冤罪悪役令嬢はヤンデレ王太子に溺愛監禁される

三日月深和

文字の大きさ
124 / 159
帰省と誕生日

待ちに待ったこの日(3)

しおりを挟む

「そこで満足しているからこうなるのです。クマのぬいぐるみも香水も誕生日プレゼントには含みませんので、近々なにか買いに行きますわよ!」

 拗ねていたと思ったら今度は怒り始めたリリーナ。彼女は今現状を“不甲斐ない”と感じている。

「いいよ今更だし…」
「私が納得しませんわ! 貴方の誕生日は明後日なのですから丁度いいとも言えます。絶対に行きますわよ!」
「僕のことはいいよ。リリーナが喜んでくれる方が…」
「なんですのその言い草は! 貴方が喜ぶことに私の喜びはないと仰りたいんですの!?」
「そ、それは…そうだったら嬉しいけど」
「ですからその“嬉しい”を起こしにいくんですのよ! 明々後日は予定を空けておいてくださいませ!」

 間違いなく、リリーナは今までで一番ディードリヒに怒っているのだが、それだけ彼女が彼を思っているからだ。
 忙しさのあまりなどと言い訳に過ぎない。相手の誕生日も意識できないとは、恋人失格ではなかろうか。

 リリーナの誕生日パーティは行われないかもしれない。まだディードリヒと正式に籍を入れていないというのもあるが、彼の誕生日と日付が近い以上行われたとしても合同になるだろう。その上で、優先されるべきはディードリヒだ。
 そこから予定を逆算して、最も近い日付で出かけられるのは明々後日…パーティの翌日ということになる。

「う、うん、わかった」
「わかったのならいいのです。どんなに遅くなったとしても、生誕祭前には行きますわよ!」

 “生誕祭”とは、文字通りフレーメンで祀られている神の誕生を祝う祭りだ。年に一回訪れるそれは首都から地方、貴族から貧民に至るまで様々な形で祝われる。
 生誕祭の日は祝日として定められており、王族は首都にある最も大きな教会にて神に一年の感謝と未来への祈り、そして神の生誕を祝うための礼拝が行われるのが通例だ。

「リリーナがデートしてくれるの!? いつも僕が仕事だとそんなこと言わないのに…」
「もう手遅れと言っていいんですのよ! 今回は緊急事態です」
「そんなプレゼントが…死ぬ気で予定空けるね」

 ディードリヒは静かな闘志を燃やしている。
 所詮書類仕事と言ってしまえばそうなのだが、いかんせんあれもこれも優先順位や期限があるので片付けないまま出かけるわけにはいかない。

「無理のしすぎで倒れたらデートどころではありませんわ。ご無理のないようにしてくださいませ」
「それはリリーナにだけは言われたくない」

 グレンツェ領での一件より今回パンドラに旅立つまで一ヶ月と時間は経っていないが、その隙間隙間の時間でさえリリーナは動き回っている。
 ヴァイスリリィの経営や商品開発に関わる仕事を始め、貧民への炊き出しイベントに参加したり、有志を募って乗馬会を開いたり…そこに併せて自己鍛錬を絶やさぬ日々であるため、今のリリーナはパンドラから帰ってきて既に五日間軟禁された後だ。

「な…最近は体に気を遣っているでしょう」
「ミソラがリリーナを外に出さない時だけね」
「私が忙しいのと休みがない問題は別ではなくて? 忙しい中でも休息は取れます」
「バランスが悪すぎるって言ってるんだよ。僕だって、どんなに忙しくても週に三日はリリーナと丸一日いるはずだったのに、リリーナがいないんじゃないか」
「貴方が週に三日も暇だった試しなどないでしょう。ですから時間を擦り合わせて共に過ごすお茶会を開いているのではありませんか」

 互いに共にいるために日々を生きているはずなのだが、その為の努力のせいで時間が作れないというのは、なんとも矛盾した話としか言いようがない。

「…っ、明々後日と誕生祭は予定を空けてみせる…!」

 現状では生誕祭で既に決まっているイベントが終わり次第出かける予定ではある。

「私の誕生日を日付が変わるのを待ってまで祝っている時間があるのなら、デートのためにご公務に時間を使われる方が有意義ではなくて?」
「それは違うよリリーナ。どっちも大事なんだよ」

 リリーナの一言に珍しく少し怒ったディードリヒ。リリーナは驚いたあまり少し表情が崩れる。

「…そういうものですの?」
「リリーナだって僕の立場ならそうしてくれたと思うけど」
「それは、貴方が喜ぶとわかっていますから」
「僕もリリーナが喜んでくれると思って来たよ」
「…」

 確かに、わざわざこうして時間を作って来てくれたのは嬉しかった。“一番に祝いたい”と言ってくれたのも。
 そう思うと、何も言い返せなくなってしまう。

「…ごめんなさい。貴方の思いを無碍にしました」
「わかってくれたならいいよ」

 ディードリヒは気を落としたリリーナの髪を優しく撫でる。リリーナは「ありがとうございます」と、それでも少し申し訳ないと表情にして言葉を返した。

「ごめんね、夜中に。今日は寝ようか」
「…はい」
「寂しい?」
「! そういうことでは」
「違うの? 残念」

 寂しげに笑うディードリヒにまた少し申し訳ないと思ってしまうリリーナ。全く寂しくないと言ってしまったら嘘になるのだが、それは毎日のことだ、とそう思って否定してしまった。

「寂しかったら一緒に寝ようと思ったのに」
「おやすみなさいませ」

 リリーナはそっとドアを閉める。そのドアをディードリヒは掴んで抵抗を始めた。

「待って待ってリリーナ! 冗談だから!」
「…」

 ディードリヒの抵抗に仕方ないと、一度は閉めようとしたドアをもう一度開けるも、リリーナの表情はまさに“怪訝”の一色。

「…一緒に寝るのを当たり前にしないでほしいですわ」
「そこは当たり前にしてよ」
「私はふしだらな女ではなくってよ」
「大丈夫だよ。正妻なんだから」
「婚前ですわお馬鹿」

 リリーナの強い拒絶にディードリヒは不服そうな表情を見せた後、軽く苦笑した。

「じゃあ今日は諦めるかな。おやすみ、リリーナ」

 ディードリヒはそう言ってリリーナの額にキスを落とす。

「ん…おやすみなさいませ」

 リリーナもまた、ディードリヒに少し屈んでもらい頬にキスを返して微笑んだ。
 それから去っていくディードリヒの背中を少し追って、持ったままになっていた大切なプレゼントをぎゅっと抱きしめながらドアを閉じる。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

冗談のつもりでいたら本気だったらしい

下菊みこと
恋愛
やばいタイプのヤンデレに捕まってしまったお話。 めちゃくちゃご都合主義のSS。 小説家になろう様でも投稿しています。

わんこ系婚約者の大誤算

甘寧
恋愛
女にだらしないワンコ系婚約者と、そんな婚約者を傍で優しく見守る主人公のディアナ。 そんなある日… 「婚約破棄して他の男と婚約!?」 そんな噂が飛び交い、優男の婚約者が豹変。冷たい眼差しで愛する人を見つめ、嫉妬し執着する。 その姿にディアナはゾクゾクしながら頬を染める。 小型犬から猛犬へ矯正完了!?

お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。

下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。 またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。 あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。 ご都合主義の多分ハッピーエンド? 小説家になろう様でも投稿しています。

転生したら4人のヤンデレ彼氏に溺愛される日々が待っていた。

aika
恋愛
主人公まゆは冴えないOL。 ある日ちょっとした事故で命を落とし転生したら・・・ 4人のイケメン俳優たちと同棲するという神展開が待っていた。 それぞれタイプの違うイケメンたちに囲まれながら、 生活することになったまゆだが、彼らはまゆを溺愛するあまり どんどんヤンデレ男になっていき・・・・ ヤンデレ、溺愛、執着、取り合い・・・♡ 何でもありのドタバタ恋愛逆ハーレムコメディです。

じゃない方の私が何故かヤンデレ騎士団長に囚われたのですが

カレイ
恋愛
 天使な妹。それに纏わりつく金魚のフンがこの私。  両親も妹にしか関心がなく兄からも無視される毎日だけれど、私は別に自分を慕ってくれる妹がいればそれで良かった。  でもある時、私に嫉妬する兄や婚約者に嵌められて、婚約破棄された上、実家を追い出されてしまう。しかしそのことを聞きつけた騎士団長が何故か私の前に現れた。 「ずっと好きでした、もう我慢しません!あぁ、貴方の匂いだけで私は……」  そうして、何故か最強騎士団長に囚われました。

【完結】離婚を切り出したら私に不干渉だったはずの夫が激甘に豹変しました

雨宮羽那
恋愛
 結婚して5年。リディアは悩んでいた。  夫のレナードが仕事で忙しく、夫婦らしいことが何一つないことに。  ある日「私、離婚しようと思うの」と義妹に相談すると、とある薬を渡される。  どうやらそれは、『ちょーっとだけ本音がでちゃう薬』のよう。  そうしてやってきた離婚の話を告げる場で、リディアはつい好奇心に負けて、夫へ薬を飲ませてしまう。  すると、あら不思議。  いつもは浮ついた言葉なんて口にしない夫が、とんでもなく甘い言葉を口にしはじめたのだ。 「どうか離婚だなんて言わないでください。私のスイートハニーは君だけなんです」 (誰ですかあなた) ◇◇◇◇ ※全3話。 ※コメディ重視のお話です。深く考えちゃダメです!少しでも笑っていただけますと幸いです(*_ _))*゜

主人公の義兄がヤンデレになるとか聞いてないんですけど!?

玉響なつめ
恋愛
暗殺者として生きるセレンはふとしたタイミングで前世を思い出す。 ここは自身が読んでいた小説と酷似した世界――そして自分はその小説の中で死亡する、ちょい役であることを思い出す。 これはいかんと一念発起、いっそのこと主人公側について保護してもらおう!と思い立つ。 そして物語がいい感じで進んだところで退職金をもらって夢の田舎暮らしを実現させるのだ! そう意気込んでみたはいいものの、何故だかヒロインの義兄が上司になって以降、やたらとセレンを気にして――? おかしいな、貴方はヒロインに一途なキャラでしょ!? ※小説家になろう・カクヨムにも掲載

転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。

処理中です...