冤罪悪役令嬢はヤンデレ王太子に溺愛監禁される

三日月深和

文字の大きさ
91 / 159
王太子と辺境伯

ずっと渡したかったもの(1)

しおりを挟む

 
 ********
 
 
「アンムート」
「はい?」

 こちらは本日の営業を終え、翌日の準備に入っているヴァイスリリィの工房。アンムートが売上の傾向から数日後の在庫を予測している表を確認していると、珍しく事前の連絡もなしに訪問してきたリリーナが彼に声をかける。

「お願いが、あるのですけれど」
「はぁ…俺で役に立てるなら」
「貴方にしかお願いできないのです」
「俺にしか…?」

 リリーナはなんというか、いつか見た少女の顔をしていた。アンムートとしてはリリーナからこんな表情を引き出すようなことをした記憶はないのだが、なぜか背筋が寒い。

「なにがしたいのかわからないですけど、また急ですね」
「しばらく前から考えていたことではあるのです。ですがタイミングがうまく掴めなくて…」

 リリーナとしてはもっと前に着手したかったことではあるのだが、開店したてのヴァイスリリィではアンムートもてんてこまいかもしれないと、発言を控えていた。

「今回こそは成し遂げたいのです。わがままを聞いて貰えないでしょうか?」

 こんなリリーナはまた珍しい、とは思いつつアンムートは答える。

「今日は比較的暇なんでいいですよ。なにをしたいんですか?」
「実は———」
 
 ***
 
 リリーナの秘密の計画が始まってから数日が経った。今日から後一週間もすれば、ディードリヒとラインハートの試合が始まる、そんな日。

 ディードリヒはリリーナに直接部屋へ来てほしいと呼ばれていた。今は呼ばれた場所であるリリーナの部屋に向かっているのだが、ここまで気になる点がいくつか。

 まずは勿論急な呼び出しであること。
 リリーナがこちらをわざわざ呼び出すことは少ない。ディードリヒの執務の忙しさを鑑みてリリーナ自身が控えているからだ。

 彼女はディードリヒのスケジュールを把握しているわけではないので、ここまで行ったデートやら何やらは全てディードリヒから声をかけている。
 この間彼女の部屋に呼ばれたのさえ、執務の少ない日を訊かれたというのに。だからむしろ仕事が多かろうがすっ飛んで彼女の元に向かったのだが。

 しかし、今回リリーナは「お忙しいとはわかっているのですが、お時間をいただけないでしょうか」とはっきりディードリヒに言った。リリーナがディードリヒに執務を押してまで予定立てさせようと言うこと自体が初めてなので、ディードリヒはやや戸惑っている。

 二つ目は、声をかけてきた時の様子。
 リリーナが人目につくところで態度や仕草を崩すことは基本的に無い。基本的に、における例外はディードリヒの弱気から始まった口喧嘩の例である。
 それ以外の普段の姿であれば、ディードリヒが自重しているのがおそらく一番の原因だが、いかんせんあの威圧感のあるケーニッヒにすら怯まず鮮やかな態度で返すような、リリーナが、だ。

 こちらにその話をした時、なんとも落ち着かないような、そわそわとしていたのがディードリヒにはわかる。やや不器用な誘い方の彼女は、そわそわと、こちらに何かを期待しているようであった。そんなことはここまでにない。

 三つ目は“リリーナの部屋に”呼ばれていること。
 これは素直についこの間を思い出す。
 リリーナからされた話は衝撃が半分、悲しみが半分といったところだった。
 リリーナが“何も返せていない”などと悩む必要はかけらほどもないというのに、真面目な彼女はさぞ考え込んだのだろう。
 それでも自分に気づかれないよう立ち回っていたのは心配をかけまいとしたのだろうが、珍しく声をかけられるまで騙されてしまった自分に腹が立つ。これは一つの慢心に他ならない。

 しかしリリーナを落ち込ませるなどあってはいけないという自分と、悲しく微笑む彼女の美しさを称賛する自分がいるので少なくとも後者は少し自重しなくては。

「…」

 そんなことを考えていたらドアの前まで着いてしまった。やはりこの間のように二人きりだったらと思うと緊張する。また彼女が悲しむような話でなければいいのだが。
 意を決してドアを叩くと、ドアを開けたのはリリーナ本人だった。彼女を緊張させないよう顔には出さなかったが、やはり侍女の二人はいないのだと直感的にわかってしまい少し動悸を抱える。

「ひ、一先ず入ってくださいませ」

 そう言ったリリーナはいつかのように自分の手を引いてソファに誘導していく。
 しかしこの間と明らかに様子が違う。これは、照れている時の緊張の仕方だ。緊張感があるようなないような、少し浮き足立っている時の彼女。

