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第2章「災害ボランティア編」

「工夫と成敗」

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「工夫と成敗」

 輪島の避難所での2日目。今日も4人のプリンセスと従者のチャプローは忙しく走り回っている。朝一番に羽咋の誠子から「うんこ燃料成功したよー!匂いも無いししっかりと長時間燃えてくれるから体育館で安定して火鉢の暖をとれるようになったよー!やかんでお湯も沸かしてるから「湿度」も確保できるし、いつでも暖かいお茶やコーヒーが飲めるようになってみんな喜んでるよー!「大」「小」のトイレを分けたことでトイレも溢れることなく使えるようになったんで、みんな安心してしっかり食べて、しっかり水分をとれるようになってます。ライスに「サンキューベリマッチョ!」って伝えておいてね!」と電話があった。
 その事を蟹夫に伝えるとすぐに石川県の災害特設班に連絡し、上下水道が復旧していない避難所のこれから設置する仮設トイレは羽咋方式で「大」、「小」を指定するように伝えた。

問題は、既に溢れかかっている「輪島ここ」のトイレだった。バキュームカーは稼働していない状況で糞尿の処理は難しいと思われていたが、ここでもライスのノウハウが役に立った。
ライスに頼まれたピヨとマリーアは体力にものを言わせグラウンドの端に直径2メートル、深さ3メートルの穴を掘り、海から採ってきた乾いた砂や砂利で1メートル分を埋めた。そこに前後逆にしたビニールの雨合羽を着て鼻にティッシュを詰めて2重にマスクをしてフェイスシールドを着けたピヨが率先して現状いまの輪島の仮設トイレの糞尿タンクを台車で運んで来て、糞尿タンクの中の汚物を穴に放り込こんだ。尿は砂に吸収され、便の固形物と紙が上に残った。朝市の燃え残りの炭化した柱を砕き、穴の中の便の上にくとライスは1リットルほどのガソリンを全体に振りかけ火をつけた。

 穴の中の炭の表面をガソリンが燃える赤い炎が覆うと、すぐにその下の焼けた柱の炭化した端材に火がついた。しばらくすると炎は青くなった。ライスがピヨ達と地元ボランティアに手を挙げてくれた被災者に説明した。
「ほら、あれだけの排泄物がもう「臭い」もしないだろ。表面で熱せられた炭でアンモニアとメタン分が燃えるのさ。後は便自らのガスによって燃え続ける。尿の水分は砂の下なので炎が消えることは無い。燃え尽きれば深さ2メートルの穴だけ残るって訳さ。ベトナムのジャングルキャンプでの糞尿の仮処理方法の応用さ。
 まあ、次回からは「小」と「大」に分けて「小」はこの穴に捨てる。燃え切った柱の炭が消臭効果を発揮するし、臭いが気になるなら30分程燃やせばいい。「大」は乾燥させて燃料にすることで無駄は無い。」 
 汚れ仕事を率先して行うピヨやマリーアの姿を見て、それまで「汚物処理」に対して引き気味だった地元ボランティアも積極的に参加してくれたので、近隣の避難所の仮設トイレの「溢れ問題」は午前中のうちにすべて解決した。
 その姿を上空40万キロの彼方から見られているとは誰も気づいていなかった。

 炊き出し場では、女性を中心に地元ボランティアがチャプローから燻製の作り方を学んでいる。避難民たちが、半倒壊の自宅から米や味噌などを持ち込んだことで料理のバリエーションは広がった。昼間、復興作業に出ているものが戻り次第温かい食事をとれるように握り飯ではなく「ちまき」が用意された。
 もち米を混ぜた米とコマ切れにした具材と出汁をアルミ缶を切った器に入れて一斗缶で作ったスチーマー蒸し器で常時蒸し続けることで「24時間」温かいちまきが食べられ、継ぎ足しで作り続けるみそ汁で安定した温かい食事の提供が可能になった。もちろん、器には各自の名前を書き込み再利用している。
 ナチュコとピナとアイースは福と白駒とすっかり仲良くなって避難所の年寄りたちにお茶を配ったり、足湯に浸かるおじいちゃん、おばあちゃんの肩を揉み、ふっとマッサージを施すことでみんなから喜ばれていた。
「プリンセスに肩をもんでもらえるなんて「宇宙中」探しても、めったにあれへんで!冥土の土産にしっかり揉んであげるわな!」
どや顔で話すナチュコに
「はいはい、「大阪の・・・プリンセス」さんありがとうな。お駄賃に飴ちゃんあげるわな。」
とおばあちゃん、おばちゃん達からポケット一杯に飴をもらった。ナチュコはその飴をボランティア仲間に再分配していた。

