141 / 159
王家の別荘と彼女の中身(前編)
王家の別荘(1)
しおりを挟む「王族ってやっぱ別荘も大きいのね…」
若干引いていると言ってもいい反応をしているファリカの目の前には、小規模な城と言って差し支えない建物が広がっている。
本日、リリーナ、ディードリヒ、そしてリリーナの侍女であるミソラとファリカ…いつもの一行はフレーメン王国のエーデルシュタイン領へとやってきていた。
目的はディードリヒが親戚の集まりに出席するにあたって、リリーナにもお呼びがかかったからである。最初こそ部外者である自分が参加するのは如何なものか、と渋っていたリリーナではあったが、それを見越してなのか同じ時期にディアナからリリーナへ一通の手紙が届いていた。
中身を確認すると“必ず出席するように”との旨が記されており、この一言でリリーナはディードリヒと共にエーデルシュタインへ訪れることを決めた…が、ディードリヒはそれ以前からリリーナに一緒に来るようゴネていたのでそこは無視されていたと言っていい。
「アンベル家は首都にタウンハウスがあっただろ。伯爵家にしては稼いでると思うけど」
「それと王族を一緒にしないでくださいよ。多少稼ぎがあったって、うちはしがない伯爵家なんですから」
本来伯爵程度の爵位の家で、高価な首都の土地を買うことは難しいと言える。では他の貴族はシーズン中どこで生活をしているのか、というと共同アパートのような集合住宅を間借りすることが多い。なのでファリカのいるアンベル家が持つタウンハウスにはそれなりの価値があるわけだが、何故アンベル家のはそれほどの資産があったのだろうか。
それはアンベル家の祖先の系譜に由来する。
アンベル家は元々画商の家系であり、現在もその商売を続けている。なので前任より首都の商会を引き継ぐにあたって爵位を一時的に与えられていた…というのが真相だ。本来、商人から貴族へ成り上がった際によくある一代限りの爵位はある条件によって継続することを許されている。
この結果、畜産が主な収益であるアンベル領の領主が首都の高価な土地を買えているのだ。
「パンドラ王族の別荘も大きかったりするんですか?」
「あまり変わりませんわ。一回り小さかったような気もしますが」
「どこも王族はお金があるんですね…」
「どうでしょうか。パンドラはフレーメンよりも小国ですから、単純な国力ではこちらの方が遥かに上でしょう」
「なるほど、前にリリーナ様が教えてくれたやつだね」
「よく覚えていますわね。フレーメンは積極的に他国への侵略を行っていた国でもありますし、それに伴う実力を持ち合わせていました。それ故に国として強く育っていったというわけです」
そんな会話をしながら別荘の庭を歩く。そのさきにある正面玄関を侍従が開けると、この別荘の使用人らしき人物が総出でエントランスに立ちリリーナたちを迎えた。
「ディードリヒ・シュタイト・フレーメン殿下、リリーナ・ルーベンシュタイン様。本日はようこそおいでくださいました。お部屋へご案内致しますので、お荷物はこちらの者にお預けいただけますでしょうか」
代表と思しき使用人が頭を下げるのに倣って他の使用人たちも頭を下げる。彼らはディードリヒの声かけで頭をあげ、リリーナたちの荷物を預かるとリリーナは侍女二人と、ディードリヒもまた自分の侍従とで二手に別れ別荘の使用人に宿泊する部屋まで案内されていった。
***
案内された部屋を確認したリリーナは、侍女たちを連れずディードリヒと合流する。その理由は、これから二人で向かう部屋にあった。
この別荘には、リリーナたちを除いて二人の人間が住まい、七人の人間が滞在している。
ディードリヒの父母であるハイマン夫妻、叔父である大公エドガー夫妻とその三人の娘、そしてディードリヒの祖父母であるアダラート上王夫妻だ。現在は祖父母がこの別荘で生活し、他の親族を迎えている。
ディードリヒたちには、旅の無事を知らせる意味も含めて叔父たちや祖父母、何より両親に挨拶する必要があるため、彼らの集まっているという談話室に顔を出すために合流した。
