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26、伝言
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無理にこじ開けられた空間に踏み込み、視界を広げるよう、中央に立って辺りを見渡す。
例えば、と。リューを探す目を遮るよう、頭に思い浮かぶ。
無理矢理にでも数十人をここに押し込めば、レビの作り出した氷塊の大きさとはいかないまでも、あらゆる魔術を浴びせ放題にはできるだろう。
この場所が危険なことは明らかだが。
樹の倒れた方向と逆、この魔術を放った者、あるいは者“達”がいただろう場所へと、痕跡を逆に辿って足を進める。周囲に目を配って森を振り返り、谷のエルフは、ほとんど森から出かけていたのではないかと推測する。
魔術を放ちながら後退し、大きな魔術を使って木々を押し退ける。その、魔術をかわして術士を討たんとすれば、たやすく森から誘い出されてしまう。
魔術師が一人なら、と言ったレビの言葉を思い出し、薄く身震いする。
魔術の妨げになる入り組んだ森からおびき出された先に、待ち構えているのが一人である確率は低い。
森を抜ければ疎らな草原がしばらく広がり、見晴らしは良い。
そこに倒れている者は見当たらない。戦って再び森へ押し込まれただろうか、と足を戻しかけ。
伸びた草の間、地面に何かが光ったように見えて、早足に近づいた。
太陽の光を反射するそれへ片膝をつき、横たわっているものが何かを知って、身体が、勝手に震え始める。
およそこの辺りでは他に見たことのない、幅広で刀身の長い、大きな曲刀。先端の三分の一が折れて失われ、どうしたらそうなるのか、全体に細かな傷が無数にあって。
その柄尻に残る装飾の残骸には見覚えがあり、これが右手に握られていた刀だということも判る。
引き裂かれたような金属の装飾に気づいた途端、急に視界が晴れたように、目に入る、刀身とは別の光。
小石ほどの大きさに砕け、辺りに散らばる、緑の魔石。
キラキラと陽光を照り返す輝きが、何か遠いことのようで。
顔を上げ、森を見れば、樹々の途切れる場所から数歩も離れているのが分かって、眉間を詰めてしまう。
森から飛び出したのは、アギレオなのか。
魔術師を止めねばと考えたのかと、混乱するような頭に浮かべたところで、突然また、見つめている先に、見えていたものの違和感に気づく。
森の色ではない、白さ。
折れた刀も砕けた魔石も置き去りに駆け出しながら、肌だ、と気づき。距離が詰まってくれば、それが手だと分かる。
押し広げられた空間よりも少し奥、倒れた樹の影。
つい先ほど目にしたフランの無惨な姿が思い浮かび、背に冷や汗が伝う。
「リュー!」
だが近付いてみれば、倒れた樹同士が絶妙に支え合って空間ができていた。
まるで隠されたような格好で、ぐったりと手足を投げ出しているリューに、ひとまずは大きく息を抜き、首筋を探って脈が打っているのを確かめる。
「リュー! リュー、しっかりしろ!」
山猫の獣人らしい、しなやかな身体は芯を失ったように力なく、気を失っている。
頬を叩いてやりながら、どこかに傷があるのかと、身に絡まるような枝を押し退け、取り除いて眉を寄せてしまう。樹に叩きつけられでもしたか、大きな枝から伸びる小さな無数の枝がその細身を支えているが。
その枝が折れた“元”の切り口が、脇腹を抉って肉を削いでいる。
また衣服を裂き、傷口を押さえて縛ろうとした矢先、ビクン!と細身が跳ね。
「リュー、」
「お頭!! ――いッ、て…!」
まだ傷を縛っていない。
跳ね起きた身体を咄嗟に押さえつけようとした手が、目覚めて真っ先に口にされたその言葉に一瞬遅れ。その間など待たぬよう、起き上がり、あっという間に走り出すリューを、慌てて追う。
「待て! 待て、リュー! 先に血を止めなくては!!」
木々が押し退けられた場所に立って草原の方を見る背を追うも、また走り出すのに、振り回される。
「リュー!」
「リー! リーッ!! リー、お頭が! お頭がッ!!」
