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帰省と誕生日
待ちに待ったこの日(3)
しおりを挟む「そこで満足しているからこうなるのです。クマのぬいぐるみも香水も誕生日プレゼントには含みませんので、近々なにか買いに行きますわよ!」
拗ねていたと思ったら今度は怒り始めたリリーナ。彼女は今現状を“不甲斐ない”と感じている。
「いいよ今更だし…」
「私が納得しませんわ! 貴方の誕生日は明後日なのですから丁度いいとも言えます。絶対に行きますわよ!」
「僕のことはいいよ。リリーナが喜んでくれる方が…」
「なんですのその言い草は! 貴方が喜ぶことに私の喜びはないと仰りたいんですの!?」
「そ、それは…そうだったら嬉しいけど」
「ですからその“嬉しい”を起こしにいくんですのよ! 明々後日は予定を空けておいてくださいませ!」
間違いなく、リリーナは今までで一番ディードリヒに怒っているのだが、それだけ彼女が彼を思っているからだ。
忙しさのあまりなどと言い訳に過ぎない。相手の誕生日も意識できないとは、恋人失格ではなかろうか。
リリーナの誕生日パーティは行われないかもしれない。まだディードリヒと正式に籍を入れていないというのもあるが、彼の誕生日と日付が近い以上行われたとしても合同になるだろう。その上で、優先されるべきはディードリヒだ。
そこから予定を逆算して、最も近い日付で出かけられるのは明々後日…パーティの翌日ということになる。
「う、うん、わかった」
「わかったのならいいのです。どんなに遅くなったとしても、生誕祭前には行きますわよ!」
“生誕祭”とは、文字通りフレーメンで祀られている神の誕生を祝う祭りだ。年に一回訪れるそれは首都から地方、貴族から貧民に至るまで様々な形で祝われる。
生誕祭の日は祝日として定められており、王族は首都にある最も大きな教会にて神に一年の感謝と未来への祈り、そして神の生誕を祝うための礼拝が行われるのが通例だ。
「リリーナがデートしてくれるの!? いつも僕が仕事だとそんなこと言わないのに…」
「もう手遅れと言っていいんですのよ! 今回は緊急事態です」
「そんなプレゼントが…死ぬ気で予定空けるね」
ディードリヒは静かな闘志を燃やしている。
所詮書類仕事と言ってしまえばそうなのだが、いかんせんあれもこれも優先順位や期限があるので片付けないまま出かけるわけにはいかない。
「無理のしすぎで倒れたらデートどころではありませんわ。ご無理のないようにしてくださいませ」
「それはリリーナにだけは言われたくない」
グレンツェ領での一件より今回パンドラに旅立つまで一ヶ月と時間は経っていないが、その隙間隙間の時間でさえリリーナは動き回っている。
ヴァイスリリィの経営や商品開発に関わる仕事を始め、貧民への炊き出しイベントに参加したり、有志を募って乗馬会を開いたり…そこに併せて自己鍛錬を絶やさぬ日々であるため、今のリリーナはパンドラから帰ってきて既に五日間軟禁された後だ。
「な…最近は体に気を遣っているでしょう」
「ミソラがリリーナを外に出さない時だけね」
「私が忙しいのと休みがない問題は別ではなくて? 忙しい中でも休息は取れます」
「バランスが悪すぎるって言ってるんだよ。僕だって、どんなに忙しくても週に三日はリリーナと丸一日いるはずだったのに、リリーナがいないんじゃないか」
「貴方が週に三日も暇だった試しなどないでしょう。ですから時間を擦り合わせて共に過ごすお茶会を開いているのではありませんか」
互いに共にいるために日々を生きているはずなのだが、その為の努力のせいで時間が作れないというのは、なんとも矛盾した話としか言いようがない。
「…っ、明々後日と誕生祭は予定を空けてみせる…!」
現状では生誕祭で既に決まっているイベントが終わり次第出かける予定ではある。
「私の誕生日を日付が変わるのを待ってまで祝っている時間があるのなら、デートのためにご公務に時間を使われる方が有意義ではなくて?」
「それは違うよリリーナ。どっちも大事なんだよ」
リリーナの一言に珍しく少し怒ったディードリヒ。リリーナは驚いたあまり少し表情が崩れる。
「…そういうものですの?」
「リリーナだって僕の立場ならそうしてくれたと思うけど」
「それは、貴方が喜ぶとわかっていますから」
「僕もリリーナが喜んでくれると思って来たよ」
「…」
確かに、わざわざこうして時間を作って来てくれたのは嬉しかった。“一番に祝いたい”と言ってくれたのも。
そう思うと、何も言い返せなくなってしまう。
「…ごめんなさい。貴方の思いを無碍にしました」
「わかってくれたならいいよ」
ディードリヒは気を落としたリリーナの髪を優しく撫でる。リリーナは「ありがとうございます」と、それでも少し申し訳ないと表情にして言葉を返した。
「ごめんね、夜中に。今日は寝ようか」
「…はい」
「寂しい?」
「! そういうことでは」
「違うの? 残念」
寂しげに笑うディードリヒにまた少し申し訳ないと思ってしまうリリーナ。全く寂しくないと言ってしまったら嘘になるのだが、それは毎日のことだ、とそう思って否定してしまった。
「寂しかったら一緒に寝ようと思ったのに」
「おやすみなさいませ」
リリーナはそっとドアを閉める。そのドアをディードリヒは掴んで抵抗を始めた。
「待って待ってリリーナ! 冗談だから!」
「…」
ディードリヒの抵抗に仕方ないと、一度は閉めようとしたドアをもう一度開けるも、リリーナの表情はまさに“怪訝”の一色。
「…一緒に寝るのを当たり前にしないでほしいですわ」
「そこは当たり前にしてよ」
「私はふしだらな女ではなくってよ」
「大丈夫だよ。正妻なんだから」
「婚前ですわお馬鹿」
リリーナの強い拒絶にディードリヒは不服そうな表情を見せた後、軽く苦笑した。
「じゃあ今日は諦めるかな。おやすみ、リリーナ」
ディードリヒはそう言ってリリーナの額にキスを落とす。
「ん…おやすみなさいませ」
リリーナもまた、ディードリヒに少し屈んでもらい頬にキスを返して微笑んだ。
それから去っていくディードリヒの背中を少し追って、持ったままになっていた大切なプレゼントをぎゅっと抱きしめながらドアを閉じる。
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