55 / 74
52、ラウレオルンの懸念
しおりを挟む
「で、使者に来たエルフにゃ聞いてねえで済まされたんだが。谷のエルフがもう来ねえなら、そのためにあの場所に砦を築いた俺らはどうなる? 用済みか?」
口の利き方というものを、と、喉まで出掛かるが、ひとまずは唇を結んだままで、ため息は腹に隠し。
「否や。元より、そなたらに任せたのは“境の森の守備”であり、ベスシャッテテスタル軍の斥候を退けることは、その務めの内のひとつだ。気がついたことかと思うが、元より、国境の守備には魔物や獣などの害の方が恐ろしく、また頻繁でもある。引き続き、国と民とを守る役目に励んでもらいたい」
わかった、と応じるアギレオから目線を外し、己も改めて気を引き締める心持ちで、王へと礼を捧げた。
「時に、そなたらにわざわざ足を運ばせたのは、引き続き国境の守護を頼むためではないのだ」
穏やかだった王の声が僅かに色を変え、続きは思い及ばず顔を上げて待ち、隣ではアギレオとレビが顔を見合わせているのも窺い知れる。
「砦に姿を現すという、鉱人に会わせてもらえるか」
「…コウに? …そりゃ呼ぶのは構わねえが。あいつに何の用だ?」
思いがけぬ王の言葉に、一拍おいてからアギレオが首を傾げる。だが、己の方では、思い当たることがなくもない。
唇を結んだまま、二人のやりとりに耳を傾け。
「コウと呼ばれているのだな。エルフの力を封じるという赤鉄について、話しておきたいのだ」
なるほどな、と、アギレオが頷く。だが、ラウレオルンはアギレオの返答は待たず、玉座から立ち上がると、そのままひな壇から下り、数歩進み出た。
「ヒトによって名付けられし稀なる鉱人、コウよ。余はクリッペンヴァルトの王、ラウレオルンという。ここで相まみえ、話をさせてはもらえぬだろうか」
凜と、玉座の間に鳴り響くような声に、アギレオは元より、ハルカレンディアもレビも目を剥き。思わず息を飲んで見守る。
「おっ…おお…、…構わねえが、呼んだからっていつもすぐ現れるってわけじゃ…」
圧倒された様のアギレオが言うそばから、目を疑うような光景が現れ、その場にいる全員が声を失う。
間違いなく地上から離れた高さにある玉座の間の、石造りの床。中央に敷かれ玉座への道をなす絨毯を避けたよう、その脇に、バキリと音を立てて大きなひびが入る。
バキバキバキッと、石を割るというよりは樹を折り裂いたような音がして、ひびが広がり石が砕け、瞬く間に人の肩が入るほどの大きさに穴が空く。
この砕けた石が盛り上がったかと目を丸くして見守る内に、石のつぶてがパラパラとこぼれて、よっこいしょとでも言いそうな仕草で、ヒトの形をしたものが穴から立ち上がって出てくる。
毛髪のない頭部、灰色がかった肌、瑠璃紺の瞳を忙しなくまばたき、おろおろと辺りを見回してから、知古の顔を見つけてのたのたとアギレオに駆け寄る一人の鉱人。
「アギレオ、アギレオ、」
「コウ、おま、おま、」
「アギレオ、どうした、どうしたこれ、声だ、すごい声、すごい声した。すごい声、金の道なった。アギレオなにしてる?」
「鉱人よ、乱暴な術を用い、失礼した。そなたの名を呼んだのは、余だ」
さきほどの声が嘘のように穏やかに呼びかけられ、コウがくるりと振り返る。アギレオを背に踵を返すが、一歩、エルフの王へと足を向けただけで、進みはせず。
うん、うん、と大きく頷いてみせる。
「エルフの王様のエルフ。森の精霊、道あけた。道あける、珍しい見た」
左様、と、ラウレオルンが頷いて返す。
「森の精霊とエルフとの間には、互いを守る誓いがあるゆえ。本来であればこちらから出向くべきところ、姿を見せてくれたこと、感謝する」
