星に牙、魔に祈り

種田遠雷

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21、からだの底

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 伏せた目の先に、靴先が近づくのが見え、微かな足音を連れてくるのが耳をくすぐる。
 ペニスを隠す手を手で覆われて、肩が跳ね、耳の先まで燃えるように感じる。
 可愛いやつだ、と、耳元に低く囁かれ、息が詰まり。背筋がゾクゾクとおののき、かさを増すペニスが掌を押す。
 大きくなってしまうのを、指を伸ばして隠すのに、その指の背に添って指で覆われ、逃げ場のない心地になって。
 逆の手が襟足を掻き分けるように項を覆い、掌をつけず指の腹で肌を撫で下ろしていく。
「――~…ッ」
 紐でも引かれるよう、指が薄く皮膚を掻いて下りていくにしたがい、背筋が伸びて顎が浮く。
 淡い弧を描く背筋をたどり、指先が、尾骨びこつの先を丸めるようにいじる。
 は、と。声ならず吐息を浮かせて、力が抜けたようになる身体を支えられ、裸の尻で寝台に腰掛ければ、シーツのざらつきすら心地よい。
「アギレオ…」
 低くなる頭を目で追い、前屈みに触れようとするのを、脚を掴むアギレオの動きが遮る。
 すねを掴んで左の脚だけを寝台の上にあげられ、大きく股を開いて晒させられる羞恥に目眩がする。
「それ以上勃てるなよ」
「…?」
 それ以上と言われても、もうずいぶん固い。
 熱い掌にペニスを握られる快さに、吐息を抜き。
 カタカタと小さな物音がして、知らぬ間に閉じていた目を開き、視線を落とす。己のペニスを左手で握ったまま、右手だけでアギレオが扱う見慣れぬものに顎をひねり。
 草のつるほどの、細い棒のようなものと。もうひとつ、見覚えのある小さな壺を目にして、ゾクリと勝手に腰の裏が震える。細く、だが“つる”にしては柔らかにしなる筋が、壷の中から蜜をすくい、薄黄金うすこがねをしたたらせながら持ち上げられる。
 ポトリ、ポトリと、ペニスの先端に蜜を落とされ、掴む服がなくて自らの胸を掻く。
「は、ぁ、なに、――…ィッ!」
 全身が総毛立つような痛みに、暴れようとした足を押さえ込む褐色の腕が早い。
「なッ、何を、馬鹿…ッ」
 ペニスの先端、尿道口へと、くだんのつるが入り込み、それほど太くはないのに見た目よりも痛みが鋭い。
 チッチ、と、招くような舌打ちにアギレオを見れば、己の足を押さえ込みながら、けれど呼んでおいてこちらを見てはいない。
「痛えのは最初だけだ。ちっと我慢しな」
 得意だろ、我慢。と、声が笑っているのが信じられない心地で。
「ッ、つ……、お前っ、馬鹿者、入れるところではないだろう…ッ」
 声が、詰まりそうになる。激痛と呼ぶほどではないが、ごく敏感なそこを小さく裂くようなヒリとした痛みが宿り、留まる。亀頭が腫れぼったい。
 シィ、と、今度は歯列の隙間から息を抜く音に、思わず眉が寄る。
「ッ…!?」
 ごく小さな雷土いかづちが走ったような。ペニスの根の、更に奥に言われぬような感覚が走って、思わず尻が逃げる。
「通ったな」
 抜くぜ、じっとしてな。と、声に安堵して、大きく息をついて胸を緩める。
「あッ!? んグッ、ンぅゥ…!」
 ひりつく痛みを腫れさせるような違和感を細く轢き潰していく、紛れもない快感に、身震いが背筋を逆さに駆け上がって。根から先へ、違和感が抜けていくさに、顎が浮く。
「――っ、は、ァ……、なにを、…」
