精霊の港 外伝「兵長の憂うつ」

風見鶏ーKazamidoriー

文字の大きさ
8 / 17
兵長の憂鬱

その手に残ったもの

しおりを挟む


――――なぜ俺だったのだろう。本当に必要なのだろうか?

 おおきな太陽を必死で追いかけ走ってきた。それだけで充実して幸せだった俺はどこで変わってしまったのだろう。太陽は照らしてくれるけど、強すぎる光は影をくする。ラルフが俺を選んだ時からずっと繰り返してきた問い。

 敗走した俺とは違い、戦火の最中さなかに姿を消したミナトは他国の援軍えんぐんを連れてもどった。行方不明ゆくえふめいだったラルフを見つけ、戦争を終わらせるきっかけを作った。いまは文官として彼を支え、先々へ同行している。



 役にも立たなかった俺は補佐ほさとしてそばにいる必要さえなくなった。打ちのめされ感傷かんしょうにひたる――――予定だったが、とにかく負傷者ふしょうしゃのテントは兵士だらけで部下たちがなだれ込んでくる。

港町と北城塞都市の兵、副帝のひきいる大隊が入りみだれ沿岸部えんがんぶ混沌こんとんとしてる。かまからくすねた生焼なまやけパンに負傷者テントで禁止の酒をもった部下が見舞いにきて、俺が頭を抱えたのは言うまでもない。

 わるがわる顔をのぞかせる部下の中でも特にシヴィルはよく訪れる。敵将と剣をまじえたにもかかわらず、たいして負傷してない彼は医療班の手伝いをしていた。

「ツァルニ~、体をキレイにする時間だよ! 」

「ありがとう。そこへ置いてくれたら後は自分でやる」

 俺を拭けなくてトーンダウンした彼はこっちを凝視ぎょうししてる。

 ヴァトレーネから送られてきた書簡を置き、上衣を脱いでタオルを受けとった。肩を動かせば痛むけどすじ癒着ゆちゃくしないようにストレッチしながら体をく、おわるまで視線が離れないので手早くすませた。

 戦いのさなかも、こうしてくすぶってる瞬間もそばにいる。俺を敵将から庇い、敗走のとき連れて逃げたのはシヴィルだった。しだいに心も打ち無邪気むじゃきにふるまう彼のもうひとつの性格も見えてきた。互いにさらけだして結ばれる関係など考えたこともなかった。いままで俺自身が壁をつくっていたのだと気づかされる。



 大量の洗濯物をかかえ出ていくシヴィルの背中を見送ると、入れわりにイリアスが顔をみせた。

 ヴァトレーネはブルド隊長が主導しゅどうして橋の再建をおこなっている。彼にまかせきりで不甲斐ふがいないとなげいたら、イリアスは片頬かたほおを上げて笑った。

「肩の力ぬけよ、マルクス隊長もいるから向こうは大丈夫さ。橋がかったら俺もあっちへ戻るぜ」

「イリアス、そのことだが……」

 石の橋が完成すれば、町の北側の修復と北城塞都市きたじょうさいとしへの輸送ゆそうが本格的にはじまる。療養りょうようしながら港町で復興ふっこうの手助けはできる。しかし俺は皆との帰還を決意していた。文書のやりとりだけなら負傷した体でも支障はない、力仕事は部下たちへまかせる。ラルフの補佐に関しては港町でしてることをミナトへ引き継ぐつもりだった。

「おまっケガも治ってないだろ!? ミナトって……東の国から来たっていう? 」

 盛大にため息をついたイリアスはミナトの名をきき眉をひそめた。適当そうなフリをしてるが慎重しんちょううたぐりぶかい性格なのだろう、ラルフがそばに置いても異国から来た人物をいぶかしんでいる。

「ミナトは信頼できる。港町にいるあいだはヒギエアがいて護衛も不要だ」

「……はぁ、まぁ兵長が信用するってんなら俺も信用しますよ。そうそう護衛といえば、帝国のスキッピオって奴が因縁いんねんつけてきたの知ってるか? 」

 スキッピオはラルフが赴任ふにんするまえに連れていた帝国兵士、ヴァトレーネ軍が敗退して兵長の俺を追い落とす気だったようだ。個人的なうらみではなくラルフの家が関係している。フラヴィオス家の兄弟関係は複雑、いくさに加勢した副帝は兄のアレクサンドロスだ。ヴァトレーネを守りきれなかったラルフがどのような立場に身をおいたのか想像にかたくない。

「それがねぇ、兄さんってのが弟に嫌われないように回りくどいやり方でね。バルディリウスのおっさんとディオクレス様まで出てきて愉快ゆかいなことになってたぜ」

 あくまで内密な話だとイリアスは悪い笑みをうかべた。

 フラヴィオスの兄弟に口出しできるのはディオクレスしかいない、ミナトも巻き込まれたが上手くやっているみたいだ。重要な情報をどこで仕入れてくるのか、スキッピオの経歴から事の顛末てんまつを語る。最後には俺の父も出てきてディオクレス邸の広場で1対1の戦いをおこない、スキッピオを叩きのめし相手方を黙らせたという。



 俺の知らないところで熾烈しれつな戦いがくり広げられていて頭痛がした。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

触れるな危険

紀村 紀壱
BL
傭兵を引退しギルドの受付をするギィドには最近、頭を悩ます来訪者がいた。 毛皮屋という通り名の、腕の立つ若い傭兵シャルトー、彼はその通り名の通り、毛皮好きで。そして何をとち狂ったのか。 「ねえ、頭(髪)触らせてヨ」「断る。帰れ」「や~、あんたの髪、なんでこんなに短いのにチクチクしないで柔らかいの」「だから触るなってんだろうが……!」 俺様青年攻め×厳つ目なおっさん受けで、罵り愛でどつき愛なお話。 バイオレンスはありません。ゆるゆるまったり設定です。 15話にて本編(なれそめ)が完結。 その後の話やら番外編やらをたまにのんびり公開中。

幸運の人 ヴァレルディン・ハロットは如何にして狂ったのか

BL
北に暫く送ります。拘留された部屋に夜中にやってきた王女殿下は、目を片手で覆い隠しながらそう言った。ともに来ていた友人は後ろ手に手を組み、はあとため息を吐いた。ヴァレルディンは己の運の悪さを振り返った。 短編「幸運の人」ヴァレルディン視点です。 ヴァレルディン×カラカテです。どちらもだんだん様子がおかしくなっていきます。ハッピーエンドです。 ムーンライトノベルズからの転載です。

いい加減観念して結婚してください

彩根梨愛
BL
平凡なオメガが成り行きで決まった婚約解消予定のアルファに結婚を迫られる話 元々ショートショートでしたが、続編を書きましたので短編になりました。 2025/05/05時点でBL18位ありがとうございます。 作者自身驚いていますが、お楽しみ頂き光栄です。

伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい

マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。 最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡) 世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。

幸せな復讐

志生帆 海
BL
お前の結婚式前夜……僕たちは最後の儀式のように身体を重ねた。 明日から別々の人生を歩むことを受け入れたのは、僕の方だった。 だから最後に一生忘れない程、激しく深く抱き合ったことを後悔していない。 でも僕はこれからどうやって生きて行けばいい。 君に捨てられた僕の恋の行方は…… それぞれの新生活を意識して書きました。 よろしくお願いします。 fujossyさんの新生活コンテスト応募作品の転載です。

【完結・BL】胃袋と掴まれただけでなく、心も身体も掴まれそうなんだが!?【弁当屋×サラリーマン】

彩華
BL
 俺の名前は水野圭。年は25。 自慢じゃないが、年齢=彼女いない歴。まだ魔法使いになるまでには、余裕がある年。人並の人生を歩んでいるが、これといった楽しみが無い。ただ食べることは好きなので、せめて夕食くらいは……と美味しい弁当を買ったりしているつもりだが!(結局弁当なのかというのは、お愛嬌ということで) だがそんなある日。いつものスーパーで弁当を買えなかった俺はワンチャンいつもと違う店に寄ってみたが……────。 凄い! 美味そうな弁当が並んでいる!  凄い! 店員もイケメン! と、実は穴場? な店を見つけたわけで。 (今度からこの店で弁当を買おう) 浮かれていた俺は、夕飯は美味い弁当を食べれてハッピ~! な日々。店員さんにも顔を覚えられ、名前を聞かれ……? 「胃袋掴みたいなぁ」 その一言が、どんな意味があったなんて、俺は知る由もなかった。 ****** そんな感じの健全なBLを緩く、短く出来ればいいなと思っています お気軽にコメント頂けると嬉しいです ■表紙お借りしました

【8話完結】魔王討伐より、不機嫌なキミを宥める方が難易度「SSS」なんだが。

キノア9g
BL
世界を救った英雄の帰還先は、不機嫌な伴侶の待つ「絶対零度」の我が家でした。 あらすじ 「……帰りたい。今すぐ、愛する彼のもとへ!」 魔王軍の幹部を討伐し、王都の凱旋パレードで主役を務める聖騎士カイル。 民衆が英雄に熱狂する中、当の本人は生きた心地がしていなかった。 なぜなら、遠征の延長を愛する伴侶・エルヴィンに「事後報告」で済ませてしまったから……。 意を決して帰宅したカイルを迎えたのは、神々しいほどに美しいエルヴィンの、氷のように冷たい微笑。 機嫌を取ろうと必死に奔走するカイルだったが、良かれと思った行動はすべて裏目に出てしまい、家庭内での評価は下がる一方。 「人類最強の男に、家の中まで支配させてあげるもんですか」 毒舌、几帳面、そして誰よりも不器用な愛情。 最強の聖騎士といえど、愛する人の心の機微という名の迷宮には、聖剣一本では太刀打ちできない。 これは、魔王討伐より遥かに困難な「伴侶の機嫌取り」という最高難易度クエストに挑む、一途な騎士の愛と受難の記録。 全8話。

君に望むは僕の弔辞

爺誤
BL
僕は生まれつき身体が弱かった。父の期待に応えられなかった僕は屋敷のなかで打ち捨てられて、早く死んでしまいたいばかりだった。姉の成人で賑わう屋敷のなか、鍵のかけられた部屋で悲しみに押しつぶされかけた僕は、迷い込んだ客人に外に出してもらった。そこで自分の可能性を知り、希望を抱いた……。 全9話 匂わせBL(エ◻︎なし)。死ネタ注意 表紙はあいえだ様!! 小説家になろうにも投稿

処理中です...