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トラブルに愛された夫婦!三時間で三度死ぬところやったそうです!

3-6「元CAT(カウンター・アタック・テロリズム)社歴戦の勇士と不死身の兵隊の孫」

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「元CAT(カウンター・アタック・テロリズム)社歴戦の勇士と不死身の兵隊の孫」
 4月28日。ニコニコ商店街役員会の定例会議が「お好み焼きがんちゃん」で開かれた後、今日は、「BARまりあ」が臨時休業のため、二次会は久しぶりに京橋に出ることになった。JR京橋から奥の店に向かう途中、稀世と三朗は突然、テーブルの上に大きな水晶玉を置いた女の占い師に呼び止められた。昼の気温が30度に届こうとする四月末にも関わらず、真っ黒なフード付きのコートを着た占い師が、
「あんたらふたり、近いうちに「命がかかるような大変な目に何度も遭う」相が出てるよ。「ふたりの絆」がその困難を切り抜けるキーワードだよ。急に驚かせるようなこと言って悪かったね。まぁ、気をつけてな…。」
と一方的に話しかけてきた。稀世は興味を持ったが、テーブルの前に貼られた「見料、三十分五千円」の札に足が止まり、他のメンバーの後を追った。かずみとさとみから、
「さっきの占い師、「京橋の母」って呼ばれてて、「亀戸の母」、「原宿の母」と並ぶ、「よくあたるっていう有名な占い師やねんで!何言われてたん?」
と聞かれた。(えっ?そんな有名な占い師なん。「命がかかってる」なんて言われへんし…。)
「私とサブちゃんにハリウッドから映画のオファーが来るよって言われたんよ。」
と笑ってごまかした。「そりゃないわ!」とかずみとさとみは呆れて先に足を進めた。狭い通りを抜けていくと、聞き覚えのある歌声が聞こえた。ふと、通りの奥に目をやると、そこで歌っていたのは、昨日突然姿を消した舩阪だった。「みんなごめん!先に二次会に行ってて!」と言い残すと、稀世は細い通りを走りだした。三朗が、後に続いた。
 三人の若い女性客を前に、歌う舩阪に、
「ごるあ!舩阪君、何で、陽菜ちゃんのこと捨ててんねや!許せへんどー!」
  稀世が舩阪に、いきなりドロップキックをかました。稀世のキックは、フォークギターを貫き、舩阪の腹に突き刺さった。うずくまる舩坂に、間髪空けずにエルボードロップ、逆水平チョップに続きサマーソルトキックで舩阪の顎を蹴り上げた。(あっ、ちょっとやりすぎたかも…。)ふと、不安に感じた稀世が前を見ると、ふらふらと舩阪が立っている。(えっ?私の技が効いてない?)ローリングソバットからボディースラム。あおむけに倒れた舩阪に、更にムーンサルトドロップをかましたが、舩阪はゾンビのように立ち上がってくる。(こいつ不死身か…?)背筋に冷たいものが流れた。稀世は、下がアスファルトにもかかわらず、舩阪の背後に回りタイガースープレックスをかけた。ばっちり綺麗な弧を描いて、舩阪の後頭部から肩が道路に叩き付けられた。(これで起き上がってくることは無いやろ!)
  稀世が腕のロックを解き、立ち上がると舩阪の横にスマホが落ちていた。待ち受け画面は、陽菜の写真だった。(えっ?舩阪君のスマホ?)と思った瞬間、女性客が呼んできた警察官に稀世は羽交い絞めにされた。
「い、いや、私は…。」
言い訳の言葉が何も出ない中、舩阪が立ち上がり、
「みんな驚かせてごめんね。お巡りさんもごめんなさい。ただの路上ライブじゃ盛り上がらないんで、ハプニングショーだったんですよ。この女の人は僕がお願いした仕掛け人ですから安心してください。見ての通り、僕もピンピンしてますから。」
と警察官と三人の女の子たちに説明した。(???)となる稀世と、駆け付けた三朗を前に、舩阪は警察官に怒られ、路上ライブは解散させられた。

 「舩坂君、一体どういうことなの?今、どこにいるの?陽菜ちゃんの事嫌いになったの?ほかに好きな人がいますってどういうことなの?これ、舩阪君のスマホ?待ち受け、陽菜ちゃんやないの!どういうことなん?」
と矢継ぎ早に、質問する稀世に壊れたフォークギターをケースにしまいながら、笑顔で
「やっぱり、一流レスラーの技はきついですね…。やせ我慢も限界です…。」
とその場にへたり込んだ。三朗が、自動販売機でミネラルウォーターを買い、舩阪の頭からジャボジャボとかけた。残り半分を、舩阪の口に当てると、舩阪は自分でボトルを受け取り一気に飲み干した。
「船坂君、こんなところでは落ち着いて話されへんから、一旦うちの店に来てよ。稀世さんもそれでええですね。」
三朗がその場を仕切り、タクシーを呼び止めた。

