冤罪悪役令嬢はヤンデレ王太子に溺愛監禁される

三日月深和

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ストーカーと冤罪令嬢

思い出と憧れと渇望(1)

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 ********
 
 
 リリーナとディードリヒの関係が“恋人”という括りになって一週間が経つ。

「『婚約者を一人も取らないどころか誘拐までして好きな女を娶ろうとするような男』」

 彼女にはこの言葉が頭から離れないでいた。

 嬉しさ半分、本当にこんなことまでする必要はあったのか…そう考えないではいられない。
 それに付随するように「『僕と君が初めてあったあの日、確かに君は気高い光になった!』」と、あの雨の日の言葉を思い出す。

「あの日、とはいつなんですの…?」

 いつ考えても、ディードリヒの言っている言葉の中身が見つからない。そもそも自分の記憶ではやはり、ディードリヒに会ったこと自体が社交デビューの後なのだ。

(それ以前にあのような容姿であれば覚えているはずなのですが…)

 殆ど黒に近い青い髪、水色の瞳。そんな容姿は滅多にいない。どこかで見ていれば覚えてるはずなのに。

「…?」

 そこまで考えて、何か引っ掛かるような感覚があった。あの水色の瞳は、どこかで覚えているような、と。

(いえ…でもあの子は、女の子だったはず…)

 遠い遠い記憶を掘り返す。
 本当に遠い遠い、子供の頃の記憶を。
 
 ***
 
 それは確か四歳の時だ。
 その頃はまだ王子の許嫁にもなってなくて、大衆小説を読みながら気ままに過ごしてた頃。

『しゅくじょを泣かせるなんてなんたること! はじを知りなさい!』

 そう言って、男の子の前に飛び出した。

 その時は城でパーティがあって、大人の駆け引きに使えない子供たちは一つの部屋に預けられている状況。
 どんなパーティだったのかはわからないが、本を読んで過ごしていたら泣き声が聞こえた。

「…?」

 声の方に目をやると、少女が一人、男子三人に揶揄われて泣いていて、彼女は何も考えず飛び出ていく。

『はむかうならこのリリーナがお相手しますわ! あなたはさがっていて!』

 その頃読んでいた大衆小説よろしく決めポーズで少女の前に立つ。

『なんだよ、リリーナはかんけいないだろ!』

 そう言って邪険にしようとしたのは王子。彼は取り巻きを連れて少女を馬鹿にしていたのだ。

『私はしゅくじょの味方ですの! こうしゅうの面前でじょせいのドレスがダサいなどと、相手をきずつけるだけですわ!』
『でもドレスがにあってないのは本当だろ! リリーナだってそう思ってるくせに!』

 当時、少女は黒い髪にピンクのドレスを身に纏っていて、少し浮いているような印象を感じるもの。それを男子たちは馬鹿にしていた。

『あら、かわいらしいドレスですわ。たしかに、もっと落ちついた色のドレスでしたらかみの色ともあっていてもっとステキかもしれませんが、ピンクがにあわないなんてありません』

 リリーナは振り返って素直な感想を述べると、男子たちに向き直って強く睨みつける。

『そんなことより、しゅくじょに失礼なはつげんをしたあなたたちの方がよっぽどもんだいでしてよ! ぜんいんお父さまに言いつけた方がよろしいかしら』

 強気なリリーナに、男子たちは狼狽え始め、そこで彼女はさらに追い込みをかけた。

『さぁいかがしますの? ぼうりょくにうったえるとしたら、それこそしんしのはじですわよ!」

 リリーナが引く様子は一切ない。
 それを感じた男子たちは嫌々に去っていく。

『いこうぜ、こいつめんどくさいよ』

 そう残して散っていった背中を見届けると、リリーナは後ろに振り返って手を差し伸べた。

『おけがはありませんこと?』
『だいじょぶ、です…』

 少女は少しぎこちない言葉の使い方で、リリーナはすぐにそれを察する。

『外国のかた?』
『はい…』
『ではしろの中もよく知らないですわよね。おてあらいくらいでしたらあんないできますし…』
『?』
『もしそのドレスがおいやでしたら、おかあさまに言って私のドレスをおかししますわ』
『…!』
『いかがかしら?』

 相手は少し考える。

『ん…だいじょぶ、にあう、いってくれたです』
『わかりました。ではしろの中をあんないしますわ。私はリリーナ、あなたは?』

 リリーナが差し伸べた手を、相手はそっと掴んで、そして水色の瞳と共に小さく笑った。

『アリア、です』
『アリアさん、ステキなお名前ですわ! 行きましょう?』

 そうして二人は「お手洗い」と言って部屋を飛び出すと、内緒であちこちと周り、結果として親に怒られたのである。
 
 ***
 
 今思い返しても、リリーナにとってはいい思い出だ。
 ほんの少し、笑ってしまう程度には。

 だからと言って、とも同時に思うが。

 アリアはもっと髪が長く、透き通った声をしていた。声ばかりは二次精微で変わってしまうかもしれないが、髪型まで変えるだろうか。

「いえでも、実は男性だったのだとしたら…」

 事実それ以外であの瞳の色は説明ができない。ディードリヒの水色の瞳は一般的な瞳よりさらに色が薄く、実に印象的だからだ。だからこそ、リリーナは再三“宝石のよう”と表現するのである。

「あの時のアリアさんが、ディードリヒ様…?」

 憶測の域を出ないが、それでも説明できないことではない。彼があの時なぜ女装をしていたのかさえわかってしまえば、案外謎は簡単に解けてしまうのかもしれないとも考える。

「だとしても、あまりにも昔のことですわ…」

 現在リリーナが十七歳。あの時ディードリヒが同じ部屋に預けられてたと考えれば、年齢は似たようなものだろう。

 まさかと思うがそんな子供の頃から彼はリリーナを追いかけていたのだろうか。
 そこから彼女が王子の許嫁になったのが六歳の時。その時を彼は知っていたのだろうか。

「…」

 だとしたら随分と発狂していたに違いない、そう考えたが、案外子供ゆえにもっと落ち着いてたかも知れないと希望を抱いた。

「これは調べてみる必要があるみたいですわね…」

 彼女は一人呟く。

 あの時、もしかしたらディードリヒかも知れない誰かが、女装をしてパーティにいた理由がどうしても気になる。

 しかしこれ以上は一人で考えていても答えを導けそうにない。それならば調べるしかないと、彼女は部屋を後にした。

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