冤罪悪役令嬢はヤンデレ王太子に溺愛監禁される

三日月深和

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王太子と辺境伯

初めて見る顔(2)

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「なんですの、その目は」
「ケーニッヒを見てるから」
「物珍しさですわよ」
「でもやだ」
「子供じゃないんですのよ」

 こういうところである。ただかっこいいとか、素敵だとか、そういう目でこの男を見れないのは。
 あれだけ真剣な表情も、執務時の冷静に氷のような表情を見せても、全てが台無しになるほどのこの残念さ。そのおかげで自分が肩の力を抜けるところは感謝している。しかしたまには、弄ばれずに相手を素直に素敵だと思いたいものだ。

「もう…そんなに嫉妬しなくても私は貴方のものですわよ」
「そう思うならもっとべったり甘えてくれても良いんだよ?」
「冗談は言葉だけにしてくださいませ。私がそのようなプライドのないことを、しないことを望んでいるのはお見通しですのよ」
「そうだね、僕の愛しいリリーナ」
「!? きゅ、急にそういうことを言わないでくださる!? 公衆の面前ですわ!」
「あはは、かわいいからつい」
「ついってなんですの!」

 側から見れば今日も元気にいちゃついてる中、ディードリヒの背中に大きな影が現れた。
 そしてその影は大きく笑いながらディードリヒの背中を勢いよく叩く。

「いっ…! ケーニッヒ!」

 痛みに対して反射的にディードリヒが振り向いた先にはケーニッヒの姿があった。彼は自身を睨みつけるディードリヒを見てまた「がはは」と大きく気持ちよく笑う。

「休憩中失礼します殿下。いやなに、リリーナ嬢にご挨拶をと思いまして」

 そう言ってケーニッヒはリリーナの前に行くと静かに跪く。

「我はフレーメン王国騎士団団長、ケーニッヒ・アイヒベルガーと申す。異国より迎えられし姫よ、我を貴女を御守りする力の一つとさせて頂きたい」

 先ほどの快活な印象からまるで違う、厳格な雰囲気が伝わってくる。リリーナはその姿に驚きつつも、上級貴族階級と同じ権限を持つ騎士団長に向かって誠実なるカーテシーでその宣言を受け入れた。

「リリーナ・ルーベンシュタインと申しますわ。以後お見知り置きを。貴方に御守り頂けることを光栄に思います。是非その雄弁なお力を見せてくださいませ」

 安定した、芸術のようなカーテシー。これぞ彼女の努力の結晶なのだと、ディードリヒは改めて思い知る。

 土埃で裾の汚れたドレスを感じさせない、美しく優雅な仕草。厳格で覇気の強い騎士団長の宣言をに怯えず素早く鮮やかに返されるカーテシー。
 ディードリヒが彼女のカーテシーを間近で見るのは二度目だ。一度目は自分に挨拶をされた時、二度目が今。正直言って、ディードリヒはまたこのカーテシーを間近で見れるとは思っていなかった。写真ではない生の姿を、間近で。美しいその姿をこの目でとなれば、内心興奮しないでいられない。そう思えば、背中の痛みもリリーナとの時間を邪魔されたことも…まぁたまにはと思える。

 そこから流れるように体勢を解いた二人が目を合わせると、ケーニッヒはまた大きく笑う。

「大したお嬢さんだ。儂はこの通りデカいんでな、殿下も初めてはビビっていたというのに。狼狽えることひとつないとは」
「礼儀正しい方に怯えることなどありません。美しく礼儀で返すものです」
 涼しく笑うリリーナと、ケーニッヒを睨みつけるディードリヒ。
「子供の頃の話はするな」
「それは難しいですな。儂の剣には殿下との思い出が詰まっていますので」
「ケーニッヒ!」

 怒るディードリヒ。リリーナ的にはこれはやや新鮮だ。そしてやはり、この言葉を言わずにはいられない。

「あら、私は聞きたいですわ。殿下のお子様の頃のお話」
「リリーナ!」
「リリーナ嬢は話がわかっていらっしゃる! 機会があればいくらでもお聞かせしましょう」
「楽しみにしていますわ」

 気持ちよさそうに大笑いをするケーニッヒにリリーナは笑顔で返す。それを見たディードリヒは大きくため息をついた。

「しかし殿下」
「なんだ」
「鈍られましたなぁ」
「! リリーナの前で言うことか!」
「はっはっは、これも殿下の未熟さ故」

 ディードリヒの焦る姿に楽しげなケーニッヒ。

「ったく…僕はこの姿だって見られたくなかったっていうのに」

 悪態をつくディードリヒに今度はリリーナがむくれた。

「あら、こちらの努力は散々覗いておいてそれを言うんですの?」

 リリーナの言葉に、ディードリヒは「そりゃそうだよ」と顔を赤くして返す。

「僕だって男なんだから、好きな子にはかっこいいところを見てほしいに決まってる」
「!! それは」

 それ以上は言葉にできなかった。先ほどの真剣な表情を思い出してしまったのも相まって、どうにも心臓がうるさくなる。

「「…」」

 二人して顔を赤くしてなにも返せないでいると、また気持ちのいい大笑いが聞こえてきた。その声の主はまたディードリヒの背中を勢いよく叩く。

「い゛っ…!」
「はっはっはっ、仲良きことは良きことですな。さぁ殿下、もう一本です!」
「わかっている! 先に行ってまっててくれ」
「承知しました」

 そしてまた気持ちのいい大笑いをすると、ケーニッヒは去っていった。その様子を軽く見送って、ディードリヒは少し頬を掻きながら言葉を探す。

「えっと…ごめんねリリーナ。今汗臭いから近寄れないんだけど」
「き、気にしません」
「僕が気にするから…でもね」

 と、ディードリヒは表情を変え真剣な眼差しでリリーナを見る。

「やるからには本気でやるから…また応援に来て」

 その姿に不意打ちを喰らったリリーナは、一つ胸が鳴った。

(あぁ、全く…こういうところばかり格好いいのですから、ずるい人です)

 しかしリリーナはそれを表に出さず、いつも通り力強く笑って、真剣な眼差しに返せるよう力強く見返す。

「勿論です、信じていますわ」

 そしてリリーナの反応に表情を喜ばせたディードリヒを見送った。しかしその後で、なぜかさっきの真剣な眼差しを思い出してしまい顔を赤くしてしまったせいで、ファリカたちの元に戻った際やや揶揄われたのは言うまでもない。
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