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第三部 フォレ領編
59. 仲良しな二人、です
しおりを挟む簡易的な晩餐会……というよりも、旅の報告会を終えて、私は早速ポーション作りに取りかかった。
ウォードやアンディたちに手伝ってもらい、薬草水やポーション瓶などの器具を搬入していく。
「ありがとう、手伝ってくれて」
「いいってことよ。な、ウォードさん」
アンディがそう言うと、ウォードも巌のような表情のまま、首を縦に振った。
薬草水の入った樽やポーション瓶、瓶を入れる木箱などを運び込むと、広いと思っていた部屋も、なんだかんだ物で埋まっていく。
今日はもう夜なので、必要最低限の物だけ運んでもらった。部屋の整理整頓や、細かいものの用意は明日以降になるだろう。
「どうだ? 部屋の広さや設備は問題なさそうか?」
「あっ、ギル様」
荷物を運び入れてもらっていたところに、ギル様が顔を出す。
今日は遠視魔法――視線を飛ばす魔法は、私の所には使っておらず、他へ出張しているらしい。
「素敵なお部屋を、ありがとうございます! これだけ広いお部屋なら、薬草水もたくさん用意できますし、ポーションもめいっぱいストックできそうです」
「ふ。だが、いつでも作業できるからといって、無理はしないように。ティーナは頑張りすぎるところがあるからな」
一通り部屋を見渡したギル様は、私に釘を刺した。
「あはは……肝に銘じます」
自分が頑張りすぎるというほど頑張っているかどうかはわからないが、やることがあると没頭してしまいがちなのは事実である。私は苦笑いした。
「あ、そうだ! せっかくギル様もいらっしゃったことですし、皆さんも琥珀珈琲で休憩しませんか? ちょうど器具も揃いましたし」
「おっ、いいじゃん、それ! 休憩しようぜ!」
「こら。アンディが返事するところじゃないでしょ」
私の提案にすぐ返答したのは、アンディだった。
隣にいたリアが、すかさずツッコミを入れている。
ギル様は二人のやり取りを面白そうに見ていたが、ゆるりと私に目を向けると、柔らかく微笑んだ。
「ティーナ、頼めるか?」
「はい! もちろんです! どうぞ座ってお待ち下さい」
私はすぐに人数分の琥珀珈琲を用意していく。
ギル様がソファーに座ったのを横目で確認しつつ、ミニキッチンで小鍋に水を汲み、火にかけた。
「今日は湯で作るのか?」
「はい。お水じゃなくて、お湯で作っても効果は変わらないことがわかったんです。今みたいに気温の下がった夜は、温かいものの方が心も温まるかなと思って」
「そうか。それはいいな」
「ふふ」
ギル様は嬉しそうに目を細めている。
それを見て私も自然と笑みがこぼれた。
「お待たせしました。どうぞ」
出来上がった琥珀珈琲をテーブルに置く。
ギル様は優雅に琥珀珈琲の色と香りを楽しみながら、口元にカップを運んだ。
「ああ、この味だ。二週間しか経っていないが、随分懐かしく感じる」
ギル様はふうと息を吐き出して、口端を緩めた。
今日の昼間にフォレ城に到着してから、結局ギル様に琥珀珈琲を届けることはできていなかったのだ。
ギル様も昨日の夜に城へ戻ってきたと言っていたし、ずっと忙しくしていたようである。
「そうそう、苦いけどやっぱり元気出るよな、これ」
「うーん、ごめん。あたしはやっぱ苦手かも。香りはとっても好きなんだけどね」
「リアは甘党のお子ちゃま舌――いてっ」
アンディとリアは、ギル様の向かい側のソファーに並んで座り、琥珀珈琲を飲んでいたが、アンディがまた余計なことを言ってリアにはたかれている。
ウォードは、席にはつかず、立ったままだ。もちろん、彼の分も琥珀珈琲を用意した。
ちなみに、ジェーンとシニストラ卿は、ここには来ていない。
私は琥珀珈琲を配り終えると、ギル様に勧められて、彼の隣に腰を下ろした。
自身の分のカップを傾けながら、ギル様と一緒に、わちゃわちゃと続いているアンディとリアのやりとりを眺める。
「二人は本当に仲が良いな」
「まあ、それは……。この通り尻に敷かれてるんすけどね」
「えへへ。アンディはダメなところもいっぱいあるけど、あたしはそれも含めて全部大好きなんです」
「ちょ、リア」
赤面するアンディを眩しそうに見て、ギル様は「ふ」と笑いをこぼした。
「ところで、今日は本当にこのお城でお世話になっちゃっていいんすか?」
「ああ、もちろんだ。二人が良ければ、しばらく滞在してもらっても構わないぞ」
「マジっすか? そしたら、宿泊代を……」
「いや、気にするな。君のことは、私が巻き込んでしまったようなものだからな」
懐から財布を出そうとするアンディを止め、ギル様は申し訳なさそうに眉尻を下げる。
「ギル様、どっちかっていったら、アンディたちを巻き込んでしまったのは私の方です。アンディとリアの宿泊費は、私が払います」
「いいや、ティーナのせいではない。これは、私のエゴが引き起こした結果だ。……私が、君にそばにいてほしいと望んだから」
「いいえ、ギル様。そうじゃないんです。私が……、私が、神殿に戻りたくないと願ってしまったからです。ギル様は優しいから、私のこの我が儘を受け入れて、真剣に考えてくれて、その結果――」
「違うぞ、ティーナ。私は優しくなどない。我が儘だと言うなら、むしろ私の方が――」
「ぷっ、何だ、二人も仲いいんじゃん」
「あははは、ほんとね」
ギル様と私の言い合いを止めたのは、アンディとリアの笑い声だった。
「なんかさ、二人とも堅苦しく考えすぎなんじゃねえの?」
「あたしもそう思うよ。二人が互いを互いに望んだ結果、今ここで一緒にいるってことでしょ?」
アンディとリアの言葉に、私とギル様は同時に息を詰めて、顔を見合わせた。
視線が合うと、黄金色の瞳は揺らめく。その目元は、わずかに赤く染まっている。
「オレ、決めたよ。次の旅に出る準備ができるまで、ここで働かせてくれない? そんで、その報酬から宿泊費を支払う。それでいいよな、リア?」
「うん。あたしは、アンディと一緒にいられれば、何でもいいよ」
「魔物の解体とか、城の掃除とか、ティーナの手伝いとか、何でもするからさ。な、どうかな、ギルさん?」
「……ああ。なら、頼もうか」
ギル様は、アンディとリアの提案に驚きつつも、微笑んで首を縦に振ったのだった。
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