「待てリュー! その怪我で走るな!!」
速いが、明らかに普段の速さではない。己の足でも容易く追い着く、と、手を伸ばしたと思う目の前で、細身が視界から消える。
「…!!」
ザザッと草を分ける音が離れていくのに、一瞬遅れて、獣に変じたのだと理解する。山猫は一際小柄だ、足音も少ない。
「ハル! いるか!」
青ざめながら音を聞き分ける耳に声が届いて、ハッと顔を上げる。
「ここだ! リュー! リュー、リーはここだッ! リュー!!」
狼の姿ではない、剣を抜いたヒトの姿で木々の影から現れたリーに、けれどそれよりも、と、声を張りながら周囲を見渡す。リューの止血をしてやらなければ。
「これはなんだ…! 何があったんだ、ハル…!」
「リー!! リー、お頭がッ…!」
「リュー! この、馬鹿者…ッ」
目を剥くリーの傍に、突然のようにリューが現れ、けれど何か言いかけてよろめき、たたらを踏むのを駆け寄って支える。
リーの顔を見て安心したのか、そのまま腕に預けられる身体を支えながら腰を下ろし、思った通りまた溢れている出血を止めにかかる。
「なんだこれは…。アギレオはどうした…」
呆然とするリーの声に、目を向けぬまま頷く。傷を縛りながら、だが開く口はリューの方が早い。
「リー、お頭……お頭が…」
みるみる青ざめ、紙のように白くなる頬に、あふれる涙が伝う。
その続きを、聞くのが恐ろしく、だが、聞き出さねば済まず、黙って歯噛みしながら処置の手を動かし。
「おか、お頭が……リーに伝えろって…、……次の、頭を決めろって……」
一瞬。
言葉を失うばかりか。
理解が追い着かない。
アギレオが、砦の頭領を降りると言ったのか。
否。
否、そうではない。そうではない…。
折れた刀と、砕けた魔石が脳裏に過ぎる。魔石をはめ込んでいた金属の装飾は潰れ千切れて。
奇妙な具合に、その周りの草が風に吹かれて揺れていたことを鮮やかに思い出す。
「…アギレオは、死んだのか……」
あの男が、何か確信もなく、次の頭領を決めるようになどと、言伝てるだろうか。
「――ッざけんな! お頭が、…ッ、お頭が、死ぬわけ、ねえ…」
噛みつくような、というには弱いリューの声が、遠い。腕に抱いているはずなのに、姿が見えず、揺れる草の間で地面に転がっていた刀ばかりが頭を占める。
「――…待て。…待て、リュー。アギレオはどこだ…」
リーの声が聞こえる。沈んで、震える、何かを拒むような掠れた声。
「…まだ喋れるか。…どこでそれを聞いて、それからどうしたんだ」
そうだ。アギレオはどこに。
探さなくては、と、無理のように言い聞かせる頭が、グラグラと揺れているように感じる。リーの声が遅れて届き。
「…――いた! おい、こっちもだ! もっと呼んでこい!」
ああ、ケレブシアだ。
木と草を分けるようにして現れた、彼が誰かに怒鳴っている声も、遅く、遠い。
まるで、悪夢のような光景だ。
だが、身慣れた景色でもある。
砦中に転がるオークの骸も片付け終わらぬ内に、運び戻された獣人達の遺体や重傷者。処置と処理で全ての手を取られ、そこここで怒鳴り声が上がる。
「生死が定かではないのだ! 探しに行かなければ!」
「行かないとは言ってないだろうが! 今は手を割けない!」
リーが惨状に手を取られていると理解しながら、声を抑えることができず、道端に立ったまま怒鳴り合うような格好になってしまう。
片腕を逆の手で掻き毟るようにしながら、イライラと歩き回るリーに、食い下がる己が錘のようで。
半ば意識を失いながらリューの話した言葉を繋ぎ、戦況の終わりをようやく掴んだ。
仲間が倒されても獣人達を誘い出すことに徹底した谷のエルフ達が、数人がかりで何か大きな魔術を放ったらしい。充分に引きつけてから放たれた魔術に半数が巻き込まれ、また数人は倒木の餌食になった。
混乱し後退しようとする獣人達へ、谷のエルフの反撃が始まり、また共に多くが倒れたようだ。
雨のように魔術を降らせる術師を食い止めようと飛び出したのはリューで、夢中になり、また、空間が変えられたせいで森の境が分からなくなったのかもしれない。
