星に牙、魔に祈り

種田遠雷

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16、緑目の怪物

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 書店を後にして再び通りへと出る頃には、建物の影を長く伸ばす陽の光も、ずいぶんと赤味を帯び始めていた。
 空を見上げ、もう少し歩こうか、それとも宿へ戻っていようかと少し首を巡らせる。
 方向だけは戻る方へと定めて踵を返し、別の通りを見ながら戻ろうかと、ひとまず歩き始める。賑やかさは大通りには敵わないか、と、入り込んだ少し手狭な通りを眺め歩き、そうではないらしいと考えを改めた。
 看板を掲げぬ建物が多く、そも、商店ではないのかもしれないが。行き交う人は少し早足で、立ち止まって言葉を交わす者は声を潜めて話している。
 また別の商売ということか、と、それはそれで興味深く目を流しながら歩く足を、思わず止める。
 並ぶ建物の中ではいくぶん瀟洒しょうしゃで、どことなく異国を思わせる造りの間口の前、離れた距離でも見誤りようのない長身の男。
「――、!?」
 アギレオ、と、声を掛け近付こうとした口と身を後ろから縫い止められ、思わず顎が仰け反る。
 気配は感じたが、そう思うと同時には口を塞がれていた。思いがけぬ素早い動きだ、と、警戒しながら振り返るのを、建物の影に引きずり込むように尚引き寄せられ、思わずたたらを踏んで。
「なに、」
「よせよぉぉ、さすがに野暮だぜハルゥゥ」
「ナハト、」
 手を離して解放され、乱暴な振る舞いと意味の分からぬそしりにニヤニヤ笑いを思わず睨みつけ。
「一晩くらい見逃してやれよぉぉ。アギレオが何年外に出てねえと思ってんだよぉぉ」
「なんだいきなり、何の話だ。離せ、首が疲れる」
 己より幾分か背の低いナハトに顎と肩を引かれると、後ろに仰け反ったままになり煩わしい。絡みつく手と腕を解いて放り出し。
 ヒッヒ、と笑いながらナハトが顎で示す先、男と立ち話をしていたアギレオに、戸口から出てきた二人の女性が腕を取り、腕を回してべったりと身を寄せるのに目を剥く。
「ありゃぁ娼館だぜぇぇ。ビーネンドルフがこんなんなる前からある老舗しにせさぁぁ」
 馴染みの女がいんだろうよぉぉ、と、さもおかしげに忍び笑いするナハトの声が、耳の奥のどこかに刺さるように聞こえる。
 声を掛けなければ、と、思うのに。
 恐ろしくもない、緊張しているわけでもないのに、声は出ず、身がすくむ。
 二人の女性に腕を引かれ、男に背を押されて建物の中に吸い込まれるアギレオを、何も出来ないまま見送り、息が薄くなる。
「お前……、」
「あぁン?」
「お前はまた、どうせ追い出されたんだろう。相手にする者が誰もいないのだったか」
 自分の口から出た言葉の棘に、その底冷えしたような声の色に、驚く。
 姿だけ見れば、もっと言えば口を閉じていれば申し分ない若者にしか見えぬナハトには、ある悪癖があり。そしてそれにまつわる記憶は、己にとって楽しいものでないのは事実だが。
 ヒッヒ、と、全く動じず腹を抱えて笑うナハトから目を逸らし、遅れたように身の奥に宿る激しい感情に、戸惑う。
「大きなお世話だぜぇぇ。確かに、俺と違ってアギレオは娼婦にゃ人気だけどよぉぉ」
 咄嗟に、怒鳴りつけるか殴りつけるかしたくなるのを、歯噛みして堪え。扱いきれぬどころか、何を抱いたかも掴みきれぬ、何もかもを腹の内に押し込め、黙って踵を返す。
 裏切り、侮辱、軽蔑、怒り、憎悪、そんな激しい言葉とそれにまつわる黒く熱い感情が、腹の内に渦巻き、身を満たして脳から瞼の裏まで灼くようで。
 ナハトもアギレオも娼館も背にして、大股で歩き。
 宿の部屋に辿り着く頃には、身が軋むほど強張っていた。

