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ステンドグラス完成!
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文化祭準備は滞りなく進んでいた。
2週間ある準備期間の最後と前の2日間は1日フルで準備を行い、今日はフルの日2日目である。
だいたい作業も終わり、きれいに貼れているかを確認する。
俺達のチームが創り上げたのは、犬と猫が寄り添っているイラストである。
今回のステンドグラスのテーマは『動物』だったからだ。
それなりに絵が描ける紅哉が、描いてくれた犬と猫は、幸せそうにお互いに寄り添い月を見ている。
(案外こういうセンスあるんじゃねーか?)
と俺は紅哉に美術の才能があるのではと思っている。
絶対本人には言わない。
調子に乗るからな。
赤や青、黄色などできれいに貼られている。
このままでも十分綺麗だが、光に当てればそれは、何十倍にもなるだろう。
(たのしみだな~)
剥がれそうなところなどを修正して、授業の5時間目くらいになっていた。
(だいたい終わってしまった。
これからどうしよ…)
と悩んでいると、
担当である森谷先生が
「おぉ、もうできたのか。」
と声をかけてきた。
身長は俺と同じ170くらいで、前髪がちょっと薄い先生である。
森谷は、俺達の作品を見て「きれいだな」と褒めると、んーと悩みだした。
数秒悩んだあと
「まだ時間あるし帰ることはできないが、飲み物とか飲んだりしてもいいぞ、あとは遅れてるところ手伝ってやれ。あー、山中のところが遅れてるみたいだぞ、誰か行ってやれ。」
そう、先生が言った。
俺は少しドキッとした。
山中というのは、青涙の彼女の名前である。
湊さんや荒野の方を見る。
すると、何故かみんなにやにやしている。
(えっ、いや俺別に話したくないぞ!?)
だが、俺の思いも虚しく
「緑音がいいんじゃないかな、よく知っている子もいるようだし。」
「おっ、そうなのか!行ってやれ行ってやれ!貼るだけみたいだし、できるだろう」
森谷はそう言うと「おーい」と青涙達に声をかけ
「お前らが遅いから手伝ってくれるってよ、ほら、三浦」
「あっ、はい」
先生がこちらを向いて名前を呼ぶので、反射で返事をしてしまった。
(おい!、てか、そんな言い方上から目線すぎだろ!)
そうは思うも声には出せず、青涙たちの机に行く。
机のどこに行けばいいかわからず下を向いて迷っていると
「こっち、空いてる。」
と聞き覚えのある声が聞こえた。
思わず顔を上げると、青涙が隣を指差す。
声をかけられた俺は、心臓がどんどんうるさくなる。
「あっ、うん」
と俺は返事をし青涙の隣についた。
(青涙のところはうさぎなんだ)
途中まで作られたステンドグラスには、餅つきをしているうさぎや飛んでいるウサギがいる。その上には月があった。
(あっ、おそろい)
俺は少しうれしくなる。
数秒たってから、はっ、われに戻る
(あっ、俺手伝いに来たんじゃんか!)
俺は、隣にいる青涙ではなく目の前にいる鈴木に声をかける。
鈴木孝浩は、小学生4年生からの青涙と共通の友達だ。
「た、たかひろ、何したらいい?」
と孝浩に聞くと孝浩はニコッとして
「緑音久しぶり~、えっとな空いてるところに何色でもいいから貼っていってくれ。」
(孝浩はいつも優しいな~)
優しい対応をしてくれた孝浩に安心して笑顔がでる。少し心臓も落ち着いたし。
「わかった!ありがと!」
俺は、笑顔で答えた。
俺は、ステンドグラスの紙とカッターを持つすると
「気をつけろよ、お前鈍くさいんだから。」
さっき声をかけられたときのや柔らかいではなく、何か棘が刺さるように冷たい声。
俺は、そんなこと気づかないと言うように
「大丈夫だって、俺もう高校生だぜ?」
と明るく返した。
それに返答はなく、俺はカッターで先にあわせて切り始めた。
その間も俺の心臓はバクバクだった。
(顔…赤くなってないよな?)