 午後八時すぎ、向日葵寿司に着いて、三朗が冷やしたおしぼりを数本舩阪に渡した。
「ごめんな。稀世さん、我を忘れて、本気で技かけてしもて。それにしても、あの攻撃を受けて大丈夫って、舩阪君もたいがいやなぁ…。」
  稀世がシップを持って来て、舩阪に貼ってやる。シャツを脱いだ船坂の上半身には無数の生傷があった。しばらくすると、ニコニコ商店街役員会の二次会を中座して、直が眠っているひまわりを抱っこして店にやってきた。
「いったい何があったんや?稀世ちゃんと三朗とひまちゃんおいて帰った宙からびっくりして、わしも中座して帰ってきたんやぞ。」
と言って、寝ているひまわりを稀世に手渡した。
「すいません、直さん。いろいろとあって…。後できちんと舩阪君に説明してもらうつもりで連れて帰ってきたんやけど…。」
と一礼して、ひまわりを受け取り、二階の寝室に連れて行き寝かしつけると、稀世はすぐに降りてきた。
「さぁ、舩阪君、何があったんか、きちんと話してくれるか?」
 舩阪が重い口を割り始めた。門真総合病院の再検査で出た診断は、三年半前に稀世が間違って受けた「頭蓋底にできたゴルフボール大の髄膜種」だった。余命は、稀世の時と同様に、「残り半年」。まだ、二十二歳の陽菜の将来を考えて、陽菜の前から身を隠したが、行く当てもないので京橋のビデオ試写室で昨日は過ごしたとの事だった。稀世、三朗と直は、何も言えなかった。
「電気ついてますけど、まだやってます?」
 突然、引き戸が開かれた。凜の手を引き、武雄を連れたみゆきが立っていた。「あれ?舩阪さん?」とみゆきの表情が固まった。

 三朗が、残りご飯でおいなりさんとちらし寿司を作り、武雄と凜は奥のテーブルで食べている。カウンターでは、直とみゆきの間に舩阪を挟み、カウンターの中の稀世と三朗の五人で話を続けている。
「きのう、突然、舩阪さん勝手に退院しちゃって、病院大変だったんですよ。まぁ、ドクターの言い方にも問題はあったんですけど…。前の稀世さんの件があって、私も髄膜種とか脳腫瘍については勉強したのね。ちなみにうちの病院じゃないんだけど、隣の四條畷市の鉄生会脳神経外科病院に、世界的な脳外科医で「ドクター神の手」と言われる長嶋高徳医学博士が
、年に何回か手術で来てるって知ったのね。それを舩阪さんに伝えようと思ったらいなくなってるし…。まぁ、ここで会えたのも何かの縁だと思うわ。まぁ、このコミックスを読んでみて。」
とドクター長嶋を描いた漫画の単行本をカバンから出した。その本の第一話が、「髄膜種」の話だった。約二十分かけて、舩阪はそのコミックスを読んだ。
「どう?うちの病院ではどうしようもないけど、この先生に賭けてみない?私の看護学校時代の親友が鉄生会にいるから、連絡してみるけど…。」
みゆきに対して、勝手に退院した引け目があるのか舩阪は遠慮するが、直が強引に
「みゆきはん、連絡したってんか。今回は、稀世ちゃんの時とは違って「間違いやった」言う事は無いやろうから、その「神の手」の偉い先生に舩阪君の命を預けようやないか。わしにしたら、もう舩阪君も陽菜も孫みたいなもんや。ここは、ばばあの意見に従ってくれ。舩阪君も文句ないな。」
と舩阪に言い放ち、返事が無いのを確認して、「沈黙は了解と同じやぞ。」とみゆきに知り合いの看護師に連絡させた。
 運よく、当直勤務だったみゆきの知り合いの看護師から、二十分後に「休憩時間やねん。久しぶりやね。いったい何?」と連絡が入った。彼女の担当が、ドクター長嶋と懇意な脳外科医だったこともあり、明日、鉄生会で精密検査を受けられることとなった。(舩阪君、陽菜ちゃんのためにも、この縁を活かしてな…。)稀世は、舩阪と陽菜の為に祈った。