 この間と同じような違うような、そういった状況にディードリヒはやや混乱する。
 誘導されたソファに座るよう言われたので座ると、一旦リリーナは離脱していった。少しそのまま待っていると、後ろに何かを隠した様子で帰ってくる。

「…?」

 状況がまるで掴めない。
 しかしリリーナは照れた様子でそわそわと体を揺らすと、今度は意を決した様子でプレゼント用に包装された小箱を差し出してきた。

「こ、こういった雰囲気で渡すのは緊張しますわね…」

 ディードリヒが驚いて話がわからないまま呆然と箱を眺めていると、リリーナはさらにぐっと箱を差し出す。

「贈り物を、ご用意させていただきました。いつかのぬいぐるみとは意味が違うといいますか…その、来週の試合の応援、のようなものです」

 リリーナの言葉は辿々しい。
 ディードリヒは予想もできない事態に呆然としたままプレゼントを受け取る。

「よ、よろしかったら、今開けていただけると…」

 リリーナは明らかに緊張していた。先ほどまでより今が一番緊張しているような。
 おかしい。こんなことはミソラから報告されていないからだ。そうなるとまたぬいぐるみの時のような即日で買ったものを贈ってくれたのだろうか、そう思いつつ言われるままに包装を解く。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

冗談のつもりでいたら本気だったらしい

下菊みこと
恋愛
やばいタイプのヤンデレに捕まってしまったお話。 めちゃくちゃご都合主義のSS。 小説家になろう様でも投稿しています。

お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。

下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。 またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。 あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。 ご都合主義の多分ハッピーエンド? 小説家になろう様でも投稿しています。

見た目以外あんまり好きじゃない婚約者が幼児化したのでこれ幸いと育て直してみた

下菊みこと
恋愛
幼い子供に戻った婚約者を育て直すお話。 ご都合主義のSS。 元サヤでハッピーエンド。 ざまぁは横恋慕した婚約者の幼馴染にちょっと添えるだけ。 小説家になろう様でも投稿しています。

わんこ系婚約者の大誤算

甘寧
恋愛
女にだらしないワンコ系婚約者と、そんな婚約者を傍で優しく見守る主人公のディアナ。 そんなある日… 「婚約破棄して他の男と婚約!?」 そんな噂が飛び交い、優男の婚約者が豹変。冷たい眼差しで愛する人を見つめ、嫉妬し執着する。 その姿にディアナはゾクゾクしながら頬を染める。 小型犬から猛犬へ矯正完了!?

じゃない方の私が何故かヤンデレ騎士団長に囚われたのですが

カレイ
恋愛
 天使な妹。それに纏わりつく金魚のフンがこの私。  両親も妹にしか関心がなく兄からも無視される毎日だけれど、私は別に自分を慕ってくれる妹がいればそれで良かった。  でもある時、私に嫉妬する兄や婚約者に嵌められて、婚約破棄された上、実家を追い出されてしまう。しかしそのことを聞きつけた騎士団長が何故か私の前に現れた。 「ずっと好きでした、もう我慢しません!あぁ、貴方の匂いだけで私は……」  そうして、何故か最強騎士団長に囚われました。

転生したら4人のヤンデレ彼氏に溺愛される日々が待っていた。

aika
恋愛
主人公まゆは冴えないOL。 ある日ちょっとした事故で命を落とし転生したら・・・ 4人のイケメン俳優たちと同棲するという神展開が待っていた。 それぞれタイプの違うイケメンたちに囲まれながら、 生活することになったまゆだが、彼らはまゆを溺愛するあまり どんどんヤンデレ男になっていき・・・・ ヤンデレ、溺愛、執着、取り合い・・・♡ 何でもありのドタバタ恋愛逆ハーレムコメディです。

主人公の義兄がヤンデレになるとか聞いてないんですけど!?

玉響なつめ
恋愛
暗殺者として生きるセレンはふとしたタイミングで前世を思い出す。 ここは自身が読んでいた小説と酷似した世界――そして自分はその小説の中で死亡する、ちょい役であることを思い出す。 これはいかんと一念発起、いっそのこと主人公側について保護してもらおう!と思い立つ。 そして物語がいい感じで進んだところで退職金をもらって夢の田舎暮らしを実現させるのだ! そう意気込んでみたはいいものの、何故だかヒロインの義兄が上司になって以降、やたらとセレンを気にして――? おかしいな、貴方はヒロインに一途なキャラでしょ!? ※小説家になろう・カクヨムにも掲載

転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。

処理中です...