それから淡々と切って貼っての繰り返し。
奥の方にいる紅哉達が楽しそうにしているのを俺は羨ましく思う。
(あ~、あっち楽しそうだ~、こっちめっちゃ気まずいんだけど…)
と羨んでいた時、指に痛みが走った。
(あちゃー、俺さっき青涙に言ったのに、切っちゃった)
血はそんなに出ていないが玉にはなっているため、俺はティッシュのあるところに移動をしようとした。が、誰かに腕を掴まれた。
「やっぱり、どんくさいじゃん。」
「あはは、そうだったみたい…」
腕を掴んでいたのは青涙だったようだ。
久しぶりに触れられた。がちんこは勃たなかった。
(あれ、触れられたのな勃たない。まさか、好きじゃなくやった!?)
と思ったが、声をかけられれば、心臓はバクバクだし、いつも目で追っちゃうし。探しちゃうし。
絶対ないな。
じゃあなぜだろう?
もしかしたら、性欲的な何かが落ち着いたのかも!
(そうだったらいいなー)
俺はぼーっとそんなことを考えながら、青涙にティッシュと絆創膏を貰った。
もらった絆創膏を傷のある場所に貼る。
絆創膏には、可愛いウサギが書かれていた。
(ん?うさぎ!?)
俺は、絆創膏と青涙を2回見る。
作業をしている青涙に
「な、なんで青涙がこんな可愛い絆創膏もってるの?」
と聞くと
青涙は、頬を赤くして照れながら
「彼女のだよ。俺そんなの持ってたらおかしいだろ?」
(はぁ~……可愛い。てか、顔がいい)
照れている青涙を見て感激するも、青涙の発言に突き落とされる。
(いや、そうだよね~)
「そりゃそうかw」
ちょっと悲しくなったが。
変わらず明るく返す。
(彼女いるもんな、そりゃそうだよね)
青涙を見ると、彼女と楽しそうに作業をしている。
距離は、近くお互いの腕が当たっているほど近い。
彼女が青涙の肩に頭を擦り寄せる。
二人の身長差は、20cmくらいだろうか。
(作業しづらくない?)
と俺は羨ましいあまりに嫌なことを思う。
こういうのほんと良くないよな。
目の当たりしてしまえば、どんどん考えてしまう。
彼女は青涙の服を着たことがあるのだろうか。
(あー、羨ましいな。俺青涙と同じくらいだから、彼シャツしても意味ないんだよな…でも逆ならいけるかも、俺大きい服をよく着ているから。まぁ、絶対できないと思うけど)
そう自嘲する。
虚しいことはわかっている、でも、考えることをやめられない。
胸がぎゅっと痛くなる。
(作業しよ…)
泣くのを我慢しながら、俺はずっと下を向いて作業をした。
▽
「お疲れー、おーい緑音?」
誰かに声をかけられて、作業を中断する。
顔を上げると孝浩だった。
「頑張ってくれてありがとなー、なんとか明日にはできそうだ。これ、お礼な」
と俺が好きな炭酸飲料を渡してくれた。
周りを見れば、みんな片付けをしていた。
(もう、そうな時間だったのか…)
全然気が付かなかった。
「ありがと、ほんと?役に立てたなら良かった!」
と飲み物のお礼を言った。
俺も、周りの片付けをし紅哉達の方に向かった。
「お疲れー、みんな酷いよ!俺別に話したいなんて言ってないじゃないか…」
むぅ、と頬を膨らませ怒る。
皆笑いながら
「ごめんね、緑音ちゃんの役に立てると思ったんだよ。」
「ごめんごめん、でも少しは喋ってたろ?」
と言われた。
俺はなんとも言えない顔で
「最初だけちょっと喋っただけだよ。あっちには彼女がいるでしょうが…」
「そうか、そうだね、ふふ」
と意味深に笑う湊さん。
(この人優しいけど、何考えてるか分からないときあるな~)
俺はあまり深く考えずに帰る準備をした。
筆箱などをリュックに詰めているとトントンと誰かになたを叩かれた。
振り向くと、
そこには青涙がいた。
青涙は、表情変えずに
「一緒に帰りたいけどいい?」
と言った。
俺は、どくどくと脈を打つ心臓を押さえながら、笑顔で「いいよ」と返事をした。
荷物を持ち、後ろを向くと紅哉達が頑張れと応援しているジェスチャーをしてくれた。
(が、頑張る)
青涙と廊下に出てあることに気付く
(あれ?彼女は?)
