冤罪悪役令嬢はヤンデレ王太子に溺愛監禁される

三日月深和

文字の大きさ
71 / 159
彼女の好きなこと

婚約発表

しおりを挟む
 
 
 ********
 
 
「本日の主役のご登場です!」

 号令係の大きな声がパーティ会場に響く。
 今日は待ちに待ったリリーナとディードリヒの婚約発表パーティである。

 夜会の形式で夜に行われた大規模なパーティにはフレーメン高位貴族や王室関係者、リリーナの故郷であるパンドラ王室からも出席者が集まっていた。もちろんリリーナの両親も顔を見せている。

 会場は国境を越えた面々の集まりからか、祝いの場であると同時に重要な外交の場にもなっている状況。

 ディードリヒにエスコートされて入場したリリーナは、清楚な印象を思わせるスレンダーラインの淡い黄色のドレスを身に纏い、アクセサリーもシンプルで嫌味のないものを選んだ。髪は控えめに巻き後ろ髪を上げて首回りのスッキリした印象に。

 ただ忘れなかったのは、アンムートの作る香水だ。やはりパーティほどの伝播力のある場所で宣伝しないと言うわけにはいかない。

 アンムートの…つまり異性の作った香水を纏うとなって若干ディードリヒと揉めかけたが押し通した。

 会場に足を踏み入れるとたくさんの拍手が二人を迎える。冤罪をかけられ全てを失ったパーティや、その冤罪を晴らすために参加したパーティと違い、今度こそ祝福されているのだと安堵した。

 周囲を軽く見渡すと両親の姿が目に入る。実は控え室で事前に会ってはいたのだが、やはり会場で改めて温かい拍手を送ってくれる二人を見ると一気に現実味が強くなった。

 そのほかには自分が招待したアンムートとソフィアの姿が。
 香水店の開店に合わせて二人には都市部に引っ越しをしてもらった。もちろん家賃など発生しないよう、家や引っ越しの代金はリリーナの個人資産から一括支払いで。

 しかし二人はこういった場に合わせた服装を持ち合わせておらず、都市部で暮らすには今のくたびれた服では生活しづらいだろうといくつかの服と合わせてプレゼントした。そうは言っても貴族から見ればお安いものだが。

 ほかにも二人が気を使い過ぎない範囲で家具などできうる限りの歓迎はしたつもりだが、二人は喜んでくれただろうかと思いつつ、拍手を送ってくれる二人に心の中で感謝を述べる。

 さらに高位貴族の娘としてヒルド、ディードリヒの親戚としてファリカ、リリーナの侍女としてミソラの姿も見かけ、自分のをエスコートしているのが最愛の人であるということも含め、リリーナは自分が人に恵まれているのだと、改めて感じた。

 この結果を出すための積み重ねこそが努力であり、己の証なのならば、これからも気を引き締めねばと改めて背筋を正す。

 円状に開かれた会場の中心に立つと、エスコートのため絡めていた腕を解き、互いに向き合って礼をする。

 ここからは舞踏会を兼ねている故のファーストダンス。
 そのため互いにワルツの構えをとり、王国お抱えの楽団の奏でる優しくも軽やかなワルツに沿ってダンスは始まった。

 繋いだ手が決して離れないように、足捌きは羽根のように軽やかに、鹿のようにしなやかに。
 リリーナのステップは完璧と言っていいだろう。一糸乱れぬ足捌き、女性らしい柔軟さを思わせながらまっすぐと伸びた背筋、軽やかで喜ばしい表情。正しく隙のない、芸術のようなダンス。

 かといってディードリヒがそれに見劣りするわけではない。リリーナが無意識に持つ癖にさえ完璧に合わせられたステップは、誰かに真似することなどできないだろう。繋いだ手は離れぬように、それでいて彼女を傷めることがないように。腰に回された手が必要以上に相手を引き寄せることもない。
 ただそれ以上に、会場はざわついていた。

 それは、ディードリヒが笑っていたから。

 それは本来一部の限られた人間だけが見れたはずの、“仮面の殿下”の本当の笑顔。
 愛しいリリーナとのダンスの中で、公衆の面前にありながら彼女を独り占めできる瞬間を、誰よりも愛する笑顔。