 翌日、朝一、向日葵寿司に泊まった舩阪は、三朗の出前用の自転車を借りて鉄生会病院に行った。紹介状も何もない状態だが、みゆきが朝一番に門真総合病院でのMRIとCTの画像データと血液検査の結果をドクターを通じて送ってくれていたのでことはスムーズに進んだ。鉄生会のドクターは、データをアメリカのゴルゴ大学病院のドクター長嶋にメールで送り、即「手術可能。頭を開けてみてからの最終判断になるが「自信はある。」とのことだった。最短で8月半ばの来日時に手術で段取りつけておいてくれ。」との返事をもらえた。
 真っ暗な闇の中に天から降りてきたのは、細い蜘蛛の糸ではなく、太い縄梯子だった。午後一時、向日葵寿司のランチタイム中に戻ってきた舩阪は、大阪外環状線から中央環状線手前の向日葵寿司まで、国道163号線を重たい業務用自転車を飛ばして来たため、汗まみれで席に着いた。心配して待っていた稀世、三朗と直に手短に状況を伝えた。ただし、「陽菜ちゃんには、この病気と手術の件はまだ内緒にしておいて下さい。」と言われ、この二日は、自衛隊の先輩の結婚式出席のための二日間の旅行であり、4月27日の書き置きの手紙については、「どっきり」ということにすることになった。
「まぁ、後はドクター長嶋に任せて、「果報は寝て待てやな」。わしも、陽菜には、そこまで黙っとくのがええと思うわ。」
と直が舩阪に言い聞かせた時、引き戸が開いた。
「すみません…。まだ、ランチいけますか?」
初老の大男が暖簾を片手であげ、店の中の三朗に声をかけた。
「いらっしゃい。まだ大丈夫ですよ。さぁ、どうぞお入りください。稀世さーん、お客様、一名様ご来店でーす。」
と声を張り上げた。男子プロレスラーのような巨体の頭をすっと下げて、男はカウンター席に着いた。その男の顔を見て、直が驚いた。
「は、羽藤…。羽藤一志か?」
 