いつも彼女と帰っているのを見ている俺は、気になってしょうがなくなり、勇気をだして聞いてみる。
「ね、ねぇ?彼女さんはいいの?」
青涙は、歩くのをやめこちらを振り向いて
「先に帰ってもらった。」
とあっさり答えた。
「そ、そうなんだ。一緒に帰りたいって聞いてび、びっくりした。なんか用事でもあった?」
俺は、更に気になることを質問する。
(冷たい反応だったらどうしよう、なんか怒られたりしたら…)
ネガティブなことが頭をよぎる。
青涙の答えを待つ、この時間がすごく長く感じる。
「なんとなく、久しぶりだったし唯それだけ。」
そっけなく答える青涙。
(そっか、なんとなくか)
(目的があったわけじゃないのか)
再度歩き始めた青涙の後ろをついていく。
当たり前、ただ当たり前、ただの気まぐれだし、そうなのに何か心の隅で、影が落ちる。
(俺は、青涙に何を期待しているのか、そんな資格もないくせに)
俺と変わらないのに俺より肩幅が広い青涙の背中を見る。
前から遠くにあるはずの背中がもっと遠くなるような感覚、そのうち見えなくなってしまうんじゃないだろうか。
無言のまま、下駄箱で自分のクラスに行き、玄関で合流する。
また、無言で校門まで歩く。
校門を出たあたりで、沈黙の時間を破ったのは青涙だった。
「母さんが、たまには顔を見せろだって。」
「そうなんだ、お母さん元気?あと弟君も」
(そっか、青涙のお母さんそれのこと気にかけてくれてたんだ。)
母親のいない俺にとってのお母さんは、ばあちゃんと青涙のお母さんだった。
青涙の家遊びに行っては
(あー、お母さんってこんな感じなのかな?)と知らないながらにそう思った。
中学から会うことはなくなったのに、まだ俺のことを覚えていてくれた青涙のお母さんに俺は、感謝の気持ちを持つ。
「あ~、元気だよ。ゆいもな」
ゆいというのが、青涙の弟の名前だ。
今年で中学3年生のゆいは、よくおらの後ろについて回っていた。
青涙に似ているが、ゆいはどっちかって言うと可愛い顔をしている、大きな目にクリクリの青色の髪の毛。
(今もきっと可愛いよな~)
ニコニコと笑顔になる。
「気になるなら来ればいい。」
ふいに言われた言葉に、「えっ」と反射的に答える。
(いいの?)
「行ってもいいなら行きたいな。青涙がいないときに行こうかな?」
(彼女と鉢合わせとかいやだし)
「は?別にいいだろう?俺に会いたくないの?」
俺的に優しい気遣いだったのだが、青涙にとってはそうでは無かったようだ。
「ち、ちがっ!た、ただ彼女にあったら嫌だなって…連れてくるだろうしさ。は、鉢合わせたら変でしょ?し、知らない人なんだしさ彼女からしたら…」
何か勘違いさせてしまっているようで、俺は必死に弁解する。
「そういうことか、大丈夫だ。美麗を家に読んだことはない。いつも美麗の家に行ってるから。今までの彼女もな。」
(あっ、そうなんだ)
ほっ、息をつく。
じゃあ、部屋に入ったことがあるのは、孝浩と俺だけ…なんだ…
ちょっと嬉しくなる。
「そっか、なら今週の土曜日行こうかな?文化祭終わったあとに、いいかな?」
そう尋ねると、青涙はふわっと柔らかく微笑み
「いいよ、夜食べてけよ。母さんもゆいも喜ぶし」
「うん。ありがとう。」
お互い微笑みながら歩く。
(心地いいなこの感じ)
また、この関係に戻れるかも知れないことに喜びを感じる。
懐かしいこの感じは、小学校以来かもしれない。
中学では、青涙から離れるまで嫌われたくなくて少しはよそよそしい態度をとっていた気がする。
そこに自然さはなく、いつも青涙のこと考え無理に合わせたりしているときがあった。
(距離をおいたのは正解だったかも)
またこうして穏やかな時間を過ごしていることを3年前の俺では想像できなかっただろう。
俺らは、他愛ない話をしながら、家まで歩いて帰った。
2週間ある準備期間の最後と前の2日間は1日フルで準備を行い、今日はフルの日2日目である。
だいたい作業も終わり、きれいに貼れているかを確認する。
俺達のチームが創り上げたのは、犬と猫が寄り添っているイラストである。
今回のステンドグラスのテーマは『動物』だったからだ。
それなりに絵が描ける紅哉が、描いてくれた犬と猫は、幸せそうにお互いに寄り添い月を見ている。
(案外こういうセンスあるんじゃねーか?)