 その日の夜、事件は起こった。避難者が自宅に戻った際に「空き巣」被害にあったという報告が避難所に多数あげられていたのだった。いわゆる卑劣な犯罪の一つ、大規模災害地で起こる「火事場泥棒」である。
そこでピヨ達が「夜警団」結成の提案をした。いくつかのグループにわかれて、無人に近い輪島の被災地の夜廻りを行ったところ、ピヨとナチュコと福のグループが正にこの場で犯行に及ぼうとしていた「空き巣グループ」と遭遇したのだった。
 巨大なバールを手に持った5人の「日本語を話さない」グループに対峙すると、ピヨの警告を無視して5人が襲いかかってきた。正義感が人一倍強いナチュコが
「お前ら何「火事場泥棒」しとんねん!そんな卑怯な奴は私が許せへんぞ!」
と徒手空拳で突っ込んで行ったがニコニーコ星のプリンセスのたしなみ・・・・の「格闘技」を「痛いの嫌だー!」とさぼり続けていた弱々よわよわの「言うだけ番長」ナチュコは一撃で吹っ飛ばされた。
「ナッちゃん大丈夫か?」と福が駆けつけるが、福も「空き巣グループ」によって袋叩きに遭い一方的にボコられた。
「さて、今日は目ぼしいものなかったアル。この地区の日本人は貧乏人ばかりアルな。輪島塗の一つもなかったアル。手ぶらで帰るのも私達は残念アルね。警察もいないのでそっちの大きなおっぱいのお姉ちゃんに皆で楽しませてもらうことにするアルかねー?」
 リーダー格の男が言うと他の4人の男も徐々にピヨとの間合いを詰めてきた。
「よくも、ナッちゃんと福君に手を上げてくれたな!お前らにはそれなりの報いを受けてもらわなあかんな。今日、ここで私と遭ったことを一生「後悔」させたるわ!」
ピヨは道路の端に積まれた瓦礫とゴミの山からひん曲がったパイプ椅子を手に取った。

 「ギャハハハ!お姉ちゃん、栄養が全部おっぱいに行って、頭はアルか?武器バールを持った5人の男相手に壊れたパイプ椅子で何をするつもりアル?バカアルか?相手にならないアルよ!」
リーダー格の男はバールを腹に抱えて笑うと他の男たちも笑った。ピヨは全く動じることなく、言い返した。
「泣いて謝るなら許したる。それでも「る」っていうなら、今からお前らにニコニーコ柔術で許される唯一の反則技である「パイプ椅子演舞」を見せたるわ!「最強」で「最凶」で「最恐」の技をな!ビビってお漏らしすんなよ!」
「どひゃひゃひゃひゃ!ビビってんのはお姉ちゃんアル!「さいきょう」って3回言ったアルよ!小便漏らしてんのはお姉ちゃんのほうアルね。ドヒャヒャヒャ!」
と挑発したリーダー格の男の肩にパイプ椅子の足が一瞬のうちに打ち込まれた。「ボキボキッ」っという鎖骨が砕ける鈍い音が夜空に響いた。即、男は冷たい道路のアスファルトの上に崩れ落ちた。

