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閑話 それは救いではなく運命2
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そもそも何人目かなんて数えることも面倒になるほど数を重ねた「婚約者」とやら――佐々木芽衣が逃げ出したと聞いて、その消息を探したのは、決してその女が惜しかったからではない。
いや、伊吹自身は探そうともしなかった。
これまで「婚約者」やら「妻候補」やらが勝手に逃げ出すことは多々あり、そのたびに逃げ出した女を探し出していたのは、あの部下だった。
自分が選んだ女が想像以上に根性なしだったことに腹を立て、逃げ出した女を探し出し、それ相応の報復を与えていた。
それは、裏だけではなく表社会でも一定の評価と、それを上回る権力を得ている伊吹が、「女に逃げられた」などという悪評を立てられるわけにはいかないからだと部下は言う。ついでのように、女の実家から「慰謝料」という金銭をむしり取るのだから、タチが悪い。「慰謝料」はいつも膨大で、むしろそちらが本命なのではないかと伊吹は思っていた。
今回も婚約者が逃げ出したと聞き、いつものように女への躾と慰謝料のふんだくりが始まるのだと思っていた伊吹にもたらされたのは、予想外の報告だった。
「女が見つからないんですよね」
ガキみたいに唇を尖らせて、言いたくない、だが報告をしないわけにもいかない、というような顔をした部下が、ほかの報告に紛れさせるように小さく言った時、伊吹は眉を上げた。
「へえ……? 珍しいじゃねえか。お前が苦戦するなんて」
「いや、ほんと、なかなか大したもんなんすよ。このご時世、携帯もカードも使ってないっぽくて、足取りがつかめないんです」
「そりゃ珍しいな」
なにしろこれまでの「妻候補」やら「婚約者」やらは、驚くほどに世間知らずで、電子機器や履歴によって自分の足取りがたどられるなんて考えもしない奴らばかりだったからだ。
だいたいは、携帯をたどったり、カードの決済情報をたどるだけで、すぐに捕獲ができた。
あるいは、身近にいるSPやらお世話役やらの男をたぶらかして、いわゆる「駆け落ち」をするお嬢様もいて、そういった連中は周囲を探れば一発でわかった。
「最後に銀行で現金を下ろして、電車に乗ったっきり、足取りがつかめないんですよね。妾の娘ってことで冷遇されていたのか、親しくしていた相手も、頼れる相手もいないっぽいですし。携帯は自宅に置きっぱなしで、カードを使った形跡もなし」
「へえ」
素直に驚いた。
どうやらこれまでよりは世間を知っている女らしい。
そこまで不満そうにしていた部下が、急ににやりと笑った。
「どうです、ようやくあんたにふさわしい女が出てきた気がしませんか?」
どこか誇らしげに言う部下に、呆れる。
「逃げ出している時点でダメじゃねえか」
「そりゃそうだ」
部下がおかしそうに笑った。
いや、伊吹自身は探そうともしなかった。
これまで「婚約者」やら「妻候補」やらが勝手に逃げ出すことは多々あり、そのたびに逃げ出した女を探し出していたのは、あの部下だった。
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それは、裏だけではなく表社会でも一定の評価と、それを上回る権力を得ている伊吹が、「女に逃げられた」などという悪評を立てられるわけにはいかないからだと部下は言う。ついでのように、女の実家から「慰謝料」という金銭をむしり取るのだから、タチが悪い。「慰謝料」はいつも膨大で、むしろそちらが本命なのではないかと伊吹は思っていた。
今回も婚約者が逃げ出したと聞き、いつものように女への躾と慰謝料のふんだくりが始まるのだと思っていた伊吹にもたらされたのは、予想外の報告だった。
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「へえ……? 珍しいじゃねえか。お前が苦戦するなんて」
「いや、ほんと、なかなか大したもんなんすよ。このご時世、携帯もカードも使ってないっぽくて、足取りがつかめないんです」
「そりゃ珍しいな」
なにしろこれまでの「妻候補」やら「婚約者」やらは、驚くほどに世間知らずで、電子機器や履歴によって自分の足取りがたどられるなんて考えもしない奴らばかりだったからだ。
だいたいは、携帯をたどったり、カードの決済情報をたどるだけで、すぐに捕獲ができた。
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「へえ」
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「どうです、ようやくあんたにふさわしい女が出てきた気がしませんか?」
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