冤罪悪役令嬢はヤンデレ王太子に溺愛監禁される

三日月深和

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王太子と辺境伯

貴方に報いることができたなら(2)

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「どんな君だって愛してるよ、リリーナ。弱みを見せてくれるほど、僕を見てくれてたんでしょ?」
「弱みと言いますか…まぁ、そうかもしれませんが」
「後ろ向きな君も物憂げで綺麗だ。写真に残せたらよかったのに」
「な…私は見せ物ではありませんわ!」
「そうだよ、だから僕だけが見ていいんだ」
「貴方という人は、すぐそういうことを…」
「でも、そういう僕も好きになってくれたんでしょ?」

 ディードリヒの言葉に、リリーナはやや顔を赤くして口をつぐむ。それを見た彼はご機嫌な笑顔を見せる。

「赤くなるところはいつ見てもかわいいね」
「し、知りません、そのようなこと」
「ほら、恥ずかしいと声が鈴みたいに上擦る。何度だって聴いていたい」
「もう、なんですの急に!」
「リリーナの素敵なところの話」
「そんな…見た目だけですの?」

 言ってから“しまった”と思った。これではいつかの再来である。また長い能書きが…。

「それはさっき言ったでしょ? 強いリリーナも弱いリリーナも大好きだよ」
「それは…っ」
「ちゃんと聞こえるように耳元で言った方がいい?」
「!!!」

 リリーナは慌てて耳を押さえる。今ディードリヒの声を聴いたら、弱っている自分では、きっと何かがおかしくなってしまうに違いない。

「ちぇー」
「あ、貴方の声は何かがおかしくなるんですのよ! やめてくださいませ!」

 その言葉にディードリヒは一瞬だけ間をおいてニヤリと笑った。そしてか弱いリリーナの細腕を耳から退かせると、そのまままとめて拘束する。

「何がおかしくなるの?」
「そ、そんなのわかりませんわ! 耳がぞわぞわってして心臓がうるさいんですのよ!」
「へぇ…」

 彼は動けないリリーナの耳元に唇をそっと近づけた。

「僕の声が好きってこと?」
「!!」
「そうなんだ。かわいいね、リリーナ」
「~~~~~っ!!」

 耳まで赤いリリーナを楽しむディードリヒ。リリーナは弄ばれているとわかっていても腕を拘束されているので動けない。

「や、やめてくださいませ…っ」

 顔を真っ赤にして震えながら声でしか抵抗できないリリーナ。ディードリヒはその姿を見て心底ご満悦であるが、それ故に、さらに意地の悪いことをしたくなる。

「そうだなぁ…じゃあリリーナは僕のどこが好き? 三つ言えたら解放してあげる。顔と声以外だよ?」
「ひぇ…っ」

 長々と耳元で囁かれ意識が遠のきそうなリリーナ。しかし言わなければきっと本当に解放されないので慌てる心臓を必死に押さえつける。

「…わ、私にだけ笑いかけてくださるところ」
「次は?」
「ひぅ…っ、お茶の時間楽しみにしてくださるところ…っ」
「最後は?」
「私のために、努力を重ねてくださったところ…ですわ! もう許してくださいませ!」
「しょうがないなぁ」

 くつくつと笑いながらディードリヒはリリーナを腕ごと解放する。顔を真っ赤にしたままのリリーナは憤慨していたが、それすら今の彼にとってはかわいいものだ。

「おかしくなると言ったでしょう! 顔を近づけるのすらまだ慣れきっていないのですから本当にやめてくださいませ!!」
「へぇ~、じゃあまたじっと見てあげようか?」
「やめてくださいませ! 死んでしまいますわ!」

 終始楽しげなディードリヒの姿にリリーナは不満を覚える。こういう時はいつも自分がやられてばかりだ。何か仕返しがしたい。
 リリーナは頬を膨らませたまま少しばかり考えて、ある日を思い出した。
 大きな口喧嘩をした日、途中でディードリヒにお願いをした。“このことを将来につなげるから今は許してほしい”と。このこと、とはヴァイスリリィのことだったのだが、何か知らないがあの時は様子がおかしかった。
 真っ赤な顔に心臓を抑えて、何事かと当時は思ったがあれが今の自分と同じ状況だったのだとしたら?

 試してみる価値はあるのでは?

