冤罪悪役令嬢はヤンデレ王太子に溺愛監禁される

三日月深和

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王家の別荘と彼女の中身(前編)

彼女は探究心で本を読み、好奇心でページを捲る(1)

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 翌日。
 朝食を終えたのち、ディードリヒはリリーナとの時間を父親に妨害される。そのまま彼は父、祖父、叔父と共に乗馬へと連行されていった。

 そしてミソラは「実家の人間が集まっているので警備について確認してくる」と珍しくリリーナから自発的に離れ、ファリカはエリシアに呼び出されたのでリリーナの側にいない。

 なので、リリーナは久方ぶりの自由を手に入れた。
 他人の家にいながら久方ぶりの自由を手に入れるとは如何に…とは思いつつ、やることも思いつかなかったので別荘の敷地をふらふらと歩いている。

 こうなるのであれば本の一冊でも持ってくればよかった。正直周りの人間が張り付いているのが当たり前になってしまっていて、誰かしら話し相手がいるだろうと思ってしまった自分の落ち度である。

 そんなことを考えつつ、リリーナは別荘の庭を眺めていた。花を眺める趣味の延長線で、他人の家にいくと庭を覗きがちである。庭は基本的に人に見られることが前提で作られているので、気軽に見に行きやすいというのもあるが。

 ふと、リリーナはヒルドのことを思い出した。彼女は何かと自分の住む屋敷に来てほしいと言っていたな、と記憶が脳裏を過ぎる。

 行きたくなかったのではなく、単純にスケジュールの問題だったのだが…ガーデニングが趣味のヒルドが言うには、お抱えの庭師と共に自らの手で一から作り上げた力作だと言う。
 是非見に来てほしいと念を押されているので、近々早めにスケジュールを組んで今度こそ見に行こうか。今からならば調整もしやすいだろう。

 そんなことを考えつつ眺める別荘の庭は、シンプルでまとまりのある印象だ。冬の花々は植えられておらず、整えられた生垣が目立つ。土はあえて休眠状態にしているのかもしれない、土を休ませ今は春に備えているのだろう。
 ゴミや落ち葉などは見当たらないので、やはり管理されている庭なのがわかる。春には美しい美しい花々がこの庭を彩るに違いない。

 さっと庭を一周して屋内に戻る。散歩のような感覚であてもなく中を歩いているが、見た通り大きなこの建物には歩きごたえのようなものがあった。

「あら…」

 三階建ての建物の最上階に登り歩いていると、ドアが半端に開いている部屋を見つけてしまった。
 誰かいるのだろうかと中を覗き見ると、視界に映ったのは人の姿ではなくたくさんの書棚とそれを埋め尽くす本たち。

「…」

 本来こういった部屋を見つけてしまった場合、そのままにしておくか付近にいる使用人に声をかけて状況を確認するものなのだが、あいにく周囲に使用人と思しき人物はいない。
 かといって勝手にドアを閉めてしまい、中に誰かがいて閉じ込められてしまった…という事態も避けたいものである。

「…仕方ないですわね」

 なので、他人の家ではあるがひとまず人がいないかだけ確認することに。他人の家の部屋に勝手に踏み入るなど不躾もいいところだが、もし誰かが中で倒れていたりなどしたら大変なことだ。実際、自分はフランチェスカが今どこにいるのかを知らない。

 さっと見回って問題がないようならすぐ退室しドアを閉めようと決め、一歩足を踏み入れた。
 この部屋がなんの目的で置かれている部屋なのかがわからないので、長居をするのはあらぬ誤解を招く恐れもある。そういった事態は避けたいのが本音だ。

「どなたかいらっしゃいませんこと…?」

 自分の足音以外は物音一つしない部屋に、リリーナの控えめな声が響く。
 入ってみると部屋は思いの外広く、周囲には書棚ばかりだ。そしてその書棚は漏れなく本で埋め尽くされ、入りきらないものがそこかしこに積まれている。