 その表情を、ディードリヒは決して自覚してやっているわけではない。漏れ出てしまうのだ、この代え難い時間の喜びが。

 リリーナもまた、その笑顔に返すように微笑む。
 時間が止まればいいのに、ディードリヒは確かにそう願った。

 対してリリーナはこのダンスに運命の歯車を感じていた。
 同じステップを踏んでいても、同じようにダンスの中でくるくると回っても、決して全く同じになることはない。巡り合わせとその時の自らの行いが、あの牢の中で生涯を終えるとさえ思っていた自分の人生を変えた。

 こんなに幸せなことはない。

 まだ婚約発表だというのに、もう人生の絶頂のようだ。そう考えてしまう、思ってしまう。
 まだ人生はこれからなのに。

 やがて時間は訪れて、二人のファーストダンスも終わる。互いに再び礼をして音楽は一度止まり、拍手の中で二人の時間は終わった。

 音楽が変わると会場の雰囲気は一気に変わり、歓談の席となる。

 リリーナとディードリヒも来場したゲストたちに挨拶回りをしていると、ふと視線に両国の国王の姿が目に入った。二人はそれぞれ妃を連れ、笑顔の中で会話をしているのがわかる。
 リリーナたちはそれぞれにもう挨拶をしたのでその中に割って入ることはないが、両国の関係が末長く良いものであることを願った。

「ルーベンシュタイン様、殿下、記者がお待ちです」

 一人の使用人が二人にそう声をかけると、リリーナたちは一度会場を後にする。今回の婚約発表を取材しにきた新聞記者が待機しているのだ。

 王族の行事を取材できる新聞記者は限られている。そのためか会場の様子も含め写真に収めるなら是非一言もらいたいと向こうから申し出があったことに応えることになっていた。

 使用人に案内され別室に入ると中には写真機を持った三人の記者が。それぞれ扱っている新聞が違う会社の記者で、入ってくるなり“写真を一枚”と要求された。
 部屋の中には護衛なのか騎士が数名待機している。

「この度はご婚約おめでとうございます」

 一人の記者が言う。祝福の言葉に短く礼をして応えると、早速質問が始まった。

「お二人の出会い…馴れ初めなどお聞かせ願えれば」

 やはり来たか、とリリーナは苦笑いになるのを必死で耐える。実際ありのままを話すわけにはいかないので、周囲に話している“パーティでの逢瀬”やその他当たり障りのない内容に少しだけ本当のことを混ぜて話す。

 ディードリヒは「そこまで嘘つく必要ある?」とやや作り込んだ話に苦言を呈していたが、少なくともディードリヒのストーキング行為がばれる隙だけは作りたくないとリリーナは話を作り込んだ。

「お互いのことはなんと呼ばれていますか?」
「!」

 記者の質問にリリーナが少し顔を赤くする。照れた様子の彼女に記者は畳み掛けた。

「ルーベンシュタイン様からお願いできますか?」
「!!」

 リリーナははっと目を見開くと指を祈るように絡ませ視線を逸らす。そして顔を赤くしたまま呟くようにその名を呼んだ。

「ま、まだ恥ずかしくて…『殿下』とお呼びすることが多いですわ…」

 そしてその姿をディードリヒは目に焼き付けるように見ている。あくまで王太子である仮面は外さないよう気をつけながら。

「では殿下は?」
「僕はリリーナ、と」

 そう彼女を呼ぶ声は柔らかい。

 ほかにもいくつか質問をされ、「最後に何か伝えたいことは?」という質問にリリーナが反応した。

「では私事ですが一つ宣伝を。来週なのですが、私がオーナーを務める香水店がオープンします。場所はエーデル通りにありますイェーガー洋裁店の二階ですわ。ご興味がありましたら是非お立ち寄りください」

 その一言で取材は終わり記者たちは退席していく。やがて騎士と二人だけが部屋に取り残された時、リリーナはわずかに安堵のため息をこぼした。

「珍しいね」

 ディードリヒの言葉に、リリーナはそのまま安心したように笑って返す。

「流石に少し緊張しましたわ。何事もなくてよかったです」
「そっか。安心できたならよかった」

 リリーナが緊張していた点は主に馴れ初めの話と急に振られた呼び名の話ではあるが、なんとかなったと安堵しているようだ。
 その後二人はパーティ会場に戻り、閉場でゲストを見送るまで役目を果たした。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