胸に手を置き礼を取るラウレオルンを、うん、うん、と更に頷き、言葉は次がずコウが見上げ。
「招いたのは他でもない。この、アギレオとハルカレンディアにそなたが使わせた、赤鉄というものの話だ」
「うん、赤鉄、アギレオに貸した。黒い髪のエルフにも貸した。ほとんどもう、返してもらった」
ラウレオルンとコウに目を向けられ、ハルカレンディアがはいと短く肯き、前の砦にまだあんだっけ…?と、アギレオが首を傾げ。
「この赤鉄について知る者が、他にもあるであろうか?」
あの矢か、と、レビが声を潜めて尋ねるのに、ハルカレンディアが音も無く頷くやりとりは小さく。
「うーん、見たもの、いる。ドワーフ山掘る、山の下、深いと見るものある」
きょとんと目を瞬きながら見上げられ、ラウレオルンが身を下げ、片膝をついてコウに目を合わせる。
跪いた王の姿に、玉座の間のあちこちに控える近衛兵たちが小さくざわつき。
「左様か……。鉱人よ、そなたに頼みたい。赤鉄なる石、選んで用いる者は現在おらぬと聞いている。誰の暮らしも妨げぬならば、この赤鉄、再びヒトや魔物の目に触れることなきよう、なお地中深くへ隠してしまえぬだろうか」
うん、とひとつ頷いてから、だがコウは首を傾げ。
「もっと深く、できる。かくすできる。王様のエルフ、赤鉄いやか。森の精霊、赤鉄きらい。王様のエルフも赤鉄きらいか」
否、と、ラウレオルンが首を横に振る。
「そうではないのだ。森の精霊の加護を封じる赤鉄は、使いようによっては、エルフ達をひどく苦しめることができる。それも、ごく容易く、無制限に長くすら」
オオ、と息を吸い込みおののくコウに、ラウレオルンは深く頷いた。
「力あるエルフを、そのように深く苦しめるものがあること、世に災いを招きかねぬ。エルフが滅びるまで、あるいは余が肉の身体を失うまで、コウが心変わりするまででも構わぬ。これを誰の手にも触れぬようしてもらえぬだろうか」
うん、うん、と間を置きながら、ラウレオルンの言葉に頷き。コウが、最後にもうひとつ、大きく頷く。
「王様のエルフ、みんなのこと心配だな。王様のエルフ、いいやつ」
これはかたじけない、と笑うラウレオルンに、改め、コウが再び頷いた。
「赤鉄かくす。鉱人、石のこと、うまくできる。赤鉄見るもの、いなくなる」
は、と、短い息を大きくついて、ラウレオルンがその顔をいっそう輝かせ。
「コウよ、心より礼を言う…! これは、エルフにとって大きな助けになるのだ。そなたの名をクリッペンヴァルトの歴史に刻み、必ず語り継ごう」
「鉱人、名ない。言葉うまくない。かたり? なくてもいい」
何のことか分からない、とでもいう様子のコウに、左様か…、と顎に手をやって、ラウレオルンは少し首を傾げ。
「では“砦の鉱人”として、この恩を記すのは構わぬだろうか」
オオ、と、今度は明るく声を上げて、うん、うん、と鉱人はまた頷いた。
「とりでの鉱人、いいな。鉱人、とりで好きだ。とりでの船長、恩ある。とりでの鉱人、いい」
「左様か。では、そのようにさせてくれ」
「うん、うん。赤鉄かくす。鉱人、とりでの鉱人、書かれる。王様のエルフ、やくそくしよう」
「ああ。約束しよう」
改めて立ち上がり、恩に着る、と胸に手を置いて額を下げるラウレオルンに、うんうんとコウが頷き。
ひび割れ丸く空いた穴に、鉱人が、よっこいしょとばかり足を踏み込むと、みるみる内にその姿が石の床に飲み込まれ。ゴリゴリという奇妙な音と共に、穴も、割れ目も、ひびすらも何事もなかったように消え失せた。
「アギレオ、そなたにも礼を言おう。心煩いがひとつ晴れた」
