星に牙、魔に祈り

種田遠雷

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4、アギレオ

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 食堂を出てアギレオとリーと別れ、砦の端に建つ厩舎から馬たちを出してやる。
 木々に遮られる広くはない敷地ながら、好きなように歩いたり駆けたりして運動し、草を食んでは寛ぐ馬たちから目を離さぬよう目端に納めながら、隅に自分で掲げた的へと弓を引く。
 闘気と血の匂いで荒れ、欲望をそそのかされて乱れ、祝事に浮ついた頭蓋の内が研がれ澄み切るまで。的を見据えて弦を引いては矢を放つ。
 放たれた矢が狙い通りの場所を突くのを待たず、次の矢を番え、繰り返す。
 引き絞る弦の張り詰め、弓の軋る音。放つ矢の風を裂く鋭さ。総身が一体となって弓に接続し、己が身がまさに弓矢と化すかの心気しんき
 幾度も幾度も繰り返し、無心といえる心持ちになってふと、目を上げた。
 陽が、傾き始めている。
 日が落ちてしまう前にと馬たちを追い、集め、ブラシを掛けてやって蹄を手入れしてやり、また一頭ずつ厩舎へと戻す。
 最後に、脚の先に白をいた黒い馬、唯一王都から共にしてきた愛馬のスリオンの首を撫でてやり、声を掛けてやって、厩舎を後にした。
 次第に色を変える陽に染まっていく砦の家々を背に、森の中へと足を踏み入れる。
 ほんのわずかの木々の間を歩けば、大きくはないが十分な水をたたえた泉が現れる。
 その縁に据えた岩に、着ているものを脱いで掛けておき。
 水の中を歩いて進み、腰の上まで沈むほどの深さの場所で足を止めると、そこに沈められた、また別の岩へと腰を下ろした。
 胸まで浸かりながら、清涼な水を掌ですくっては肌をすすぐ。肩や首まで洗い流せば、また岩から降りて立ち上がり。身を沈めるようにして髪や顔も丁寧に流してから、今度は身を起こして髪を絞り、顔にしたたる雫を拭う。
「――…」
 片膝だけを岩に預けて手を突き、目を伏せる。
 尻の間に指を這わせて、閉じ込み窄まる肌と肉を開くようにして洗い。指を入れ、自分で開きながらその内側まで擦って拭うのに、少し息を潜め。
 薄く開いたままになる唇に吐息を含みながら、水を招いてはまた掻き出し、気が済むまで清める頃には、水の冷たさも感じなくなり。
 手指や肌をもう一度よく洗い直して、水から上がった。

 アギレオと共に暮らす家へと戻り、彼がまだ戻っていないのを見て、かまどに炭を入れ、火を点ける。炭が橙々だいだいの色を含むようになれば、唇の先に短い詠唱を含んで、唯一これしか使えないといって過言ではない風の魔術で火をおこす。
 薬罐やかんに水を汲んで、パチパチと微かな音を立てる火にかけ、湯が沸くのを待つ間に、薬草を乾燥させた茶葉をティーポットに入れておく。
 日中はうららかな陽射しが身を温める季節なれど、陽が落ちれば炎に和らぐ。
 水浴びで冷えた肌があたたまるのにぼんやりと寛ぐ意識を、玄関の扉を開く音がふいに刺した。
「戻ったぜ。…と、お前の方が早かったか」
 こちらへ向かう長身に目を向け、頬を緩める。
「おかえり。お茶を煎れるところだ、お前もどうだ?」
 彼を迎えるよう振り返って背にした流し台へ、腰の両脇にそれぞれ手をつくようにして閉じ込められ、息が掛かるほど近い顔を見上げて瞬き。
いて待ってるかと思ったぜ。余裕だな」
 耳元に囁きながら、腰の裏から背へと、掌を擦りつけるように撫で上げられ、息が浮いて自然と瞼が伏せてしまう。笑いながら手をやり、風呂に入ってきたのだろう、湯の匂いをさせている髪を抱き。
「そうは言っても…。もう火を仕掛けてしまった。せめてポットに湯を注ぐまで待てないか?」
