61 / 91
第三部 フォレ領編
60. お仕事開始です
しおりを挟む結局、アンディとリアもフォレ城にしばらく滞在することに決まった。
各自に割り当てられた仕事は、こうだ。
私は、基本的には部屋でポーション作り。ただし、大怪我をした人がいたら、直接治癒に出向く。
ウォードとリアは、交代で私の護衛をしてくれることになった。
ウォードにはポーション瓶などの重い物や資材を運んだりする力仕事、リアには伝達係なども手伝ってもらう。
アンディは、騎士たちが狩った魔物の解体を手伝うことになったようだ。
「二人とも、本当にいいの? リアはアンディについて行きたかったんじゃない? ウォードだって、きっと辺境騎士団からしたら貴重な戦力なのに」
一晩明け、朝になって改めて挨拶しに来たリアとウォードに、私はそう尋ねた。
「いいに決まってるじゃん。アンディとは一緒にいたいけど、あたし、解体はどっちかって言うと苦手だし。討伐隊に入るにしたって、すでに連携ができてて統率されてる騎士団に、いきなり加勢なんてできないよ」
リアがそう言うと、ウォードもその通りだと言わんばかりに大きく頷く。
「でも、お城の中には魔物も入ってこないし、安全よ? 護衛なんて必要かなあ」
「敵は魔物だけじゃないでしょ。聞いたよ? 昨日城に到着して、あたしと別れたあと、一悶着あったんだって?」
「えっ、どこでそれを?」
私は、女騎士エミリーさんのことを思い出す。
確かに厳しい言葉をかけられて、嫌な態度を取られたが、そのことは誰にも言っていないはずだ。
リアはどうして知っていたのだろう。
「ティーナって、いつまで経っても危機感薄いよね。だから守りたくなるのかな?」
「え? んん?」
「覚えといて、誰かを陰ながら守る手段はたくさんあるってこと」
リアはそう言って、私の着ているローブの胸元にある、黄金色の飾り石を指さした。
今着用しているのは室内用の黒いローブで、昨夜ギル様から仕事着として何枚か支給してもらったもののうちの一枚である。
王都を出る前にギル様からもらったベージュ色の外出用ローブと、デザインはほぼ一緒。
飾り石も同じもので、生地の厚さと色だけが異なっていた。
専用の黒いローブは辺境騎士団の黒い騎士服とお揃いみたいで、ギル様からローブをもらったときは、少し嬉しかったりした。
「そのローブ、できる限りずっと脱がずにいた方がいいよ。私やウォードが離れてる時は、特に」
「……? わかったわ」
仕事着なのだから、日中は基本的に脱ぐことはないと思うが。
私は疑問に思ったものの、とりあえず頷いておいた。
*
それから、私は早速ポーション精製を始めた。
ギル様への琥珀珈琲の差し入れは、私が彼の部屋へ持って行くのではなく、ギル様の方からこの部屋へ来てくれることになった。
様子見と、ポーション精製の報告も兼ねてとのことだ。
何時頃に来るのかは、必ず事前に伝達してくれるということである。
「さて。まずは、薬草水の仕込みからね」
正しい方法で精製すれば、ポーションの劣化はまず起こらない。
緊急時に直接治癒ができる余力を残しておきつつ、残る魔力を全て中級ポーション精製にあてても良いだろう。
「とはいえ、私の力で何本の中級ポーションが作れるか、ちゃんと確かめたこと、ないのよね……」
正しい精製方法を知る前――力技で水から初級ポーションを精製した際には、最大で一日に七、八本の精製に挑戦し、一本の初級ポーションを完成させるのが限界だった。
だが、薬草水を用いてポーション精製を行うようになってからは、一本当たりに注ぎ込む魔力量がかなり少なくて済んでいる。体感では、二割程度の魔力量だろうか。
「ということは、三、四十本ぐらいなら作れるかな? 念のため、少し多めに……五十本分ぐらい用意しておけばいいか」
私はよし、と気合いを入れて腕まくりをする。
薬草と水をそれぞれ計量し、樽に仕込んだら、日付と時刻を書いた紙を貼り付け、日の当たらない場所に安置した。
