星に牙、魔に祈り

種田遠雷

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42、違和感

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 首筋や胸を舐め、ペニスを素通りで尻の穴を弄りたがる指に任せながら、伏せる頭を抱いて髪や角にくちづける。
 たっぷりと練り薬を塗り込まれ、濡らして、ほぐして、手荒いながらもしつこく掻き回されて、背を捩った。
「っ、う――ッ!」
 熱くなる身体がゆるみ、開いていくのを知るさなかに、予期よりも早いタイミングで指が抜かれ。入れ替わりのように太く突き刺されて、制御の及ばぬところで身が強張る。
「っ、」
 浅い舌打ちが聞こえ、少し驚いて目を上げ。
 眉を寄せたアギレオの顔に、こちらの眉が下がってしまう。
「――ああ畜生、……悪ぃ…」
 痛くなかったか、と、掠れる吐息のような声で問われて、わずかに戸惑う。
 手をやり、こめかみを包むようにしながら指を伸ばして、力の入っている眉を親指で撫で。
「…平気だ。…、…お前は?」
 それを乱暴にされると、これほど慣れた今でも、痛みがないわけではないが。
 そうしておいて、お得意の片笑みでも浮かべるならともかく、そんな風に言うアギレオの様子の方が、なにか。
 不安に変わりそうな、小さなとげのようなものが胸に残る。
「……どうにも…元気になり過ぎみてえだな…」
 顔を伏し、首筋をしゃぶりながらの苦い声が、耳に近い。
 夜闇に半ばも溶けた天井を見上げ、目を閉じて。頬を緩め。腰を使って腹の中を荒らしながら、脈を押さえるように噛みついている頭を、両腕で抱く。
「私は平気だ…」
 丈夫に出来ているからな、と、おどけるように言えば、きっと笑ったのだろう、吹きかけられる吐息はあたたかく、唾液で濡れた肌が少しだけ冷たい。
「ン……、」
 猛りすぎぬよう堪えてか、繰り返し首筋に噛みつきながら、腹の中を突き上げられ。
 まだ勝る息苦しいような感覚を、快楽が塗り替えるのを待って、抱いた髪に少し頬を擦りつける。
 声も無く吐息ばかり互いに混じらせて。開ききらぬまま押し込まれたせいで違和感の強い腹の中、自らの悦を擦りつけて掘り返すような熱い怒張が、柔肉を濡らして、ゆっくりと溶かしていく。
 尻に出入りする雄は太く反り返り、ほどけていくような下腹が重くなる。
「んっ、」
 首筋にチリとした痛みが走って、目を開く。
 平らで固い歯列が食い込む感覚よりも、尖って鋭い。
 ああ、牙が伸びてきているのか、と。
 回復していくアギレオの様子に胸を緩め、もう一度目を閉じた。
「っあ!」
 貪るような乱暴さでこじ開けられていく内筒の半ば、肉棒のおうとつに性腺を掻かれて、背が跳ねる。
「っく、ぅぅ、ふ、ゥ、う…、ンぁッ」
 道筋を得たよう、繰り返し繰り返し突き上げられ。
 引き摺って押し上げられるよう極める頂に、あられもない声を上げた。

「なに? 虫刺され?」
 今日は鍛錬に時間を割ける者がないと聞いて、レビの仕事を一日手伝っていた。
 もう日も暮れる頃だ、今日のところはこの辺りで、と片付けながら話すさなかに声を掛けられ、うん?と顔を上げる。
「ああ…、…そうだな。多分そうだ」
 行儀悪く襟に突っ込んでいた手を抜いて、衣服の上から首元を撫でる。意識するほどでもないが、わずかな掻痒そうようが広くあり、つい手で触ってしまっていた。
「消毒やるよ。掻くよりたびたび薬塗った方がいいぜ」
 ありがとう、と、差し出される薬入れを受け取り。懐に収め、片付けを終えると、レビの家を後にして歩き出す。
 鏡を見て確かめてはいないが、かゆみの原因は分かっている。
 近頃早朝に目を覚ますせいもあって、いつ眠るのかというほど、夜中よるじゅう己を押さえつけていた男が犯人だ。
 どうも、牙の伸びるのにしたがって、噛みつきたがることが多くなった。
 それも最初の頃は甘噛み程度であったものが、次第に力がこもるようになり、今日は、一夜明ければ首から胸がアギレオの歯形だらけという有様だ。
 眠る時間も短いようだし、回復してきて好調すぎて、とも言いがたいように思えて。
 顎など撫でながら食堂へと向かう先に、欠伸しながら歩いている灰髪の男を見つけて、呼び止めた。
「リー、少しいいだろうか」
「…んガ、ふぁ…。ん、悪い。どうした?」
 答えようとして邪魔したらしい欠伸に、少し笑ってしまう。
 夜の食事へと集まる人間達と獣人達のつくる流れから、二人で少し離れ、話を切り出した。
 アギレオのことだ、と口火を切れば、うんと相槌を打つリーの表情は、予想していたとも意外とも取れぬ微妙なところだ。
「ここ数日、欠かさず朝早く出かけてしまうのだ。それ自体は大いに結構なんだが…、」
 寝台での仕草が、などとリーに打ち明けるのははばかられ、ひとつ思案してから、顎をひねる。
「どう言い表したものか…。目が覚めてしまったから、夜の面々と話でもすると言って出て行くのだが、どうだろう。私の思い過ごしだろうか、リーから見てアギレオは変わりないか?」
 水を向ければ腕組みし、顎をさすりながら一考の間を置くリーの様子に、思い当たるところがあるのだろうか、と息をついて待ち。
 ううん、と、ひとつ唸ってから顔を上げ、まずな、と持ち出されるのに、相槌を打つ。
「何日か前と昨日は確かに会ったが、毎日起きてきてるとは思わなかった」
 えっと声が出るのにリーが頷いて返し、俺が会ってないだけってこともあるかもしれないけどな、と付け足されるのに、可能性はある。と、首肯を重ね。
「……様子は、そうだな…様子か…。少し機嫌が悪いのかと思ったことはあったんだが、うーん…。なんとなく浮ついてるだけで、言うこともやることもおかしくはないから、単に虫の居所でも悪かったかと」
 なるほど、と頷いたところに、あんなことの後だしな、とリーが肩を竦めるのに、それはそうだともう一度頷く。
「ありがとう、リー。どうということもないのかもしれないが、一度本人によく確かめてみよう」
 やはり、まだまだ本調子でないというだけかもしれない、と内心少し首をひねり。
 変わったことがあるようなら俺にも知らせてくれ、と言うリーに承知し、再び足を向けて食堂へと道を共にした。