 数秒の間が開き、男が直の顔を確認し、
「えっ?菅野直師範ですか?は、はい。羽藤です。二十年…、いや、二十二年ぶりになります。お元気そうで!こんなところで会えるなんて、日本に帰ってきて良かったですよ。」
羽藤は、直の両手を取り、嬉しそうに何度も握った手を上下させた。
「直さんの知り合いなん?「師範」ってことは、直さんの弟子?」
稀世が首を傾げた。
 羽藤の話によると、羽藤の父親は警察官であさま山荘事件で殉職した。父の遺志を継ぎ、警察となった羽藤は公安警察に配属され、大阪に赴任した際に直の合気道教室に通い、優秀な生徒であったことが分かった。あさま山荘で殉職した父の仇である日本赤軍を追いかけて青年期を過ごした。日本赤軍も1980年代中盤以降先細りとなる中、1986年の三井物産マニラ支店島誘拐事件が起こった。その後、公安と警察の二人三脚の捜査の結果、1987年の東京、1995年のルーマニア、1996年のペルーとネパール、1997年のレバノンと海外での当時の幹部の逮捕が続いたなか、2000年に日本赤軍最後の大物と呼ばれた女性最高指導者を旅券法違反容疑で高槻市内で大阪府警警備部が逮捕し、2001年4月にその女性最高幹部が獄中から「日本赤軍としての解散宣言」を行い、日本赤軍は解散となった。
  羽藤は、父の仇を取ったと思うと同時に、危険に身を置くそれまでの「対日本赤軍調査」ロスにはまり、2001年末で大阪公安を38歳で任意退職。その後2007年までの六年間をフランス傭兵会社に入隊し、東ヨーロッパやアフリカや中東の紛争地帯で2007年まで闘ってきた。その時の負傷がもとで、傭兵は引退し、その後、アメリカにわたり、「対テロリストの民間会社CAT(カウンター・アタック・テロリズム)社の隊長として十三年間務めた。2022年の60歳を迎えるまで常に世界の戦闘地域の最前線で闘ってきたとの事だった。
 今回は、年齢的なところから、最前線を退き、大阪万博の警備を請け負う関西系警備会社に「対テロ対策部長」として出向してきたとの事だった。
 直と昔話に花を咲かせる羽藤がふと舩阪の顔を見て尋ねた。
「どこかでお会いしたことありましたかねぇ?」
「いや、無いと思います。僕は、二年前まで青森の自衛隊にいて、その後大阪に戻ってきたので、アメリカに行ったことも無いですし…。あぁ、挨拶遅れてすいません。舩阪浩三と言います。22歳です。」
「ふなさか…。えっ?どういう字を書きますか?」
「はい、普通の「船」ではなく、「舟」編に「おおやけ」の「公」に大阪の「阪」です。ちょっと珍しい苗字ですよ。浩三は「さんずい」の「浩」に漢数字の「三」です。それが何か?」
「えっ?舩阪…。名前がさんずいの浩に三…。君のおじいさんは、「さんずい」の「浩」一文字だったりしないかい?」
「僕のおじいさんを知ってるんですか?まさに「さんずい」の「浩」です。「舩阪浩(ふなさかひろし)です。」
「そうなんだ!君の持っている雰囲気から、ただものじゃないと思っていたが、あの伝説の「舩阪浩」さんのお孫さんなんだ。さすが、直師範。持ってる人脈がグレートだ!まぁ、君のおじいさんにお会いしたのは、渋谷で「日本初の本のデパート」を開いた後で、現役の時じゃないんだけどね。こんなところで「不死身の兵隊、舩阪浩」さんのお孫さんに会えるなんて。こりゃ神様のお導きだね。」
「えっ?「不死身の兵隊、舩阪浩」って何ですか?」
船坂が羽藤に問いかけた。
 羽藤が言うには、舩阪の祖父「船坂浩」は、渋谷に日本初の本の大型デパート「大繁盛書店」を開き、「潰れそうで潰れない本屋」として呼ばれていた。浩が亡くなる2006年まで、マニアの間では「そりゃ、「不死身の舩阪」の店だから絶対に潰れはしない。」と有名だったという。
  それ以外にも「日本銃剣道連盟」の参与も務めた舩阪の祖父の浩は、太平洋戦争時の帝国陸軍の宇都宮歩兵第59連隊の軍曹で「不死身の兵隊」と揶揄された「伝説の兵」だったとのことだった。
  戦中のエピソードでは、1944年、米軍の圧倒的物量の前で玉砕直前だった日本軍千四百名の中で、二万二千の米軍にひとりで擲弾筒と言われるひとりで携帯使用できる迫撃砲を撃ちまくり、二百名の米兵を死傷させるも、左大腿部に砲撃を受け瀕死の重傷になった。軍医にも見捨てられ、自決用手りゅう弾を渡された。
  しかし、「自決するくらいなら、戦っての死を選ぶ」と味方陣地まで夜通し這っていったというエピソードがある。どんな怪我でも翌日には回復。受けた銃創に対しては、近くで死んだ仲間の銃弾の火薬を傷に埋め、発火させ炎症を抑えたという。腹部を撃たれ、蛆の発生が止まらず、やむを得ず手りゅう弾で自決を測るも不発で絶望するも「やはり、俺の命は、敵を葬るためにあるのだ。」と六発の手りゅう弾と一丁の拳銃を持ち、三日間寝ずに這い続け、米軍司令部にひとり対一万人の勝負に出る。
 さすがに、一対一万では勝ち目はなく、相当な損害を与えるも、首を討たれ壮絶なる戦死を遂げる。しかし、三日後、アメリカ軍の死体安置所で息を吹き返し、米軍の治療を受け、回復すると脱走。米軍弾薬庫を爆破し、翌朝には自軍で点呼を受けたという伝説を持つ「日本版ランボー」である。
  しかし、後日、再度捕虜になり、グアム、ハワイ、サンフランシスコ、テキサスの捕虜収容所を経て、1946年に帰国し、渋谷に今では大きな街では珍しくなくなった「大型書店」を開店したとの説明が羽藤からあった。祖父の過去を詳しく知らなかった、舩阪は、(おじいさんの生命力を僕も引き継いでいるなら、きっと脳腫瘍くらいじゃ死ぬことは無いに違いない)と元気が湧いてきた。