おう…と、短い声を返すばかりのアギレオだけでなく、しばしの間、その場にいるものがそれぞれ呆気にとられ、玉座へと戻るラウレオルンや、傷一つの痕跡も残らぬ石の床をまじまじと見つめる。
「さて、ではコウとの約束通り、“砦の鉱人”に受けた恩を記しておこう。ハルカレンディア、」
名を呼びかけられ、ハルカレンディアの上げる顔に、ラウレオルンは隣のレビを目で示し。
「記録のため積史館を開く。ケレブシアを案内してやっては如何だ」
ハッと短く応じるハルカレンディアの隣で、レビが、えっと小さく声を上げる。
「積史館…!? ほんとに!? 入っていいのか…!?」
「記録を留める間の短い時であるが、見学してゆくがよい」
すごい!やった!と、小声で盛り上がるレビをよそに、ハルカレンディアがアギレオを振り返り。肩を竦めるアギレオに、少し笑いながら頷いて。
「積史館というのは、図書館に収められていないような、ありとあらゆる歴史的記録が保存されている施設だ。国の機密に関わるようなことも多く、普段は開かれてすらいない。…魔術師にとっては、宝物庫も同然というわけだ」
「…ふゥン?」
「許されるだけの時ではあるが、ケレブシアは可能な限り滞在したいだろうから。……お前もゆっくりするといい」
「……へいへい。そうするしかなさそうだな」
諦めたように鼻で息をつくアギレオに、ハルカレンディアは苦笑する。悪いようにはなさらないだろう、と小さく笑って励ましてから、レビに声を掛け、玉座に向かって一礼すると、踵を返した。
興奮して何かしゃべっているレビと、私も数えるほどしか、と穏やかに応じているハルカレンディアの背も、玉座の間の扉から、向こうへと遮られて。
一人取り残されたアギレオが、腕組みしたまま、浅く肩を竦めた。
「…で? 俺なんぞに、どんな御用がおありなんだかな」
ごく体よく、だがあからさまに仲間を人払いにされ、やれやれといった風に大きく息などついてみせるアギレオに、ラウレオルンは笑みを浮かべる。
パチン、と指を弾いて鳴らせば、アギレオのすぐ横に、ありふれた、だが美しい曲線を持った椅子が現れた。
「なに、若き魔術師の研鑽に時間をやると思い、年寄りの昔話の相手でも願えぬだろうか。よければ掛けてくれ」
「走って逃げれる場所でもなし」
どうにでもしろよ、と、頭を振りながら椅子に腰を下ろすアギレオに、そう構えることもあるまい、と、ラウレオルンの表情は楽しげで。
「先の、鉱人のコウ…。彼に語った話、頼んだことには、理由があるのだ」
口の利き方というものを、と、喉まで出掛かるが、ひとまずは唇を結んだままで、ため息は腹に隠し。
「否や。元より、そなたらに任せたのは“境の森の守備”であり、ベスシャッテテスタル軍の斥候を退けることは、その務めの内のひとつだ。気がついたことかと思うが、元より、国境の守備には魔物や獣などの害の方が恐ろしく、また頻繁でもある。引き続き、国と民とを守る役目に励んでもらいたい」
わかった、と応じるアギレオから目線を外し、己も改めて気を引き締める心持ちで、王へと礼を捧げた。
「時に、そなたらにわざわざ足を運ばせたのは、引き続き国境の守護を頼むためではないのだ」
穏やかだった王の声が僅かに色を変え、続きは思い及ばず顔を上げて待ち、隣ではアギレオとレビが顔を見合わせているのも窺い知れる。
「砦に姿を現すという、鉱人に会わせてもらえるか」
「…コウに? …そりゃ呼ぶのは構わねえが。あいつに何の用だ?」
思いがけぬ王の言葉に、一拍おいてからアギレオが首を傾げる。だが、己の方では、思い当たることがなくもない。
唇を結んだまま、二人のやりとりに耳を傾け。
「コウと呼ばれているのだな。エルフの力を封じるという赤鉄について、話しておきたいのだ」