 なんという無茶を、と、いさめようとする頭が混乱している。
「…――さアて、お立ち会い…ってえ、やつだな」
「待て! もうっ、――…ッ! ッカ、ァ、…――ッ!!」
 予想もしない感触に、声が失せて息が詰まる。
 抜いた“つる”を再び押し込まれる尿道には、うそのように痛みはなく、放尿と射精を逆流させるような転動てんどうした快楽が、溢れる。
「あ…ッ!、ぁ、ぁぁぁ、ァ、ァア……」
 声を、堪えようとしてもあふれていく。
 有り得なくそこをじっくりと往復されるたび、のたうち回りたくなるようなムズつく強い快感をこらえ、じっとしていようとするだけで汗が噴き出す。
「あッ、ぁあ、あっ、――ぃや、いやだ、アギレ、オ…ッ」
 縋るようにその顔を見て、頭を振ると眦から雫が散る。
 呼ぶ先のアギレオはもう目を上げていて、深く片側の唇を歪め、己が快楽をいやがる様を眺めながら、ペニスの中を狭く捏ねて楽しんでいる。
「まだだ。この先、…もう少し、…ほら、――ここだ」
「ぃィあッ!」
 身体が勝手に、跳ね上がる。
 想像だにしたことのない種類の快楽の奥に、身に馴染んだ性悦の気配がして。
「分かるか? 好きだろ? …っても、いつもは裏側からだな」
「あ、ああ、ぁ、いや、も、もう…」
 アギレオの声よりもいくらも遅れて、その意味が頭に通じる。
 尻の穴から指を入れて、あるいはアギレオのペニスのおうとつで快楽を得る、腹の裏側のしこり。泉のように悦楽を生み出すそこを細やかにいじられ、けれど、つるで擦られる得体の知れない尿道の快感もやみはせず、たまっていく熱で腹が重くすら感じる。
「ふ、ぅ、」
 こらえきれず身を捩り、あらぬ場所を苛む悦楽から逃れようと、身を伏せてシーツに這う。
「ぁッ、あぁ…!」
 伏せきれなかった脚を膝の裏から持ち上げられた、と思った途端、尻の穴に指を押し込まれて、溺れるようにシーツを掻き寄せ。
「あ、いやだ、いや…」
 どちらをどんな風に向いているのか分からない。
 片足はアギレオの肩に担ぎ上げられ、尻の穴とペニスの奥から性腺をいじめられて、這いつくばりながら快感に弄ばれ。
「は、あ、あぁ、あぁ、あぁ……い、いく…」
 全身の感覚が性感帯の頂点に集中する、絶頂の感覚が、けれど、せき止められてひび割れる。グウッと、自分でもどこから出たのかと驚くような、獣めいた唸り声が喉から漏れ。
「ヒ、ひぁ、あきれ、ぉ……」
 視界は滲み、探しているアギレオの方を向けているのかも定かではない。
「……おっと、残念、出せなかったな」
「ぃぁァ…」
 身体が、おかしい。
 尻で絶頂した時のような断続的な収斂しゅうれんが、その時ほどは大きくなく、けれど止まらず繰り返し、ヒクつくたびに悦楽の細波さざなみが全身を伝って抜けていく。
「ぃャ……ぁ……は、……ぁふ…っ」
 遊ぶように指で尻の穴を大きく広げられ、意図の届かぬところで、勝手に閉じようと息づくのがわかる。
「は……ンぃ…ぁぅ……」
 身体は次第に力が入らず、ただ性悦だけを享受したがり、シーツに縋る。
 あっという間に強烈な快楽に慣れ、終わりに辿り着かずイッたままになる心地良さに、頭まで溶けていく。
「――ハル、…おい、」
 声は、聞こえる。けれど目も上げられず。頬に触れた爪の感触をあてにするよう、頭のそばに着かれた手の甲へ頬を寄せ、聞こえていると示して。
「ヤッベエなお前、……イカせたらやろうと思ってたんだが、…平気なのか、それ?」
 言葉はゆっくりと遅れて届き、理解は気怠く。けれど、アギレオのペニスを尻に入れるかどうかと訊かれているのだと分かり、肌の裏が華やぐ。
