冤罪悪役令嬢はヤンデレ王太子に溺愛監禁される

三日月深和

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ストーカーと冤罪令嬢

困っているようで浮かれている(2)

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「…また、抱きしめて、もらえたら」
「抱きしめていいの?」
「!?」

 背後から聞こえた声に思わず振り返る。
 そこにはディードリヒの姿があって、

「な、なんのことかしらっ、失礼致しますわ!」

 恥ずかしさのあまり走って逃げようとした。

「きゃう!」

 しかしあっさり腕を掴まれ逃げ損なう。そのまま彼女はディードリヒの手によって後ろから抱きしめられる。

「あわわ…」
 顔が見えない分マシではあるかもしれないが、それでも体温や抱きしめ方やその他諸々が相手を思わせて彼女の心臓はどうにかなりそうだ。

「どうしたのリリーナ、自分からおねだりなんて」
「お、おねだりなんてしてませんわ!」
「じゃあやめていい?」
「!」

 少し緩まった抱擁に、すぐはっとする。
 それはそれで、結局寂しい。

「…」
「…!」

 しょんぼりとしたリリーナを初めて見たディードリヒは少しの間言葉を失うが、すぐにっこりと笑って彼女の耳に囁いた。

「僕、リリーナの気持ちが知りたい。教えて?」
「~~~…っ」
「だめ?」

 ディードリヒからの囁きに、リリーナは体を震わせみるみる顔を赤くする。すぐに耳まで赤くなって、ようやく口を開いた。

「…い」
「?」
「それは、それで…寂しい、です」
「…!!」

 震える声に目を丸くしたディードリヒは、思わずリリーナを反転させ向き合わせた。恥ずかしさのあまり顔を隠す彼女の手をあっさりと退けると、真っ赤にしたままやや涙ぐむ表情にいろんなものがどうにかなりそうな心境を抱える。

「…リリーナ、泣いてるの?」

 声が上擦らないようにと心がけているのに、この嬉しさには代えられそうにない。

「し、知りませんわ…っ」
「可愛い…涙舐めていい?」
「だめに決まっているでしょう!」
「残念、きっと美味しいのに」

 顔がニヤけないようにディードリヒは必死だ。この愛らしい生き物をどうしてやろうか、そう考えるだけで脳がイカれそうになる。

「そ、そんなことより」

 そう言ってリリーナはディードリヒの服の裾を引いた。

「ちゃんと言いましたわ! つ、続きをしてくださる!?」

 そう話すリリーナは必死である。もうここまできてしまったらヤケクソだと言わんばかりに主張を放ち、ディードリヒはその姿にまたにっこりと笑うのだ。

「いいよ! 抱きしめてほしいんだよね?」

 そう言って彼は待ち望んていたとばかりにリリーナを抱きしめる。しっかりと離す気のない抱擁の中、彼女もまたその背に手を伸ばし、相手の心音を感じてまた一つ胸を鳴らした。

 そこで息を深く吸い込むような音が聞こえなければ。

「…」

 いっそもう恒例になりつつあるこの深呼吸と言うなの変態行為にリリーナは呆れきっている。もうほっとくしかないのだろうかと悲しい悟りを開きかけたところで、ディードリヒは言った。

「あは…少しだけど汗の匂いがするね、リリーナ」
「!」

 その発言に怖気が立つ。発言の気持ち悪さは勿論のこと、彼女としてはあってはいけないことが起きている。

「は、離してくださいませ!」

 そう言って全力で離れようとするが逃がす気のない抱擁は続いており、案の定逃げられない。

「どうして逃げるの? いい香りなのに」
「そう言う問題ではありません! 嗜みの問題ですわ!」
「気にしなくていいよ。僕はリリーナの足の匂いだって好きになれるよ」
「ひぃ! 勘弁してくださいませ!」

