無能聖女の失敗ポーション

矢口愛留

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第一部 無能聖女編

26. 神殿が求人を出していました

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 編み物の道具を買い揃えていたら、あっという間に夕方である。私たちは、一度宿に荷物を置きに行ってから、アンディの待つ冒険者ギルドに戻った。

 依頼完了の報告をするためか、ギルドの受付は先ほどよりも混雑している様子だ。
 アンディは、珍しく難しい顔をして、依頼の貼ってある掲示板を眺めている。

「アンディ、お待たせ」
「ん、ああ、買い物終わったんだな」
「うん、待たせちゃってごめんね。それより、難しい顔して、どうしたの?」
「それがさ……ティーナ、これ見てくれよ」

 アンディが指をさしたのは、一枚の依頼書だった。なんだか、見覚えのある印章が押されているが――、

「えっ、これ、神殿の印章じゃない」
「ああ、そうなんだ。ついさっき貼り出されたばかりの依頼なんだけどさ……神殿からの依頼なんて、オレ、初めて見たよ」
「依頼内容は……雑事全般?」

 そういえば、私が神殿を出た後、掃除や洗濯、料理番などは、きちんと手が回っていたのだろうか。
 私がいたときは全て私が担当していたが、本来ならば、各仕事が聖女様たちの持ち回り制になっている。日々のおつとめの合間に、雑事をする時間が割り振られているはずだ。

「どうしてかな? これまでは、神官様や聖女様たちだけで、雑事も全部こなしてきたはずなのに」
「クリスティーナ様に頼り切りだったからに違いありませんよ」
「わっ、ジェーンさん! いつの間に?」

 突然話しかけられて、私とアンディは驚いて横を見た。隣にはいつの間にか、外で待っていたはずのジェーンさんが、気配もなく現れ、佇んでいる。

「ていうか、前にも思ったけど、ジェーンさんって急に出てくることあるよな?」
「驚かせてしまい、申し訳ございません。昔の癖が、未だに抜けず。恥ずかしながら、時折、主様のことも驚かせてしまっております」
「癖……?」

 癖というより、何らかのスキルが無意識に発動しているのではないかというような印象を受けるのだが……ジェーンさんは自分のことを話さないし、謎多き人である。

「それにしても、住み込み、食事付きとはいえ、日給500ゴルドとは……これでは誰も手を挙げないのではございませんか?」
「ああ、オレもそう思う」

 ギルバート様は、試用期間で日給1000ゴルドものお給金を提示してくれた。これは破格の待遇だ。
 だが、そもそも雑事の依頼は拘束時間が長く、王都内で完結するため寄り道をすることもできない。ついでに素材の採集や魔物の討伐などをして追加報酬を得ることも望めないため、日給700から800ゴルドぐらいないと割に合わないのだ。

 ちなみに、薬草の買い取り価格は、一本につき25ゴルド。群生地を見つければ、三十本ぐらいはあっという間に採集できるらしい。
 群生地が見つからなくても、あちこち歩き回って採集していれば、大抵薬草以外の素材も見つかる。そのため、依頼を受けずにソロで採集にだけ集中していても、一日500ゴルドぐらいなら無理せず安定して稼げるのだそうだ。

「……クリスティーナ様が神殿を出てから、おおよそ半月。よく持ったほう、と言うべきでございましょうか」
「最初は頑張ってたけど、いい加減不満が爆発した……って感じか?」
「わたくしたちは、主様のお屋敷に来てからのクリスティーナ様の働きを拝見していますから、当然の結果だと言わざるを得ませんね」
「となると……見つかると面倒かな?」
「ええ、確実に」

 ジェーンさんとアンディは、声をひそめて頷き合った。

「えっと……あの……」
「申し訳ございません、クリスティーナ様。もうギルドは出ましょうか」
「こんなむさ苦しいとこ、居心地悪いよな。そろそろ腹減ってきたし、メシでも行こうぜ」
「え? そんなこと――わっ」

 私が困っていると、ジェーンさんとアンディは途端に私の両側に陣取った。ついでに、何故だかジェーンさんに、彼女が昼間にかぶっていた帽子をかぶせられる。
 そうして私は、二人に押し出されるようにして、冒険者ギルドを後にしたのだった。



 しばらく歩いた後、人の流れに乗ってようやく、アンディは口を開いた。

「それで、ティーナとジェーンさんは、何食べたいとか希望ある?」
「ううん、私は特に」
「わたくしも、アンディ様にお任せいたします」
「うっし。そしたら、向こうの通りに、女の子に人気のメシ屋があるんだけど、どう?」

 そう言ってアンディが指さしたのは、曲がり角の先の、大きめの道だった。小さな道には石畳が敷かれていないが、アンディの示した道はきちんと整備されている。馬車も通れそうだ。

「外観もお洒落だし、個室もあるんだ。王都郊外で採れた地場産の素材を使ったメニューが人気で、デザートも豊富なんだぜ」
「わぁ、デザート! 気になるかも!」
「ええ、個室があるのなら、是非そこにいたしましょう」


 アンディの案内してくれたお店は、オープンテラス席のついた、お洒落な店構えのレストランだった。
 過ごしやすい気候だからか、この季節は店内よりもテラス席の方が人気らしい。パラソルの下にガーデンテーブルとチェアが設置されていて、開放的な気分で歓談ができそうだ。

 私たちが希望したのは、店内の個室席だ。私は別に普通の席でも良かったのだが、ジェーンさんが個室を強く希望したのである。
 晩御飯にはまだ早い時間だからか、個室席はまだ埋まっておらず、すぐに案内された。

 案内されたのは、六人ぐらい入れそうな、少し大きめの個室だ。私の正面にはアンディが、隣にはジェーンさんが腰を下ろす。
 おすすめメニューを店員さんに注文して、ようやくジェーンさんは私の頭から帽子を回収してくれた。

「それにしても、さっきの話。神殿さ……最近、ちょっと変だよな」

 大きい声では言えないけど、と前置きをして、アンディがそうこぼした。

「変って?」
「今日、露店のお姉さんとか、ギルドの受付のお姉さんとか、冒険者のお姉さんとかから聞いたんだけどさ……」

 アンディの情報源がお姉さん率百パーセントなのはさて置いて、続くアンディの言葉に、私は眉をひそめることになったのだった。
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