものはクイーンサイズではある。それでも十分大きいと思うが、彼女は何が不満なのだろうか。

「…」

 五分ほど暴れ沈黙。時刻は二十二時を過ぎているがディードリヒが帰ってくる気配はない。
 つまらないと言わんばかりにぼすん、と音を立てて倒れ込む。抱き抱えた枕からディードリヒの香りがして、そこに顔を埋めてみた。

「…ふむ」

 悪くない。
 匂いがどうだのと口にされると気持ち悪いが、確かに相手の香りを感じるというのは悪くないと思った。ディードリヒも、好きな人間の香りというのは安心するのだろうか。

「まぁ、何があっても気持ち悪いと言う感想は撤回されませんけど!」

 虚空に向かって言い放つ。しかし返事が返ってくることはなく、ただ虚しくなっただけであった。

「もう…早く来ないかしら」

 こっちがここまで勇気を出して行動を起こしているのだから、と気持ちが逸る。そうでなくてもこの時間に仕事をしているなど疲労も溜まるだろうに。

「…心配、ですわね」

 相手だって人間だ。いつだって忙しそうな姿を見ていれば心配にもなる。

「私にも…何か…」

 自分も役に立てないだろうか、とはやはり考えてしまって、あれやこれやと考えているうちに、枕を抱いたまま意識が遠くなっていく。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

冗談のつもりでいたら本気だったらしい

下菊みこと
恋愛
やばいタイプのヤンデレに捕まってしまったお話。 めちゃくちゃご都合主義のSS。 小説家になろう様でも投稿しています。

お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。

下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。 またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。 あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。 ご都合主義の多分ハッピーエンド? 小説家になろう様でも投稿しています。

見た目以外あんまり好きじゃない婚約者が幼児化したのでこれ幸いと育て直してみた

下菊みこと
恋愛
幼い子供に戻った婚約者を育て直すお話。 ご都合主義のSS。 元サヤでハッピーエンド。 ざまぁは横恋慕した婚約者の幼馴染にちょっと添えるだけ。 小説家になろう様でも投稿しています。

わんこ系婚約者の大誤算

甘寧
恋愛
女にだらしないワンコ系婚約者と、そんな婚約者を傍で優しく見守る主人公のディアナ。 そんなある日… 「婚約破棄して他の男と婚約!?」 そんな噂が飛び交い、優男の婚約者が豹変。冷たい眼差しで愛する人を見つめ、嫉妬し執着する。 その姿にディアナはゾクゾクしながら頬を染める。 小型犬から猛犬へ矯正完了!?

じゃない方の私が何故かヤンデレ騎士団長に囚われたのですが

カレイ
恋愛
 天使な妹。それに纏わりつく金魚のフンがこの私。  両親も妹にしか関心がなく兄からも無視される毎日だけれど、私は別に自分を慕ってくれる妹がいればそれで良かった。  でもある時、私に嫉妬する兄や婚約者に嵌められて、婚約破棄された上、実家を追い出されてしまう。しかしそのことを聞きつけた騎士団長が何故か私の前に現れた。 「ずっと好きでした、もう我慢しません!あぁ、貴方の匂いだけで私は……」  そうして、何故か最強騎士団長に囚われました。

転生したら4人のヤンデレ彼氏に溺愛される日々が待っていた。

aika
恋愛
主人公まゆは冴えないOL。 ある日ちょっとした事故で命を落とし転生したら・・・ 4人のイケメン俳優たちと同棲するという神展開が待っていた。 それぞれタイプの違うイケメンたちに囲まれながら、 生活することになったまゆだが、彼らはまゆを溺愛するあまり どんどんヤンデレ男になっていき・・・・ ヤンデレ、溺愛、執着、取り合い・・・♡ 何でもありのドタバタ恋愛逆ハーレムコメディです。

主人公の義兄がヤンデレになるとか聞いてないんですけど!?

玉響なつめ
恋愛
暗殺者として生きるセレンはふとしたタイミングで前世を思い出す。 ここは自身が読んでいた小説と酷似した世界――そして自分はその小説の中で死亡する、ちょい役であることを思い出す。 これはいかんと一念発起、いっそのこと主人公側について保護してもらおう!と思い立つ。 そして物語がいい感じで進んだところで退職金をもらって夢の田舎暮らしを実現させるのだ! そう意気込んでみたはいいものの、何故だかヒロインの義兄が上司になって以降、やたらとセレンを気にして――? おかしいな、貴方はヒロインに一途なキャラでしょ!? ※小説家になろう・カクヨムにも掲載

転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。

処理中です...