無能聖女の失敗ポーション

矢口愛留

文字の大きさ
76 / 91
第四部 婚約編

75. 告白、されちゃいました

しおりを挟む
 黄金の翼が、光の粒子となって消えていく。
 けれど、私を優しく抱きしめるギル様の腕は、変わらずあたたかく私を包み込んでいる。

「ギル、さま……」
「……突然抱きしめたりして、すまなかった。困らせてしまったな」
「い、いえ」

 ギル様は私の背中から手を離すと、眉尻を下げて甘く微笑んだ。
 抱きしめられたのは、これで二度目。けれど、嫌だとか、困ったとか、そんな風には感じない。むしろ――、

「えっと、ギル様、その、私」
「――それは、また後で。まずは、座り直そうか。すまない、取り乱して、順序がめちゃくちゃになってしまった」

 どぎまぎしながら返事を探していた私を手で制し、ギル様は元のソファーに腰を下ろした。
 私も、先ほどまで座っていたソファーに戻る。
 顔の熱は、全然引きそうにない。

「それで……三年前に、君と出会っていたというところまで、話したんだったな」

 すっかり冷めてしまった琥珀珈琲アンバーコーヒーを口元に運び、ギル様は話を元に戻した。
 彼の耳も、心なしか赤く染まったままだ。

「三年前、私は、転移魔法の研究に力を入れていたんだ。あの夜は、その実験の最終段階だった――」

 そうして、ギル様は、フォレ領からなぜか王都の神殿裏に転移したことと、大地の日の夜にしか長距離転移ができないことを話してくれた。

「私がちゃんと・・・・している曜日に、改めて君に会って、話をしたかったのだが……この三年、領内もなかなか安定しなくてね。大地の日から翌大地の日までの一週間とはいえ、公務でもなく私事で領地を離れるのは難しかった」

 そこでギル様が目をつけたのが、以前から日程が決まっていた、王太子殿下の成人式典だ。
 領地のポーション不足を解消するために、神殿のことも探りたかったというギル様は、一年以上もの間、準備に準備を重ね、王都への長期滞在を可能にしたという。

「だが、王都は私以外――転移魔法が使えない者には遠い。往復だけで一ヶ月、滞在期間も含めれば約三ヶ月……この地の状況を考えると、連れて行ける従者は、二人か三人が限度だった。そこで、最も信頼のおける二人の一方を領地に、もう一方を表向きでは自分の側仕え、裏では諜報の任を与えて、あとは御者を一人だけ連れて行くことにした」

 そうして領地を任せられたのがシニストラ卿、側仕えと諜報を任せられたのがジェーンだった。御者はトマスだ。

 だが、王都で合流したギル様とジェーンには、早速問題が生じていた。
 滞在予定だった王都別邸が、予想以上に荒れ果てていたのだ。

 ジェーンには諜報の任務もある上、当時は腰に爆弾を抱えてもいた。
 トマスには、王都外、フォレ領へ向かう道の途中にある別邸に滞在してもらい、別の業務を任せていた。

 そのためギル様は、王都別邸の清掃、補修のために、一時的に冒険者を雇うことにしたのだという。
 もちろん、屋敷内の魔道具を整備して徹底的に安全を確保し、遠視魔法で自ら監視する態勢も整えた上でだ。

「前にも言ったが、まさか私が探していた『琥珀色の聖女』が、自ら私の元に来てくれるとは、予想していなかったよ」
「ふふ、私もびっくりです。だって、ギル様の依頼が、神殿を出たその日、私が真っ先に出会った依頼だったんですよ?」
「ああ。三年前の転移といい、流石に私も、何か不思議な力が働いているのかもしれないと感じたな」
「きっと、女神様のお導き、ですね」

 ギル様は頷き、目を細めて微笑んだ。

「遠視魔法が君にだけ見破られたのも、ティーナが神力――女神の魔力を感じることができる、不思議な能力を持っているからだろうな。君のその能力がどういう理屈なのかは、さっぱりわからないが」
「うーん……私もよくわからないです」

 黄金色の神力と、ギル様自身の持つ山吹色の魔力。そして、私の琥珀色の魔力……いずれも似た色だし、波長が近かったのだろうか?
 正しい理由は不明だが、まるで私も女神様の加護をいただいているみたいで、少し嬉しい。

「あ……そういえば、どうしてギル様は、二種類の魔力色をお持ちなんですか?」
「ああ。その理由を、今から話そうと思っていたんだ。――フォレ公爵は、代々、王族の中でも特別な存在でな」