気を失う前にリューが見たのは、彼を引っ掴んで投げ飛ばし、森へと戻したアギレオが、数人の魔術師を瞬く間に斬り伏せたこと。
だが、その向こうに、すでに詠唱を整えた術師がまだいくらもいたこと。
木に叩きつけられたリューが、気を失う前に聞いた、アギレオからリーへの言伝。
最早浴びる他ない魔術の前に立ち塞がるアギレオが、何を考えたかは明らかだ。
「だが、連れ去られたのなら…! リューが見たのが確かか分からずとも、実際にアギレオはいなかった!」
「分かってる!! 分かってるって言ってるだろう!! だが、アギレオは、……ッ!」
詰まる声の続きを待ち、混乱の収まらない頭を少し掻き回す。
リューは、谷のエルフ達がアギレオを引きずっていくのを見たと話した。
気を失う前に見たものは、魔術を浴びるアギレオのはずで、辻褄が合わない。だが。
「…次の頭を決めろ、ってのは……」
何度目か、繰り返される、アギレオの最後の言葉。顔を上げて立ち止まったリーを見て、けれど、彼の言葉の先は予想もつかず、眉を寄せる。
「…――諦めろってことだろう…」
強かに頭を打ちつけられたような衝撃に、目の前が暗くなり、そして、腑に落ちる。
死を予感しただろうアギレオは、別れを告げたのではない。
自分のことを諦め、砦を立て直せと、最後の命を発したのだ。
グルグルと、本当に、視界が回っている。
陽が落ちて、そこここに灯りの点った砦。いつもなら食堂から漂ってくる芳香の代わりに、血と泥の匂いが満ち。そんな中、リーはアギレオの意図を汲み、否、汲まずとも。まさに今、砦を立て直さんとしている。
「分かった。忙しいのに騒ぎ立ててすまなかった。私はもう一度森を見てくる」
では、己は。
「おい、ハル! ハル! …~~ッ、」
踵を返して森へと向かう、背にリーの声が追ってきて、離れていく。
「妙な気を起こすなよ!! なあ! ハル!!」
明日また話そう!と、聞こえるリーの声に、頭の中で何かが「何を」と、ぽつりと呟く。
アギレオを見つけなければ。
歩く度に、一歩ごと、焦りや恐れや、混乱も目眩も落ちていき。
ただ、どこかが何か、ひどくさみしい。
アギレオを、見つけなければ。
例えば、と。リューを探す目を遮るよう、頭に思い浮かぶ。
無理矢理にでも数十人をここに押し込めば、レビの作り出した氷塊の大きさとはいかないまでも、あらゆる魔術を浴びせ放題にはできるだろう。
この場所が危険なことは明らかだが。
樹の倒れた方向と逆、この魔術を放った者、あるいは者“達”がいただろう場所へと、痕跡を逆に辿って足を進める。周囲に目を配って森を振り返り、谷のエルフは、ほとんど森から出かけていたのではないかと推測する。
魔術を放ちながら後退し、大きな魔術を使って木々を押し退ける。その、魔術をかわして術士を討たんとすれば、たやすく森から誘い出されてしまう。
魔術師が一人なら、と言ったレビの言葉を思い出し、薄く身震いする。
魔術の妨げになる入り組んだ森からおびき出された先に、待ち構えているのが一人である確率は低い。
森を抜ければ疎らな草原がしばらく広がり、見晴らしは良い。
そこに倒れている者は見当たらない。戦って再び森へ押し込まれただろうか、と足を戻しかけ。
伸びた草の間、地面に何かが光ったように見えて、早足に近づいた。
太陽の光を反射するそれへ片膝をつき、横たわっているものが何かを知って、身体が、勝手に震え始める。
およそこの辺りでは他に見たことのない、幅広で刀身の長い、大きな曲刀。先端の三分の一が折れて失われ、どうしたらそうなるのか、全体に細かな傷が無数にあって。
その柄尻に残る装飾の残骸には見覚えがあり、これが右手に握られていた刀だということも判る。
引き裂かれたような金属の装飾に気づいた途端、急に視界が晴れたように、目に入る、刀身とは別の光。
小石ほどの大きさに砕け、辺りに散らばる、緑の魔石。
キラキラと陽光を照り返す輝きが、何か遠いことのようで。
顔を上げ、森を見れば、樹々の途切れる場所から数歩も離れているのが分かって、眉間を詰めてしまう。
