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第8話 愛している

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「手を使わない、で……?」

 言葉の意味を理解できず、声が自然と震える。アーレンは表情を一切変えずに、私の腰を厭らしい手つきで撫で回した。

「そうだ。頑張ってみろ」

「っ……」

 背後の岩場に凭れ掛かるアーレンを前に、微かな目眩を覚える。どうやら、自分からは手を出すつもりは無いらしい。

「アーレン……でもっ……」

「何だ」

 下唇を噛むようにきゅっと結び、身体をピッタリと彼の胸に這わせる。視線を上げた先の彼は、頬が染まり汗が滲んでいた。きっと私も彼と同じくらい、いや、それ以上に顔が赤くなっているのだろう。

「あの、ね……私、もうっ……」

 近過ぎる距離で互いの吐息を混じらせながら、ゆっくりと唇を開く。

「私、もう、のぼせそう……」

「……」

 そう。身体の内側から湧き出す熱と身体を包み込む湯の熱で、視界が揺らぐ程に全身が熱さに見舞われていた。ぐったりするように彼の肩に額を預け、荒い呼吸を繰り返す。
 アーレンは暫くして溜め息を吐くと、私の身体を勢い良く抱き上げた。熱い湯の中から掬い上げられ、外の冷たい空気が火照った全身を冷やしていく。その気持ちよさに目を細めたのも束の間、岩場の上に胡座をかいたアーレンの太股に座らせられた。

「リズ。無しにはしないぞ」

「う、んんっ……意地悪っ……」

 頬を僅かに膨らまして、彼の首に腕を回す。冷たい空気が身体を纏う中、彼と触れた場所だけが熱く感じる。

「アーレン……キスはしていいんだよね?」

「キスだけでイカせるのか?」

「だけじゃないけど、その方が……いいかな、って……」

 視線を落とし、腰を動かしながら彼の肉の楔を股に挟み込む。そして吸い寄せられるように目の前の彼の唇に吸い付いた。

「んんんうぅっ……っ」

 アーレンは私の腰に腕を回し、更に性器を密着させる。そして私の唇の動きを真似するように、私が彼の唇に吸い付けば彼も私の唇に吸い付き、結果、ちゅうちゅうと音を立てながら互いの唇を吸い合う形に。

「ん……うううっ……」

 唇に吸い付く音を態とらしく際立たせている最中、蜜壺から蜜がじわりと滲み出し、彼のモノを濡らし始めた。それに反応するように彼のペニスは徐々に勃起していき、私の割れ目に食い込んでいく。

「ん……っ」

 下半身に迫る熱に身を捩らせながら、彼の上唇を強く吸い、次に下唇に吸い付く。すると、アーレンも同様の手順で私の唇を吸い始めた。

「んんっ……!」

 最後に互いの唇が綺麗に合うように這わせ、長く吸い合い──ちゅぱっと音を立てながら離した。そして僅かな時間を惜しむように、再び互いの唇を強く押し付け合う。そのまま舌を彼の口内に侵入させようとしたところ、彼の唇の隙間から現れた舌とぶつかった。

「っ、ん」

 思わず舌を自分の口内に引き戻しそうになったが、巧みな動きでアーレンの舌に絡め取られていく。

「……あっ……ふぅ……」

「リズ……んっ……」

 口内を互いの唾液で濡らし合う中、無意識に揺らしていた腰のせいで、腟から溢れた蜜が彼全体を濡らし始めていた。性器同士をより密着させようと花弁を更に広げ、蜜口と彼の雄を上下に擦り合わせる。

「はっ、リズ」

「アーレン……」

 口付けを更に深くしようと身体を更に前のめりにした刹那、胸の突起物が彼のそれを下から押し上げるように弾いた。不意に触れ合ってしまったそれに、アーレンの身体が小さく痙攣したのを見逃さなかった。

「んっ……」

 アーレンから唇をそっと離し、視線を落とす。そして自分の乳房を持ち上げ、自分と彼の胸の敏感な小さな膨らみを重ね合わせた。

「リ、ズ……」

「アーレン……気持ちいい……?」

「……ああ。最高だ」

 胸の位置が外れないように彼の背中に腕をしっかりと回す。アーレンは息を乱しながら、顔が届かない私の代わりに、顔を自ら近付けて唇を再び重ねた。腰を前後に動かしながら、互いの部分が触れ合う快楽に身を焦がす。