 ギル様によると、フォレ公爵には、王族の中でも女神の力が最も強く受け継がれた人間が、代々拝命されるらしい。

「女神の力は、変わった性質を持っていてな。歴代のフォレ公爵は皆、自身の魔力と女神の神力、その両方を身体に宿している」
「なるほど……だから、ギル様は二種類の魔力を……。あ、もしかして、他の王族の方もそうなんですか?」
「……いや、これはフォレ公爵となる者だけに受け継がれる、特別な力。他の王族は、自身の魔力しか持たない」
「へええ、すごいですね」

 私は感心してしきりに頷いていたが、ギル様は僅かに眉を顰めている。
 また、部屋の扉を閉めたときと同じ、緊張した面持ちに変わっていた。

「……この先を話すには、君にも、色々なことを覚悟してもらう必要がある。だから、この話は、今日はここまでにしておこう。そのかわり――最後に一つ、伝えたいことがある」

 ギル様は、そこで言葉を切って、立ち上がった。
 彼は、私の前までゆったりと歩いてきて、その場で片膝をつく。

「クリスティーナ嬢。私は、君を愛している」
「――っ」

 私は、息を呑んで大きく目を見開いた。
 じわじわと、頬に熱がのぼってくる。
 ギル様は黄金色の瞳を潤ませ、緊張した面持ちで、私の手をうやうやしく持ち上げた。

「どうか、この私、ギルバート・フォレ・レモーネ・メリュジオンと――婚約してもらえないだろうか」

 ギル様のまっすぐな言葉に、私の鼓動が、うるさいぐらいに大きく跳ね始めた。


*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~

 今回から、一日一話更新となります。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

公爵家の次女ですが、静かに学園生活を送るつもりでした

佐伯かなた
恋愛
王国でも屈指の名門、公爵アルヴィス家。 その家には、誰もが称賛する完璧な令嬢がいた。 長女ソフィア。 美貌、知性、礼儀、すべてを備えた理想の公爵令嬢。 そして──もう一人。 妹、レーネ・アルヴィス。 社交界ではほとんど名前も出ない、影の薄い次女。 姉ほど目立つわけでもなく、社交の中心にいるわけでもない。 だが彼女は知っている。 貴族社会では、 誰が本当に優れているのかは、静かな場面でこそ分かるということを。 王立学園に入学したレーネは、 礼儀作法、社交、そして人間関係の中で、静かに周囲を観察していく。 やがて── 軽んじていた者たちは気づく。 「公爵家の妹」が、本当はどんな令嬢だったのかを。 これは、 静かな公爵令嬢が学園と貴族社会で評価を覆していく物語。

もうすぐ帰って来る勇者様と私の結婚式が3日後ですが、プロポーズされていないといくら言っても誰も信じてくれません

まつめ
恋愛
3日後に村をあげての盛大な結婚式がある。それはもうすぐやって来る勇者様と自分の結婚式。けれど勇者様は王都の聖女様と結婚すると決まっている。私は聖女様の代わりに癒し手として勇者様を治療してきた、だから見事魔王を打ち破って帰って来た時、村人達は私が本物の聖女だと勘違い。私がいくら否定しても誰も聞いてはくれない。王様との謁見を終えてもうすぐ勇者様が村に帰って来る。私は一度も好きだと言われてないし、ましてや結婚しようとプロポーズも受けていない。村人達はお祭り騒ぎで結婚式の準備は加速していく。どうしようと困っているのに、心の奥底で「もしかしたら……」と大好きな勇者様が自分を選んでくれる未来を淡く期待して流されてしまう私なのだった。どうしよう……でもひょっとして私と結婚してくれる?

完璧な政略結婚のはずでしたが、宰相閣下の“私の妻”扱いが甘すぎます

星乃和花
恋愛
政略結婚のはずでした。 家同士の利も、立場の釣り合いも、全部きちんと整った、完璧に合理的な結婚。 ……なのに、夫となった冷徹宰相は、なぜか人前で私を「最高の妻」と紹介し、暮らしを完璧に整え、他人に近づかれると不機嫌になってしまいます。 “天使”と噂される穏やかな令嬢フィオナもまた、 そんな不器用な優しさに少しずつ心をほどかれて――。 これは、条件で選ばれたはずの夫婦が、 いつの間にかお互いを“ただ一人”として欲しくなるまでの、甘くてやさしい政略結婚物語。 (毎日21:50更新ー全8話)

一夜の過ちで懐妊したら、幼なじみの冷酷皇帝に溺愛されました

由香
恋愛
没落貴族の娘・柳月鈴は、宮廷で医官見習いとして働いていた。 ある夜、皇帝即位の宴で酒に酔い、幼なじみだった皇帝・李景珩と再会する。 遠い存在になったはずの彼。 けれど、その夜をきっかけに月鈴の運命は大きく動き出す。 冷酷と恐れられる皇帝が、なぜか彼女だけには甘すぎて――。

