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第2章「災害ボランティア編」

「広がるボランティアの輪」

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「広がるボランティアの輪」

昼にはチャプローの指揮する女性中心の調理ボランティアチームによる「燻製スモーク」作りの作業も終わりここ数日の主菜の「おかず」の目途はついた。出来たてのスモークチキンと「燻製」と同じく一斗缶のロースターで作った近隣の被災者が自宅から持ってきてくれたコメを発電機とミキサーで製粉した「米粉のナン」と湯煎されたレトルトのカレーが提供された。
雑炊を作る4分の1の水で済み、短時間で簡単に焼けるナンはチャプローが次々と火にかざされた一斗缶の内壁に張りつけていき、焼けた分からピナと現地ボランティアメンバーが大皿にのせてホールに運んでいった。
「ナン&カレー」を始めて食べるお年寄りも、子供たちも皆が笑顔になるのを見るのは楽しかった。

「チャプローさん、ごめんね。ほんまは私なんかじゃなくて、「ピヨ姉さん」と一緒の作業の方がよかったんやろうけど…。」
 ピナが申し訳なさそうにチャプローに最後の「ナン&カレー」と手渡すと
「そんなこと言ってられへんわな。「適材適所」って言葉があるように、僕は男やけど「力仕事」はからっきしやからな…。ピヨさんやマリーアさんは惑星プロレスのチャンピオンやから「力仕事」ってな。ピナちゃんはみんなに愛されるキャラやから、おじいちゃんおばあちゃんから赤ちゃんまでの応対係や。ところで「子供受けのいい」ナッちゃんの水づくりはうまくいったんかな?」
と笑顔で答えるチャプローの言葉に
「さっき、「ナン&カレー」を届けに行ったら水はタンク半分くらい溜まってたで。あんなやり方で飲み水ができるんやね。ミネラルウォーターの数には限りがあったから飲料水の目途がついて良かったわ。ほんと、地球の海軍さんって何でも教えるんやね。
子供たちは「雪詰め」作業も終わって、火の番の子供だけやったで。ナッちゃんは、ライスさんとなんかふたりで作業してたわ。「ご飯持ってきたでー!」って持って行こうとしたら「こっち来たらあかん!そこに置いといてー!」やって。いったい二人で何をしてたんやら…。もしかしてナッちゃん、地球であらたな「恋」を見つけちゃったんかな。「異星間恋愛」?きゃー、お父さんになんて言えばいいのー!」
とひとり悶えてピナは騒いでいた。

 午後になると被災者の関係者が所有する簡易トイレが8基届いた。新たにボランティアに手を上げた、正月という事で実家に帰省していたオフロードバイク乗りで、能登牛牧場で働いている29歳の「能登義勇のと・ぎゆう」とコスモアイル羽咋のスタッフの35歳の「神子原米子《みこはら・よねこ》」を男女リーダーとする羽咋市民ボランティアチームでコスモアイル羽咋の表に仮設トイレが設置されて女性避難者から安堵の声が上がった。男性用に3基、女性用に5基が割り振られた。なぜだか男性用は1基が「おしっこ専用」、2基に「うんこ専用」と張り紙がされていた。女性用にも同じように2基に「おしっこ専用」、3基に「うんこ専用」とある。
 ピナが設置したトイレを固定している誠子に「この張り紙何なんですか?男の人のはわからんでもないけど、女の人で分けてるのってなんか意味あるんですか?」と尋ねると「私もよくわかってないんです。ライスさんがそうしておくことが先々意味があるって言ってたんでその指示に従がっただけなんですよ。」との返事だった。

 「停電が続くんだったら、灯りが欲しいよね。いずれ施設備品の懐中電灯もスマホのライトも使えなくなるだろうし真っ暗な夜のトイレは怖いし、落ち着いてできないよね。」
と言う仮設トイレの設置作業が終わった米子に義勇がある提案をした。誠子を通し、昨晩食材提供してくれたスーパーのオーナーに問い合わせてもらうと廃棄予定の「あるもの」が残っていることが分かった。
 義勇はバイクでスーパーのバックヤードを訪れると、正月明けの産廃業者の初出まで処理できず冷蔵庫に大量に残された「牛脂」を段ボール箱いっぱいにもらってきた。
 米子は誠子に車を借りてコスモアイル羽咋や近くの道の駅のゴミ箱をまわりアルミ缶を回収してきた。

 「すみません。ボランティアに参加させてもらってる「能登義勇」と言います。ちょっとかまどと大きめの鍋をお借りしていいですか?」  
義勇が夕食の準備に入っていたチャプローに尋ねた。右手に下げた60リットルのゴミ袋いっぱいの牛脂を見て「鍋とかまどは使ってもろてかまへんよ。揚げ物するんやったら豚脂ラード」の方がええんとちゃうかな?」と答えると義勇は笑顔を浮かべて言った。「いや、食用じゃないんで「牛脂」でいいんです。」
 チャプローから借りた大きな2つの両手鍋に牛脂を放り込むと「後で取りに来ますのでしばらく火にかけておいてください。」と言い残し義勇はホールに走っていった。