森から飛び出したのは、アギレオなのか。
魔術師を止めねばと考えたのかと、混乱するような頭に浮かべたところで、突然また、見つめている先に、見えていたものの違和感に気づく。
森の色ではない、白さ。
折れた刀も砕けた魔石も置き去りに駆け出しながら、肌だ、と気づき。距離が詰まってくれば、それが手だと分かる。
押し広げられた空間よりも少し奥、倒れた樹の影。
つい先ほど目にしたフランの無惨な姿が思い浮かび、背に冷や汗が伝う。
「リュー!」
だが近付いてみれば、倒れた樹同士が絶妙に支え合って空間ができていた。
まるで隠されたような格好で、ぐったりと手足を投げ出しているリューに、ひとまずは大きく息を抜き、首筋を探って脈が打っているのを確かめる。
「リュー! リュー、しっかりしろ!」
山猫の獣人らしい、しなやかな身体は芯を失ったように力なく、気を失っている。
頬を叩いてやりながら、どこかに傷があるのかと、身に絡まるような枝を押し退け、取り除いて眉を寄せてしまう。樹に叩きつけられでもしたか、大きな枝から伸びる小さな無数の枝がその細身を支えているが。
その枝が折れた“元”の切り口が、脇腹を抉って肉を削いでいる。
また衣服を裂き、傷口を押さえて縛ろうとした矢先、ビクン!と細身が跳ね。
「リュー、」
「お頭!! ――いッ、て…!」
まだ傷を縛っていない。
跳ね起きた身体を咄嗟に押さえつけようとした手が、目覚めて真っ先に口にされたその言葉に一瞬遅れ。その間など待たぬよう、起き上がり、あっという間に走り出すリューを、慌てて追う。
「待て! 待て、リュー! 先に血を止めなくては!!」
木々が押し退けられた場所に立って草原の方を見る背を追うも、また走り出すのに、振り回される。
「リュー!」
「リー! リーッ!! リー、お頭が! お頭がッ!!」
「待てリュー! その怪我で走るな!!」
速いが、明らかに普段の速さではない。己の足でも容易く追い着く、と、手を伸ばしたと思う目の前で、細身が視界から消える。
「…!!」
ザザッと草を分ける音が離れていくのに、一瞬遅れて、獣に変じたのだと理解する。山猫は一際小柄だ、足音も少ない。
「ハル! いるか!」
青ざめながら音を聞き分ける耳に声が届いて、ハッと顔を上げる。
「ここだ! リュー! リュー、リーはここだッ! リュー!!」
狼の姿ではない、剣を抜いたヒトの姿で木々の影から現れたリーに、けれどそれよりも、と、声を張りながら周囲を見渡す。リューの止血をしてやらなければ。
「これはなんだ…! 何があったんだ、ハル…!」
「リー!! リー、お頭がッ…!」
「リュー! この、馬鹿者…ッ」
目を剥くリーの傍に、突然のようにリューが現れ、けれど何か言いかけてよろめき、たたらを踏むのを駆け寄って支える。
リーの顔を見て安心したのか、そのまま腕に預けられる身体を支えながら腰を下ろし、思った通りまた溢れている出血を止めにかかる。
「なんだこれは…。アギレオはどうした…」
呆然とするリーの声に、目を向けぬまま頷く。傷を縛りながら、だが開く口はリューの方が早い。
「リー、お頭……お頭が…」
みるみる青ざめ、紙のように白くなる頬に、あふれる涙が伝う。
その続きを、聞くのが恐ろしく、だが、聞き出さねば済まず、黙って歯噛みしながら処置の手を動かし。
「おか、お頭が……リーに伝えろって…、……次の、頭を決めろって……」
一瞬。
言葉を失うばかりか。
理解が追い着かない。
アギレオが、砦の頭領を降りると言ったのか。
否。
否、そうではない。そうではない…。
折れた刀と、砕けた魔石が脳裏に過ぎる。魔石をはめ込んでいた金属の装飾は潰れ千切れて。
奇妙な具合に、その周りの草が風に吹かれて揺れていたことを鮮やかに思い出す。
「…アギレオは、死んだのか……」
あの男が、何か確信もなく、次の頭領を決めるようになどと、言伝てるだろうか。
「――ッざけんな! お頭が、…ッ、お頭が、死ぬわけ、ねえ…」
噛みつくような、というには弱いリューの声が、遠い。腕に抱いているはずなのに、姿が見えず、揺れる草の間で地面に転がっていた刀ばかりが頭を占める。
