冤罪悪役令嬢はヤンデレ王太子に溺愛監禁される

三日月深和

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王家の別荘と彼女の中身(前編)

王家の別荘(2)

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「ご丁寧にありがとう存じます。皆様とお会いできましたこと、とても光栄に思っておりますわ」

 だからといって、それを表に出すリリーナではない。言葉に感情を乗せて緊張を覆い隠し、その上で有体ではあるが本心を口にする。

「あら、お上手ね。年頃の娘さんとは思えないわ」

 そう再びリリーナに笑いかけるのはフランチェスカ。それに続くようにエリシアもまたリリーナに言葉をかける。

「本当に、うちの娘たちにも見習わせたいくらいです」
「ふふ、ディアナさんとエリシアさんがお嫁に来てくれた時を思い出すわね。二人とも礼儀正しくて立派だったもの」

 過去を思い返すフランチェスカの表情は少し弾んでいるようだ。
 そしてそこから、フランチェスカは何か思いついたように両掌を合わせる。

「そうだわ、ディアナさんに倣ってわたくしも“リリーナさん”と呼んでもいいかしら? もっと仲良くしたいもの」
「なら、是非私も。堅苦しいのは苦手なの、私のことも“エリシア”って呼んでくれて構わないから」
「それは勿論、お二人のお気遣いはありがたいほどでございますが…その、フレーメン大公妃様をフランクにお呼びするのは、よろしいのでしょうか」

 エリシアの提案に動揺するリリーナ。
 相手が“是非に”と言ってくれていることではあるので承諾したい気持ちはあるが、やはり立場の違いがリリーナを戸惑わせる。

「気にしないで、堅苦しいのは苦手って言ったでしょ?」
「エリシアは気軽に接してくれる方が喜んでくれるし、ルーベンシュタインさんも良かったら」

 エリシアの横に座るエドガーも説得に参加してきた。穏やかな口調はリリーナの戸惑いを察しているような表情でリリーナに言葉をかけている。
 そこまで言うなら…と、リリーナも口を開く。

「わかりました。で、では…エリシア様と」
「うん。改めてよろしくね、リリーナさん」

 リリーナの言葉にエリシアは満足げに笑う。その凜とした笑みは、エリシアの気の強さのようなものが伺えた。

「リリーナさんとエリシアさんが仲良くできたみたいで嬉しいわ。上王妃様、この期間のうちにエリシアさんのご息女のみなさんも含めてお茶の席を設けるのは如何でしょう?」
「それは素敵な提案だわ、ディアナさん。リリーナさんはきっとマディたちのいいお姉さんになると思うもの。そうでしょう? アダラート様」
「確かに品のある女性だ、挨拶一つでも噂に聞く通り素晴らしい。あの子たちにとってきっといい見本になるだろう」
「そうよね。あの子たちにもこれからはリリーナさんほどの笑顔を身につけてほしいものだわ」

(…!?)

 フランチェスカの一言に、リリーナは動揺を表情に出しかかってしまう。
 彼女の一言は、リリーナがここまで相手に向けてきた表情が“愛想笑い”であることを見抜いていると示唆している発言にもとれるからだ。

 とはいっても社交界において愛想笑いは基本中の基本。しかしその当たり前を好まない人間もいる。そうなれば当然相手の機嫌を損ねてしまうので、作った笑顔であろうともできうる限り自然なものを目指すのだ。

 ことそれに関して、リリーナは一つ自信がある。
 彼女の見てきた範囲では、何度も鏡の前で練習した成果は確かに出ていると感じることのできる反応は何度も感じてきた。そしてそうであるように、彼女は務めてきたのである。

 というか、とリリーナは隣に立つディードリヒをちらりと見た。彼の愛想笑いはおかしい。いや、その愛想笑いが許される環境がおかしいのだ。
 どこにいてもあんなにわかりやすい愛想笑いを多方面に向けてなにも指摘されないなど、王太子という立場の盾がなければ本来許されない。

 今回もリリーナは自信を持って相手に笑顔を向けた。相手に失礼のないように笑いかけ、緊張は内側に隠して。

 だがそれは自惚れだったのかもしれない。
 フランチェスカの一言は、リリーナの脳裏に一瞬その発想を過《よぎ》らせるのにはあまりにも十分すぎた。それでもその感情を表に出すほど愚かではないが、自信と言うの名の積み重ねに僅かなヒビが入る音が聞こえる。

