癒しの花嫁は冷徹宰相の執愛を知る

はるみさ

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番外編

愛する彼女と王妃様①

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 「今日は突然お願いしたにも関わらず、時間を作ってくれて、ありがとう」

 「いえ、王妃殿下がお呼びとあれば、いつでも参ります」

 私はピンクのドレスをそっと持ち上げて、カーテシーを披露した。王妃様はにこっと笑って、私に着席を促す。

 王妃様は若草色のゆったりとしたドレスに身を包んでいる。少しお腹の膨らみが目立つようになってきた頃だろうか。

 席に着くと、王妃様の目配せ一つで侍女たちがてきぱきと動き出し、あっと言う間に珍しい香りのお茶が目の前に用意された。

 「うふふ。本当に可愛らしいわね。少し前まであんな噂があったなんて信じられないわ」

 「王妃殿下のお耳にも入っているだなんて……お恥ずかしい限りです」

 「いいえ。あなたは何も悪くないのだから、毅然と前を向いていればいいのよ。馬鹿な男たちが多くて、本当に嫌になるわね! みんなあなたに断られたと口に出すのが恥ずかしいから、馬鹿みたいな武勇伝が独り歩きしちゃって」

 王妃殿下は口を突き出して、可愛らしいお顔で怒ってくれた。

 「いえ、私の視野の狭さが招いたことですから」

 「そう? あなたの罪は魅力的すぎたことくらいじゃない?」

 「そんな……王妃殿下の前で恐れ多い言葉です」

 王妃様はクスクス笑う。王妃様は私の母と同年代だが、全くそう感じられない。なんだか、今でも少女のような可憐さが威厳の中に垣間見れる方だった。

 「今日はね、あなたに謝ろうと思って呼んだのよ。ほら、来なさい」

 「あ……」

 私の目の前に一列で並んだのが、あの日アヴィス様を囲んだ王妃付きの侍女たちだった。

 「宰相から聞いたの。あなたの目の前で、この子たちが失礼な振舞いをしたと」

 王妃様から鋭い視線を向けられると、侍女の皆さんは分かりやすくカタカタと震え出した。

 「あ、いえ! もう大丈夫ですから!」

 「そう……謝罪を受け入れないとなると、私がこの子たちを解雇することにするわ」

 侍女の皆さんが私の方を懇願の目で見つめる。その目に涙をいっぱい溜めて。

 「え……う、受けます! 謝罪を受けますから!」

 「あ、そう? 私はこんな節操のない子たち、どちらでもいいんだけど。そう言うなら、あなたたちしっかりと謝りなさい」

 彼女たちは目の淵を赤くして、私に謝る。

 「奥様の目の前で、宰相様に触れたりして申し訳ありませんでしたっ!」

 「奥様に気付かないふりをして、宰相様の腕を引いたりして、本当に申し訳ありません……」

 「もう二度と宰相様には近づきませんので、お許しください……っ」

 彼女たちは声を震わせて謝罪の言葉を述べると、深々と頭を下げた。あまりにも悲壮感漂うその姿に私は慌てて彼女たちに声を掛ける。

 「どうか顔を上げてください! 本当にもう大丈夫ですから……」

 「「「あ、ありがとうございますぅ……」」」

 侍女さんたちは、あの日より一回りほど小さくなっている気がする……

 「はぁ……全く情けないわ。王妃付きの侍女ともあろうものが、みっともないことをして。次したらただじゃおかないからね! とりあえずこの一か月は謹慎」

 「はぃ……」

 王妃様からくぎを刺された彼女たちは、縮こまって、下がって行った。王妃様は私に向き直る。

 「迷惑をかけて、ごめんなさいね。不快な思いをさせてしまって」

 「いえ、本当に大丈夫です。夫婦仲良くやっております」

 「そう……良かった」

 王妃様は心からほっとしたような顔を見せた。とても優しい表情……

 「宰相……あの子はね、私にとっては親戚の子供みたいなものなの。
 あの子の母親は私の友人で……だから、両親を突然亡くしたあの子をずっと気にかけていたの。

 本当は直接援助してあげたかったんだけど、王家が介入すると貴族のパワーバランスも崩れるから、手を出すにも出せなくて……随分ともどかしい思いをしたわ」

 王妃様はずっとアヴィス様を見守ってくれていたんだ……
 彼を守ろうとしてくれた人が近くにいたことに胸がじんわりと温かくなる。

 「だから、あなたには感謝しているの」

 「私に、ですか?」

 「えぇ。両親が亡くなって、公爵位を王城で授かった時にね……あまりにも毅然としている彼を見ていたら心配になって、言ったことがあるの。『気負いすぎないように』って、そしたら彼ね……」

 王妃様がくすっと笑って、私を見つめた。

 「『愛する彼女を幸せにするために、公爵として精一杯この国を良くしたいと思います』って言ったのよ」

 「あ、愛する彼女……」

 陛下や王妃殿下の前で、一体アヴィス様は何を言っているのか……? その時は十代だからとはいえ、随分と恥ずかしい発言をそんな堂々と……

 顔が熱くなって、私は思わず下を向いた。

 「爵位を貰う時って、普通は国への忠義とか、所信を述べるのよ?
 『愛する彼女を~』なんていう人、他にいないわよ!」

 「……そ、そうですよね……」

 「でもね、その言葉を聞いて、この子は大丈夫だなって思えたの。

 愛する彼女と口にした彼は、夢物語を見てる風でもなく、恋に恋しているわけでもなく、その目には確固たる意志が見えた。とても強い意志だったわ。

 その彼女があの子を強くしてくれてるんだって分かった。愛する彼女ってあなたでしょう?」

 「え、あ……た、多分? でも、私は何も……っ」

 王妃様は首を横に振った。そして、私の顔をじっと見つめた。王妃様の蒼いその瞳は海のように深くて、美しい。

 「そんな風に否定しないの。自信を持ってね。あなただから、あの子はあんな風に強くなれたのよ」

 「ありがとう、ございます……」

 なんだか分からないけれど、じんわりと涙が滲んだ。私の全てを包んで、肯定してくれる温かさを感じたから。

 「うふふ。随分と泣き虫さんなのね。あー、そんなところも可愛いわぁ。ルルゥがあなたを気に入っていたのが良くわかる」

 ルルゥとはアヴィス様のお母様の名前だ。私は涙を拭いて、尋ねた。

 「お義母様が?」

 「えぇ、将来の嫁が可愛すぎるってよく自慢されていたわ。そんなに良い子なら王太子妃にって話をしたら、もう婚約したから駄目、無理、譲らないって」

 そんな話を聞いたのは初めてで私は驚きを隠せなかった。嫌われているようには感じなかったけど、私とは少ししか話してくださらなかったから。

 「でも、お義母様は私とはなかなか目を合わせてくださらなくて……」

 「照れてたのねー。素直じゃない人だから。でも、あなたのこと、すごく気に入ってたわよ。
 だから……二人がちゃんと結ばれてくれて、とっても喜んでいると思う」

 「そうだと嬉しいです……」

 王妃様は私の顔を見て、優しく微笑んでくれた。

 それから王妃様はアヴィス様の色んな話を聞かせてくれた。

 仕事中の様子や、アヴィスが成し遂げたことのすごさやその影響、王宮での彼の評判など、彼の話をする王妃様の顔は優しくて、まるで母の顔のようだった。

 王妃様との楽しい時間はあっという間に過ぎていった。





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