「…ディードリヒ様」

 相手の首元あたりの服を引いて視線を向けさせる。
 そう、確かあの時は、こうやって下から相手を見上げて、しおらしいような動作をしたような。
 口元に手を当て、あの時より少しこう、女の子らしいような声を意識して“お願い”する。

「あまりいじめないでくださいませ。緊張して心臓が壊れてしまいますわ」
「…!」

 こちらを見たディードリヒは案の定様子をおかしくした。一瞬ぎょっとしたように驚いたかと思ったら、顔を赤くしてこちらを見たまま黙りこくっている。

 これは、勝った。
 内心でニヤリとリリーナは笑う。

「如何しましたか? ご様子がおかしいですわ。何か私失礼をいたしましたでしょうか?」
「いや、その…大丈夫」

(ふふふ…動揺していますわね。いつもの仕返しなのですからじっくりいきましょう)

「ディードリヒ様、こちらを向いてくださいませ。このままでは少しその…寂しいですわ」
「!」

 ディードリヒの反応があまりにも予想通りで勝ち誇ったような感覚が止まらないリリーナ。しかし屋敷にいた時最初の頃着ていたドレスなどもそうだったが、やはりディードリヒも人並みに“女の子らしい”女性のほうがいいのだろうか。自分はそこから程遠いような気がするのでやや違和感だ。

「どうしたの、リリーナこそ…急にそんな可愛らしい声をして」
「そうでしょうか…? 甘える、というのを模索しているからでしょうか?」

 申し訳ない気持ちにはなるがこれは嘘である。
 ぎこちない動きでこちらを抱えるディードリヒが面白くて仕方ない。向こうが固まっているからか顔も少しばかり遠いし、これはいいおもちゃにできそうだ。

「それにしても…やはり殿方は気安く甘えるような女性の方がいいのでしょうか? 私は、ディードリヒ様のお好みが知りたく思います」

 上目遣いのリリーナは少し不安を表情に乗せてさらに相手を煽る。しかしそれがいけなかった。

「…」

 ディードリヒがまず最初に無言で笑った。

「…?」

 リリーナは状況が掴めずそれが表情に出ると、ディードリヒはゆっくりと口を開く。

「そうじゃないよ、リリーナ」
「そうじゃ…ない?」
「僕は、普段強気なリリーナがたまにそういう顔を見せてくれるのが嬉しいのであって」

 そこから急にキスができそうなほど顔が近くなる。綺麗な、宝石のような水色の瞳の視線から逃れられなくて、強く心臓が鳴った。

「安易に甘えてくる女性が好きなわけでも、ましてや弄ばれるのが好きなわけでもない」
「!」

(バレていますの!?)

「気づかれないと思ったの? リリーナがあんなことを自然体でできるなら、僕は最初からリリーナの頑張り屋さんに苦労してないよ」
「じゃ、じゃあさっきの反応は…!」
「最初はびっくりしたから嘘じゃないけど、すぐ気づいてからはお芝居だよ。おあいこだよね、リリーナ」
「…っ!」

 言葉を失うリリーナ。ディードリヒの顔が離れ相手の笑顔を眺めながら、むしろ自分が弄ばれていたことに絶句する。
 自分が優位に立って仕返しをするはずだったのに、と。

「僕にやり返したいリリーナもかわいいけど、これはお仕置きをしなくちゃね」
「なんですのそれは! 受ける覚えはなくってよ!」
「いいやあるよ。僕を騙そうとしたんだから」
「う…っ」

 確かに騙そうとしたのは事実だ。
 そう思ってしまうと実は沼に足をとられるわけだが、彼女はいまそれに気づいていない。

「お仕置きは何がいいかな。全身にキスをしようか? それともリリーナの綺麗な金の瞳を長く眺めているのもいいな。耳元でずっと愛を囁いてもいい」
「それは単純に貴方がしたいことではなくて!?」
「そうだよ。でもリリーナにとってはお仕置きでしょ?」
「そん…っ、耐えて見せますわ」
「できるかなぁ。もう顔が真っ赤なのに」
「!」

 そう言われて慌てて両頬を押さえる。その姿をみてディードリヒはくつくつと笑った。

「かわいいね、リリーナ」
「人を弄ぶのはいい加減になさい!」
「でもお仕置きは残ってるよ?」
「わ、私は逃げますわ! 離しなさい!」
「だめだめ、離すわけないでしょ?」
「ひぃ…」

 いっそ顔が青くなっていくリリーナ。
 そこにディードリヒはうっとりとした声を返す。

「あぁ、全身にキスをしたらリリーナの綺麗な肌と香りを楽しめて、金の瞳を長く眺めたらそこには僕しか映っていなくて、敏感な耳に愛を囁いたら震える声がすぐ近くで聴けるんだろうな…最高だ…」
「ひいぃ…っ」

 紛うことなき変態発言に鳥肌が立つ。
 こんなことなら仕返しなど考えなければよかった。

「リリーナ鳥肌立ってる? 触りたいなぁ、触っていい?」
「お断りですわ!」
「毎度そう言って触らせてくれないよね」
「そもそも女性の素肌を易々と触ろうというのがおかしいんですのよ!」
「屋敷にいた時は触らせてくれたのに?」
「あれだって何度も逃げたでしょう! 逃げられなくしていたのはどなただったかしら!?」
「僕」
「わかっているなら余計なことを言わないでくださる!?」

