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彼女の好きなこと
甘えを知らない鷹(3)
しおりを挟む「リリーナって、僕が近くにいると安心する?」
「!」
それは、そんなことは考えたことがなかった。
どちらかというとリリーナにとってディードリヒというのは“引っ張って支える相手”であって、慕情的な感情を除けばそこに可も不可もない。
だが確かに、ディードリヒといるというのは自分の中でもう日常になっていて、優先したい物事で、相手に安らぎを求めている。
「~~~~~っ!」
図らずも図星を突かれたような感覚にまた顔が赤くなった。
そうか、そうか自分は、そう考えてしまったのである。
「リリーナ?」
恥ずかしさのあまり回答できず視線を背けた。
「おーい」
「…」
「…黙ったままならもう一回キスした方がいい?」
「!?」
驚きのあまり相手に向き直った。
キスと自分の態度は関係ないはずなのに。
「…そんなにキス嫌い?」
「嫌いかどうかという話ではありません!」
「じゃあなんであんな反応したの?」
「驚いただけです」
リリーナの言葉にディードリヒはじと…と彼女を見る。その少し後で、不服そうに唇を尖らせた。
「ふーん…今はそういうことにしとくよ」
「嘘などついてなくてよ!?」
何をどうなったらそんな不服な表情を見せるのかリリーナにはわからない。しかし少し拗ねたような態度のディードリヒを見たリリーナは、なんだかばつの悪いような気持ちになってしまって気まずく頬を掻く。
「あの」
「?」
「貴方がいると安心がどうの、とういう話ですが」
「うん」
「す、好きな相手がそばにいて安心しないなどと、あるわけないではありませんか」
「!」
「最近は特に…こういった雰囲気ですと緊張しますが、ディ、ディードリヒ様がそばにいてくださるのは…いつであっても嬉しいものです」
勇気を出して言った割には、ディードリヒからの反応がなく少し困惑する。何か言ってはいけないことだっただろうかと考えたあたりで、相手が一段と緊張感なく笑った。
「えへへ…リリーナも嬉しいって思ってくれるんだ」
「な、なんですの、その緊張感のなさは…」
「嬉しいから仕方ないよ」
「そんなに喜ぶことでして…?」
「誰でもないリリーナが言ってくれたからね」
「そういうもの、ですの…?」
「そういうものだよ」
今のディードリヒに先ほどまでのような意地の悪い態度はない。ただ嬉しそうに緊張感もなく笑っているものだから、正直言って調子が狂ってしまう。
「も、もういいでしょう。お部屋にお戻りくださいませ」
「え? 添い寝しないの?」
「それは」
「それとも僕じゃない方がいい?」
「そうではなくて、話の流れでなくなってしまったのかと…」
はっきりと共に眠ることが決まったわけではなかったので、話が流れてしまったのだろうとリリーナは考えていた。
「そんなわけない。着替えてくるから少し待ってて」
そう言ったディードリヒはリリーナを膝の上からベッドへ移すと、額に優しいキスを落とす。
リリーナはキスをされた額を軽く指先で触りながら「はい…」としおらしく返事をして、
「…!」
ディードリヒは“己が試されている”と直感した。リリーナを警戒させないために笑顔を崩さないよう心がけたが。
それでもここまで耐えてきた理性が、やや危うい。
「そんなに寂しそうな顔しなくたってすぐ帰ってくるよ」
ディードリヒの徹底度が感じられるが城であろうとリリーナの部屋は彼の部屋の隣である。
「そうですわね…お待ちしていますわ」
リリーナは控えめに微笑む。
今までにない彼女の表情にディードリヒは己の理性を総動員した。
そしてこの愛しさを守ろうと、その思いで言葉をかける。
「これからはもっと甘やかしてあげるからね」
「!?」
「嫌だった?」
「い、嫌といいますか…」
リリーナの頬は赤い。目は泳いで口元も彼女らしくなく言い淀んでいる。
「リリーナが、僕の前では何もできないくらい甘やかしてあげるよ。その頑張り屋さんが顔を出さねくなるまでね」
そう言ってディードリヒはいたずらに笑った。
「…っ! も、もう! 早く着替えてきなさい! 先に寝ますわよ!」
恥ずかしさのあまりまたご立腹な彼女の唇に、ディードリヒはキスをする。
「勿論着替えてくるよ。君の要望を叶えにね」
「…っ!」
そう言ってディードリヒは余裕の表情で部屋を出ていったが、リリーナは言葉にできない悔しさを抱えた。
おかしい、自分がそばにいないと、自分に依存していないと何もできなかったのがディードリヒだったはずなのに。
「…なんですの、あれは」
さっきの彼はなんだ、別人なのか。そうリリーナは呆然ともした。
自分を“甘やかす”などと言って、終始強気で、それなのにいつも通り緊張感もなく笑う。
あまつさえ自分が“何もできないように”するなどと、彼の言うこととなると監禁しか出てこない。しかし先ほどの言い振りだとおそらく違うのだろう。
まるで掌の上で転がされているようだ。正直言って癪に障る。
しかし何よりも問題なのは、彼の言葉をどこかで“嬉しい”と思っている自分の方だ。
“甘える”など、結局最後までわからなかったのに。
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