「――…待て。…待て、リュー。アギレオはどこだ…」
リーの声が聞こえる。沈んで、震える、何かを拒むような掠れた声。
「…まだ喋れるか。…どこでそれを聞いて、それからどうしたんだ」
そうだ。アギレオはどこに。
探さなくては、と、無理のように言い聞かせる頭が、グラグラと揺れているように感じる。リーの声が遅れて届き。
「…――いた! おい、こっちもだ! もっと呼んでこい!」
ああ、ケレブシアだ。
木と草を分けるようにして現れた、彼が誰かに怒鳴っている声も、遅く、遠い。
まるで、悪夢のような光景だ。
だが、身慣れた景色でもある。
砦中に転がるオークの骸も片付け終わらぬ内に、運び戻された獣人達の遺体や重傷者。処置と処理で全ての手を取られ、そこここで怒鳴り声が上がる。
「生死が定かではないのだ! 探しに行かなければ!」
「行かないとは言ってないだろうが! 今は手を割けない!」
リーが惨状に手を取られていると理解しながら、声を抑えることができず、道端に立ったまま怒鳴り合うような格好になってしまう。
片腕を逆の手で掻き毟るようにしながら、イライラと歩き回るリーに、食い下がる己が錘のようで。
半ば意識を失いながらリューの話した言葉を繋ぎ、戦況の終わりをようやく掴んだ。
仲間が倒されても獣人達を誘い出すことに徹底した谷のエルフ達が、数人がかりで何か大きな魔術を放ったらしい。充分に引きつけてから放たれた魔術に半数が巻き込まれ、また数人は倒木の餌食になった。
混乱し後退しようとする獣人達へ、谷のエルフの反撃が始まり、また共に多くが倒れたようだ。
雨のように魔術を降らせる術師を食い止めようと飛び出したのはリューで、夢中になり、また、空間が変えられたせいで森の境が分からなくなったのかもしれない。
気を失う前にリューが見たのは、彼を引っ掴んで投げ飛ばし、森へと戻したアギレオが、数人の魔術師を瞬く間に斬り伏せたこと。
だが、その向こうに、すでに詠唱を整えた術師がまだいくらもいたこと。
木に叩きつけられたリューが、気を失う前に聞いた、アギレオからリーへの言伝。
最早浴びる他ない魔術の前に立ち塞がるアギレオが、何を考えたかは明らかだ。
「だが、連れ去られたのなら…! リューが見たのが確かか分からずとも、実際にアギレオはいなかった!」
「分かってる!! 分かってるって言ってるだろう!! だが、アギレオは、……ッ!」
詰まる声の続きを待ち、混乱の収まらない頭を少し掻き回す。
リューは、谷のエルフ達がアギレオを引きずっていくのを見たと話した。
気を失う前に見たものは、魔術を浴びるアギレオのはずで、辻褄が合わない。だが。
「…次の頭を決めろ、ってのは……」
何度目か、繰り返される、アギレオの最後の言葉。顔を上げて立ち止まったリーを見て、けれど、彼の言葉の先は予想もつかず、眉を寄せる。
「…――諦めろってことだろう…」
強かに頭を打ちつけられたような衝撃に、目の前が暗くなり、そして、腑に落ちる。
死を予感しただろうアギレオは、別れを告げたのではない。
自分のことを諦め、砦を立て直せと、最後の命を発したのだ。
グルグルと、本当に、視界が回っている。
陽が落ちて、そこここに灯りの点った砦。いつもなら食堂から漂ってくる芳香の代わりに、血と泥の匂いが満ち。そんな中、リーはアギレオの意図を汲み、否、汲まずとも。まさに今、砦を立て直さんとしている。
「分かった。忙しいのに騒ぎ立ててすまなかった。私はもう一度森を見てくる」
では、己は。
「おい、ハル! ハル! …~~ッ、」
踵を返して森へと向かう、背にリーの声が追ってきて、離れていく。
「妙な気を起こすなよ!! なあ! ハル!!」
明日また話そう!と、聞こえるリーの声に、頭の中で何かが「何を」と、ぽつりと呟く。
アギレオを見つけなければ。
歩く度に、一歩ごと、焦りや恐れや、混乱も目眩も落ちていき。
ただ、どこかが何か、ひどくさみしい。
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