 嗜みの問題とは、汗ばむと化粧が崩れたり服にシミがついたり、そもそも印象が良くない、と言う話なのだが相手にそれは通じそうにないようである。

 それにしても久しぶりに開いてはいけない扉を開いてしまったとリリーナは心の底から後悔した。

「いやだよぉ、離れたくない。だってリリーナお茶会の時間になってもきてくれなかったもん」
「そっ…それは、申し訳ないことをしたと思っています」

 顔を合わせづらかったとは言いづらい。
 それにしてはもう今やいつも通りな気もするが。

「じゃあ罰としてほっぺにちゅーして?」
「!?」
「いいよね、罰なんだし」
「ここは外でしてよ!」
「外じゃなかったらいいんだ」
「そうとも言っていないでしょう! 一度落ち着いてくださる!?」

 今度は意味の番う羞恥に苛まれ顔を赤くするリリーナにディードリヒは悲しみを覚えた。
 そっと彼女を解放し、静かに顔を覆うとしくしくと泣き始める。

「いやだ…リリーナの唇の感触…ちゃんとしたキスは結婚式までとっておこうねって自分で言ったから撤回できないし…せめて感触だけでも…」
「…」

 発言があまりにも具体的すぎてリリーナはやや引いた。

 しかし多少罪悪感が無いでもない。

 顔があわせづらいという身勝手な理由で約束を反故にしてしまったのは事実だ。
 普段相手に良くしてもらっているのもまた事実。そう思うと、まぁ少しは考えないこともない。

「…」

 仕方ない、といった風貌でリリーナはかぶっていた帽子を外す。

「…少し屈んでくださる?」
「…?」

 ディードリヒは少しばかり不思議そうにしながらリリーナに顔の高さを合わせた。リリーナは“自分で言い出したくせに…”と不思議そうなディードリヒに内心で悪態をつきつつ、窓から見えないように二人の顔を帽子で隠してから、彼の頬にキスをする。

「…!」

 それからすぐにリリーナはディードリヒから離れ、口元を帽子で隠す。

「こ、これで良いのでしょう? これでお茶会を流してしまったのは許してくださいませ」

 こういうことは慣れないので顔から火を吹きそうだと思いつつ、照れるあまり視線を合わせられないリリーナは、衝撃のあまり固まってしまったディードリヒを置いて地面を見ている。

(う、浮かれていますわね、私も…)

 ディードリヒが浮かれているのはいつものことだが、付き合って一日目にしては進展が早いようなと考えつつも浮かれた心がそれを肯定するのだからしかたない。

 照れていても仕方ない、と顔を上げると横から肩を軽く叩かれた。

「?」

 横を見るとディードリヒがいつもより綺麗な顔をしてこちらを向いている。あまりに綺麗な顔立ちに見ているだけで顔から火を吹きそうだが、そこからなぜかしっかりと腰を抱かれた。

「リリーナ、少し暑くないかい? 僕の部屋にでも行こうよ」
「な、なんですの急に」
「君にプレゼントしようと思ってずっととっておいたものがあるんだ。付き合えたら渡そうって決めてたから…いやかな?」
「ぷ、プレゼント…?」

 何を藪から棒に、とは考えたが、ずっと渡そうと思っていたと言われると嬉しくなってしまう。そう言うなら…と足を動かした時、ディードリヒの肩が何者かに掴まれた。

「…お仕事の時間でございます。ディードリヒ様」

 聞き慣れた声に振り向くと、いつもよりやや怒ったような雰囲気のミソラがそこにいて、リリーナは目をぱちくりとさせる。

「今は邪魔する空気じゃないと思うなぁ…」
「黙って仕事してください童貞。リリーナ様にはまだ早いですよ」
「…そろそろクビになりたいの?」
「私以外でリリーナ様を守れる自信があるならどうぞ」
「ぐっ…」

 はん、と鼻で笑うミソラにディードリヒは何も言い返せなかった。ミソラはそっとリリーナの手を取ると、急ぎ足でその場から連れ出す。

「リリーナ様はこっちです。あんなケダモノからは離れましょうね」
「どういうことなんですの、急に…」
「人は時として言葉を邪に使うということです」
「…?」

 リリーナに現状は理解できていない。
 “言葉を邪に使う”とは嘘を示す言葉でもあるが、そもそも腹を探り合うようなやりとりさえしていないような…と考えてしまう。

 そしてなんとなく不安で振り返ると、そこには空を見上げ立ち尽くすディードリヒの姿があった。

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