「女、即殺了!」
 4人の男がバールを一気にピヨに振り下ろした。「バキッ!」、「バゴッ!」、「ガキョッ!」、「ゴンッ!」と闇夜に音が響くと4本のバールが宙に舞った。その後、レインメーカ式の「ラリアット」、顔面への「ハイキック」、みぞおちへの「エルボー」、バックドロップの変形技の「投げっぱなしジャーマン」で4人の男が瞬殺された。鎖骨を折られたリーダー格の男が背を向け逃げようとしたところ「逃がすかい!だんだらーっ!」と背後からのピヨのドロップキックで男は前のめりに倒れた。その背中にピヨは飛びつきスリーパーホールドで男の頸動脈を締めつけ6秒で意識を刈り取った。失禁しその場に倒れた男の前でピヨは高笑いした。
「漏らすんはやっぱりあんたやったな。ケラケラケラ。」

 騒ぎを聞きつけたピナとチャプローと白駒が走ってやってきた。チャプローは歪んだパイプ椅子と倒れた5人の男の「しかばね」を見て0.1秒で悟った。
「あーあ、ピヨさん…。また、やっちゃいましたね。本当に殺してないでしょうね?」
ため息をつくチャプローに、「大丈夫。素人相手やから「5%」も力は出してへんよ。ケラケラケラ。」と笑うピヨの奥でやられたナチュコのかたきを取るためにピナが倒れた男たちの「金的」にとどめの「蹴り」を入れていた。
 遅れて駆けつけたマリーアとライスとアイースは何事かと思ったが、福からの説明を受け状況を理解した。
ライスが「今、ポリスを呼んでも来ないだろうからとりあえず「繋いで・・・」おくかな。」と5人を集めてウエストバッグのポケットから出したインシュロックで男たちの手を後ろ手に縛り、スニーカーの紐を両足首に回し、固結びしてベルトで背中合わせに繋ぎ合わせた。

「ピヨ姉さん、超凄かったやん!まさに瞬殺!俺、動画撮らせてもろたからSNSかユーチューブに掲げていいっすか?ボランティアに来て、火事場泥棒まで捕縛!最初に突っ込んで行ったナッちゃんの勇気も称賛物やったですけどピヨさんの格闘技は超凄いっす!惚れちゃいました!」
と頬に大きな痣を作った福が興奮気味に話すのを聞いて、ナチュコが「ぽっ」っと赤くなった。
「ナチュコ、今の福君の「惚れちゃいました」は「お前」にとはちゃうと思うぞ。」
のマリーアの声でナチュコ以外から大きな笑い声が起こった。
 
 避難所に戻り、蟹夫に事の顛末を話すと「これからの「犯罪予防」の一環として、避難所の夜警団が「空き巣狙い」を排除したという事にしてSNSにアップしましょう。今日はピヨさん達のおかげで難を免れましたが、いつ何時同じような「やから」が現れないとも言えませんから。予防に優る防御無しですよ!」と福の撮った動画を編集して地元メンバーのインタビューと併せて「#火事場泥棒は許さない!」、「#輪島無敵自警団」とタグをつけてアップした。
 蟹夫がピヨ達の活躍を避難者に報告すると、数人の被災者が自宅から持ち出した地元の日本酒で、心ばかりの「慰労会」が始まった。輪島の地酒「おれの酒」と昼にチャプローが被災民のおばちゃんボランティアと一緒に作った燻製をアテに皆で盛り上がった。
 蝋燭の明かりの中、カラオケの無いアカペラの「宴会」となった。皆、正月の4時10分以降の久しぶりの酒で盛り上がり「宇宙人のお姉ちゃんたちも何か歌ってや!」とマイク代わりの4合瓶が5人にまわってきた。
 ピナが地球に来る前に宇宙船の中で流していた日本の「頑張ろう・・・・ソング」といわれる「負けたらあかん」と「明日は来るで」をナチュコとピナのダブルセンターで4人のプリンセスとチャプローの5人で披露した。輪島の夜空に美しいコーラスが響いた。
 一緒に声を張り上げて歌う者、涙ながらに聞く者、両手を合わせて拝む者など様々だが皆がピヨ達5人に感謝していることは伝わってきた。贅沢ではないが楽しい宴を過ごし、最後にもう一度全員で「明日は来るで」を大合唱してその晩の宴はお開きとなった。 






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