「はぁっ……はっ……」

 唇の隙間から漏れるアーレンの呼吸がどんどん荒々しくなっていく。私の身体で、興奮している。ああ、彼の表情をもっと歪めたい。身体を快感で蝕みたい。

「んっ、んっ」

「うっ、はぁ……」

 互いの舌で口内を貪り合いながら、腰を徐々に上げ──ピタリと彼の先端に自分の蜜口に当てた。じゅくじゅくと溢れ出す蜜が、丸みを帯びた彼の亀頭を濡らしていく。

 ここを擦り合えば、彼をもっと気持ち良くさせてあげられるかもしれない……。

「リ、ズ。何を」

「待って、ね。今……」

 勃起した彼の先端に蜜口を合わせたまま更に腰を持ち上げ、両膝で立とうとしたその時だった。

「っ、あっ!」

 身体が震えていたせいなのか、岩場に当てた両膝がツルリと滑り、先端が触れていただけの彼の楔が蜜口にぐっと押し込まれた。

「んっ、やっ……!」

「うっ、リズ……」

 足を上手く支えられず腰が次第に落ちていき、ペニスが内壁を擦りながら徐々に入り込んでいく。不慮の事故により繋がってしまったそれに、悲鳴に叫び声が放たれた。

「や、や、どうしよう……!」

 抜かなければという焦りと、下腹部を疼く快感で、訳も分からず涙がボロボロと溢れ落ちる。アーレンはこれ以上無い程に息を乱しながら、私の腰に手を回した。

「リズ。最後まで、しないん、じゃなかった、のか」

「ち、違うの。あ、あんっ、んんっ」

 己の意識に反して腰が揺れてしまい、気付けば自ら彼を腟の奥へと導いていた。泣きながら身悶える私を前に、アーレンは恍惚とした表情を浮かべる。

「ああ、リズ。お前は本当に、んっ」

「はっ、あんっ、アーレン……!」

 中で律動を持って膨らみ上がるモノに、腟が蜜を溢しながら絡み付く。徐々にペニスは中へと進んでいき、奥まで達したところで身体がビクンと跳ね上がった。

「うっ……あっ……」

 視線を落とせば、自分とアーレンのピッタリと密着した接合部が目に入った。羞恥心から涙が再び溢れ、目の前の彼に縋るように首筋に顔を埋める。
 アーレンはそんな私を慰めるように背中を優しく撫で、そっと顔を上げさせた。

「最後までしたのは不本意だろうが、頑張ったなリズ」

「アーレン……」

 汗を滴しながら優しい眼差しを向けるアーレン。途端に甘えたい気持ちが一気に増し、彼の頬に顔を擦り寄せて唇の端にキスを落とした。そのまま口の側に何度も口付けていると、不意に彼の顔が此方を向き、唇同士がふにゃりと触れ合った。