と俺は紅哉に美術の才能があるのではと思っている。
絶対本人には言わない。
調子に乗るからな。
赤や青、黄色などできれいに貼られている。
このままでも十分綺麗だが、光に当てればそれは、何十倍にもなるだろう。
(たのしみだな~)
剥がれそうなところなどを修正して、授業の5時間目くらいになっていた。
(だいたい終わってしまった。
これからどうしよ…)
と悩んでいると、
担当である森谷先生が
「おぉ、もうできたのか。」
と声をかけてきた。
身長は俺と同じ170くらいで、前髪がちょっと薄い先生である。
森谷は、俺達の作品を見て「きれいだな」と褒めると、んーと悩みだした。
数秒悩んだあと
「まだ時間あるし帰ることはできないが、飲み物とか飲んだりしてもいいぞ、あとは遅れてるところ手伝ってやれ。あー、山中のところが遅れてるみたいだぞ、誰か行ってやれ。」
そう、先生が言った。
俺は少しドキッとした。
山中というのは、青涙の彼女の名前である。
湊さんや荒野の方を見る。
すると、何故かみんなにやにやしている。
(えっ、いや俺別に話したくないぞ!?)
だが、俺の思いも虚しく
「緑音がいいんじゃないかな、よく知っている子もいるようだし。」
「おっ、そうなのか!行ってやれ行ってやれ!貼るだけみたいだし、できるだろう」
森谷はそう言うと「おーい」と青涙達に声をかけ
「お前らが遅いから手伝ってくれるってよ、ほら、三浦」
「あっ、はい」
先生がこちらを向いて名前を呼ぶので、反射で返事をしてしまった。
(おい!、てか、そんな言い方上から目線すぎだろ!)
そうは思うも声には出せず、青涙たちの机に行く。
机のどこに行けばいいかわからず下を向いて迷っていると
「こっち、空いてる。」
と聞き覚えのある声が聞こえた。
思わず顔を上げると、青涙が隣を指差す。
声をかけられた俺は、心臓がどんどんうるさくなる。
「あっ、うん」
と俺は返事をし青涙の隣についた。
(青涙のところはうさぎなんだ)
途中まで作られたステンドグラスには、餅つきをしているうさぎや飛んでいるウサギがいる。その上には月があった。
(あっ、おそろい)
俺は少しうれしくなる。
数秒たってから、はっ、われに戻る
(あっ、俺手伝いに来たんじゃんか!)
俺は、隣にいる青涙ではなく目の前にいる鈴木に声をかける。
鈴木孝浩は、小学生4年生からの青涙と共通の友達だ。
「た、たかひろ、何したらいい?」
と孝浩に聞くと孝浩はニコッとして
「緑音久しぶり~、えっとな空いてるところに何色でもいいから貼っていってくれ。」
(孝浩はいつも優しいな~)
優しい対応をしてくれた孝浩に安心して笑顔がでる。少し心臓も落ち着いたし。
「わかった!ありがと!」
俺は、笑顔で答えた。
俺は、ステンドグラスの紙とカッターを持つすると
「気をつけろよ、お前鈍くさいんだから。」
さっき声をかけられたときのや柔らかいではなく、何か棘が刺さるように冷たい声。
俺は、そんなこと気づかないと言うように
「大丈夫だって、俺もう高校生だぜ?」
と明るく返した。
それに返答はなく、俺はカッターで先にあわせて切り始めた。
その間も俺の心臓はバクバクだった。
(顔…赤くなってないよな?)