エドガー一家の三姉妹がその場にいるとは限らないが、大人たちは談話室にて話に花を咲かせているらしい。
挨拶をするなら今が好都合だということで、まずディードリヒが談話室のドアを叩く。
返事を待ってドアを開けると、暖かな光を感じさせる談話室に置かれた大きな暖炉にまず目が行った。そして部屋を温めるそれを囲むように、六人の大人がソファに腰掛けている。
「おぉ、来たか」
部屋に入ってきた二人に最初に反応したのはハイマンであった。その言葉を皮切りに、他の人間も二人に視線を送る。
「遅くなりました。父上、母上」
「気にしなくていい。道中何事もなかったようで何よりだ」
「ありがとうございます」
父の言葉に礼で返すディードリヒに倣うようにしてリリーナも頭を下げた。するとハイマンは軽く手を振り頭を上げるよう言葉を返す。
「顔を上げろ、皆二人のことを待っていた」
王の言葉に従いリリーナは頭を上げる。そして改めて部屋を見渡すと、ディアナを始めとした親戚の何人かが視界に入った。どうやら噂の三姉妹はこの場にいないらしい。
「ルーベンシュタイン嬢に改めて紹介しよう。ディードリヒの祖父母…現上王であるアダラート上王とフランチェスカ上王妃、それから俺の弟のエドガー、エリシア夫妻だ」
ハイマンを含め暖炉の前に置かれたソファに腰掛ける六人のなかで、国王夫妻の座るソファの横に立つ自分達には、別々のソファに座る二組の夫婦がよく見えた。
上王に大公と錚々たるメンバーに向かって、リリーナは変わらず美しいカーテシーのポーズをとる。
「皆様お初にお目にかかります、リリーナ・ルーベンシュタインと申しますわ。本日は皆様の前でご挨拶できますことを心より感謝しております。以後お見知り置きを頂けますと幸いでございます」
再び垂れた頭をハイマンが上げるように指示を出す。そこから頭を上げたリリーナが目の前の人間たちに向けて放ったのは優しく咲く花のように美しい笑顔。
一糸乱れぬカーテシーと揃ったこの笑顔は、より一層社交的なものを感じさせない、自然なものであった。その笑顔には儀式的なものが混ざっているとは思わせない、出会いへの感謝や喜びが映し出されている。
「君が噂のルーベンシュタインさんだね。ここは辺境だが、話はよく届いているよ」
最初にリリーナへ声をかけたのは上王であるアダラート。彼は一見冷ややかな切長の吊り目をこちらに向けてはいるが、表情や声音は冷静で穏やかなもの。
アダラートはリリーナに声をかけながら、その姿を観察するように見つめている。リリーナはそれに気付き、敢えて反応をしない。臆して動けば凶となり得ることをわかっているからだ。
「初めまして、ルーベンシュタインさん。ハイマンが紹介してくれたけれど、わたくしがフランチェスカよ。こんなおばあちゃんで申し訳ないけれど、仲良くしてね」
フランチェスカは柔らかな笑みをこちらに向けてきている。生き生きとしたその表情に老いは感じられず、リリーナとの出会いを喜んでいるように見えた。
「ルーベンシュタインさん、初めまして。僕がエドガーです。甥がいつもお世話になってるみたいだね、よろしく」
「同じく初めまして、私がエリシアよ。こっちも姪っ子と仲良くしてくれてるみたいで嬉しいわ、よろしくね」
ゆったりとした口調で話し、眼鏡の奥にある穏やかな瞳が印象的なエドガーと、ハキハキとした口調に気の強そうな瞳が印象的なエリシア。二人はなんとも正反対な印象を感じさせる夫婦だ。
そしてエリシアの言う“姪っ子”とはファリカを指す。彼女の父親の姉がエリシアである。
第一印象としては、随分とフレンドリーに受け入れてくれたように感じるが、それでも緊張の糸は解けない。この場にいる限り、それは許されないのは自分が一番よくわかっている。
0
あなたにおすすめの小説
わんこ系婚約者の大誤算
甘寧
恋愛
女にだらしないワンコ系婚約者と、そんな婚約者を傍で優しく見守る主人公のディアナ。
そんなある日…
「婚約破棄して他の男と婚約!?」
そんな噂が飛び交い、優男の婚約者が豹変。冷たい眼差しで愛する人を見つめ、嫉妬し執着する。
その姿にディアナはゾクゾクしながら頬を染める。
小型犬から猛犬へ矯正完了!?