 窓から入る光が次第に暗くなっていくのを、寝台に腰掛け己の膝に落としたままの視界に知る。
 座った途端に力が抜けたようになって、身動ぎする気すら起きない。
 熱を持って軋み、暗い方へと傾いていく情動に、詳細な目を向けぬよう距離を取って、ただ堪える。そうして、苦しみながらそこにいるだけが精一杯で、他のことは何もできず。
 おっ?と、扉を開いた途端に声を上げたアギレオに気づいても、心ばかりが疲れ果て、声を返すこともままならない。
「お前のが早かったな」
 待たせたな、と声をしながらアギレオが立てる物音をぼんやり聞いていると、視界が明瞭になり、もうずいぶん室内は暗く、ランプに灯りを入れてくれたのだと気づいた。
「どうした。慣れねえとこで疲れたか?」
 正面に経つアギレオの靴先が見え、瞬く。頬に手を添えられて顔を上げ、目で見ずとも形まで思い描けそうな掌の感触とあたたかさに、胸が痛む。
「ン?」
 親指で眦を撫でられ、目を伏せてその掌に頬を擦り寄せ。
「どうした」
 頬から滑る掌に首の後ろと、屈んで腰を支えられ、促されて寝台に身を横たえる。
 背と髪を撫でられて少し力が抜け、息をつく。このまま寝てしまうなら靴を脱がなければと、鈍った頭の片隅で、明後日のように考え。
「…ケレブシアに頼まれていて、お前と別れてから書物を探して歩いたんだ。あまり出回るタイプの本ではないからどうかと思ったんだが、幸運にも小さな書店で見つけて……」
 寝台に斜めに腰掛け、髪を撫でてくれながら、へえ、とアギレオが柔らかく相槌を打つ。静かな室内の安らかさに、目を閉じ。
 そこで言葉を途切れさせても、何も言わずただ撫でてくれている掌を感じながら、息を抜く。
 アギレオには、己と出会うずっと前に奥方がいたのだと聞いたことがある。森の外の者達は、エルフと違って性が必要なのだという知識もある。一晩くらい見逃してやれと言ったナハトの言葉を思い出す。
 だが一晩ではなく、夜が更ける前にすら、アギレオはこうして戻ってきた。
「――ッ!」
「おっと、」
 驚くほど、自分が何をしたのか一瞬把握せず。
 身を離して両手を挙げるアギレオが、眉を上げているのを目を剥いて見つめる。
「私に、触れるな。……不愉快だ!」
 唇に触れられた首筋を掌で覆って隠し、逃げるように掛布を引き上げ潜り込む。意図より速く払いのけた掌は、どこに当たっただろうか。不用意な傷をつけていなければいいが。
 奇妙に冷ややかにそう考える頭とは別に、怒りは身を焼き、その下で何かが痛む。言うべきだろう言葉が出ず、言わぬべきだろうこと、せぬべきだろうことばかりが勝手に起こる。
 己を制御できぬことに困惑し、身体すら勝手に操る情動に狼狽する。布団の中に身を隠して、一体何をどうすればこの不快な迷宮から出られるのかと憔悴し。
「ハル。おい、ハル」
 布団越しに頭を揉まれているのを感じ、自分が情けなくて落胆する。
「…やらねえなら外に出るか? 夜しか立たねえ市があんだとよ。肉の串…は、お前は食わねえか。蜂蜜酒があるんだと」
 俺がいねえ方がいいのか、と、諦めたよう溜息交じりの声と共に、手が離され、布団から顔を出して振り返り。立ち上がりかけてこちらを見つめるアギレオに、せめて一言何か、と思うのに、喋り方を忘れでもしたよう、もう声も出ない。
「…行くか? 疲れたんなら寝ちまってもいいぜ」
 差し出した手を、思い出したように引き戻そうとするアギレオの仕草が、己が触れるなと言ったせいなのだと思い当たり、逃さぬように掴む。ほっとしたように返される笑みが、困らせていたのだと理解できて胸が痛み。
 それでも、まだ言葉を出せなくなったままで、差し出された手を取り、黙って、宿を後にするアギレオの隣に並んで歩き出した。