 誰かいないかと探しつつ、視界に入ってくる本のタイトルを流し見で追っていくと、どうやらジャンルが極端に偏っていることがわかった。
 最初は図鑑が多く見受けられるが、次第に数学、天文学、物理学、心理学、考古学、医学…とさまざまなジャンルの学術書が増えていく。中でも多いのは生物学のようだ。

 だがその一方で、合間を縫うように恋愛小説が紛れ込んでいる。さらに見知った冒険譚や抒情詩をまとめたものなども置かれていた。勿論、見かけたことはないがそれと思しきものも。しかし乱雑に挟み込まれた楽譜と思しき紙の束も気になる…。少なくともここの主人は理路整然とものをまとめることにこだわりがないように思った。

 本が日に焼けないようになのか、カーテンの閉められた薄暗い部屋の中を進んでいくと部屋の奥から淡く光が漏れているのを見つける。

(やはり誰か…)

 少なくともあのドアは使用人の閉め忘れではなさそうだ、そう思いつつ光に向かって進んでいくと、視線の先には一つの影。

 本が積まれすっかり狭くなった机に手持ち式のランプを置いて光源にし、目の前のものに食いつくように丸まった背中の影はまるでこちらに気づいていない。
 一心不乱に目の前のものに齧り付くその背中からは、長い金の髪が三つ編みで一つに纏まった姿が目に映り、ゆっくりとページを開く音だけが聞こえる。

 これは安易に反応したら邪魔になってしまう、そう思ったリリーナは静かにその場を離れようとしたが、

「!?」

 振り向いた先の足元に本が落ちていたことに気づかずそのまま転んでしまった。必然的に大きな物音がたち、そろりと振り返ると先ほどまで本に齧り付いていたはずの少女がこちらを凝視している。

「…」

 リリーナは一先ず静かに立ち上がり、目の前の少女…メリセントに向かって頭を下げた。

「申し訳ございませんフレーメン大公女。部屋のドアが開いておりましたので中を確認していましたところ貴女をお見かけし、その場を去ろうとしたのですが足元の本に気づかず物音を立ててしまいました」
「…?」

 素直に頭を下げたものの返事がない。どうしたものかと思いつつそろりと頭を上げると。メリセントは不思議そうな顔でこちらを見ていた。

「その…フレーメン大公女…?」
「あぁ、えっと…」

 リリーナの困った様子に何かを感じたのか、メリセントは座っていた椅子から降りると静かにこちらへ向かってくる。
 自分より明らかに背が低く幼い少女は黒縁の大きな眼鏡をかけていた。

「私、リリーナさんに言っていなかったんですね…私のこともメリセントと呼んでください。一人だけ特別扱いみたいなものは嫌なので」
「ええと…わかりましたわ、メリセント様。ですが、私の失態の方が問題ではないかと思うのですが…」
「それについては、話を聞く限りドアを閉め切らなかった私の問題なので気にしていません。半端に開いたままのドアは使用人の管理不足や侵入者を連想させてしまう恐れがあります。私は配慮が足りていませんでした」
「い、いえ、そこまでお気になさるほどのことでは…!」
「実際にこうしてリリーナさんがきてしまっているので同じです。要件としてはそれだけですか?」

 メリセントの静かな瞳がリリーナを映している。リリーナも自分の背が大きいと感じたことはないが、それでも彼女は自分よりとても小さく見えた。

「はい…お騒がせしてしまい申し訳ございませんでした。すぐに退室致しますので、ごゆっくりお過ごしくださいませ」
「ここに起き忘れていた本を取りに来たらそのまま目に入った本を読み始めてしまって…その程度のことなのでそちらこそ気にしないでください。ここは私の物置のようなものなので」
「物置…でございますか?」
「はい。ここはお祖父様にお願いして家に置ききれない本を置くために貰った部屋なのですが。マディ姉様が勝手に自分の本を挟んだり、ルアナ姉様が楽譜を隠したりと…もう整理もつかないので物置と呼んでいます」

 淡々と説明しつつも呆れた様子のメリセントの言葉に、リリーナは納得を得る。
 この部屋は敢えて片付けていないのではなく、もう手がつけられないと諦めてしまっている部屋のようだ。通りで置かれている本の傾向が極端なわけである。

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