 ホールでは、米子がボランティアを指揮して「アルミ缶」を底から5センチほどにカットするグループと切り端を2センチ間隔で1センチほど縦にはさみを入れて内側に折り返すグループと別に「タコ糸」を数本まとめて「る」グループが作業に入っていた。
「米子さん、何個くらい缶集まったんですか?10キロの生牛脂があるんで火にかけて8キロほどになると思うんですけど。」
問いかける義勇に
「あぁ、いい感じよ。とりあえず100缶用意するつもり。おトイレが8つあるわけだから電気が通るまで3、4日として廊下とホールも併せてとりあえずそれでいいでしょ。」
と返事をした。「あいよ。いい感じですね。」頷いた義勇はホールを出ていった。

 30分後、義勇はチャプローと一緒に液状化した牛脂の鍋と火のついた七輪を持ってホールにやってきた。一つの鍋は強火でポコポコと煮立っている。もう一つの鍋は弱火で湯気が出ているくらいである。
「じゃあ、まずは「芯」から作ります。見本を見せますので「芯係」の人はこっちに来てくださいね。」と義勇が声をかけると4人のボランティアが鍋の元に集まった。

 義勇は5本のタコ糸をり合わせた直径3ミリ程で、50センチの長さに切られた太いタコ糸を煮立った牛脂の鍋に左手で40センチたらし、右手の菜箸で沈めた。10秒ほどすると引き上げ、アルミのパッドの上に真っすく伸ばした。室温10℃のホールのテーブルの上で牛脂を吸い込み太くなったタコ糸はすぐに固まった。棒状になったタコ糸を今度は湯気が出ているだけの弱火の鍋にさっと通してアルミバットに置いた。それを3度繰り返すと、しっかりとした太さの「芯」が出来上がった。それを5センチの長さにカットした。チャプローはその様子を優しく見守った。
 米子も含めて数人で作業を行い40本の芯の元を作った。冷ます間に切断面をケガしないように内側に1センチ折込4センチの深さになったアルミ缶にお玉でぬるめの牛脂を入れた後、熱々の牛脂を注ぐことで缶いっぱいに溶けた牛脂が注がれた。

 100個の牛脂が詰まった缶は表に持って出て摂氏3度の外気に晒され、10分後には「蝋化」して再びホールに戻ってきた。
 義勇は竹串を取り出すと缶の外淵から1センチのところに正三角形になるように串を差し込んだ。その3つの穴に5センチにカットされたタコ糸の「芯」を差し込んだ。
 多くの被災者が集まってくる中、ライターで3つの芯に火をつけるとアルミ缶の牛脂キャンドルに薄暗く小さな炎が灯り周辺を照らした。その炎は数分経つと安定してほのかな灯りとなった。
「牛脂蝋燭は普通の蝋燭と違って、あんまり炎が上がらないんで3本芯にしました。とりあえずトイレでお尻を拭くくらいの明かりにはなると思います。「日本屈指の高級牛」の能登牛の牛脂も入ってるから「能登牛脂蝋燭」と名付けましょう。「輪島うるし蝋燭」や珠洲の「高澤蝋燭」よりも高級品かも知れないですよ。カラカラカラ。」
 明るく笑う義勇にみんなが拍手を送った。残った牛脂はビニール袋に移され、カビがはえないように「雪の中」に埋められた。

 アイースはナチュコとライスと一緒に水作りを手伝いつつ、二人の計画するサプライズに賛同した。
「ライスさん、ナチュコちゃん、私、おみやげで買ったものでいいものがあるんですよ。これ見て下さい!」
「おっ、ええなぁ!さすが西日本行脚してきただけのことがあるなぁ!アイースちゃんナイスやで。私が今すぐ試したいくらいやわ!」
「これはみんな喜んでもらえること間違いなしだね。水も順調に予定以上にできてポリタンクもいっぱいになってるから、余計にできた水はアイースちゃんの好意に甘えさせてもらおうか。「モーゼ」に感謝しなくちゃな。カラカラカラ。」

 夕方4時になると、ナチュコとアイースがホールに行き、みんなに大きな声で宣伝した。
「みなさーん!寒い中お疲れ様!今から「足」だけになるけど、四国の「道後温泉」、淡路島の「洲本温泉」、そして長野の「上諏訪温泉」の足湯温泉を始めるでー!一人5分交代で順番決めるから有名温泉の「足湯」に入りたい人は整理券配るから並んでやー!」
 ほぼ全員がナチュコとアイースの元に集まった。
「はい、並んでくださーい!必ず、全員入れますんで慌てないでくださいねー!」
アイースが声を上げると自然に高齢者と子供に前列を譲り、綺麗な列が出来上がった。
 整理券の残りは十数枚だった。現在、ボランティア活動に出ているもの以外のほぼ全員が足湯を希望したことになる。アイースはおみやげに買った「温泉の元」を取り出すとパイプ椅子の前に並んだ6個の一斗缶に入れ、3つの有名温泉の「足湯」が出来上がった。
 利用者は「5分」を遵守し、順調に足湯は進んだ。冷えた体がぽかぽかと足から温まると足湯に浸かりながら提供された温かい飲み物で「二人とも旅行に来たのにこんなにしてくれて、本当にありがたいことだね。」とおじいちゃん、おばあちゃん達に感謝されるナチュコとアイースは笑顔でみんなに返事した。
「こんな時やからこそみんなで頑張らなあかんやろ!晩御飯はチャプロー兄さんたちが美味しい物用意してくれてるはずやから元気出していこな!」
「偉大なる神の「モーゼ」様を優しく受け入れてくれた石川の人達への恩返しですよ。お墓まで作ってくれたことを考えたら、おみやげの温泉の元を提供するくらいなんともないですよ。」
 二人は笑いながら利用者との会話を楽しんだ。
 






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