冤罪悪役令嬢はヤンデレ王太子に溺愛監禁される

三日月深和

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王家の別荘と彼女の中身(前編)

お転婆少女との出会い(2)

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「あーーーーーーーーーーーっ!!」
「「!?」」

 声に驚いた二人が二階廊下の柵からエントランスを覗くと、茶髪のポニーテールを揺らす一人の子供がこちらを指さしている。

「見つけた! ディードリヒ兄様!」

 子供はそう叫ぶと階段を駆け上がりリリーナたちの前まで走ってきた。
 少し華奢な体に男児のようなパンツスタイルの子供は、エリシアを思わせる気の強い吊り目が印象的に見える。

「ディードリヒ兄様! お久しぶりです!」

 そう挨拶する子供の声は半ば叫んでいるように聞こえるほどの声量で、大変元気がいいのが伝わってくるが挨拶をされたディードリヒは誰だか認識できていないような表情を見せた。

 しかしリリーナの存在に気づいた子供は、あっさりとディードリヒから視線を逸らし今度はそれをリリーナに向ける。

「貴女は…」

 じっと視線を向けた後、子供はリリーナに何かを感じたのか不意にリリーナの首元に顔を近づけすん、と一呼吸した。

「!」

 予想外の出来事にディードリヒが慌てて二人を引き剥がすも、互いに動揺した様子はない。

「…いい匂いがする。香水の匂いなのに。貴女は誰?」

 こちらに向かって好奇心に満ちた視線を向ける子供はリリーナより少しばかり背が低く、こちらを見上げて視線を送ってくる。
 直線的な視線を前に、リリーナは静かに告げた。

「…他人に誰かと尋ねるときは、まず自らが名乗るべきだと教わっているのではなくて?」
「あぁ、うん。ごめんなさい。あたしはルアナ、ルアナ・フレーメンだよ。初めまして」

 ルアナと名乗った子供は胸に手を当て騎士のように頭を下げる。その姿に返すように、リリーナもまたカーテシーのポーズをとった。

「お初にお目にかかります、フレーメン大公女。私はリリーナ・ルーベンシュタインと申しますわ。以後お見知り置きを」

 流れるようなカーテシーから顔を上げると、ルアナがこちらをじっと覗き込んでいる。

「そっか、貴女がディードリヒ兄様の婚約者さんなんだね。とっても綺麗、いい匂いもするしお姫様みたいだ」

 ルアナはリリーナの周りを忙しなく回りながら角度を何度も変えて、観察するようにリリーナを覗き込む。だがその途中でルアナの後ろから男の手が伸び、ルアナの着ているシャツの首根っこを掴み上げるとリリーナとルアナを引き剥がした。

「ルアナ、リリーナを困らせるな。見せ物じゃないんだぞ」
「いいじゃんか、減るもんじゃなし」
「減るんだよ。そもそもお前、なんで男みたいな格好してるんだ。おかげで最初誰だかわからなかった」
「ドレスもお嬢様仕草もあたしは大っ嫌いなんだ。兄様は知ってるだろ」
「お前な…」

 猫が首根っこを掴まれたような状態のまま、ルアナはディードリヒと言い合いをしている。リリーナが二人の会話に置いていかれていると、辟易した様子のディードリヒがこちらを見た。

「ごめんねリリーナ。改めて紹介するけどこいつは従姉妹の一人のルアナ。こんなナリだけど女だよ」
「それは…わかっていたのですが、その…随分お元気な方ですわね…?」

 ルアナのような少女をどう形容していいかわからず、戸惑いながら言葉を選ぶリリーナ。
 そしてリリーナの言葉に反応したルアナが再びこちらを見る。

「あたしを女だって見抜いてたの? この格好なのに?」
「話し方もそうですが…肩の作りが女性のものでしたので。なぜ男装をなさっているのか、疑問ではございましたが…」
「…」

 返答を聞いた瞬間眉間に深い皺を寄せるルアナ。
 リリーナは何か機嫌を損なうことをしてしまっただろうか、と少し身構えた。

「なに急に機嫌悪くしてるんだお前は…」
「機嫌っていうか…初めて見た人にも女だって見破られるようじゃ、まだ筋トレがたりてないんだなって思っただけ」
「そんなことでリリーナを不安にさせるな」
「そんなことってなんだよー!」

 リリーナへの発言は勿論だが、大人しくしてるように首根っこを掴んでいるはずなのに、バタバタと暴れ回るルアナにディードリヒは確実に怒りを蓄積させている。
 ルアナがそれを察している様子は一切ないが。

