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閑話 それは救いではなく運命3
しおりを挟む「女が見つかったんですよ」
部下がそう言ったのは、女が見つからないとぼやいてから約二週間後だった。
書類から顔を上げ、部下の顔が妙に緩んでいることに伊吹は眉をひそめる。この部下が笑う時は、ろくなことが起きない。
「へえ。どこに」
「新宿です」
予想外の答えに、すぐに再び眉をひそめた。
「はあ? お膝元じゃねえか。お前、なにやってんだよ」
自分のシマすら把握していないのかとねめつけると、部下はアハハと笑う。
「いや、ほんと、盲点でした。身一つで逃げるなら田舎に行くと思ってました。たいしたもんですよ、あの女、仕事もしてたんで」
「へえ。風俗?」
女を売ってるならもう妻にはできない。部下曰くの「ステータス」が地に堕ちるので。風俗上がりの女を横においたら、「これだからブサイクは」と嘲笑されるだけだ。
「いや、飯屋ですよ。これからちょうど管轄の店回るんで、ついでに覗きに行きません?」
顔を寄せてくる部下が鬱陶しくて、手で払った。
「行かねえよ、めんどくせえ。適当に仕置きして、実家から金を巻き上げてこい」
「それが、ちょっとこれまでとは違うかもしれないんですよねぇ。――ブサイクが大丈夫らしいですよ、その女」
なぜか自慢げな顔をしていう部下に、ここまで楽しそうにするのも珍しいなと思いながら、言葉を返す。
「今までだっていただろ、自称『ブサイクが大丈夫な女』」
私、どんな顔でも大丈夫なんです! と意気揚々とやってきた女たち。己に対する自信と、ブサイクに対する憐憫をにじませた女たちは、伊吹の顔を見て息を呑み、脂汗を流し、最終的に嘔吐したり、気を失ったりする。最初から嫌悪をあらわにする女どものほうが、数倍マシだった。
だいたいは、本人の「ブサイクが大丈夫」を尊重して、ブサイク専門の風俗に入れてやった。伊吹の機嫌が悪いときは、切り刻んで魚の餌にしてしまったが。
「それが、自称じゃないらしいんですよ。周りが『ブサイク界に舞い降りた天使』って言って、かなり騒いでいるらしいですよ。ブッ、天使ってなんだソレ。――まぁ、逃げたことは間違いないので、女の実家からは慰謝料をいただくとして。本当にブサイクが大丈夫なら、使い道はいくらでもあるじゃないですか。アンタが気に入らねえなら、俺が使ってもいいわけだし」
「あ?」
「あとから難癖つけられると面倒なんで、一度自分で見といてくださいよ。それで『いらない』って言ってもらえれば、俺が有効活用するんで」
面倒だと思う反面、本当にブサイクが大丈夫ならば使い道は多い。
仮にこの部下の顔を見ても吐かないのならば、ブサイク専門の店に落とせば、相当稼げるだろう。
「写真、あるんだっけ?」
「ありますよ」
差し出されたそこには、地味な女が、幸薄そうに写っていた。
「つまんなそうな女だな」
「地味でも女なら、ブサイクが大丈夫なだけで、価値があるんですよ」
部下の言葉に、鼻で嗤った。
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