 最高の味とは言えなくなるだろうが、湯を入れっぱなしにしても渋くて飲めなくなるような茶葉ではない。
 服の上から背や肩を撫で回され、耳の下を淡く吸われて息を溶かし。ながら、このままでは危ないし、薬罐をただ火から下ろしてはもったいないなどと、考えを巡らせ。
「いいぜ、もちろん一緒に待つとも」
「――…」
 妙に引っ掛かる言い方だ、と、思わず開く口に言葉が詰まる。
 ほら後ろ向け、と、背からほどけた手に肩から裏返され、流し台に手を着かされて心臓が跳ねる。腰を引き寄せ脚を開かされれば、それだけであられもないように思え。
「…何をするんだ…?」
 振り返ろうとすれば腰を掴んで固定され、低くなるアギレオの様子は見づらい。
「湯が沸くのを待ってんだろ?」
 取り合う気のない時の言い方だな、と大きく鼻から息を抜く。
「……っ」
 腰帯を解いておもむろに下衣を下げられ、カッと耳の先まで熱くなる。床に尻か膝をついたのだろう、晒された肌に息がかかる。かかるからには、顔の位置がどこにあるのかと知れて、身動みじろごうとするのがまた、腰を掴んだ手に止められてよじれる。
「ま、待て、ちょっと待てアギレオ…!」
「待ってるじゃねえか」
 悪辣な笑いをはらむような声が低い位置から聞こえて、汗が噴き出る心地で。
「あっ!」
 両手で掴んで尻の肉を左右に開かれ、逃げられずに背が反る。
「ちょっ、…この、ッ馬鹿者…!」
 ぬるりと濡れた感触が谷間から辿って穴の上を擦りつけ、舐められているのが判って総毛立つ。
「…て、待っ、てくれ、……そんな、…ところ、っ」
「“身を清めて”きたんだろ? 俺にいじられてもいいように」
「そ、あ、あア…」
 唾液で濡れたそこに指を押し込まれ、力が抜ける。伏せそうになるのを肘を立てるようにして辛うじて堪え、けれどもう、上半身の感覚など曖昧なばかりで、指で拡げて舌を押し込まれるその感触に、もだえるしかない。
「は、あ、ァア、ぅ、」
 身体に満ちる熱が奇妙に顔に溜まって、上手く逃がせない。指で、舌で、解して拡げて、開かれていく快楽に頭の芯が溶けそうになる。
「あぅッ!」
 突き刺す痺れのような感覚が背を貫き、一瞬混乱する。チュ、と、微かな音が背後から聞こえて、吸い上げられた、と理解するのに、そんなことが恥ずかしくてたまらない。
「湯が沸いたぜ」
 ペンと軽く尻を叩いて解放され、頭が追い着かない。
「……は、…は…?」
「お前が待てっつったんだろ。ほら、ポットに湯ゥ入れてえんだろ、やってやろうか?」
 完全に笑いながら、手も舌も離され、下衣を上げて半勃起のペニスすら丁寧に仕舞い込まれて、呆然とする。
「まっ…、なっ…、お前……」
「全部入れていいのか?」
 器用に己を片腕で閉じ込めたまま、薬罐を取り、宣言通り代わりにポットに入れてくれているのを、呆気に取られたままで少し見守ってしまう。
 熱の引かぬ身に、小さく頭を振り。
「…ありがとう。全部入れてくれていい…」
 ン。と、鼻先ひとつで返される頷きに、大きく息を吸って吐いて、無理矢理に己を宥め。
 薬罐を退けてポットに蓋をした手に手を重ね、熱を押しつけるように掌を擦りつける。
「…意地が悪い…、…昼間のことがそんなに気に入らなかったのか…?」
 やれやれと息を抜きながらも、ほとんど拗ねるに近く、後ろに寄せられたままの胸に背を押しつけた。
「何がだよ。ボケッと待ってるより楽しませてやろうとしたんじゃねえか」
「……、」
 面白がるような声が疑わしく、それでも、そう言われればそうなのだろうかと否定もしがたく、思わず顎を捻ってしまう。
 それも、そのまま腕ごとに抱き締められてしまえば、その強さにわだかまりも解けて落ち。
