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第一章
12.ソフィアの事情
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交流会の帰り道、馬車の中で私は考えていた。
侑李のことを思い出してて、思ったけど…私は転生したのかな?それとも杏奈の記憶はただの夢なのかな?
でも、夢にしては杏奈の人生をはっきりと覚えている。クッキーの味とか花の香りとか蜜の味とか…そんなのって夢で分かるものじゃなさそうだもんねぇ。やっぱり異世界転生ってやつなのかもしれないな。
「……杏奈は死んだってことかな。」
ぽそっと呟いてみると、酷く寂しい気持ちになる。
杏奈としての記憶はあるものの、その記憶は叔母さん家族が来て、年末年始を共に過ごしたところまでしか覚えていない。それ以降、杏奈がどう過ごして、どのように死んだのか、全く思い出せなかった。
…思い出せなくていいのかもしれないな。無惨な死に方をしてたら、トラウマになりそうだし、痛みを思い出したりしたら最悪だもの。
でも、おばあちゃんのことだけが気がかりだわ。
もし一人残して死んだのだとしたら、辛く悲しい思いをさせてしまっただろう。死に方は思い出せないが、せめておばあちゃんを一人にすることなく、杏奈としての生を終えられているといいな…と思った。
私は杏奈の記憶に浸りながら、おばあちゃんに思いを馳せたのだった。
◆ ◇ ◆
この前の交流会からニヶ月経って、ようやくソフィアと二人、お茶会をすることが出来た。
再会を喜び、いつもの通り、始める。今日のお菓子は私手作りの紅茶シフォンケーキだ。
「アンナは本当にお菓子作りが上手なのね…!」
ソフィアは頬を押さえて至福の表情だ。
「褒めてもらえて嬉しいわ!!」
「あぁ、あのクッキーも美味しいのよね。
また食べたいわ!」
「ふふっ。ソフィアにも好評で嬉しい!」
そう言って笑うと、ソフィアは不思議そうな顔をする。
「ソフィアにも…って他に誰かに食べさせたの?」
「あぁ、ライル様よ。気に入ったらしくて、この前の交流会の時にまた作ってくれって頼まれたの。」
「それで最初に抜けたのね。」
「うん。」
そこまで話すと、ソフィアはケーキを食べる手を止めて、机に付きそうなくらい頭を下げた。
「アンナ……。その…この前の交流会ではお兄様が酷いことを言って、本当にごめんなさい。」
急に謝られて、私はびっくりしてしまった。
「いいの、いいの!ソフィアの方が王子妃に向いているのは確かだし。ジョシュア様からしたら、可愛い妹を差し置いて、こんな変な奴がライル様の婚約者に選ばれたら腹も立つわよ。」
ソフィアはそれに反論する。
「そんなことない。私よりずっとアンナの方が殿下の婚約者として相応しいわ。
私はあんな風に殿下と仲良くできないし、みんなにも慕われていないもの…。」
「そんなこと言ったら、私だって慕われてないどころか、知り合いも殆どいないのよ?
ソフィアは美しすぎて、みんな近寄り難いだけ。」
ソフィアは力なくフルフルと首を横に振った。
「そんなことない…。
私は口を開けば、酷いことばかり言ってしまうから。」
「じゃあ、それを直したらいいんじゃない?」
「……出来ないわ。」
「どうして?」
「……お兄様に怒られるもの。」
出た!!二人目の攻略対象!顔はいいけど、性格悪いのに、あんなので人気が出るんだろうか。そんなことを考えながらも、ソフィアに訪ねる。
「んーー。ジョシュア様はなんて言ってるの?」
「……誰も信じちゃ駄目だって。あと、見下されたら終わりだから、常に人を見下す側になれって。公爵家は王家の次に偉いんだからって。」
呆れた。人を見下すって……そんな奴が上に立つなんて嫌だな、私は。
「……随分と激しい考え方をお持ちなのね。」
「うん…。ある時から急にそうなったの。」
「そっか……。でも、ソフィアまでそれに合わせることはないんじゃないの?」
「……私と兄は一歳差だから、幼い頃から交流会に一緒に参加してるんだけどね…。
誰かと仲良くしようとすると、兄が怒るの。それに、誰かを褒めたりすると公爵家なんだからお前は遜ったりするなって…自分より爵位が低いものに優しくなんてしなくていいって。
幼かった私は、誰かと話す度にそんなことを言われ続けて、お兄様の言うことが正しいことのように思えてしまった。
でも、大きくなるにつれて…これじゃ駄目なんだって気付いた時にはもう遅かった。私の周りにはも誰もいなかったわ。
それにそんな話し方を続けてきたせいで、普通に話したいと思っても口からついて出るのは皮肉ばかり…本当に自分でも嫌になるわ。