「これで良し、と。もし、もっと精製する余力がありそうだったら、午後にまた仕込めばいいわね。それじゃあ、次は――」
私は続いて、ギル様が事前に用意してくれていた薬草水の樽を開ける。
翌日の分の仕込みが終わったら、次にやるのは、漬け終わっている分の薬草水の処理だ。
「上澄みを計量して、ポーション瓶に取り分けて、と」
非力な私が扱うものだからだろう、一つ一つの樽は、そこまで大きくない。
内容量はワイン樽の二十分の一程度。これになみなみと水が注がれているが、実際に使用できる部分はその八割から九割程度だ。
「うん、やっぱり一樽で三十本ぐらい作れそうね」
先ほど仕込みをした際、五十本の分量で樽が二つに満たない程度になっていたので、私の予想は合っていたようだ。
樽の中から上澄み部分を、計量しながらポーション瓶に移し替えていく。
薬草水の上澄みをポーション瓶に移し終えたら、次は浄化の作業だ。
「さすがにいっぺんに浄化するのは、やめた方がいいかな」
浄化魔法は一気にかけられるとはいえ、私も、最大で十本ぐらいしか同時に浄化をしたことがない。
三十本同時に浄化をして、ムラができてしまっても困るので、三回に分けて浄化を行うことにした。
ちなみに、この浄化の魔法は全ての聖魔法の基礎となる魔法だ。
浄化の魔法には、対象を蝕む瘴気を消し去る効果がある。
聖女の作るポーションや回復魔法が、魔物から受けた傷や毒に効果てきめんなのは、聖魔法の浄化効果によって瘴気が払われ、回復効果が高まるためなのだ。
ポーションの原材料となる薬草水に浄化魔法をかけるのも、水に瘴気が微量に含まれている可能性があるからだ。
浄化魔法で最初に瘴気を消し去っておけば、瘴気から発生する毒素が回復効果を阻害するのを防ぐことができる。
「浄化完了ね」
三回分の浄化作業はあっという間に終わった。
次は、一本一本に治癒魔法を込めていく番だ。
「さて、集中集中」
ここからは少し集中力を要する作業である。
私は気合いを入れ直して、ポーション瓶を一本手に取り、治癒の魔力を練り始めたのだった。
67
あなたにおすすめの小説
公爵家の次女ですが、静かに学園生活を送るつもりでした
佐伯かなた
恋愛
王国でも屈指の名門、公爵アルヴィス家。
その家には、誰もが称賛する完璧な令嬢がいた。
長女ソフィア。
美貌、知性、礼儀、すべてを備えた理想の公爵令嬢。
そして──もう一人。
妹、レーネ・アルヴィス。
社交界ではほとんど名前も出ない、影の薄い次女。
姉ほど目立つわけでもなく、社交の中心にいるわけでもない。
だが彼女は知っている。
貴族社会では、
誰が本当に優れているのかは、静かな場面でこそ分かるということを。
王立学園に入学したレーネは、
礼儀作法、社交、そして人間関係の中で、静かに周囲を観察していく。
やがて──
軽んじていた者たちは気づく。
「公爵家の妹」が、本当はどんな令嬢だったのかを。
これは、
静かな公爵令嬢が学園と貴族社会で評価を覆していく物語。
もうすぐ帰って来る勇者様と私の結婚式が3日後ですが、プロポーズされていないといくら言っても誰も信じてくれません
まつめ
恋愛
3日後に村をあげての盛大な結婚式がある。それはもうすぐやって来る勇者様と自分の結婚式。けれど勇者様は王都の聖女様と結婚すると決まっている。私は聖女様の代わりに癒し手として勇者様を治療してきた、だから見事魔王を打ち破って帰って来た時、村人達は私が本物の聖女だと勘違い。私がいくら否定しても誰も聞いてはくれない。王様との謁見を終えてもうすぐ勇者様が村に帰って来る。私は一度も好きだと言われてないし、ましてや結婚しようとプロポーズも受けていない。村人達はお祭り騒ぎで結婚式の準備は加速していく。どうしようと困っているのに、心の奥底で「もしかしたら……」と大好きな勇者様が自分を選んでくれる未来を淡く期待して流されてしまう私なのだった。どうしよう……でもひょっとして私と結婚してくれる?