それから淡々と切って貼っての繰り返し。
奥の方にいる紅哉達が楽しそうにしているのを俺は羨ましく思う。
(あ~、あっち楽しそうだ~、こっちめっちゃ気まずいんだけど…)
と羨んでいた時、指に痛みが走った。
(あちゃー、俺さっき青涙に言ったのに、切っちゃった)
血はそんなに出ていないが玉にはなっているため、俺はティッシュのあるところに移動をしようとした。が、誰かに腕を掴まれた。
「やっぱり、どんくさいじゃん。」
「あはは、そうだったみたい…」
腕を掴んでいたのは青涙だったようだ。
久しぶりに触れられた。がちんこは勃たなかった。
(あれ、触れられたのな勃たない。まさか、好きじゃなくやった!?)
と思ったが、声をかけられれば、心臓はバクバクだし、いつも目で追っちゃうし。探しちゃうし。
絶対ないな。
じゃあなぜだろう?
もしかしたら、性欲的な何かが落ち着いたのかも!
(そうだったらいいなー)
俺はぼーっとそんなことを考えながら、青涙にティッシュと絆創膏を貰った。
もらった絆創膏を傷のある場所に貼る。
絆創膏には、可愛いウサギが書かれていた。
(ん?うさぎ!?)
俺は、絆創膏と青涙を2回見る。
作業をしている青涙に
「な、なんで青涙がこんな可愛い絆創膏もってるの?」
と聞くと
青涙は、頬を赤くして照れながら
「彼女のだよ。俺そんなの持ってたらおかしいだろ?」
(はぁ~……可愛い。てか、顔がいい)
照れている青涙を見て感激するも、青涙の発言に突き落とされる。
(いや、そうだよね~)
「そりゃそうかw」
ちょっと悲しくなったが。
変わらず明るく返す。
(彼女いるもんな、そりゃそうだよね)
青涙を見ると、彼女と楽しそうに作業をしている。
距離は、近くお互いの腕が当たっているほど近い。
彼女が青涙の肩に頭を擦り寄せる。
二人の身長差は、20cmくらいだろうか。
(作業しづらくない?)
と俺は羨ましいあまりに嫌なことを思う。
こういうのほんと良くないよな。
目の当たりしてしまえば、どんどん考えてしまう。
彼女は青涙の服を着たことがあるのだろうか。
(あー、羨ましいな。俺青涙と同じくらいだから、彼シャツしても意味ないんだよな…でも逆ならいけるかも、俺大きい服をよく着ているから。まぁ、絶対できないと思うけど)
そう自嘲する。
虚しいことはわかっている、でも、考えることをやめられない。
胸がぎゅっと痛くなる。
(作業しよ…)
泣くのを我慢しながら、俺はずっと下を向いて作業をした。
▽
「お疲れー、おーい緑音?」
誰かに声をかけられて、作業を中断する。
顔を上げると孝浩だった。
「頑張ってくれてありがとなー、なんとか明日にはできそうだ。これ、お礼な」
と俺が好きな炭酸飲料を渡してくれた。
周りを見れば、みんな片付けをしていた。
(もう、そうな時間だったのか…)
全然気が付かなかった。
「ありがと、ほんと?役に立てたなら良かった!」
と飲み物のお礼を言った。
俺も、周りの片付けをし紅哉達の方に向かった。
「お疲れー、みんな酷いよ!俺別に話したいなんて言ってないじゃないか…」
むぅ、と頬を膨らませ怒る。
皆笑いながら
「ごめんね、緑音ちゃんの役に立てると思ったんだよ。」
「ごめんごめん、でも少しは喋ってたろ?」
と言われた。
俺はなんとも言えない顔で
「最初だけちょっと喋っただけだよ。あっちには彼女がいるでしょうが…」
「そうか、そうだね、ふふ」
と意味深に笑う湊さん。
(この人優しいけど、何考えてるか分からないときあるな~)
俺はあまり深く考えずに帰る準備をした。
筆箱などをリュックに詰めているとトントンと誰かになたを叩かれた。
振り向くと、
そこには青涙がいた。
青涙は、表情変えずに
「一緒に帰りたいけどいい?」
と言った。
俺は、どくどくと脈を打つ心臓を押さえながら、笑顔で「いいよ」と返事をした。
荷物を持ち、後ろを向くと紅哉達が頑張れと応援しているジェスチャーをしてくれた。
(が、頑張る)
青涙と廊下に出てあることに気付く
(あれ?彼女は?)