「あぁ、ごめんなさいね。緊張しなくていいのよリリーナさん。貴女の笑顔は誰から見ても完璧だわ、わたくしもすっかり驚いてしまったもの」
「いえ…申し訳ございません。上王妃様を前にして取り繕った笑顔など」
「社交とはそういうものよ。今日はいつもより緊張していたのかしら? おかげで気づくことができたけど、普段の貴女のその笑顔を見抜ける人はとても少ないと思うわ」
「お褒めいただいていると…受け取ってもよろしいのでしょうか?」
「勿論よ! 若い人とは思えないほど素敵な笑顔だわ。ディビは恵まれてるわね」

 フランチェスカの言葉に、内心胸を撫で下ろすリリーナ。彼女の言っていることが本当ならば、少なくとも自分の積み重ねてきた成果も嘘ではないようだ。
 さらに言えば、ディードリヒの側にいる人材としての価値を多少はアピールできたとも言えるので、二重の意味で少しばかり安堵する。

「うふふ、少し喋りすぎてしまったわ。可愛いディビにお嫁さんができるって聞いて楽しみにしていたから」
「ついこの間までこんなに小さかったと言うのにな? ディビ」
「ここまでこれたのはやはり家族のおかげですよ。お祖父様、お祖母様」

 祖父母の言葉に返すディードリヒの声はとても穏やかで、普段と違う印象を覚えたリリーナはまたちらりと彼を見た。
 そこにいたのは珍しく愛想笑いではなく本心から祖父母に笑いかけているように見える彼の姿で、少しばかり驚く。

 だが、本来親族に温かな笑顔を向けることなど大して珍しいことでもない。しかしなぜ自分はディードリヒを見て“珍しい”と感じたのだろう。

「ディビはいつもいい子ね。だからこんなに素敵なお嫁さんが見つかったんだわ」
「まだ会ったばかりだろう」
「アダラート様、女には通ずるものがあるものですよ。ねぇディアナさん、エリシアさん」

 フランチェスカの問いかけに、ディアナとエリシアは肯定的に頷く。対して男性陣は彼女らのやりとりにうまく同意ができていない、というか戸惑いがあるように見えた。

「それにしても久しぶりだな、ディビ。去年は体調を崩して来れなかっただろう、心配していた」
「ご心配をおかけしました。おかげさまで今は元気にしています」
「今年はお誕生日をお祝いにそちらまで行けなくてごめんなさいね、ディビ…私の脚があまり優れなくて」
「いえ、その分お気持ちの込められた贈り物を頂いたと感じております。大切にします」

 祖父母からかけられる言葉に流れるような返事をしているディードリヒ。しかし、祖父母と孫という間柄でも立場がある以上少なからず距離のあるやりとりになるものなのだろうか…と隣で会話を聴いているリリーナは感じた。

 リリーナの祖父母は父方も母方も、彼女が産まれる以前かすぐ後には皆亡くなってしまっている。なので正しい距離感というものが彼女にはわからないが…それでも、ディードリヒの祖父母に対する態度は両親に向けたそれよりよそよそしいような印象を受けた。

「お前はできた子だからな、ハイマンが退くのもそう遠くないだろう」
「父上…俺が出来損ないのように言うのはやめていただきたい」
「なに、お前がよくできた男なのだから仕方があるまい。ハイマンもエドガーも、道は違えどいい方向に育ってくれた」

 アダラートの一言から大人たちの思い出話に再び花が開き始める。聴いていれば実りある話かもしれないが、どうにもこういった話題に若者は入りづらく、かといって抜け出すのも空気を壊してしまいかねないので難しい。

「皆さん、申し訳ありません」

 リリーナが視線の置き場に迷っていると、横に立つディードリヒが相手に向かってそう言葉をかけた。

「リリーナはこの別荘に慣れていませんので、少し案内をしたいと思いまして…席を外しても?」

 柔らかな笑顔で、空気を壊さぬよう提案するディードリヒにアダラートが反応する。

「あぁ、すまないな。老人の昔話に付き合わせてしまうところだった。是非彼女を案内してあげるといい」
「ありがとうございます。では僕たちはこれで」
「私からもありがとう存じます。ごきげんよう」

 ディードリヒが頭を下げたのに続きリリーナも軽く頭を下げ、挨拶を残してから二人で談話室を出た。
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