 ぎゃいぎゃいとリリーナは暴れているがディードリヒはそれを至福の表情で受け入れている。ただし絶対に彼が彼女を解放することはない。

「大体貴方というひとは…んむっ!?」

 ディードリヒは怒るリリーナの唇を自らの唇で塞ぐと、驚いた彼女がおとなしくなるまでそれを続けた。

「…」

 互いの唇が離れると、リリーナは呆然としている。

「さてリリーナ、お仕置きの時間だよ」
「いやぁ…っ」
「だーめ。ベッドに行こうね?」
「離して、はなしてぇ…!」

 そもそもここまで暴れさせたのは抵抗する体力をなくすためだったと言わんばかりに、もう驚いたあまり体に力を入れられなくなってしまったリリーナはベッドへ運ばれていく。彼女は顔を青くしながら、力のない声で助けを求めた。
 
 ***
 
「はぁ…ぜぇ…はぁ…」

 散々“お仕置き”をされたリリーナは息も絶え絶えである。彼女が何をされたかは本人たちにしかわからない。
 対してやはりというか、ディードリヒは大変ご満悦である。何にせよさぞリリーナを堪能したのだろう。
 ディードリヒは未だ肩で息をしているリリーナを引き寄せると、ぎゅっとその肩を抱いた。今度は何事かと振り向くと、ディードリヒは優しく微笑んでいる。

「大丈夫?」
「…そう見えまして?」
「全然」
「でしたら訊かないでくださいませ」

 あはは、と笑うディードリヒをリリーナは睨みつけた。しかし次の瞬間、ディードリヒは少しばかり表情を硬くする。

「…リリーナ、僕頑張るから」
「…?」

 急な言葉に素直な疑問符が浮かぶ。
 ディードリヒはそんなリリーナの髪を撫でながら一つ一つ言葉を口にした。

「リリーナは僕に何も返せないって言ってたけど、いつも何も返せないのは僕の方だ」
「そんなことは」
「君はいつだって輝かしく在ろうとしてくれる。いつだって僕のわがままに付き合ってくれる」
「…」
「少し前僕が“君の努力を否定してる”って言われた時、すごくショックだった。君が努力を重ねる姿が、僕の一番好きな君だから」

 いつものように思考に沼に落ちているわけではない。ただ感情を整理していくように、言葉は落ちる。

「僕はもう同じ過ちを繰り返したくない。その為には、リリーナが言う通りリリーナの隣に立てる人間にならないといけないんだ」

 少し下を向いていた視線が、前を向く。

「“リリーナは僕のところに帰ってくる”って信じられるようにならないと、駄目なんだ」
「ディードリヒ様…」
「だから僕も頑張るよ。リリーナに何かを返せるように」

 微笑むディードリヒに、リリーナもまた笑って返す。

「…はい。ディードリヒ様」

 ディードリヒはリリーナの肩をまたぎゅっと抱いた。
 しかしそのままリリーナごとベッドに横たわる。

「…ディードリヒ様?」

 急なことに驚くリリーナに、ディードリヒはうだうだと彼女を抱き枕にし始め、やはり動揺が隠せない。

「いや…ここまで疲れたから寝ようと思って」
「何を言っていますの…?」
「最初君の部屋に入って誰もいないってわかった時、すごく緊張したんだ…そしたらリリーナは悲しんでるし、僕に何か返そうなんて全部返ってきてるのに何言ってるんだろうって最初思って」
「…それで?」

 リリーナは嫌な予感がした。

「そこからリリーナといちゃいちゃしたら幸せだったからこのまま仕事を忘れて寝たい」
「駄目です」

 即座に切り捨てるとディードリヒからは不満が返ってくる。

「えー」
「だからえーもびーもないと言っているでしょう! そもそも今日仕事が多く入っているのに来たんですの!?  私は少ない日を要求したでしょう! そう言う時は断って」
「だって、リリーナが辛そうだったから。急ぎの仕事だけ済ませて飛んできたんだよ?」
「!」
「案の定大事な話だったしさー…仕事は明日から。ディナーまで寝ようよ」
「…」

 被せられた声にややバツが悪いリリーナ。そこまで気を遣わせてしまったと思うとやはり申し訳ない。
 彼女は少しばかり考えて、大きなため息をついた。

「…わかりましたわ。今日だけですわよ」
「うん、ありがとう」

 そのまま二人で目を閉じる。
 そして二人はミソラが途中で声をかけなかったら本当にディナーギリギリまで眠りそうになった。起こされて慌てたリリーナが急いでドレスを着替えるのはまた別の話。
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