お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。
下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。
またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。
あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。
ご都合主義の多分ハッピーエンド?
小説家になろう様でも投稿しています。
転生したら4人のヤンデレ彼氏に溺愛される日々が待っていた。
aika
恋愛
主人公まゆは冴えないOL。
ある日ちょっとした事故で命を落とし転生したら・・・
4人のイケメン俳優たちと同棲するという神展開が待っていた。
それぞれタイプの違うイケメンたちに囲まれながら、
生活することになったまゆだが、彼らはまゆを溺愛するあまり
どんどんヤンデレ男になっていき・・・・
ヤンデレ、溺愛、執着、取り合い・・・♡
何でもありのドタバタ恋愛逆ハーレムコメディです。
じゃない方の私が何故かヤンデレ騎士団長に囚われたのですが
カレイ
恋愛
天使な妹。それに纏わりつく金魚のフンがこの私。
両親も妹にしか関心がなく兄からも無視される毎日だけれど、私は別に自分を慕ってくれる妹がいればそれで良かった。
でもある時、私に嫉妬する兄や婚約者に嵌められて、婚約破棄された上、実家を追い出されてしまう。しかしそのことを聞きつけた騎士団長が何故か私の前に現れた。
「ずっと好きでした、もう我慢しません!あぁ、貴方の匂いだけで私は……」
そうして、何故か最強騎士団長に囚われました。
【完結】離婚を切り出したら私に不干渉だったはずの夫が激甘に豹変しました
雨宮羽那
恋愛
結婚して5年。リディアは悩んでいた。
夫のレナードが仕事で忙しく、夫婦らしいことが何一つないことに。
ある日「私、離婚しようと思うの」と義妹に相談すると、とある薬を渡される。
どうやらそれは、『ちょーっとだけ本音がでちゃう薬』のよう。
そうしてやってきた離婚の話を告げる場で、リディアはつい好奇心に負けて、夫へ薬を飲ませてしまう。
すると、あら不思議。
いつもは浮ついた言葉なんて口にしない夫が、とんでもなく甘い言葉を口にしはじめたのだ。
「どうか離婚だなんて言わないでください。私のスイートハニーは君だけなんです」
(誰ですかあなた)
◇◇◇◇
※全3話。
※コメディ重視のお話です。深く考えちゃダメです!少しでも笑っていただけますと幸いです(*_ _))*゜
主人公の義兄がヤンデレになるとか聞いてないんですけど!?
玉響なつめ
恋愛
暗殺者として生きるセレンはふとしたタイミングで前世を思い出す。
ここは自身が読んでいた小説と酷似した世界――そして自分はその小説の中で死亡する、ちょい役であることを思い出す。
これはいかんと一念発起、いっそのこと主人公側について保護してもらおう!と思い立つ。
そして物語がいい感じで進んだところで退職金をもらって夢の田舎暮らしを実現させるのだ!
そう意気込んでみたはいいものの、何故だかヒロインの義兄が上司になって以降、やたらとセレンを気にして――?
おかしいな、貴方はヒロインに一途なキャラでしょ!?
※小説家になろう・カクヨムにも掲載
転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました
桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。
言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。
しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。
──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。
その一行が、彼の目に留まった。
「この文字を書いたのは、あなたですか?」
美しく、完璧で、どこか現実離れした男。
日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。
最初はただの好奇心だと思っていた。
けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。
彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる