精霊の港 飛ばされたリーマン、体格のいい男たちに囲まれる

風見鶏ーKazamidoriー

文字の大きさ
4 / 68
黄金の瞳をもつ狼

太陽をまとう男

しおりを挟む


 朝っぱらだというのに猛々たけだけしい男たちの声が窓辺から聞こえる。しょぼしょぼする目をムリヤリひらけば見知らぬ部屋だった。昨晩のできごとは夢ではないと、うなだれたみなとは寝ぐせのついた頭をく。

 木の板を組み立てて布をかぶせただけのベッド、なぐられたあとよりも背中や腰が痛くて身体をのばし壁にもたれた。木の窓を開けると、近接する広場で半裸はんらの男たちが訓練している。

「腹へった、風呂はいりてぇ……」

 頬杖ほおづえをついてながめていたら腹がグゥ~と鳴った。電気のない石造りの町にコンビニがあるわけもない、昨日からなにも食べていないため腹が鳴るのも必至ひっしだ。



「お兄ちゃん起きたの? お日さま、すっかり昇っちゃったよ」

 入り口へ掛けられた布の隙間すきまから緑がかった青い瞳がのぞき、おりの中にいた少年が現れた。三十路みそじもとっくに過ぎて、小さな子供からお兄ちゃんと呼ばれるのは少々心苦しい。

「おはよう、ええっと……」
「エリークだよ! おはよう! 」
「おはようエリーク、俺はミナトだ」

 はにかんだエリークが手を伸ばして握手あくしゅを交わす。少年の話によれば、行くあてのない者はしばらくここへ滞在していいらしい。この建物は兵舎に隣接する住居で兵士たちが住んでいる。

 話してるうち湊の腹がまた鳴った。

「食事できる所あるかな? 」
「朝ごはんは終わっちゃったけど、食堂行ったらなにかあるかも! 」

 少年に手を引っぱられて石の廊下ろうかを歩く。柱の上部はアーチ状になっていて天井は高く、床はちいさく切ったタイルで模様もようが描かれてる。はじめて目にする造形にせわしなく視線を動かしていたら食堂へ到着した。



 木製の長机ながづくえとイスがたくさん並ぶ大きな食堂だ。少年が奥へ走って行くと厨房ちゅうぼうからずんぐりした親父が出てきた。

「なんだぁ坊主ぼうず、腹減ったのか? 」
「ボクじゃなくてこの人! 」

 親父は湊を上から下までながめた。

「きのう御方おんかたが連れてきたヤツか。しょうがねえなぁ、昼用のパンと豆スープならあるぞ」

 中途半端ちゅうとはんぱな時間の食堂に人けはない、重たいパンとスープの入った器を渡された。塩で味付けされたシンプルなスープだ。クセのある赤黒いソーセージと緑色の豆で腹は満たされ、ナンに似た大きなパンも密度が高く胃にたまる。

 ずっと見ているエリークへ声をかけると、笑顔でパンを受け取ってかぶりついた。

「坊主。人の食わねぇでも、パンならまだあるぞぉ」
「すいませんっ。俺1人じゃ食べきれないと思って……」

 さっきの親父が厨房から出てきて前の席へ腰を下ろし、もの珍しそうに湊を眺めた。

「食べきれないって、お貴族様きぞくさまかよ。まーここの兵士は大食おおぐらいだし量は多いかもなぁ。それよりアンタ、南や東から来た奴にしちゃあなまっ白い。髪も目も漆黒しっこくだし見たことねぇツラだなぁ、どこ出身だ? 」

「はは……それが自分でも何処どこから来たかよく分かんないんすよ」

 昨日の兵士とのやり取りを思い出し湊は困ったように微笑ほほえんだ。冗談だと受け取ったのか、腕毛も眉毛もい親父は大笑いして厨房へもどった。
親父に礼を言って食堂から出ると、廊下で争う声がひびいた。少年が興味津々きょうみしんしんで向かいそれにつづく、兵舎の入り口で女性が門衛もんえいの兵士と言い争っていた。



「ちょっと会わせられないってどういう事! 私はカペラの娘よ、一介いっかいの兵士が私の言いつけを聞かないなんて後悔するわよ! 」

 髪をきれいにい、白いドレスに鮮やかな刺繍ししゅうの上衣を羽織はおった女性だった。やんごとなき身分の女性が衛兵に言いがかりをつけているように見える。

「あっ、きのうのお姉ちゃん! 」

「なぁに? ……いっしょのおりにいた小汚い子供ね。キレイな服が汚れるから寄らないでちょうだい、昨日のことなんて思い出したくもない! 」

 エリークが人懐ひとなつっこそうに近づいたけど、手で追いはらわれる仕草をされた。檻で泣いていたドレスの女性だが、今日は性格が引っくり返ったのではないかと思うほどうるさく声を立てる。湊はうつむいてしまった少年の頭をやさしく撫でた。



「騒がしいな? 」

 野太い声が聞こえて体格のいい兵士が入ってきた。先頭には黄金おうごんの瞳をもつ男が立ち、太陽が顔を出すように周りの雰囲気がガラリと変わる。はじめて会った時の甲冑ではなくて、チュニックに腰の防具と兜だけという軽装だった。

「ラルフ様! わたくし貴方あなたのことを――――」

「おっと、ここは高貴こうきな方が来る場所ではありません。シヴィル、館まで送って差しあげろ」

 返事をした部下がドレスの女性を連れて行く。なにかわめいていたけれど、有無を言わさず馬車へ乗せられた。



「ラルフ様も罪つくりな男ですね」

きた城塞都市じょうさいとしの貴族の娘だから夕食へ招待しただけだ。あんな娘に興味はない」

 部下の兵士に揶揄やゆされ、兜を脱いだ男は頭をかいた。ヘーゼルナッツ色のゆるやかな長髪が陽光に透ける。博物館にある彫像ちょうぞうのごとき男を湊はポカンとした表情で見上げる。

 美しい男は湊に気づき、ずいっと身をかがめた。

「顔のれは引いたようだな。見ろツァルニ、黒曜石こくようせきの目だ。おまえの『黒き狼』の異名いみょうと同じ色だぞ」

 鼻が触れるほど間近で見つめられて湊は固まる。光を透過とうかして琥珀色こはくいろにきらめく瞳が笑い、大きい手のひらで撫でられた。同じようにエリークも頭を撫でられ、振りまわされて揺れる。

「あの……昨日はありがとうございました」

 緊張がとけてやっと声のでた湊は礼をべた。港町から川沿いの山脈まで男が管轄かんかつしている地域なのだと教えられた。昨日は新しく建てた水門を見学した帰りでぞくを発見したのは偶然ぐうぜん、山間部は賊も多く奴隷どれいにするため拉致らちされることもあるそうだ。

 男はふところから筒状つつじょうの書類を取り出し、うしろの部下へ渡した。

「住むにしろ他所よそへ行くにしろ、出身地がないと不便だろう? どこから来たか分からんから、ヴァトレーネにしておいた」

「ラルフ様、そんな簡単に……良いのですか?」

 湊も思ったことを部下の兵士が代弁する。

「かまわん。どうせ帝国の者は、このあたりと東方人の顔も判別できないだろう。この町の自治はお前に任せていたな? 私は兵士の訓練を見にいく、後はよろしくツァルニ」

 太陽のように笑った男は、肩の上で手をヒラヒラさせながら歩き去った。ツァルニと呼ばれた兵士はため息をつき、共に来るよう湊へ申し付けた。

「では書類の手続きをしよう。エリークは一緒に行けないから、ヒギエアの所へ行ってろ。勝手に遠くへ行って迷子になるなよ」

 厳しい顔つきだが優しい兵士の言葉にうなずいた少年は、ハグをしてから長い回廊かいろうを走っていく。湊も兵士のあとにつづき回廊の奥へ入った。


しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

捨てられた生贄オメガ、魔王城で極上の『巣作り』始めます!~不眠症の魔王様、私のクッションで爆睡して溺愛モードに突入~

水凪しおん
BL
「役立たずのオメガ」として冷遇され、血も涙もない魔王への生贄として捨てられたリノ。 死を覚悟して連れてこられた魔王城は、寒くて硬くて、居住性最悪のブラック環境だった!? 「こんなところで寝られるか!」 極限状態で発動したオメガ特有の『巣作り本能』と、神業レベルの裁縫スキルが火を噴く! ゴミ同然の布切れをフカフカのクッションに、冷たい石床を極上のラグマットにリフォーム。 すると、不眠症で常にイライラしていた魔王ザルドリスが、リノの作った「巣」のあまりの快適さに陥落してしまい……? 「……貴様、私を堕落させる気か」 (※いいえ、ただ快適に寝たいだけです) 殺されるどころか、魔王様に気に入られ、気付けば城中がリノの虜に。 捨てられた生贄オメガが、裁縫一つで魔王城を「世界一のマイホーム」に変える、ほのぼの逆転溺愛ファンタジー!

異世界で聖男と呼ばれる僕、助けた小さな君は宰相になっていた

k-ing /きんぐ★商業5作品
BL
 病院に勤めている橘湊は夜勤明けに家へ帰ると、傷ついた少年が玄関で倒れていた。  言葉も話せず、身寄りもわからない少年を一時的に保護することにした。  小さく甘えん坊な少年との穏やかな日々は、湊にとってかけがえのない時間となる。  しかし、ある日突然、少年は「ありがとう」とだけ告げて異世界へ帰ってしまう。  湊の生活は以前のような日に戻った。  一カ月後に少年は再び湊の前に現れた。  ただ、明らかに成長スピードが早い。  どうやら違う世界から来ているようで、時間軸が異なっているらしい。  弟のように可愛がっていたのに、急に成長する少年に戸惑う湊。  お互いに少しずつ気持ちに気づいた途端、少年は遊びに来なくなってしまう。  あの時、気持ちだけでも伝えれば良かった。  後悔した湊は彼が口ずさむ不思議な呪文を口にする。  気づけば少年の住む異世界に来ていた。  二つの世界を越えた、純情な淡い両片思いの恋物語。  序盤は幼い宰相との現実世界での物語、その後異世界への物語と話は続いていきます。

異世界転移した元コンビニ店長は、獣人騎士様に嫁入りする夢は……見ない!

めがねあざらし
BL
過労死→異世界転移→体液ヒーラー⁈ 社畜すぎて魂が擦り減っていたコンビニ店長・蓮は、女神の凡ミスで異世界送りに。 もらった能力は“全言語理解”と“回復力”! ……ただし、回復スキルの発動条件は「体液経由」です⁈ キスで癒す? 舐めて治す? そんなの変態じゃん! 出会ったのは、狼耳の超絶無骨な騎士・ロナルドと、豹耳騎士・ルース。 最初は“保護対象”だったのに、気づけば戦場の最前線⁈ 攻めも受けも騒がしい異世界で、蓮の安眠と尊厳は守れるのか⁉ -------------------- ※現在同時掲載中の「捨てられΩ、癒しの異能で獣人将軍に囲われてます!?」の元ネタです。出しちゃった!

【本編完結】最強魔導騎士は、騎士団長に頭を撫でて欲しい【番外編あり】

ゆらり
BL
 帝国の侵略から国境を守る、レゲムアーク皇国第一魔導騎士団の駐屯地に派遣された、新人の魔導騎士ネウクレア。  着任当日に勃発した砲撃防衛戦で、彼は敵の砲撃部隊を単独で壊滅に追いやった。  凄まじい能力を持つ彼を部下として迎え入れた騎士団長セディウスは、研究機関育ちであるネウクレアの独特な言動に戸惑いながらも、全身鎧の下に隠された……どこか歪ではあるが、純粋無垢であどけない姿に触れたことで、彼に対して強い庇護欲を抱いてしまう。  撫でて、抱きしめて、甘やかしたい。  帝国との全面戦争が迫るなか、ネウクレアへの深い想いと、皇国の守護者たる騎士としての責務の間で、セディウスは葛藤する。  独身なのに父性強めな騎士団長×不憫な生い立ちで情緒薄めな甘えたがり魔導騎士+仲が良すぎる副官コンビ。  甘いだけじゃない、骨太文体でお送りする軍記物BL小説です。番外は日常エピソード中心。ややダーク・ファンタジー寄り。  ※ぼかしなし、本当の意味で全年齢向け。 ★お気に入りやいいね、エールをありがとうございます! お気に召しましたらぜひポチリとお願いします。凄く励みになります!

【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】

古森きり
BL
【書籍化決定しました!】 詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります! たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました! アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。 政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。 男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。 自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。 行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。 冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。 カクヨムに書き溜め。 小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。

しがない電気屋のおっさん、異世界で家電召喚ライフしてたら民から神格化され魔王から狙われる

長月 鳥
ファンタジー
町の電気屋として細々と暮らしていた俺、轟電次郎(とどろき でんじろう)。 ある日、感電事故であっけなく人生終了──のはずが、目を覚ましたら異世界だった。 そこは魔法がすべての世界。 スマホも、ドライヤーも、炊飯器も、どこにもない。 でもなぜか俺だけは、“電力を生み出し家電を召喚できる”という特異体質を持っていて── 「ちょっと暮らしやすくなればそれでいい」 そんなつもりで始めた異世界ライフだったのに…… 家電の便利さがバレて、王族に囲まれ、魔導士に拉致され、気が付けば── 「この男こそ、我らの神(インフラ)である!」 えぇ……なんでそうなるの!? 電気と生活の知恵で異世界を変える、 元・電気屋おっさんのドタバタ英雄(?)譚!

【土壌改良】スキルで追放された俺、辺境で奇跡の野菜を作ってたら、聖剣の呪いに苦しむ伝説の英雄がやってきて胃袋と心を掴んでしまった

水凪しおん
BL
戦闘にも魔法にも役立たない【土壌改良】スキルを授かった伯爵家三男のフィンは、実家から追放され、痩せ果てた辺境の地へと送られる。しかし、彼は全くめげていなかった。「美味しい野菜が育てばそれでいいや」と、のんびり畑を耕し始める。 そんな彼の作る野菜は、文献にしか存在しない幻の品種だったり、食べた者の体調を回復させたりと、とんでもない奇跡の作物だった。 ある嵐の夜、フィンは一人の男と出会う。彼の名はアッシュ。魔王を倒した伝説の英雄だが、聖剣の呪いに蝕まれ、死を待つ身だった。 フィンの作る野菜スープを口にし、初めて呪いの痛みから解放されたアッシュは、フィンに宣言する。「君の作る野菜が毎日食べたい。……夫もできる」と。 ハズレスキルだと思っていた力は、実は世界を浄化する『創生の力』だった!? 無自覚な追放貴族と、彼に胃袋と心を掴まれた最強の元英雄。二人の甘くて美味しい辺境開拓スローライフが、今、始まる。

【完結】かわいい彼氏

  *  ゆるゆ
BL
いっしょに幼稚園に通っていた5歳のころからずっと、だいすきだけど、言えなくて。高校生になったら、またひとつ秘密ができた。それは── ご感想がうれしくて、すぐ承認してしまい(笑)ネタバレ配慮できないので、ご覧になるときはお気をつけください! 驚きとかが消滅します(笑) 遥斗と涼真の動画をつくりました! もしよかったら、お話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです。 インスタ @yuruyu0 Youtube @BL小説動画 プロフのwebサイトから飛べます! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

処理中です...