冤罪悪役令嬢はヤンデレ王太子に溺愛監禁される

三日月深和

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王太子と辺境伯

「らしくない」私(1)

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 翌日。
 ラインハートとの試合を一か月後とした手紙を出したそのすぐ後にヒルドが部屋に訪問してきた。

 時間があるならお茶でもどうかと誘われ、急遽リリーナの部屋でお茶会のようなものが開かれている。
 とはいっても、予め予定として組まれたものではないので、紅茶に添える菓子は簡素なものだが。
 互いの侍女が見守る中で、のどかにお茶会は開かれている。

「リリーナったら、また城から出られないの?」

 そう言いながらヒルドはくすくすと笑う。
 その程度には、リリーナが城に軟禁されるのは珍しいことではない。基本的には彼女のオーバーワーク対策なのでスケジュール管理をしているミソラの判断で行われるが、頻度としては一か月に一度、期間は最長で十日である。毎度のことだがリリーナからの評判は悪い。

「全く、失礼しますわ。怠けてもいられないといいますのに」

 そう言うリリーナは少し憤慨しているが、ヒルドから見ればその姿に安心を覚える。
 関係が結ばれて以来、シーズン中は何度もお茶会と称してだらだらと話すだけの会を開いてはいるが、その度にリリーナは真っ直ぐ背筋を正し、予定はあれやこれやと忙しそうで、軟禁されてる期間でもなければ一時間話したら次の予定、なんて日もあったほどだ。

 ヒルドからすれば何をそんなに忙しなく生きているのか知らないが、毎度無理を重ねているようにしか見えない。
 そう思うと、リリーナの周りの人間が彼女に休んでほしいと言うのも無理はないと思うし気持ちもわかる。なので彼女が変わらないのであればなんだかんだとこれが丁度いいのではないかと考えるほどだ。

「いいじゃない。休める時に休まないと体に毒だってみんな言うんでしょう?」
「確かにそうですが…私だって休息はとります。このように大袈裟にする必要はありません」
「さぁ? それはどうかしらね」

 リリーナがこうして強制的に休まされているのは何度目か、という話なのだが、どうせ城から出られないなら出られないで城でできることをしているのだろうと考えるには容易い。どうにも動かないでいられないのが彼女の性分なようだ。

 友人になった際のお茶会でヒルドとファリカはディードリヒの真実を知ることになり、正直ヒルド自身は”そんな奴のところに嫁がなくて良かった“とまで思っているが、しかしこれはこれで、このようなじゃじゃ馬を扱わなければいけないディードリヒにはやや同情する。

「リリーナったらいつも余裕がないんだもの。優雅なのは見た目だけだわ」
「ヒルドまでそれを言うんですの? 先日ミソラたちにも言われたばかりですのに…。できることは常に行うべきですわ」

 シーズン中何度も会話を重ねたおかげか、二人は随分と気の置けない仲になったようだ。とうとうヒルドにまでその評価を受けてしまったリリーナの顔は苦い。

 リリーナが普段どう動いてるか知ってる人間は、総じて彼女を”優雅なのは見た目だけ“と評する。それはまさに常に予定を入れて動き回っているからであり、かといって見た目や所作の完璧さは失われていないという、なんとも皮肉めいた話から来ていた。

「私たち令嬢は静かに構えて優雅にお茶をするのも役目よ」
「わかってはいますが…それと怠けることは違うでしょう」
「リリーナの動き方じゃあ、優雅なお茶の時間だって怠けているようなものだわ。これじゃあ殿下も手間がかかるわね」
「むぅ…」

 むくれるリリーナに対してヒルドはまたくすくすと笑う。
 わかっているのだ、半分は揶揄われていて、もう半分は本当に心配されているのだと。わかってはいるのだが。

 しかしディードリヒが話題に出て、リリーナは視線を落とした。それを見逃さなかったヒルドはすかさず彼女の反応を拾う。

「どうかしたの?」
「えっ!? あぁ、いえ…」
「殿下のこと?」
「なっ…!」

 反応してからすぐリリーナは後悔した。”顔に出てしまったのか“と最初に慌てて、そのすぐ後で”どうしてわかったのか“と慌てる。
 それにしても周りの人間がどんどん自分の弱いところを突いてきていると気づいたリリーナはやや焦った。ディードリヒは勿論すぐに看破してくるし、ミソラにヒルド、ファリカにもこの間気づかれかけている。

 まさか自分で思っているより感情を隠すのが上手くないのか、それとも周りの察知力が上がっているのか…どちらにせよ由々しい事態だ。なんとか対抗策を練らなくては。

「やっぱり。貴方が顔に出るほど落ち込むことなんて殿下のことだけじゃない」
「そ、そのようなことは…」
「あります。白状なさい」
「う…」

 ヒルドの強い視線にリリーナは諦めた。気まずい雰囲気で視線を逸らすと、一口紅茶を飲み下してから口を開く。

「…ついこの間、なのですけれど」
「えぇ」
「殿下のことを、あまりにも知らなすぎたことが判明しまして」
「それで?」
「そこまではいいのです。これから知っていけばいい、ただ」

 リリーナはカップを持つ手が震えているのに気づいた。それだけ恐ろしいと思っているのだと、改めて自覚する。

「私は彼の方に訊かなければならないことがあるのです。それなのに、どこか、答えが出てしまうのが…怖くて」
「怖い?」
「きっと彼の方のことですから、私の質問にもいつも通り気持ち悪い返事が返ってくるのです。ですが私は、その思いに報いれる何かを持ち合わせていないような気がしてしまって、怖い」
「…」
「ディードリヒ様はいつも私を称賛してくださいます。ですが私自身に特別な何かはありません。積み重ねてきたものにプライドはありますが、彼の方ほど一途に誰かを愛したとこなどない」

 言葉の中で少しずつ、彼女の自信が失われていく。
 あの美しい目から、あの優しい口元から溢れ出る光で視線が翳るたびに、己がちっぽけなものに思えて、強くあろうと踏ん張ってしまう。

 貴方の思う自分であろうと思わないでいられない。
 ディードリヒは言う、“どんな自分でも愛している”と。しかしそういう話ではない、そういう話ではないのだ。それでも、貴方が光を感じた自分はいつだって背筋を正して、前を向いて不安になったりしない、貴方のいない世界に怯えたりしない。

 なら今の自分は?

「ミソラやファリカと話している時の方が気の置けない仲に見える時もあります。だから私は…彼の方に何か負担をかけているのではないかと不安になるのです」

 相手の言う“ありのまま”を信じられず、卑しくもがいている自分はなんだろう。“彼”がみてくれる自分でいたいだけなのに。

 リリーナの眼差しや言葉は真剣だ。しかしヒルドはリリーナの発言に少し固まる。
 そしてぽん、となんでもない言葉にように言った。

「それは…そういうものではないの?」
「…?」
「要は嫉妬でしょう?」
「そ、れは…!」

 顔を赤くするリリーナ、その様子にヒルドは気が抜けたように笑う。

「あら、自覚があるんじゃない。そもそも自信がないなんてリリーナらしくないわ」
「…私も人間ですわ」
「でも、“人間だから”もっと上を目指すのがリリーナ・ルーベンシュタインでしょう?」
「あ…」
「努力を怠らないのが貴女の良いところだわ。でも、努力で自信がないのを隠すのは意味が違うでしょう?」

 なんとも図星を突かれたような気持ちだ。
 そうだ、自分で言ったのだ。

 “人は神になれない”と。

 どうして忘れてしまっていたのか。
 だからこそ、気高くあろうと自分は努めてきたというのに。
 そう思ってしまって何も言い返せない。
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