完璧な政略結婚のはずでしたが、宰相閣下の“私の妻”扱いが甘すぎます
星乃和花
恋愛
政略結婚のはずでした。
家同士の利も、立場の釣り合いも、全部きちんと整った、完璧に合理的な結婚。
……なのに、夫となった冷徹宰相は、なぜか人前で私を「最高の妻」と紹介し、暮らしを完璧に整え、他人に近づかれると不機嫌になってしまいます。
“天使”と噂される穏やかな令嬢フィオナもまた、
そんな不器用な優しさに少しずつ心をほどかれて――。
これは、条件で選ばれたはずの夫婦が、
いつの間にかお互いを“ただ一人”として欲しくなるまでの、甘くてやさしい政略結婚物語。
(毎日21:50更新ー全8話)
一夜の過ちで懐妊したら、幼なじみの冷酷皇帝に溺愛されました
由香
恋愛
没落貴族の娘・柳月鈴は、宮廷で医官見習いとして働いていた。
ある夜、皇帝即位の宴で酒に酔い、幼なじみだった皇帝・李景珩と再会する。
遠い存在になったはずの彼。
けれど、その夜をきっかけに月鈴の運命は大きく動き出す。
冷酷と恐れられる皇帝が、なぜか彼女だけには甘すぎて――。
【完結】「異世界に召喚されたら聖女を名乗る女に冤罪をかけられ森に捨てられました。特殊スキルで育てたリンゴを食べて生き抜きます」
まほりろ
恋愛
※小説家になろう「異世界転生ジャンル」日間ランキング9位!2022/09/05
仕事からの帰り道、近所に住むセレブ女子大生と一緒に異世界に召喚された。
私たちを呼び出したのは中世ヨーロッパ風の世界に住むイケメン王子。
王子は美人女子大生に夢中になり彼女を本物の聖女と認定した。
冴えない見た目の私は、故郷で女子大生を脅迫していた冤罪をかけられ追放されてしまう。
本物の聖女は私だったのに……。この国が困ったことになっても助けてあげないんだから。
「Copyright(C)2022-九頭竜坂まほろん」
※無断転載を禁止します。
※朗読動画の無断配信も禁止します。
※小説家になろう先行投稿。カクヨム、エブリスタにも投稿予定。
※表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。
侯爵家の愛されない娘でしたが、前世の記憶を思い出したらお父様がバリ好みのイケメン過ぎて毎日が楽しくなりました
下菊みこと
ファンタジー
前世の記憶を思い出したらなにもかも上手くいったお話。
ご都合主義のSS。
お父様、キャラチェンジが激しくないですか。
小説家になろう様でも投稿しています。
突然ですが長編化します!ごめんなさい!ぜひ見てください!
【完結】嫌われ公女が継母になった結果
三矢さくら
恋愛
王国で権勢を誇る大公家の次女アデールは、母である女大公から嫌われて育った。いつか温かい家族を持つことを夢見るアデールに母が命じたのは、悪名高い辺地の子爵家への政略結婚。
わずかな希望を胸に、華やかな王都を後に北の辺境へと向かうアデールを待っていたのは、戦乱と過去の愛憎に囚われ、すれ違いを重ねる冷徹な夫と心を閉ざした継子だった。
【完結】隣国のモフモフ騎士団長様、番ではない私でよろしいのですか?
こころ ゆい
恋愛
※最終話に、3/11加筆した分をアップしました。
※番外編書きたい気持ちがあるのですが、一旦、恋愛小説大賞の締め切りに合わせて、完結とさせて頂きます。🌱
※最後、急ぎ足で駆け抜けたので、説明不足や誤字脱字多くなっているかもしれません。都度見つけ次第、修正させて頂きます。申し訳ありません。💦
ジャスミン・リーフェント。二十歳。
歴史あるリーフェント公爵家の一人娘だが、
分厚い眼鏡に地味な装い、常に本を読んでいる変わり者。皆が自分のことをそう言っているのは知っていた。
モーリャント王国の王太子殿下、コーネル・モーリャントとの婚約が王命で決まってから十三年。王妃教育を終えても婚姻は進まず、宙ぶらりん状態。
そんな中、出席した舞踏会でいつも通り他の女性をエスコートする王太子殿下。
それだけならまだ良かったが、あろうことか王太子の連れた女性が事件を巻き起こす。その最中で言い渡された婚約破棄。
「....婚約破棄、お受けいたします」
そのあと、ジャスミンは一人旅に出てある人物と出会った。
これは、婚約破棄された女性が獣人国で知らぬうちに番と出会い、運命に翻弄されていく物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる