解き放たれた癒し手

今戸日予

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06-ボタリクは懸念する

前編

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 緑の一月ひとつきの九日、朝食後にボタリクはフィロを連れてまたシワカ家へ赴いた。
 昨日の治療費の代わりに、宿泊客の中にフィロの両親がいないかを確認してもらっていて、その結果を教えてもらう。偽名を使う事は考えられない為、宿泊していればすぐに分かる筈だと思っていたが、宿泊はしていなかった。
 空振りに終わり、残念そうにしていたのはボタリクだけだった。フィロはと言うと平然としていた。その様子に何も思わなかったボタリクは、タッシマと一緒にもう一軒の宿屋へ向かった。
 その間、フィロはガティアの様子を見ていた。まだ寝台から起き上がってはいないが顔色は断然良くなっている。
「顔色はいいわね。それにしても、何故あのような薬を飲んでいたのかしら?」
 細いフィロを横目で見て溜息を吐いたガティアは目を逸らした。
「痩せたかったんですよ……」
「でも、それで病気になっていてはいけないわね」
「先生はあの薬を飲んで、どうもなっていないんですか?」
 フィロは微笑んだ。
「私は元気よ。飲み続けたらどうなるかは分からないけどね。それよりも、あの薬を売っていた人の名前を訊いてもいいかしら?」
 小さく「はい」と頷く。
「ナイッカ・チアカタという男の人で、髪は明るめの黄色で長くて後ろで三つ編みをしてて、目は赤でしたが変色させているかも知れませんね」
 そう言ってフィロを見た。
「そうなの……。それでは名前も偽名かも知れないわね」
「そうですね」
「痩せ薬以外に何を売っていたか、それは覚えているかしら?」
「私にはそれだけをすすめて来たので……。毎年やって来てうちに泊まるんですけど、痩せ薬は毎年一年分を買いました。今年で三年目だったんですけど、最初の内は痩せていたんです。それも徐々に効果がなくなって来て、気付けば寝込むようになって……」
「そう、分かったわ。ありがとう。ナイッカ・チアカタという人ね。覚えておくわね」
 ガティアは頷くと顔を逸らして目を閉じた。フィロはそれを見て、閉められている窓掛けを見詰めた。

 ボタリクがフィロを迎えに来て帰った後、ガティアは一階の居間へ下りて来た。タッシマは驚いて駆け寄った。
「リタ先生がまだ寝ているように言っていたのに、起きて来て大丈夫なのか?」
 心配そうに両腕に手を当てた。
「大丈夫よ。寝込む前より健康になってる感じなのよ。本物の癒し手だとここまで出来るなんて、本当に凄いわね」
「そんなに調子がいいのか? 無理はするなよ? さあ、椅子に座って」
 椅子へ誘導しようとしたが、ガティアがタッシマの手に手を当てた。
「本当に大丈夫なのよ。それよりも、私が買っていた薬が毒だったなんて驚きだわ」
「それはトヴィデさんと一緒に衛兵の所へ行ったよ。うち以外からも被害が出ている所か、近隣の村からも被害が出ていて、もう国外へ逃げられているかも知れないと言っていたよ」
「そう……」
 落胆をすると椅子に座った。タッシマは漸く笑顔になった。
「でもリタ先生は本当に凄いわ。白の二月ふたつきに来た自称癒し手とは大違いよ」
「衛兵はその癒し手もチアカタの一味かも知れないと言っていたよ」
「……そう、そうなのね。リタ先生が偶然でもここにいらしてくださって、本当に助かったわ……」
 そう声を震わせて言うと涙が頬を伝った。タッシマはガティアの横へ行き、肩を抱いた。ガティアは頭をタッシマに預けると手で涙を拭った。
「それにしても、リタ先生はどこかから逃げているのかしら? 多分だけど、瞳と髪を変色させているわ」
 タッシマは苦笑しながらガティアの肩から頭へ手を移した。
「トヴィデさんは地の色みたいだから、それと合わせているんじゃないか? とても仲良しだからね」
 優しく撫でながら言うと、ガティアは怪訝そうな表情になる。
「兄妹でそういう事をするかしら……?」
「そういう勘繰りはよしなさい」
「ごめんなさい。……そうね、恩人だものね。この先も旅を続けると言っていたから、無事を祈りましょう」
 すっかり泣き止んだガティアが笑顔になり、タッシマを見上げた。
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