なるほどな、と、アギレオが頷く。だが、ラウレオルンはアギレオの返答は待たず、玉座から立ち上がると、そのままひな壇から下り、数歩進み出た。
「ヒトによって名付けられし稀なる鉱人、コウよ。余はクリッペンヴァルトの王、ラウレオルンという。ここで相まみえ、話をさせてはもらえぬだろうか」
凜と、玉座の間に鳴り響くような声に、アギレオは元より、ハルカレンディアもレビも目を剥き。思わず息を飲んで見守る。
「おっ…おお…、…構わねえが、呼んだからっていつもすぐ現れるってわけじゃ…」
圧倒された様のアギレオが言うそばから、目を疑うような光景が現れ、その場にいる全員が声を失う。
間違いなく地上から離れた高さにある玉座の間の、石造りの床。中央に敷かれ玉座への道をなす絨毯を避けたよう、その脇に、バキリと音を立てて大きなひびが入る。
バキバキバキッと、石を割るというよりは樹を折り裂いたような音がして、ひびが広がり石が砕け、瞬く間に人の肩が入るほどの大きさに穴が空く。
この砕けた石が盛り上がったかと目を丸くして見守る内に、石のつぶてがパラパラとこぼれて、よっこいしょとでも言いそうな仕草で、ヒトの形をしたものが穴から立ち上がって出てくる。
毛髪のない頭部、灰色がかった肌、瑠璃紺の瞳を忙しなくまばたき、おろおろと辺りを見回してから、知古の顔を見つけてのたのたとアギレオに駆け寄る一人の鉱人。
「アギレオ、アギレオ、」
「コウ、おま、おま、」
「アギレオ、どうした、どうしたこれ、声だ、すごい声、すごい声した。すごい声、金の道なった。アギレオなにしてる?」
「鉱人よ、乱暴な術を用い、失礼した。そなたの名を呼んだのは、余だ」
さきほどの声が嘘のように穏やかに呼びかけられ、コウがくるりと振り返る。アギレオを背に踵を返すが、一歩、エルフの王へと足を向けただけで、進みはせず。
うん、うん、と大きく頷いてみせる。
「エルフの王様のエルフ。森の精霊、道あけた。道あける、珍しい見た」
左様、と、ラウレオルンが頷いて返す。
「森の精霊とエルフとの間には、互いを守る誓いがあるゆえ。本来であればこちらから出向くべきところ、姿を見せてくれたこと、感謝する」
胸に手を置き礼を取るラウレオルンを、うん、うん、と更に頷き、言葉は次がずコウが見上げ。
「招いたのは他でもない。この、アギレオとハルカレンディアにそなたが使わせた、赤鉄というものの話だ」
「うん、赤鉄、アギレオに貸した。黒い髪のエルフにも貸した。ほとんどもう、返してもらった」
ラウレオルンとコウに目を向けられ、ハルカレンディアがはいと短く肯き、前の砦にまだあんだっけ…?と、アギレオが首を傾げ。
「この赤鉄について知る者が、他にもあるであろうか?」
あの矢か、と、レビが声を潜めて尋ねるのに、ハルカレンディアが音も無く頷くやりとりは小さく。
「うーん、見たもの、いる。ドワーフ山掘る、山の下、深いと見るものある」
きょとんと目を瞬きながら見上げられ、ラウレオルンが身を下げ、片膝をついてコウに目を合わせる。
跪いた王の姿に、玉座の間のあちこちに控える近衛兵たちが小さくざわつき。
「左様か……。鉱人よ、そなたに頼みたい。赤鉄なる石、選んで用いる者は現在おらぬと聞いている。誰の暮らしも妨げぬならば、この赤鉄、再びヒトや魔物の目に触れることなきよう、なお地中深くへ隠してしまえぬだろうか」
うん、とひとつ頷いてから、だがコウは首を傾げ。
「もっと深く、できる。かくすできる。王様のエルフ、赤鉄いやか。森の精霊、赤鉄きらい。王様のエルフも赤鉄きらいか」
否、と、ラウレオルンが首を横に振る。
「そうではないのだ。森の精霊の加護を封じる赤鉄は、使いようによっては、エルフ達をひどく苦しめることができる。それも、ごく容易く、無制限に長くすら」
