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王太子と辺境伯
責任
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「うちの馬鹿息子が申し訳ございませんでした!」
ラインハートの言ったこと、行ったことや何かを再度話し合うために、総員は一度着替えてから別室に集まることとなった。
その集まった別室で、息子であるラインハートの頭を鷲掴みにして土下座をしているのはテオドール・グレンツェ氏。グレンツェ領の先代領主である。
執事の手紙より此度のことを知ったテオドールは、“今から帰っても間に合わない”と妻と揃って会場に顔を出しており、ディードリヒに無礼を謝罪するため両親揃って息子を挟むように床で土下座しながら当の息子本人の頭を鷲掴みにして無理矢理頭を下げさせていた。
「ほら! お前からも謝れ馬鹿者!」
ラインハートは父親にそう怒られるも、へこたれもせず言う。
「この度は申し訳ありませんでした殿下。しかし本日は大変に充実しておりまして、改めてこの試合を受けていただき感謝しています」
一度頭を上げたラインハートはご機嫌に笑っている。その姿に顔を青くした父親はまた息子の後頭部を掴み頭を下げさせた。
「この度はこの馬鹿息子が失礼ではあまりある行動や言動を行いこの試合を取り付けたと聞いております。父親として監督不届行きであったことも含め、私めがいかなる処罰もお受けいたしますので、どうか、どうか息子の命だけは…!」
「私からもどうか…! 夫婦で償いを致しますので、どうか息子だけは…!」
夫婦で平謝りである。
そもこのことが謝ったところで許されることではないのは確かだが、そこに重ねて、
「…」
「ディードリヒ様…」
リリーナの声に応えないほどディードリヒが不機嫌である故であることに他ならない。
まずこういった際ディードリヒは無表情で事務的なやり取りしかしないが、今回はあからさまに不機嫌で、リリーナがやや心配している。主に人が死ぬのではないかという方向で。
本来この集まりはラインハートが試合前に言った通り、“リリーナにお詫びをさせるため”に呼び出したのだが、そうしたら両親が何故かついてきた。夫婦は現地にいたので、本人たちからすれば謝罪は当たり前だが。
一先ずディードリヒは心底からため息をついて心を落ち着かせる。その姿にリリーナも少し安堵した。まだ誰も死なないとわかったわけではないが、確率は減っただろう。
ラインハートの親が来ているならディードリヒ側の親である国王夫妻が来てもおかしくはないのだが、夫妻的には「本人たちで解決しなさい」とのことで。その話を聞く限り恐らく来ない。
「…とりあえず座ってくれ」
ディードリヒの言葉に、グレンツェ家の面々は三人揃って向いのソファに腰掛ける。両親の目には若干涙が溜まっていた。
「約束は守ってもらうぞ、グレンツェ辺境伯」
投げられた言葉にラインハートは胸に手を当て頭を下げる。
「勿論でございます殿下。俺は改めてリリーナ様を諦め、お詫びをさせていただきたく思います」
ラインハートの姿にやや驚くリリーナ。
「いつそんなことに…」
「試合前。リリーナが聴こえないのも無理はないよ」
剣での試合であったため、当たり前だが観衆もそれなりに距離を置く。周囲に聴こえるように言っていた試合中はともかく、試合前の一言など聞こえようはずもない。
そんな小さなやりとりを見計らって、ラインハートが席を立つ。そしてそのまま頭を下げた。
「リリーナ・ルーベンシュタイン様、私ラインハート・グレンツェは貴女を利用しただけでなく、礫を放つなどという愚行を働きましたことをここにお詫び申し上げます。いかなる罰も必ずお受けすると誓いましょう。誠に申し訳ございませんでした」
「その…」
リリーナは少し返答に困ってディードリヒを見る。
一方息子がそんなことまでしていたとは知らなかった両親は全身から血の気が引いた。
しかしリリーナ的には、飛んできた礫はミソラが防いだのでことなきを得た上、結果的にではあるが無理矢理場を取り付けてしまったのは自分なので結局どうしていいのか…といったところ。
顔を向けたディードリヒは眉間に皺のよった笑顔のまま「殺していいんだよ?」と小言で伝えてくる。恐らく直接的な被害を受けたのはリリーナなのでリリーナに判断が任されているのだろう。 しかしリリーナはそんなディードリヒにこういうところはまるで成長がない…とため息をこぼしてから改めてラインハートを見た。
「まずは頭を上げてください、グレンツェ辺境伯」
「…ありがとうございます」
「私は勿論貴方を許すことはできません。私自身の被害はともかくですが、殿下に向けた無礼を許すことはないでしょう。しかし」
「…しかし?」
「叶えてほしい“お願い”があります。勿論断ることは許しません」
ラインハートは言われたことにやや唖然とする。
「リリーナ、それじゃ意味が…」
「罰を与えてはそれで終わってしまうでしょう? それでは許す気がない以上意味がないのですから、勿論応えていただけますわよね?」
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