「いいから、叔母上に見つかる前にドレスに着替えてこい。どうせ荷物の中には入ってるんだろ?」
「嫌だね! マディ姉様ならともかく、あたしは騎士になるんだから!」
「お前がどの道に進もうが勝手だが、時と場合を考えろ。恥をかくのは叔母上なんだぞ」

 言い合いの止まらない二人の姿は、さながら兄妹のようにリリーナには見えた。先日ルーエと初めて会った際も手慣れた様子だったのは、従姉妹との関係性からきているのだろう。

 流石に年下の従姉妹にまでわかりやすく嫉妬するほど大人気なくはない。だがディードリヒが困っている様子は看過し難く思う。

「フレーメン大公女」
「? ルーベンシュタインさん、あたしのことはルアナでいいよ。あたしたち姉妹は三人もいるんだから、その呼び方じゃ誰が誰かわかんなくなっちゃうし。その代わりあたしもリリーナさんって呼んでいい?」
「構いませんわ。ではルアナ様」
「なぁに? リリーナさん」

 リリーナはディードリヒに一旦ルアナを降ろすよう頼み、床に足をつけたルアナに向かってまっすぐに視線を向ける。

「貴女の行いは、貴女のためだけにあるわけではありませんわ。それはきっと貴女も既におわかりであると私は思っております。だからこそ、服装の形に問わず場にあった行動をなさることはとても大切なことですわ」
「…ちゃんとしてれば、ズボンでもいいってこと?」
「女性の中にも騎士の方はおられます。それに乗馬服は女性向けであってもパンツスタイルでしょう? 故に私は、服装が性別に依存しない自由もあると思っていますわ。求められるべきは服装の形ではなく、人としての在り方ではないかと思うのです」

 自分に向けられたまっすぐな視線に向かって、ルアナもまたまっすぐに視線を返す。その上で、素直な疑問を相手に投げた。

「人としての在り方ってなに?」
「そうですわね…在り方、と一口に申しましても幅は大変広いものですわ。ですが騎士の方々と私たち貴族に共通しているのは“礼節”ではないでしょうか。そして己の心に対して気高くある、という人としての在り方であると私は思います」

 リリーナは相手が子供であると認識しているのと同時に“自分で考える力のある年齢である”という目でルアナを見ている。
 彼女から見てルアナはルーエに近い年齢に見えるので、その認識が正しければルアナの言うとおり本人のやりたいことははっきりしているのだろう。だからこそ、リリーナは敢えて周りくどい話をしている。

「勿論、このような話はただのお節介に過ぎませんし、ルアナ様の感じた物事はルアナ様のものですわ。ですがもしよろしければ、お気に留めていただければ嬉しく思います」

 純粋に自分を見る少女に向かって、リリーナはいつもの自信に満ちた笑顔を見せた。それを見た目の前の少女は、すっかり大人しくなるどころか少し考えるような姿勢をとり、再びリリーナを見る。

「…貴女、変な人だね」
「ルアナ!」

 ルアナの発言に著しく顔を顰めるディードリヒをリリーナは一旦止めた。それから彼に向けた視線を再びルアナに戻し、ルアナもまたリリーナの視線が帰ってきたのを確認してから言葉の続きを口にする。

「みんな『ドレスを着ろ』とか『女の子らしくしろ』とかはよく言ってきたけど、『男も女も礼儀が大事だ』なんて言ってきた人は初めてだよ」
「礼節とはそういうものであると、私は感じていますから」
「あたしは小さい頃からドレスが嫌いで、本当は港に来る人たちみたいに船に乗って旅に出たかったんだ。でもみんな必死に止めてくるから、せめて練習してる剣を活かして騎士になろうと思って」
「ルアナ様は自由を求めておられるのですね、ご自身のお考えがあることは素晴らしいことですわ」
「そうかな、ありがとう」
「ですが、私が見てきた騎士の方々は皆さん剣技だけではなく礼節を重んじられておりました。説教くさいかとは思いますが、何かのご参考になれば幸いですわ」
「…」

 ルアナは話をしている間、ずっとリリーナを見つめ続けていた。リリーナもまたその視線に返し続けていたが、不意にルアナが背中を向ける。

「…ドレスに着替えてくる」
「気が変わったのか?」
「母様が前に言ってた、『ドレスは女性の礼服だ』って。騎士になるのに礼節が必要なら、まぁ…」

 渋々、といった様子ではあるが、ルアナはリリーナの話に何か感じたようだ。その様子を見たリリーナは、もう一言語りかける。

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