いつも彼女と帰っているのを見ている俺は、気になってしょうがなくなり、勇気をだして聞いてみる。
「ね、ねぇ?彼女さんはいいの?」
青涙は、歩くのをやめこちらを振り向いて
「先に帰ってもらった。」
とあっさり答えた。
「そ、そうなんだ。一緒に帰りたいって聞いてび、びっくりした。なんか用事でもあった?」
俺は、更に気になることを質問する。
(冷たい反応だったらどうしよう、なんか怒られたりしたら…)
ネガティブなことが頭をよぎる。
青涙の答えを待つ、この時間がすごく長く感じる。
「なんとなく、久しぶりだったし唯それだけ。」
そっけなく答える青涙。
(そっか、なんとなくか)
(目的があったわけじゃないのか)
再度歩き始めた青涙の後ろをついていく。
当たり前、ただ当たり前、ただの気まぐれだし、そうなのに何か心の隅で、影が落ちる。
(俺は、青涙に何を期待しているのか、そんな資格もないくせに)
俺と変わらないのに俺より肩幅が広い青涙の背中を見る。
前から遠くにあるはずの背中がもっと遠くなるような感覚、そのうち見えなくなってしまうんじゃないだろうか。
無言のまま、下駄箱で自分のクラスに行き、玄関で合流する。
また、無言で校門まで歩く。
校門を出たあたりで、沈黙の時間を破ったのは青涙だった。
「母さんが、たまには顔を見せろだって。」
「そうなんだ、お母さん元気?あと弟君も」
(そっか、青涙のお母さんそれのこと気にかけてくれてたんだ。)
母親のいない俺にとってのお母さんは、ばあちゃんと青涙のお母さんだった。
青涙の家遊びに行っては
(あー、お母さんってこんな感じなのかな?)と知らないながらにそう思った。
中学から会うことはなくなったのに、まだ俺のことを覚えていてくれた青涙のお母さんに俺は、感謝の気持ちを持つ。
「あ~、元気だよ。ゆいもな」
ゆいというのが、青涙の弟の名前だ。
今年で中学3年生のゆいは、よくおらの後ろについて回っていた。
青涙に似ているが、ゆいはどっちかって言うと可愛い顔をしている、大きな目にクリクリの青色の髪の毛。
(今もきっと可愛いよな~)
ニコニコと笑顔になる。
「気になるなら来ればいい。」
ふいに言われた言葉に、「えっ」と反射的に答える。
(いいの?)
「行ってもいいなら行きたいな。青涙がいないときに行こうかな?」
(彼女と鉢合わせとかいやだし)
「は?別にいいだろう?俺に会いたくないの?」
俺的に優しい気遣いだったのだが、青涙にとってはそうでは無かったようだ。
「ち、ちがっ!た、ただ彼女にあったら嫌だなって…連れてくるだろうしさ。は、鉢合わせたら変でしょ?し、知らない人なんだしさ彼女からしたら…」
何か勘違いさせてしまっているようで、俺は必死に弁解する。
「そういうことか、大丈夫だ。美麗を家に読んだことはない。いつも美麗の家に行ってるから。今までの彼女もな。」
(あっ、そうなんだ)
ほっ、息をつく。
じゃあ、部屋に入ったことがあるのは、孝浩と俺だけ…なんだ…
ちょっと嬉しくなる。
「そっか、なら今週の土曜日行こうかな?文化祭終わったあとに、いいかな?」
そう尋ねると、青涙はふわっと柔らかく微笑み
「いいよ、夜食べてけよ。母さんもゆいも喜ぶし」
「うん。ありがとう。」
お互い微笑みながら歩く。
(心地いいなこの感じ)
また、この関係に戻れるかも知れないことに喜びを感じる。
懐かしいこの感じは、小学校以来かもしれない。
中学では、青涙から離れるまで嫌われたくなくて少しはよそよそしい態度をとっていた気がする。
そこに自然さはなく、いつも青涙のこと考え無理に合わせたりしているときがあった。
(距離をおいたのは正解だったかも)
またこうして穏やかな時間を過ごしていることを3年前の俺では想像できなかっただろう。
俺らは、他愛ない話をしながら、家まで歩いて帰った。
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