 肩越しにするよう窮屈に振り返れば、覗き込む顔が近く、互いにやっとのように浅く唇を吸い合う。
「気に入らなかったか?」
 笑っている顔に、少しこめかみをぶつけてやる。
「…当たり前だ。……、…あんなに執拗に、…どうして欲しいか言わせておいて」
 胴を巻きつける屈強な腕に手をやり、褐色の肌に浮き出る筋肉の流れをなぞる。狭くてもどかしく唇を啄み合いながら、夏服の薄い布地の上から胸を撫でられ、肉を掴むように揉まれて舌がもつれ。
「どうして欲しいんだっけな?」
 笑う声で唇にささやかれ、さすがにこの手の遣り取りももう、覚えた。
「ペニスを…、…お前のペニスを、私の尻の穴に入れて欲しい……」
 口にして耳で聞けば身体は覚え、希求がチリチリと湧いて。不本意に熱を持つ昂揚に、薄皮をいだように肌は感じやすくなり、アギレオの息づかいや上がっていく熱、互いの衣服の向こうに待つ身体の重みをつぶさに感じる。
「指を入れて解して?」
 下りた手が指を立てて強く内腿に食い込み、息が弾み、膝が下がる。
「ぁ、…は、ああ、…そうだ、……指で、拡げて、…開いてくれ……」
 腕を緩めて離れる身体に、振り返りながら知らず追い縋り、互いの衣服を脱ぎ捨て奪い取るようにしながら、追うつもりが知らず押し込まれるようにして寝室へ、そのまま寝台の上へともつれこむ。
 シーツの上へと押し倒され、首に腕を絡めて頭を抱き寄せ、かぶりつくように唇を奪って舌を絡ませる。
 離れようとするのを腕を引き寄せ留めれば、笑う息がくちづけに混じり、淡く噛みついてやる。
 腕に押し退けられるまま脚を開かされ、割り込んでくる太い腰を膝の内で抱こうとすれば、また外に押すよう開き直させられて。
 胸に乗る胸が少し身動いで離れる。
「――は、」
 指でやんわりと乳首をつまみ上げられ、乳暈にゅううんから寄せるように捏ねられ、腰が捩れる。
 尻の割れ目に濡れた指が這い込んで、穴へと触れるのに背が浮き、反り。
「ぁ、…――あァ…、ん、ぁ、ぁ、あ、」
 そのまま中へと押し込まれ、器用な指が入口の筋肉を揉み解す。
「あ、は、ぁあ、…ふ…」
 尻の穴を濡らして柔らげながら、つまむのとは逆の乳首に舌が触れる。平らにした舌で大きく舐め上げ、尖らせた舌先で弾くように転がされ、それだけでもう、自分の身体の輪郭が見失われるようで。
 更に奥へと入り込む指が肉壁を擦って弄り、耐えがたく引き上げる肩に自分で頬を擦りつける。
「ぁ、あっ、ン、――ぁ、あ、あ、ぁぁ、」
 そこ、と、浮かせた唇に声が乗らず、吐息が弾み。
 身体の内側から性器の裏を直に撫でられ、その鋭い感覚に悶えてシーツを蹴る。
「…ハル、…目ェ開けろ、」
 低く艶めいて劣情を押し殺した声に招かれ、目を上げ、彼を探す。
 見つける混色の瞳を見つめながら、瞬けば濡れた睫毛が小さく飛沫いた。
「お前がして欲しいっつったんだ、…どうやってイクのか見せろよ」
「は、ぁ、」
 言葉で答えることはできず、それでも肩を開いて顔を晒し、その快感の頂を極めやすいようにと脚でシーツを手繰って、そうしやすいように身を置き直し。
「ぁ、ぁ、あっ、…アギレオ、ふ、…ぅ、」
 性腺を押す指がやけに逞しく感じられ、押されるそこが脈打つように断続的な痺れが広がっていく。
「ぁ、ィ、いい、気持ち、ぃ、あ、あっ、ぁっ、あ、ァァ、イク、ぁ、イク、い、く……ッ」
 望む場所に違わず押し上げ導く指に食いつくよう、浅ましくそれを追い掛け身を委ねる。己の快感を知るその手つきが巧みにそこだけを撫で転がして押し込む極みへ、手足を力み、背を撓ませ極める。
「ハッ、ぁッ、…――あぁ…ッ」
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