 そこからビールが入り、舩阪と羽藤のミリオタ談義が始まった。羽藤が、アフリカや中東での傭兵時代に、基地に敵兵やゲリラから手りゅう弾が投げ込まれたり時限爆弾を発見すると、事前に掘っておいた深い穴に掘り込み爆圧を上に逃がしてきた軍事的ライフハックや、ロシア製のRPG-7と言われる、映画でもよく出てくる、兵隊ひとりで撃てる簡易の対戦車擲弾砲の弾頭が爆発しないよう、司令部や基地の周りをネットで囲み、信管が爆発しないようにして防いだ話など羽藤の一つ一つの実戦でのエピソードが、元自衛隊員舩阪の目を輝かせた。
 舩阪も五年間の陸上自衛隊時代の話で、10式(ひとまるしき)戦車に乗りたかったが、ずっと普通科と呼ばれる歩兵だった話をした。「なんで、「ひとまる」推しなんだ?」と聞かれると、第二次大戦のドイツの5号戦車のパンターの斜めになった正面装甲の「被弾傾始の設計が好きだ。」という話に羽藤も同意した。
「リアクティブアーマーがいくら進化しても基本は斜めだな。120ミリ滑空砲やトップアタック型の対戦車ミサイルは防げないが、ゲリラの持つRPGなら傾斜で躱せる。そういう意味では、90式(きゅうまるしき)の砲塔の垂直装甲は、ティーガー1型だね。10式は、パンターだな。舩阪君の考えは正しいと思うぞ。」
との羽藤の言葉に舩阪は感動した。羽藤の話の中の、RPG-7で撃たれた同僚が、落ちていた破壊された装甲車のドアの鉄板を30度以下の角度を保って受け、直撃の弾頭を跳ね飛ばし九死に一生を得たという話で盛り上がっていた。
 更に、舩阪の自衛隊時代に上官に、「89式(はちきゅうしき)自動小銃を高い値段で購入するなら、自衛隊もロシアのカラシニコフを国産化すればいい。そうすれば、三分の一の価格になるし、僕たち兵隊の分解整備の工数は五分の一になる。」と言い、殴られた話でふたりは笑った。
  舩阪が、趣味で持っているマルイのモデルガンのカラシニコフの写真を羽藤に見せた後、「稀世姉さん、僕のカラシニコフのモデルガンの写真なんですよ。ロシアの銃モデルでかっこいいでしょ?ガス式のモデルガンですけど、トウモロコシで作られたBB弾でも当たると三日くらいミミズ腫れや赤たんになるんですよ!」と嬉しそうに話しかけてきた。(さっきまで生きるの死ぬので悩んでたのに、羽藤さんのおかげですっかり元気になってよかったな。)稀世もニコニコして、舩阪と羽藤の話を聞いていた。

 ふたりのミリオタ談義は、午後三時近くまで続き、羽藤は、
「すいません。すっかり長居してしまって。これは、お詫びと言っては何ですが、僕が出向している警備会社も協賛してるゴールデンウイークの夢洲でのスポーツイベントの招待券です。もしよかったら皆さんでお越しください。オリンピック女子レスリングの四度の金メダリストにチャレンジするイベントなんかもありますから、師範もチャレンジされたらいいと思いますよ。」
と笑いながら三朗と稀世に頭を下げ、チケットを置いていった。
 羽藤を笑顔で見送り、すっかり元気になった舩阪に「陽菜ちゃんに、舩阪君返ってきたでって連絡入れるで。」との稀世の申し出に舩阪は頷いた。五分もしないうちに
「船くーん!帰ってきてくれたんやー。もうずっと、ずーっと離さへん!お仕置きのベアハッグやでー!明日からは、私の85センチ以内に居ってよ。プロデューサーからの命令や。それが、守られへんねやったら、ずっと手錠かけたるからな…。」
「えっ?85センチって?」
「私のリーチや。常に、舩君を捕まえられるように、私の手の届く範囲にいて欲しいの…。私、この二日間、琵琶湖十杯分、泣き続けてたんやからね…。「別に好きな女がいる」ってドッキリにしてもひどすぎるやんか。中三の時に、急に手紙が届けへんようになった時のこと思い出して、この先、舩君と一生会われへんようなことになったらどうしよう…。とか、悪いことばっかり考えてしもてたんやからな。
 もう絶対突然いなくなったりせんといてや。今度こんなことあったら、GPSをインプラントで埋め込むからな。」
と稀世、三朗と直の前であるにもかかわらず、舩阪に抱きつき、ずっと離れなかった。強がって冗談を言う陽菜の目に浮かんだ涙が印象的だった。舩阪も陽菜を受け入れ、優しく笑顔でベアハッグで締められ続けた。
  それを見ていた三朗が稀世の耳元で「稀世さん、今晩、僕もベアハッグ掛けてもらいたいんですけど…。」と囁いた。「うん、ええよ。陽菜ちゃんよりもっと強く、長くかけてあげるわな。おまけに口も私が塞いであげるから覚悟しときや。」とニッコリ笑顔で返した。

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