「して……、このまま、…今、犯してくれ、アギレオ…」
 頭の内側のどこかがチリと、何かを恐れているのが分かっても、止められない。
 蜜の底に深く沈む、昏い底まで堕ちたい。
「あァ――ッ! は…ッ、んぃ、ぃィ…ッ!」
 アギレオのペニスを、いつもより大きく硬く感じる。
 肉の槍の先は太く鋭く、胴金どうがねは熱い。
 腰を掴んで尻を持ち上げられ、鈍い手足を這いつくばって、彼の槍が真っ直ぐ通るように身を据え直す。
「あッ、あう、ゥふッ、んグッ、あぐ、ぐ、う、ゥゥッ」
 高く上げた尻を怒張した勃起で突き下ろされ、両肩を後ろから掴んで押さえられる胴が固定されて、腹へと真っ直ぐに打ち込まれる衝撃がそのまま頭まで揺さ振る。
「あは、あ、あ、ああ、」
 頂はない。極めるべきところへ既に到達したまま留まらせられ、これが永遠に続くようにと願いながら、この恐ろしい快楽から解放されたく、終わって欲しいと望む。
 ハッ、と。笑うような苦しむような掠れた鋭い吐息が頭の後ろに降る。
「…あア…、…ハル、…ハル、…ああ畜生、チンポがどこにあるかも分かんねえ…」
 お前ン中、無茶苦茶だ、と、呻くような声に、薄らどこか明後日に、ただ同感がある。
「…――ハァ、ああ、」
 クッと、呻くのをこらえる低い吐息が聞こえて、甘美な予感に身がざわつく。
「ぁ、ぁぁ…、あ、ぁ……出てる…♡」
 腹の奥に射精され、それを塗りつけるようにして、すかさず掻き回される背徳的な歓びが、積み上がったオルガスムスを溶かして溢れさせていく。
 ぐずぐずに溶けた身体の真ん中に、恋人の精液を注がれていると、思い浮かべるイメージにひどく満たされた心地になったところまでは、覚えていた。


 気がついたら朝だった、という他ない。
 長く眠っていたらしい身体はどこにも違和感はなく、記憶だけが甘く気怠い。
 己の身体というのは、他者にここまで弄ばせてもいいものだろうか、
 身を起こし、ぼんやりと思い浮かべながら、まだ眠っているアギレオを見つめる。
 それでも、むずかるような身動ぎをしてから目を開き、手腕を伸ばすアギレオを見ておれば、恐れよりも色濃く、頬の方が勝手に緩む。
「おはよう」
 欠伸混じりに身を起こすのを待ってから、機を見計らい、シーツに片手を着いて淡く唇を奪って。
 そうしてしまったことが急に面映ゆく、今度はアギレオの顔を見ぬようそそくさと寝台を下りて衣服を身に着け始める。
 お、おおー…、と、妙な声の後に「はよ」などと手短な挨拶を寄越される、背のまま頷く。
 衣服を身に着け、人も疎らな薄明の下で同行の面々らと顔を合わせ。それぞれの抱えるような荷物を馬に括りつけ、帰りの道中についてどうのと穏やかな声を交わしながら、出立の支度を整える。
「よぉぉ、最後の晩飯にも顔出さねえたぁ、上手いこと仲直りできたみてえだなぁぁ」
 イヒ、と、奸悪かんあくめいた笑い声に振り返り、ナハトの顔を目にすれば、再び顔を背けてやる。乗せられた己が一番愚かであるのは確かだが、悪意ある物言いにまで頬を緩めてやる道理もない。
「物珍しい場所に来て歩き回り過ぎたようだ。食事を共にせず失礼だったな」
 フンと鼻を鳴らしてやっても、イヒィと面白がる笑いしか返さぬのが小憎らしい。
 いつか意趣返しをしてやらねばと心に誓いながら、来た時とは逆の道を馬を並べて歩き出した。
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