冗談のつもりでいたら本気だったらしい

下菊みこと
恋愛
やばいタイプのヤンデレに捕まってしまったお話。 めちゃくちゃご都合主義のSS。 小説家になろう様でも投稿しています。

わんこ系婚約者の大誤算

甘寧
恋愛
女にだらしないワンコ系婚約者と、そんな婚約者を傍で優しく見守る主人公のディアナ。 そんなある日… 「婚約破棄して他の男と婚約!?」 そんな噂が飛び交い、優男の婚約者が豹変。冷たい眼差しで愛する人を見つめ、嫉妬し執着する。 その姿にディアナはゾクゾクしながら頬を染める。 小型犬から猛犬へ矯正完了!?

お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。

下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。 またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。 あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。 ご都合主義の多分ハッピーエンド? 小説家になろう様でも投稿しています。

転生したら4人のヤンデレ彼氏に溺愛される日々が待っていた。

aika
恋愛
主人公まゆは冴えないOL。 ある日ちょっとした事故で命を落とし転生したら・・・ 4人のイケメン俳優たちと同棲するという神展開が待っていた。 それぞれタイプの違うイケメンたちに囲まれながら、 生活することになったまゆだが、彼らはまゆを溺愛するあまり どんどんヤンデレ男になっていき・・・・ ヤンデレ、溺愛、執着、取り合い・・・♡ 何でもありのドタバタ恋愛逆ハーレムコメディです。

じゃない方の私が何故かヤンデレ騎士団長に囚われたのですが

カレイ
恋愛
 天使な妹。それに纏わりつく金魚のフンがこの私。  両親も妹にしか関心がなく兄からも無視される毎日だけれど、私は別に自分を慕ってくれる妹がいればそれで良かった。  でもある時、私に嫉妬する兄や婚約者に嵌められて、婚約破棄された上、実家を追い出されてしまう。しかしそのことを聞きつけた騎士団長が何故か私の前に現れた。 「ずっと好きでした、もう我慢しません!あぁ、貴方の匂いだけで私は……」  そうして、何故か最強騎士団長に囚われました。

【完結】離婚を切り出したら私に不干渉だったはずの夫が激甘に豹変しました

雨宮羽那
恋愛
 結婚して5年。リディアは悩んでいた。  夫のレナードが仕事で忙しく、夫婦らしいことが何一つないことに。  ある日「私、離婚しようと思うの」と義妹に相談すると、とある薬を渡される。  どうやらそれは、『ちょーっとだけ本音がでちゃう薬』のよう。  そうしてやってきた離婚の話を告げる場で、リディアはつい好奇心に負けて、夫へ薬を飲ませてしまう。  すると、あら不思議。  いつもは浮ついた言葉なんて口にしない夫が、とんでもなく甘い言葉を口にしはじめたのだ。 「どうか離婚だなんて言わないでください。私のスイートハニーは君だけなんです」 (誰ですかあなた) ◇◇◇◇ ※全3話。 ※コメディ重視のお話です。深く考えちゃダメです!少しでも笑っていただけますと幸いです(*_ _))*゜

主人公の義兄がヤンデレになるとか聞いてないんですけど!?

玉響なつめ
恋愛
暗殺者として生きるセレンはふとしたタイミングで前世を思い出す。 ここは自身が読んでいた小説と酷似した世界――そして自分はその小説の中で死亡する、ちょい役であることを思い出す。 これはいかんと一念発起、いっそのこと主人公側について保護してもらおう!と思い立つ。 そして物語がいい感じで進んだところで退職金をもらって夢の田舎暮らしを実現させるのだ! そう意気込んでみたはいいものの、何故だかヒロインの義兄が上司になって以降、やたらとセレンを気にして――? おかしいな、貴方はヒロインに一途なキャラでしょ!? ※小説家になろう・カクヨムにも掲載

転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。

処理中です...