 食堂で腰を下ろせば、姿を見せないアギレオに唸るような心地ながら、これも機かと、今度は昼の労働をアギレオと共にしている人間の男へと、さり気なく話を向けた。
 そうして聞き出したところによれば、“なんとなく上の空かと思ったが、話しかければ返答もあり、仕事にも差し障りは出ていない”
 リーとほとんど変わらぬ印象の上、昼の男が付け加えたところによれば、むしろ以前より身体の調子はよさそうで、目に見えてよく働くという。
 自分が抱いている違和感も含めて、みなが同じように感じているということか。
 家に戻って、まだ帰らぬアギレオを待ちながら、沸かした湯で薬草茶を煎れる。
 あえて気になるところを挙げるとすれば、こうして、行方の分からぬ時間があることだろうか。
 とはいえ、と思案しながら、椅子に腰を下ろして掌でカップを包み、肌を温める。
 短時間の不在だ、砦の頭領であることを置いても、れっきとした成人であるのに、いちいち取り沙汰すようなことでもない。どこでどうしていたなどと問い詰められれば、むしろうっとうしいくらいの些細なところでもあるだろう。
 だが、違和感は、いつも正直なものだ。
「帰ったぜ」
 玄関の扉を開く音にも、告げる声にもおかしいところはないな、と、つい聞き耳など立ててしまう自分が煩わしい。
 おかえり、と声を掛ければ相槌の声もあり、じっと目で追う己に、なんだよ?などと眉を上げるのも、見慣れた顔でしかない。
 飲むかと尋ねれば応が返り、アギレオの分の薬草茶を注ごうと立ち上がる。
 入れ替わりに椅子に掛けるアギレオの手が髪に触れ、笑う息など少しこぼして。あたため直すかと問えば、そのままでいいと答えがあって、ポットからカップへと薬草茶を移す。もう熱くはないが、腹を温めるには充分だろう。
 食卓に両手とも置いてぼんやりしているアギレオの前にカップを配って、
「――ッ!?」
 戻そうという意識ほどもない、カップを置いて空いた手首を途端に掴まれ、思わず息を詰める。
 握る手の強さにも驚いたが、掌がつめたい。
 髪が湿っているから風呂に入ってきたのだろうと考えていたのに、その意外さに思わず開く目が、アギレオの動きを追ってめまぐるしくなる。
 椅子をはねのけるような勢いで立ち上がり、かと思えばもう、その腕に背を抱き取られ、食卓に押しつけるようにして捕まっている。
「なんだ、どうし」
 噛みつくように唇を塞がれ、声の続きが途切れる。
「んっ」
 唇を味わう間もなく、こじあける様子で舌を割り入れられる。無理ということもないのだが、とにかくこちらの意よりも早く、アギレオの意のままにされてしまう。
 そして、身体が冷たい。
 口の中を探って舐め回す舌を熱く感じるほど、唇と、押しつけられる胸も冷ややかで。身体に触れて確かめたくとも、咄嗟に身動きが取れない。
「…っ!」
 一体何をどうされているのかと、我知らず我が身を探るような意識に触れる。膝で押しのけ開かされた足の間、衣服越しにペニスを圧する固さ。
 勃起している、と気づけば、羞恥と戸惑いと、それに言いがたい卑猥な感情で、カッと全身が熱くなって。
 なんとかアギレオを抑制して、一体何事かと問いただしたい気持ちと、この熱をとにかく今すぐ受け入れむさぼりたいという欲望がせめぎ合う。
「アギレオ、」
 息をつごうと大きく開く口の隙間、魚が浮かす泡ひとつのよう、浮いた声がそのまま曖昧になる。
 口を開き、狭い口内をそこら中に舌を這わせて探りたがるのに任せ、誘うように舌を絡ませては、互いに舌と唇を吸い合って。
 アギレオの唇も、掌も、すぐにあたたまって熱くなるのに、安堵する。
 手を伸ばし、こじ入れるようなアギレオの尻を掴んで、それを支えにするよう己の股座またぐらを擦り寄せ。
 昂ぶっていく劣情を互いに煽り合うよう、身体をすりつけ合い、掌で撫で回し、舌と唾液を貪り合っては、交換のように飲み込んだ。
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