オオ、と息を吸い込みおののくコウに、ラウレオルンは深く頷いた。
「力あるエルフを、そのように深く苦しめるものがあること、世に災いを招きかねぬ。エルフが滅びるまで、あるいは余が肉の身体を失うまで、コウが心変わりするまででも構わぬ。これを誰の手にも触れぬようしてもらえぬだろうか」
うん、うん、と間を置きながら、ラウレオルンの言葉に頷き。コウが、最後にもうひとつ、大きく頷く。
「王様のエルフ、みんなのこと心配だな。王様のエルフ、いいやつ」
これはかたじけない、と笑うラウレオルンに、改め、コウが再び頷いた。
「赤鉄かくす。鉱人、石のこと、うまくできる。赤鉄見るもの、いなくなる」
は、と、短い息を大きくついて、ラウレオルンがその顔をいっそう輝かせ。
「コウよ、心より礼を言う…! これは、エルフにとって大きな助けになるのだ。そなたの名をクリッペンヴァルトの歴史に刻み、必ず語り継ごう」
「鉱人、名ない。言葉うまくない。かたり? なくてもいい」
何のことか分からない、とでもいう様子のコウに、左様か…、と顎に手をやって、ラウレオルンは少し首を傾げ。
「では“砦の鉱人”として、この恩を記すのは構わぬだろうか」
オオ、と、今度は明るく声を上げて、うん、うん、と鉱人はまた頷いた。
「とりでの鉱人、いいな。鉱人、とりで好きだ。とりでの船長、恩ある。とりでの鉱人、いい」
「左様か。では、そのようにさせてくれ」
「うん、うん。赤鉄かくす。鉱人、とりでの鉱人、書かれる。王様のエルフ、やくそくしよう」
「ああ。約束しよう」
改めて立ち上がり、恩に着る、と胸に手を置いて額を下げるラウレオルンに、うんうんとコウが頷き。
ひび割れ丸く空いた穴に、鉱人が、よっこいしょとばかり足を踏み込むと、みるみる内にその姿が石の床に飲み込まれ。ゴリゴリという奇妙な音と共に、穴も、割れ目も、ひびすらも何事もなかったように消え失せた。
「アギレオ、そなたにも礼を言おう。心煩いがひとつ晴れた」
おう…と、短い声を返すばかりのアギレオだけでなく、しばしの間、その場にいるものがそれぞれ呆気にとられ、玉座へと戻るラウレオルンや、傷一つの痕跡も残らぬ石の床をまじまじと見つめる。
「さて、ではコウとの約束通り、“砦の鉱人”に受けた恩を記しておこう。ハルカレンディア、」
名を呼びかけられ、ハルカレンディアの上げる顔に、ラウレオルンは隣のレビを目で示し。
「記録のため積史館を開く。ケレブシアを案内してやっては如何だ」
ハッと短く応じるハルカレンディアの隣で、レビが、えっと小さく声を上げる。
「積史館…!? ほんとに!? 入っていいのか…!?」
「記録を留める間の短い時であるが、見学してゆくがよい」
すごい!やった!と、小声で盛り上がるレビをよそに、ハルカレンディアがアギレオを振り返り。肩を竦めるアギレオに、少し笑いながら頷いて。
「積史館というのは、図書館に収められていないような、ありとあらゆる歴史的記録が保存されている施設だ。国の機密に関わるようなことも多く、普段は開かれてすらいない。…魔術師にとっては、宝物庫も同然というわけだ」
「…ふゥン?」
「許されるだけの時ではあるが、ケレブシアは可能な限り滞在したいだろうから。……お前もゆっくりするといい」
「……へいへい。そうするしかなさそうだな」
諦めたように鼻で息をつくアギレオに、ハルカレンディアは苦笑する。悪いようにはなさらないだろう、と小さく笑って励ましてから、レビに声を掛け、玉座に向かって一礼すると、踵を返した。
