【R18】今日から私は貴方の騎士

みちょこ

文字の大きさ
14 / 36
第三章 絶対絶命

13話

しおりを挟む

「この声は、お、とうさま……!?」

 明らかに男性のものであろう野太い叫換に、シエナは慌てて部屋を飛び出す。刹那、鼻腔に広がったのは、淀んだ血の匂いと煙の匂い。鈍いシエナでもすぐに察しがつく。何か良からぬことが起きていると。

「お父様! どこにいるのです……!?」

 シエナは声を震わせながら、階段を急いで降りていく。段々と焦げたような匂いがきつくなり、シエナは不意に噎せてしまった。肺に吸い込まれていく煙が呼吸を妨げ、熱蒸気が目に染みて涙がぼろぼろとこぼれ落ちていく。肌もじりじりと焼けつくように熱い。

 ──もしかして、火事でも起きているのだろうか。

 シエナはなるべく身を屈めて、先へと進もうとしたが、思いがけずその場に足を止めてしまった。

 床にうつ伏せで倒れる父と、背筋を伸ばしたまま佇む義母の後ろ姿がぼんやりと見える。
 まさか、とシエナは目を凝らしたが、義母の片手からは真っ赤な血が滴っている。そして、呻く父の身体から、円を描くようにして血溜まりが広がっていた。

「……っ!?」

 シエナは口元を両手で覆い、目の前の光景に絶句する。
 すぐさま父の側まで駆け寄ろうとしたが、義母が振り返った方が先だった。氷柱つららのように冷たく尖った瞳に捉えられ、シエナは石化魔法に囚われたように動けなくなる。

「……シエナ。机の片付けは終わったのですか?」

「あ……わ、わた、し……」

「夕飯の支度はまだですよ。ついでに今日は客人を招待したいので、貴女が外まで迎えに行ってくれますか?」

 ギシッ、と床の軋む音が鳴り響く。
 貴婦人達が好む派手な色ではない、烏の嘴のように先端を尖らせた不気味な革靴がこちらを向く。

 かつてない焦りと動揺でシエナが視線を泳がせる中、義母の立つ向こう側から人影のようなものが見えた。
 その影が煙を侵すように膨らんだと同時に、義母は目尻を大きく吊り上げ、シエナに向かって大声で叫んだ。

「シエナ! 早く外へ行きなさい!」

「っ、は、はい!」

 シエナは言われるがまま玄関先へと走り、熱を帯びたドアノブを回して外へ飛び出した。



しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜

来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。 望んでいたわけじゃない。 けれど、逃げられなかった。 生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。 親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。 無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。 それでも――彼だけは違った。 優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。 形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。 これは束縛? それとも、本当の愛? 穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

暴君幼なじみは逃がしてくれない~囚われ愛は深く濃く

なかな悠桃
恋愛
暴君な溺愛幼なじみに振り回される女の子のお話。 ※誤字脱字はご了承くださいm(__)m

旦那様の愛が重い

おきょう
恋愛
マリーナの旦那様は愛情表現がはげしい。 毎朝毎晩「愛してる」と耳元でささやき、隣にいれば腰を抱き寄せてくる。 他人は大切にされていて羨ましいと言うけれど、マリーナには怖いばかり。 甘いばかりの言葉も、優しい視線も、どうにも嘘くさいと思ってしまう。 本心の分からない人の心を、一体どうやって信じればいいのだろう。

もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

離宮に隠されるお妃様

agapē【アガペー】
恋愛
私の妃にならないか? 侯爵令嬢であるローゼリアには、婚約者がいた。第一王子のライモンド。ある日、呼び出しを受け向かった先には、女性を膝に乗せ、仲睦まじい様子のライモンドがいた。 「何故呼ばれたか・・・わかるな?」 「何故・・・理由は存じませんが」 「毎日勉強ばかりしているのに頭が悪いのだな」 ローゼリアはライモンドから婚約破棄を言い渡される。 『私の妃にならないか?妻としての役割は求めない。少しばかり政務を手伝ってくれると助かるが、後は離宮でゆっくり過ごしてくれればいい』 愛し愛される関係。そんな幸せは夢物語と諦め、ローゼリアは離宮に隠されるお妃様となった。

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

愛されないと吹っ切れたら騎士の旦那様が豹変しました

蜂蜜あやね
恋愛
隣国オデッセアから嫁いできたマリーは次期公爵レオンの妻となる。初夜は真っ暗闇の中で。 そしてその初夜以降レオンはマリーを1年半もの長い間抱くこともしなかった。 どんなに求めても無視され続ける日々についにマリーの糸はプツリと切れる。 離縁するならレオンの方から、私の方からは離縁は絶対にしない。負けたくない! 夫を諦めて吹っ切れた妻と妻のもう一つの姿に惹かれていく夫の遠回り恋愛(結婚)ストーリー ※本作には、性的行為やそれに準ずる描写、ならびに一部に性加害的・非合意的と受け取れる表現が含まれます。苦手な方はご注意ください。 ※ムーンライトノベルズでも投稿している同一作品です。

ヤンデレにデレてみた

果桃しろくろ
恋愛
母が、ヤンデレな義父と再婚した。 もれなく、ヤンデレな義弟がついてきた。

処理中です...