【R18】黒豹と花嫁

みちょこ

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8話※

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「ふふ、くすぐったい」

 くすくすと小さな声で笑うハルに、耳の毛繕いをふと止める。
 本来であれば一人で眠るためのベッド。加えて俺が十数年使ってきた中古ものだ。ハルと俺が少し動くだけで気の軋む音が部屋に響き渡る。

 今までは俺が寝ている間にハルがベッドに忍び入ることは数え切れないほどあったが、二人揃ってはい寝るぞというのは初めてだった。
 側から離れないようにしろと俺が言ったもんだから、一緒に寝てもいいんだよねとハルがすがってきたのが原因だ。まぁ、ハルを一人にしておくのは心許ないし、糞犬ローベルトから身を守るためには仕方がない。

 そう、仕方がないからこうしているんだ。

「んだよ。嫌ならやめるぞ」

「いや、やめないで」

 俺の背中に腕を回し、ふるふると首を横に振るハル。面倒だと息を吐き出してみたものの、ハルは上目遣いでねだるように俺を見つめたままだ。寝た振りをしても顔を近付けて喉の奥を鳴らしてくるもんだから、ちょっとした悪戯で蟀谷こめかみ辺りを舐めてやった。

「ひゃっ、だめっ」

「いつもお前が俺にやってることだろうが」

 そのままカプッと頬を甘噛みすると、ハルはまた妙な声を漏らした。嫌なら離れればいいのに、俺に抱きついたまま抵抗するハルはやはりおかしい。
 まぁ、逃げても逃がすつもりはないけどな。

「すっ、すざく。わざとそんな触り方してる?」

「何のことだよ」

 今度は耳の生え際をくすぐるように舐め、牙の先を擦るように滑らせる。
 頬を赤くしていくハルをもっと虐めてやろうと、流れるように首筋に近づこうとしたが、別の柔らかな感触が唇に押し当てられた。

「……ふ、ふふっ」

 目の前にある瞼を閉じたハルの顔。わずかに尖ったハルの鼻先は俺の鼻の先端で潰れ、小さな口は俺の下唇に宛てがわれている。一体、何が可笑しいのか、くすくすと笑いながら唇を押しつけるハル。どうやらこれで止めているつもりらしい。

 透かさずハルの腰を片腕で抱き、小さな身体に覆い被さった。

「んっ」

 ハルの声に艶やかさが滲む。

 唇を強く押し当てると、ハルの吐息が漏れた。かすかに開いた唇を舌でなぞると、伏せられた睫毛が震えた。ハルの唇は酷く甘く、柔らかい。ずっとずっと、触れていたいと思うほどに。

「す、ざく」

 触れ合わせた唇の隙間から溢れる声。
 うっすらと上気した頬、涙で滲んだ瞳。
 いつも笑って明るく振る舞うハルからは想像もつかない姿。

 名残惜しむように下唇を優しく噛んで顔を話すと、ハルがぽつりと呟いた。

「すざく、わたし、はじめて……」

「っ!」

 ガンッ、と頭を鈍器で殴られたような衝撃を覚えた。

 分かってはいたのか。知識がまったくないわけではなかったのか。

 もちろん、ハルが初めてだということは理解している。になったら、ハルが行為自体を知らなくて戸惑っても、自分が上手く誘導すればいいと思っていた。

 衝撃と熱で頭が眩み、思わず歯を食い縛る。

「……大丈夫だ。お前は何も考えるな」

 どこでそんな知識を得たんだとか、どこまで把握しているんだとか、邪な想像を振り払い、ハルにまた口づけようとした──が、今度は手を握られて遮られた。

「スザクは初めて?」

「は?」

「初めて?」

「そっ」

 そんなわけねーだろ!

 と、返しそうになった言葉を呑み込み、ハルの口を半ば無理やり塞いだ。「質問に答えて」と訴えようとした唇の隙間から自らの舌を捩じ込み、逃げ惑う舌を絡める。

 二年前にハルと出会ってからは一度も女は抱いていない。別に処理なんて自分ですれば問題はなかったし、他の女の匂いを嗅がれてハルに妙な顔をされるのも面倒だった。

 それに惚れた女を抱くのは初めてだよ。
 死んでも言わねえけどな。

「スザク……」

 最初こそ躊躇っていたものの、固まっていたハルの舌がゆっくりと動き出した。ちょん、と舌先に控えめに触れてきたハルの舌を根本から這うように舐め、念入りに愛撫してやる。
 ひだに沿って、粘膜から唾液を染み込ませるように、これが俺の身体の一部から滲み出たものだと分からせるように。

 一つに繋がった唇の隙間から、舌と舌が唾液をかき乱す淫靡な音が漏れていく。慣れない口づけに息が上がっていくハルを煽ろうと、思い切り舌をじゅるりと吸い上げた。

「んっ、んんっ」

 薄目で覗いたハルの顔が熟れた果実のように染まり、腰がぶるりと痙攣する。ぷはっ、と肺に溜め込んでいたのであろう甘い息がハルの口から漏れ、透明な糸を繋いで唇が離れた。
 なぜかハルは恥ずかしげに顔を逸らし、下半身を庇うように膝を折り曲げる。疑問に思いながらも両脚を開こうとしたが、「だめっ!」と下唇を噛まれた。仕返しにその状態のままハルの上唇を甘噛みし返す。

「なんだよ。止めんな」

「ひゃ、だ、だみぇ、なんか、ぬれちゃってるかひゃ、さわひゃないでっ」

「気にしねぇよ。ばーか」

 呂律の回っていないハルに若干の愛おしさを抱きつつ、唇を離して耳を口内に咥え込む。舌を絡め合っていたときと同じように唾液で濡らし、丹念に愛でた。毛が湿った耳は別の生き物のようにぷるぷると震えている。一瞬、怖がっているのではないかとも思ったが、左右に揺れている尻尾を見て安堵した。

 どうやら本気で嫌がっているわけではないらしい。

「んっ」

 もう片方の耳も同様に舐め尽くし、唇を首筋へと滑らす。白い肌に吸い付いては、唇を離し。ハルが俺の名を何度も口にするのを聞きながら、さりげなくハルの太腿の間に手を滑らすと、指先がじわりと濡れた感触に覆われた。

 ハルが抵抗を見せた原因は愛液これか。
 漏らしたところで嫌がるかよ。さわれんのはハル限定だがな。

「あっ、ああっ、スザク、あっ」

 首に腕を回したまま可愛い声を漏らすハルの首に蝶形の証を残し、下着の中へ手を滑らせる。体液の滲んだ秘部に指を当てると、粘液がとろりと垂れて伝った。
 口吸いだけでこうなるもんなのか。
 ハルは尻尾や表情に感情を出すだけでなく身体の内側まで正直だ。

「スザク……スザ、ク……スザ……ク……」

 ハルは何度も何度も甘ったるい声で俺の名を呼ぶ。小さい子供ガキにするように俺の頭を撫でる。これまで生きてきて誰に対しても抱くことのなかった感情が込み上げ、堪らずハルにもう一度口づけようとしたそのとき。

 熱を孕んだハルの瞳から光と色が失われた。



「ローベルトさ、ま」


 
 
 
 
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