興奮して何かしゃべっているレビと、私も数えるほどしか、と穏やかに応じているハルカレンディアの背も、玉座の間の扉から、向こうへと遮られて。
一人取り残されたアギレオが、腕組みしたまま、浅く肩を竦めた。
「…で? 俺なんぞに、どんな御用がおありなんだかな」
ごく体よく、だがあからさまに仲間を人払いにされ、やれやれといった風に大きく息などついてみせるアギレオに、ラウレオルンは笑みを浮かべる。
パチン、と指を弾いて鳴らせば、アギレオのすぐ横に、ありふれた、だが美しい曲線を持った椅子が現れた。
「なに、若き魔術師の研鑽に時間をやると思い、年寄りの昔話の相手でも願えぬだろうか。よければ掛けてくれ」
「走って逃げれる場所でもなし」
どうにでもしろよ、と、頭を振りながら椅子に腰を下ろすアギレオに、そう構えることもあるまい、と、ラウレオルンの表情は楽しげで。
「先の、鉱人のコウ…。彼に語った話、頼んだことには、理由があるのだ」
0
あなたにおすすめの小説
女子にモテる極上のイケメンな幼馴染(男)は、ずっと俺に片思いしてたらしいです。
山法師
BL
南野奏夜(みなみの そうや)、総合大学の一年生。彼には同じ大学に通う同い年の幼馴染がいる。橘圭介(たちばな けいすけ)というイケメンの権化のような幼馴染は、イケメンの権化ゆえに女子にモテ、いつも彼女がいる……が、なぜか彼女と長続きしない男だった。
彼女ができて、付き合って、数ヶ月しないで彼女と別れて泣く圭介を、奏夜が慰める。そして、モテる幼馴染である圭介なので、彼にはまた彼女ができる。
そんな日々の中で、今日もまた「別れた」と連絡を寄越してきた圭介に会いに行くと、こう言われた。
「そーちゃん、キスさせて」
その日を境に、奏夜と圭介の関係は変化していく。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
売れ残りオメガの従僕なる日々
灰鷹
BL
王弟騎士α(23才)× 地方貴族庶子Ω(18才)
※ 第12回BL大賞では、たくさんの応援をありがとうございました!
ユリウスが暮らすシャマラーン帝国では、平民のオメガは18才になると、宮廷で開かれる選定の儀に参加することが義務付けられている。王族の妾となるオメガを選ぶためのその儀式に参加し、誰にも選ばれずに売れ残ったユリウスは、国王陛下から「第3王弟に謀反の疑いがあるため、身辺を探るように」という密命を受け、オメガ嫌いと噂される第3王弟ラインハルトの従僕になった。
無口で無愛想な彼の優しい一面を知り、任務とは裏腹にラインハルトに惹かれていくユリウスであったが、働き始めて3カ月が過ぎたところで第3王弟殿下が辺境伯令嬢の婿養子になるという噂を聞き、従僕も解雇される。
巳山のお姫様は何を願う。
ありま氷炎
BL
巳山家の深窓のお姫様。
「彼女」には秘密があった。
阿緒の本当の性別は男であった。
幼馴染の多津(たつ)に拒絶され、己の体を呪う阿緒(あお)。
そんな阿緒を見守る従者の寒凪(かんなぎ)。
多津(たつ)は、秘密を抱えた阿緒(あお)の許婚になるが、その態度は告白を受けた日から変わってしまった。
隣国の赤の呪術師が、男を女に変えることができる秘術を使えると聞き、多津、阿緒、寒凪は隣国へ旅に出る。
オメガ転生。
桜
BL
残業三昧でヘトヘトになりながらの帰宅途中。乗り合わせたバスがまさかのトンネル内の火災事故に遭ってしまう。
そして…………
気がつけば、男児の姿に…
双子の妹は、まさかの悪役令嬢?それって一家破滅フラグだよね!
破滅回避の奮闘劇の幕開けだ!!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる