冤罪悪役令嬢はヤンデレ王太子に溺愛監禁される

三日月深和

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帰省と誕生日

特別な日だから、あなたと(1)

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 ディードリヒの誕生日パーティの日がやってきた。
 話によるとリリーナの誕生日パーティも含まれているそうで、リリーナは気を遣わせてしまって申し訳ないとは思いつつも、フレーメン一家の温かさをまた一つ感じる。

 賑やかな会場は今回舞踏会ではなく夜会の形式だ。ダンスは任意で踊りたいものが相手を見つけて踊ればいいし、楽団が奏る音楽も少し賑やかなものが目立つ。
 その明るい空気の中、今回の主賓であるリリーナとディードリヒが国王夫妻と話をしていた。

「誕生日おめでとう、二人とも」

 ご機嫌に二人を祝うのは王妃ディアナ。対して、その横にいる国王ハイマンはリリーナへ向けて少し申し訳ないような表情を送る。

「すまないな、ルーベンシュタイン嬢。このような形になってしまって」
「いえ、お気になさらないでくださいませ。パーティを開いていただけるだけでも贅沢というものですわ」

 リリーナとハイマンは決して仲が悪いというわけではないのだが、どうしても会話をする機会が多くない。基本的にディナーの際に会うことばかりなので、ハイマンがやや距離を測りあぐねている。リリーナとしては、ある程度の仲は築いておきたいところなのだが。

「それで、ディードリヒ」
「はい、母上」

 つい先程まで上機嫌と言ってよかったディアナは、急に表情から感情を消し去った。そのまま彼女は息子を呼ぶと、若干眉間に皺を寄せる。

「貴方、今年抜け出そうとしてたみたいね」
「また急に、なんの話ですか?」
「ミソラちゃんから聞いたわよ。あの子が珍しく話しかけて来たものだから何かと思ったら『今年は顔だけ出して後は逃げるかもしれない』なんて聞いてゾッとしたんですからね」
「はは、そんなまさか。僕はここにいるではありませんか」
「リリーナさんがいる間だけでしょう。全く、リリーナさんにはお礼を言わないといけないわ」

 それからディアナはリリーナに顔を向けると「ごめんなさいね、馬鹿息子で」と謝ってきた。リリーナはそれに苦笑いで返し、すぐにディードリヒを睨みつける。しかしそれに気づいたディードリヒは反省した様子もなくにっこりと笑っているばかりでますます怒りが込み上げてきた。
 そこから呆れをこめて視線を逸らすと、リリーナは内心でため息をつく。

 一昨日ディードリヒが言っていた“サボる”発言は、実は周到な用意がされていたのだ。
 なぜそれが今わかるのかと訊かれれば、それはリリーナが今身に纏っているドレスにある。このドレスは今回のパーティのために新しく誂えられたものだが、用意したのがそもそもディードリヒだからだ。

 おそらくディードリヒは最初から誕生日を知られるか否かで行動を決めるつもりだったのだろう。
 リリーナが誕生日を知らないまま当日を迎えたら挨拶回りだけ済ませて帰り、リリーナがどこかで知ったらドレスを渡して共にパーティに出るつもりだったのだ。
 知られないよう立ち回っていた割にあっさり自分の口から明かした理由までは見当がつかないが、まずその発想がおかしいことを自覚してほしい。

 そもそも知っていたら、元より大切な日なのだからいつもより気合を入れたスキンケアだのボディケアだのヘアケアだのとやれることはたくさんあったというのに、なんなら新しい香水も用意したというのに、ドレスと靴とアクセサリー一式を渡して済ませようなどと、あまりにわかっていなさすぎる。

「全く、リリーナさんにもっと格好いいところを見せたらどうなの?」
「見たい? リリーナ」

 怒り全開の母の感情を気にもとめず、言葉だけ拾い上げたディードリヒはリリーナに問う。
 しかしわざわざそんな話題に自分を巻き込むということは、言ってほしい答えが決まっているということだ。
 なのでリリーナもまた表情をすんと戻し、じと…と相手を見て答える。

「そうですわね。まともに仕事をしているところはもっと見せてほしいですわ」
「え。リリーナ…そこはなんていうか…」
「私に貴方の魂胆がわからないとでも? どうせ愛想笑いなのですから適当なご令嬢にでも振り撒いてくればいいではありませんか」
「り、リリーナ…」

 どうせ嫉妬して欲しかったのだろうなどと、なんとわかりやすいことか。そんなわかりきった魂胆に乗るほどこちらの機嫌は良くない、と態度で表すリリーナとそれにショックを受けるディードリヒ。

 その図を見たディアナは“ざまぁみろ”と扇で口元を隠しながらも笑っていた。
 そしてさらにそれを俯瞰から見ているハイマンは、息子のあまりにくだらないやりとりに眉間に皺を寄せてため息をつく。

「ディードリヒ。お前の評判がルーベンシュタイン嬢の立場を決めるのだともっとな…」
「わかっています。どちらにせよ挨拶回りは済ませる気でいました」
「わかっているならいいが…適当にやっているとボロが出るぞ」
「流石にそう易々と使える手でないことも承知していますよ」

 ハイマンとディードリヒが始めた会話を聞きながら、リリーナは複雑な感情を抱える。呆れも怒りもなんなら今回の件に関しては若干の嫌悪すらあるが、それでも“真面目な顔もできるくせに”とその真剣な表情には魅力を感じてしまう。
 それ故“真面目に仕事をしているところが見たい”と言ったのも嘘ではない。

「そろそろ二人で回るかしら?」

 と、不意に話しかけて来たのはディアナ。
 少し考え事をしてしまったせいか、これからのことを考えていなかったリリーナは少し反応をまた考える。

「え、と…ディードリヒ様次第でしょうか?」
「ならごめんなさいね、リリーナさん。ディードリヒはしばらくお説教だわ」

 そう言ってディアナは微笑んだ。ただしその笑顔には強い怒りが込められており、リリーナだからこそ声音は優しくあろうと気を遣っているのがわかる。ディアナは普段ディードリヒを愛称で呼ぶというのに、それすら使わないということはそれだけ怒り心頭というのが見て明らかであった。

 しかしリリーナとしてはディアナに同情こそあれ否定的な感情など一つもない。
 正直言って、ディードリヒには“怒られるのは当たり前だ”とすら思う。自分が主賓のパーティに顔だけ出して抜け出そうなどと…正直このことを予見してディアナに話をしたミソラを自分からも褒めたいほどだ。

「かしこまりました…」

 リリーナはここにディードリヒを置いていこうと心に決め軽く礼をする。一度彼はしっかり叱られた方がいい。
 リリーナがディードリヒにバレないようそっとその場を離れて、ふと振り向くとディアナがこちらに小さく手を振っていた。これが母親の器が持つ余裕というものだろうか。

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