「あ、んっ」

「リズ、可愛い奴だ」

 ちゅっちゅっと音を立てながら啄むような口付けを続け、彼を包む腟をきゅっと締める。

「んっ、ふぅ……」

 アーレンは暫くして口付けを止め、ゆっくりと顔を離し──息を切らす私の唇を親指で優しく擦った。

「なぁリズ。何故お前はそんなにキスを好むんだ」

「え……?」

「お前の方からしてくれることが多くなったからな」

 彼の言葉に心臓が音を立てて跳ねる。口元に添えられたアーレンの手をそっと退け、目の前の彼に口付けをした。

「ん、はぁ……」

 唇が離され、互いの熱い吐息が掛かる。至近距離で見つめ合いながら彼の頬を両手で挟み、再び触れるだけのキスをする。

「……こうしてキスするだけで、互いの体温が伝わるの。一緒のことをしているんだなって、温かくなるの」

「リズ……」

「それに人からこんなに見て貰えたのは、触れられたのは、初めてだったか、ら……」

 ──不意に頬を一筋の涙が伝った。

 何故、私は今泣いているんだろうか。理由は分からない。ただただ溢れんばかりに涙がこぼれていく。

「リズ。何故泣く」

「ご、ごめんなさい、特に意味、は」

 涙を手の甲で拭おうとしたその時、アーレンは私の背中に腕を回し、身体を抱き寄せた。抱き潰されそうな程に強い力で抱かれ、彼の身体の熱に全身が包み込まれる。

「リズ、愛い奴だ。今、この世の誰よりもお前が愛おしく想う」

「アーレン……」

「キスなど、お前が望む時にいつでもしてやる。抱き締めて欲しければいつでも抱き締めてやる」

 熱の籠ったように感じられる彼の声は、僅かばかり震えている。それに共鳴するように小さく震え出した自分の手を握り締め、彼の鎖骨に埋めていた顔を離した。

「……アーレン。キスして」

 彼の顔を見上げながら、掠れた声で呟く。アーレンは私の後頭部に手を添えると、唇にそっとキスを落とした。

「もっと、アーレン……」

 私の言葉に応えるように、アーレンは再び口付けをする。深くしてと言えば舌を絡め、吸ってと言えば舌も唇も吸って。
 胸の奥から湧き出す彼への愛おしさに唇を何度も重ねながら、自然と言葉を口遊んでいた。


「……アーレン、好き」


 私の言葉に反応するように、アーレンの動きがピタリと止まる。アーレンは藍色の瞳を大きく見開きながら私を見つめると、次の瞬間、性急に私の唇を奪った。

「ん、んんっ……!」

「ああ、リズ。この唇も、身体も、全てお前のものだ。この身体に触れていいのはお前だけだ」

「あ、んっ、アーレン……」

 下腹部に埋め込まれた彼の熱い楔が再び暴れ出す。身体を溺れさせていくような快感に包まれながら、腰を上下に揺らした。

「アーレン、好きっ、好きって言って」

「ああ、好きだ。愛しているぞ」

「もっと、もっと……」

「愛している、リズ」

 唇同士を合わせながら伝えられる愛の言葉に、身体が一層震え上がる。アーレンは何度も腹部に快感を打ち付けながら、唇を優しく這わせた。

「アーレン、私も、んっ、好き、はぁっ、愛しているわ」

「あ、あ……」

「お腹の中、貴方ので、んっ、もっと満たして」

「リズ……!」

 腰を早く振れば、その快感に悶えるように口付けが深くなり、口付けが深くなれば、身体を更に求めようと性器同士が互いの性液に塗れながら絡み合う。こうして互いの身体を絡ませ続け──刹那、アーレンの先端から噴き出した熱い精液が、腹の中で暴発を起こした。

「ん、あっ……!」

「リズ……っ」

 腹部に染み渡る彼の精に、快感で身体が痙攣する。まるで全身に雷が落とされたみたいに。

「はぁ……っ」

 暫く絶頂の余韻に酔いしれた後、唾液の糸を繋いだまま唇を離し、弱々しく彼に微笑んだ。

「はぁ……いっぱい、出たね」

「……そうだ、な」

「これからも、いっぱいキスして、いっぱい触って……」

「当たり前だ」

 アーレンは私の身体をぎゅっと強く抱き締め、私を抱えるようにしてそのまま立ち上がった。同時に彼の先端が子宮の入り口をぐにゅりと押してしまい、淫らな声が漏れる。

「湯冷めしただろう。もう一度湯に浸かろう」

「はぁ……う、ん」

 彼の身体からずり落ちないように、首に腕を回し、腰には足を絡ませる。アーレンはそんな私を抱きかかえながら、ゆっくりと湯の中に足を踏み入れた。

「っ、あ……」

 身体が湯に徐々に浸かっていき、内側だけでなく外側からも熱が増していく。顔を上げると、目を細めながら私を見つめるアーレンの顔が目に入り、そのまま吸い寄せられるように唇同士を押し付け合った。

「リズ。夕陽で、景色が……綺麗だ、ぞ」

「ほんと、う……? んん……っ」

 アーレンの言葉に薄目を開けるも、唇を重ねているせいで視界には彼しか映らない。

「アーレンしか、見えない……よ……んっ」

「……そう、か」

 唇を離すどころか、アーレンは舌を絡まして一層口付けを深くする。それに応えるように彼の舌に吸い付きながら、首に腕を回して身体を密着させた。

「ああ……リズ。愛しているぞ、心も身体も、だ。何度でも言う」

「ふぅ……んっ、わたし、も」

 口の中で交わされる言葉に、繋がった陰部が再び熱を持ち出す。湯の中で互いの腰が揺れ始めるまで、時間は掛からなかった。


 夕暮れを迎えた空の下で二人──熱い液体に包まれながら、欲望の赴くがままに愛し合うことに。


 結局、森を抜けて彼の国の王都に向かったのは、その日の夜になった。


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