「これは…!」
 密に立ち並ぶ商店や民家の生活の灯りが窓から漏れる光も、これほどの規模になれば道を照らすほどながら。
 昼とは違う表情の大通りにまだ人足は多く、その流れに乗るよう歩くだに、目を瞠る。この村で最も大きいだろう四辻よつじが見え始める辺りで、道に沿って蝋燭ろうそくの明かりがいくつも掲げられ、小さな広場を中心に、あたたかな光が溢れている。
「すごい……、美しいな……」
 魔術も精霊の光も使わぬ人間達の集落で、これほど多くの灯りを掲げているのを見たことがない。
 陽の光とはまた違う穏やかな明るさに目を瞠り、周囲を見回し、その黄色の深い蝋燭に思い当たる。
「そうか、蜜蝋みつろうだ」
 蜜蜂の巣から採れる成分で作る蜜蝋は、むろん安価なものではない。
「そういうわけだな。このビーネンドルフには、夜市を立てられるほどの蜜蝋がある。成功の象徴ってわけだ」
 ま、よく見りゃずいぶんランプで誤魔化しちゃいるけどな。と、アギレオが言うのに改めて周囲に目をやれば、なるほど、目立つように蜜蝋の灯りを並べ、目立たぬよう油のランプを配置して明るさを保っているらしい。
「それでも、この数の蝋燭を、このように立てられるところは他にないだろうな…」
 そうしてその様子は、心が躍るほど美しい。闇に紛れるように指を絡ませ、手を引かれてアギレオに道を任せながら、きっと己と同じような心地であるのだろう、誰もが楽しげに過ごす広場に飽きず目を巡らせる。
 昼間ほどではないがあちこちに立てられた露店を物珍しく巡り、宣言通り、串に刺した肉を焼いたものとエール、己に蜂蜜酒を買い入れて寄越すアギレオと、少し辻から離れて広場を見渡す隅に、ベンチを見つけて腰を下ろす。
「ありがとう」
 買ってもらった蜂蜜酒のカップに口をつけ、ほのかな蜂蜜の香りを楽しみ、予想よりもさっぱりとして清やかな飲み口に頬を緩める。蜂蜜に和らげられた酒精に食道があたためられ、息を抜いて。
「美味い。お前も飲んでみるか?」
 ン、と、肉を頬張りながら浅く頷くアギレオと、カップを交換し。
「機嫌は直ったかよ。…お、なるほどこりゃ美味えな」
 相変わらず荒っぽく、食べ物を酒で流すようなアギレオの食べ方を眺めるところに眉を上げられ、グッと短く言葉に詰まり。俯いてしまう視線に、瞬く。
「…すまなかった。理由も話さず不機嫌になるなど、不当なことだ…」
 ブホ、と、また思いも寄らないタイミングで噴き出しているのに、思わず怪訝にアギレオを見上げ直す。咽せてしまったのを堪えながら戻されるカップをまた交換して、エールを飲み直しているのを首を傾げて待ち。
「おー。どうしたよ?」
 噴き出した理由は分からずじまいに、問われてまた少し、居心地が悪くて視線が下がる。それでも、美しい景色と美味い蜂蜜酒に胸中の絡まりが解けた機を逃してはいけないと、腹に力を籠め。
「…お前が、女性達と建物に入っていくのを見たのだ。そこは娼館で、お前は娼婦達に人気があるのだと聞いて、……。お前に女性が必要だというなら、私は許すべきなのかと思って、……思ったところで、そんな風にはできずに己を持て余してしまった…」
「待て。誰に聞いたんだ、んなこと」
 顔を上げ、予想に反してまず怪訝な顔をしているアギレオを見つめて、瞬く。
「ナハトだ」
 チッと、盛大な舌打ちに少し目を瞠る。
「あンの犬ッころめ」
 間違いようのない罵倒だが、その表情は怒りではなく、悪事を共有する者達の不思議な共感に笑んでいるのが分かる。不埒な者同士で通じ合うところがあるのかもしれない、と、それはもう諦めるような心地で、少し息をつき。
 ついたところで、不意に顎を掴まれ、顔を上げさせられて瞬く。
「つうかお前、俺がお前を置いてって女と寝てると思ったのか?」
「っ、」
 率直な言葉に傷つき、それを、具体的に考えたくもなかったのだと気づいて、ひどく悲しい気持ちが湧く。
「あのな。なんでここに来たのか覚えてねえのか? 務めから離れてお前といるためにこんなビーネンドルフくんだりまで出てきて、なんでお前を放り出して他の女と寝るんだよ。俺はそこまで気が狂っちゃいねえぜ」
 ハ、と、息ひとつ吐いて、身と胸の内に絡まっていた全てがいちどきに剥がれて落ちて失せる。
「いやお前、なに“そういえば”みてえな顔になってんだよ。俺のがビックリだわ」
「…では、…それでは、…そうではないのか…」
「いや当たり前ェじゃねえか?」
 当たり前ではないと思う。と、それだけは頭に浮かんでも、その論理が組み立てられず、唇が何度も空回る。
「ならば、…あの建物が娼館だということから間違いか? 彼女達は娼婦ではない?」
「いいや」
「!?」
 深く片側の口角を吊る見慣れた顔を見つめ、ようやく顎から離された手に、身を戻してカップをまた傾けながら、遠慮なく眉を寄せた。
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