233 / 314
本編 燦聖教編
カリンとリィモ ①
しおりを挟む数分もすると……落ち着いたのかパールは少女を椅子に座らせた。
そして自分の顎髭をゆっくり触り俺の方をチラリと見みると。
「ティーゴよ? 何でカリンの魂がまだ昇天してない事が分かったんじゃ?」
光について質問してきた。さっきまであんなに泣いてたのにな?
もう別の事で頭がいっぱいって顔してるや。
そこがまぁパールらしいんだけど。
「その前にだ、俺が先に質問しても良いか?」
「む? ティーゴが?」
何で質問? とパールが少し驚いているが、これには理由がある。先に少女から話を聞いとかないと、何も前に進まないと思ったんだ。
「えっと……カリン? だよな? 質問していい?」
「えっ!はっはい!」
急に名前を呼ばれ、カリンはピンっと背筋を伸ばす。
「君は亡くなってからもずっと、グリモワールと一緒と言うか……同化って言ったら良いのか? うーん上手く言えないけど、とにかく君の魂がグリモワールの体にくっ付いてたよね? 黒い靄みたいなのが接着剤みたいな感じでさ? ごめん言ってることが分かりにくいよな。でも俺にはそう見えたんだ。俺の言いたい事分かる?」
もっと上手く黒い靄や光について説明したいのに、言葉が出てこない。
そんな俺の拙い話を、カリンは一生懸命に聞いてくれた。
「言いたい事は分かります……ええと」
「俺の名前はティーゴだ」
「ティーゴ様の知りたい事を、今からお話します。この話は少し長くなりますが、カスパール様も聞いてくれますか?」
「「もちろん」じゃ」
俺とパールは同時に大きく返事した。
★ ★ ★
カリンは大きく深呼吸すると、ポツリポツリと過去にあった出来事を話し出した。
私は死んでからも少しの間、魂の姿でカスパール様やお兄ちゃんを見ていました。
二人が悲しむ姿は見ていて本当に辛かった。
せめて一言だけでも良いから、話をしてから死にたかったと、何度も何度も思いました。
私は魂となったのに、すぐに天に召される事はありませんでした。
理由は分かります。
兄グリモワールの事が心配で心残りだったからでしょう。
私が死んでからのお兄ちゃんの姿は、見てられなかった。
あんなにも兄を悲しませてしまった自分を、悔やみました。
兄はカスパール様がいない時にフラッと外に出て行き、魔獣がいる森を徘徊する様になりました。
魔獣に出会ってもされるがままで、このままお兄ちゃんは死んでしまうのではと、側にいて何度も不安になりました。
「そんなっ……ワシ……知らんかった。部屋で泣き崩れておるとばかり……」
「兄も無意識だったと思います」
パールが今にも泣きそうな顔をする。お願いだからそんなに自分を責めないでくれ!
パールは何も悪くないんだから。
カリンも同じ気持ちの様で、パールの様子を見ながら過去にあった話を進める。
兄があてもなく徘徊を続けていたある日、見た事の無い祠を偶然みつけました。
まるでその祠は、絶望していた兄を待っていたかの様に、何も無かった土壁から突然現れたのです。
その祠の中は、禍々しいオーラで包まれていました。
いつもの兄ならそんな場所に絶対に近寄りもしないし、ましてや入る事などしなかったでしょう。
でも兄は吸い込まれるように中に入って行きました。
祠の奥に大きな剣が刺さっている塊がありました。よく見るとその剣はその塊を封印しているようでした。
それを兄は抜こうとしました。
私は絶対に抜いてはダメだと思ったので、兄に近寄り『剣を抜かないで』と必死に声をかけました。
もちろんその声が兄に届くわけもなく……。
兄は剣を抜いてしまいました。
次の瞬間、黒い塊が飛び出て来て兄の身体を覆いました。
その時側にいた私まで、一緒に黒い塊に覆われてしまい。
私は兄と一体化してしまったのです。
次の瞬間でした、兄は狂ったように叫びました。
「やったーやっと封印が解けた! あはははっ。今から好きに生きてやる! 邪気をいっぱい集めるためになっ」
そう叫んだのです。
カリンはそう言うと黙り込んでしまった。
「邪気……?」
邪気ってなんなんだ?
260
あなたにおすすめの小説
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました
ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。
私に姉など居ませんが?
山葵
恋愛
「ごめんよ、クリス。僕は君よりお姉さんの方が好きになってしまったんだ。だから婚約を解消して欲しい」
「婚約破棄という事で宜しいですか?では、構いませんよ」
「ありがとう」
私は婚約者スティーブと結婚破棄した。
書類にサインをし、慰謝料も請求した。
「ところでスティーブ様、私には姉はおりませんが、一体誰と婚約をするのですか?」
婚約破棄された令嬢が記憶を消され、それを望んだ王子は後悔することになりました
kieiku
恋愛
「では、記憶消去の魔法を執行します」
王子に婚約破棄された公爵令嬢は、王子妃教育の知識を消し去るため、10歳以降の記憶を奪われることになった。そして記憶を失い、退行した令嬢の言葉が王子を後悔に突き落とす。
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
卒業パーティでようやく分かった? 残念、もう手遅れです。
柊
ファンタジー
貴族の伝統が根づく由緒正しい学園、ヴァルクレスト学院。
そんな中、初の平民かつ特待生の身分で入学したフィナは卒業パーティの片隅で静かにグラスを傾けていた。
すると隣国クロニア帝国の王太子ノアディス・アウレストが会場へとやってきて……。
聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい
金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。
私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。
勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。
なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。
※小説家になろうさんにも投稿しています。
皆さん勘違いなさっているようですが、この家の当主はわたしです。
和泉 凪紗
恋愛
侯爵家の後継者であるリアーネは父親に呼びされる。
「次期当主はエリザベスにしようと思う」
父親は腹違いの姉であるエリザベスを次期当主に指名してきた。理由はリアーネの婚約者であるリンハルトがエリザベスと結婚するから。
リンハルトは侯爵家に婿に入ることになっていた。
「エリザベスとリンハルト殿が一緒になりたいそうだ。エリザベスはちょうど適齢期だし、二人が思い合っているなら結婚させたい。急に婚約者がいなくなってリアーネも不安だろうが、適齢期までまだ時間はある。お前にふさわしい結婚相手を見つけるから安心しなさい。エリザベスの結婚が決まったのだ。こんなにめでたいことはないだろう?」
破談になってめでたいことなんてないと思いますけど?
婚約破棄になるのは構いませんが、この家を渡すつもりはありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。