追放された地味なメイドは和菓子職人の記憶に目覚める 〜王子たちの胃袋を『あんこ』で掴んだら、王宮で極甘に溺愛されています〜

あとりえむ
恋愛
「起きなさい、この穀潰し!」 冷たい紅茶を浴びせられ、無実の罪で男爵家を追放された地味なメイド、ミア。 泥濘の中で力尽きようとしたその時、彼女の脳裏に鮮やかな記憶が蘇る。 それは、炊きたての小豆の香りと、丁寧にあんこを練り上げる職人としての誇り…… 行き倒れたミアを救ったのは、冷徹と恐れられる第一王子ミハエルだった。 バターと生クリームの重いお菓子に胃を痛めていた王族たちの前に、ミアは前世の知恵を絞った未知のスイーツ『おはぎ』を差し出す。 「なんだ、この食感は……深く、そして優しい。ミア、お前は私の最高のパートナーだ」 小豆の魔法に魅了されたミハエルだけでなく、武闘派の第二王子やわがままな王女まで、気づけばミアを取り合う溺愛合戦が勃発! 一方で、有能なミアを失い、裏金のカラクリを解ける者がいなくなった男爵家は、自業自得の崩壊へと突き進んでいく。 泣いて謝っても、もう遅い。 彼らを待っていたのは、処刑よりも皮肉な「全土小豆畑の刑」だった…… これは、一粒の小豆から始まる、甘くて爽快な逆転シンデレラストーリー。 あなたの心も、あんこのように「まあるく」癒やしてみせます。

【完結】「異世界に召喚されたら聖女を名乗る女に冤罪をかけられ森に捨てられました。特殊スキルで育てたリンゴを食べて生き抜きます」

まほりろ
恋愛
※小説家になろう「異世界転生ジャンル」日間ランキング9位!2022/09/05 仕事からの帰り道、近所に住むセレブ女子大生と一緒に異世界に召喚された。 私たちを呼び出したのは中世ヨーロッパ風の世界に住むイケメン王子。 王子は美人女子大生に夢中になり彼女を本物の聖女と認定した。 冴えない見た目の私は、故郷で女子大生を脅迫していた冤罪をかけられ追放されてしまう。 本物の聖女は私だったのに……。この国が困ったことになっても助けてあげないんだから。 「Copyright(C)2022-九頭竜坂まほろん」 ※無断転載を禁止します。 ※朗読動画の無断配信も禁止します。 ※小説家になろう先行投稿。カクヨム、エブリスタにも投稿予定。 ※表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。

【完結】隣国のモフモフ騎士団長様、番ではない私でよろしいのですか?

こころ ゆい
恋愛
※最終話に、3/11加筆した分をアップしました。 ※番外編書きたい気持ちがあるのですが、一旦、恋愛小説大賞の締め切りに合わせて、完結とさせて頂きます。🌱 ※最後、急ぎ足で駆け抜けたので、説明不足や誤字脱字多くなっているかもしれません。都度見つけ次第、修正させて頂きます。申し訳ありません。💦 ジャスミン・リーフェント。二十歳。 歴史あるリーフェント公爵家の一人娘だが、 分厚い眼鏡に地味な装い、常に本を読んでいる変わり者。皆が自分のことをそう言っているのは知っていた。 モーリャント王国の王太子殿下、コーネル・モーリャントとの婚約が王命で決まってから十三年。王妃教育を終えても婚姻は進まず、宙ぶらりん状態。 そんな中、出席した舞踏会でいつも通り他の女性をエスコートする王太子殿下。 それだけならまだ良かったが、あろうことか王太子の連れた女性が事件を巻き起こす。その最中で言い渡された婚約破棄。 「....婚約破棄、お受けいたします」 そのあと、ジャスミンは一人旅に出てある人物と出会った。 これは、婚約破棄された女性が獣人国で知らぬうちに番と出会い、運命に翻弄されていく物語。

侯爵家の愛されない娘でしたが、前世の記憶を思い出したらお父様がバリ好みのイケメン過ぎて毎日が楽しくなりました

下菊みこと
ファンタジー
前世の記憶を思い出したらなにもかも上手くいったお話。 ご都合主義のSS。 お父様、キャラチェンジが激しくないですか。 小説家になろう様でも投稿しています。 突然ですが長編化します!ごめんなさい!ぜひ見てください!

処理中です...