……そして、そうさせたお兄様のこともどんどん嫌いになっていく。」
ソフィアの瞳にはじわりと涙が滲んでいた。
「ソフィア…。」
私がソフィアの名を呼ぶと、ソフィアは涙を拭って、私に笑いかけた。
「だから、私…アンナと出会えたことは本当に奇跡だと思ったの。私が言いたいことを汲み取ってくれて、どんな言葉もポジティブに受け取ってくれて…こんな優しい子がいるんだ、って。私にとっては、アンナは女神のような存在よ。」
「…め、女神ぃ?!」
信じられない。こんなちんちくりんが女神だなんて。
「えぇ。一人ぽっちの私を闇から救い出してくれた。アンナの前でなら素直な私でいられるの。私、アンナと一緒にいる時の自分が一番好きよ。」
救い出してもらったのはこっちの方なのに…そんなこと言う天使な親友に私は涙ぐむ。
「一人ぽっちの私を救い出してくれたのは、ソフィアよ。ソフィアがいなければ、今の私はないもの。」
「ふふっ。毎回、アンナは大袈裟なんだから。」
「大袈裟なんかじゃないんだってば!」
私たちは二人で顔を見合わせて、ふふっと笑い合った。
紅茶を一口流し込み、私はソフィアに尋ねる。
「でも、ジョシュア様が監視してたら、お茶会では話し方に気を付ける事ができるとしても…交流会では友人を作るのは難しそうよね?」
そう話す私にソフィアは言いにくそうに口を開いた。
「あの…アンナ…。私、悪い噂が立ちすぎて、お茶会の招待状も貰えないのよ。」
……公爵家令嬢なのに、お茶会の招待状が来ないとは。
「そ、そうなの?」
「うん…。」
それは困ったと頭を抱えてみたが、ふと名案を思いついた!
「参加できるお茶会があるわ!」
「え?どこの御令嬢のー」
「私よ。私のお茶会!」
「あぁ!」
私が主催するお茶会であれば、私がソフィアをフォローしてあげられる。
「まずは私がお茶会を主催するから、そこでイメージアップを図って行きましょう!」
「う、うん!でも、交流会ではー」
「次の交流会まではあと四ヶ月あるわ。それまでにジョシュア様と話してみましょ。まずはジョシュア様に何が有ったのかを調べなきゃ。」
こうして、私は初のお茶会開催と、ジョシュア様の調査に乗り出すのだった。
侑李のことを思い出してて、思ったけど…私は転生したのかな?それとも杏奈の記憶はただの夢なのかな?
でも、夢にしては杏奈の人生をはっきりと覚えている。クッキーの味とか花の香りとか蜜の味とか…そんなのって夢で分かるものじゃなさそうだもんねぇ。やっぱり異世界転生ってやつなのかもしれないな。
「……杏奈は死んだってことかな。」
ぽそっと呟いてみると、酷く寂しい気持ちになる。
杏奈としての記憶はあるものの、その記憶は叔母さん家族が来て、年末年始を共に過ごしたところまでしか覚えていない。それ以降、杏奈がどう過ごして、どのように死んだのか、全く思い出せなかった。
…思い出せなくていいのかもしれないな。無惨な死に方をしてたら、トラウマになりそうだし、痛みを思い出したりしたら最悪だもの。
でも、おばあちゃんのことだけが気がかりだわ。
もし一人残して死んだのだとしたら、辛く悲しい思いをさせてしまっただろう。死に方は思い出せないが、せめておばあちゃんを一人にすることなく、杏奈としての生を終えられているといいな…と思った。
私は杏奈の記憶に浸りながら、おばあちゃんに思いを馳せたのだった。
◆ ◇ ◆
この前の交流会からニヶ月経って、ようやくソフィアと二人、お茶会をすることが出来た。
再会を喜び、いつもの通り、始める。今日のお菓子は私手作りの紅茶シフォンケーキだ。
「アンナは本当にお菓子作りが上手なのね…!」
ソフィアは頬を押さえて至福の表情だ。
「褒めてもらえて嬉しいわ!!」
「あぁ、あのクッキーも美味しいのよね。
また食べたいわ!」
「ふふっ。ソフィアにも好評で嬉しい!」
そう言って笑うと、ソフィアは不思議そうな顔をする。
「ソフィアにも…って他に誰かに食べさせたの?」
「あぁ、ライル様よ。気に入ったらしくて、この前の交流会の時にまた作ってくれって頼まれたの。」
「それで最初に抜けたのね。」
「うん。」
そこまで話すと、ソフィアはケーキを食べる手を止めて、机に付きそうなくらい頭を下げた。
「アンナ……。その…この前の交流会ではお兄様が酷いことを言って、本当にごめんなさい。」
急に謝られて、私はびっくりしてしまった。
「いいの、いいの!ソフィアの方が王子妃に向いているのは確かだし。ジョシュア様からしたら、可愛い妹を差し置いて、こんな変な奴がライル様の婚約者に選ばれたら腹も立つわよ。」
ソフィアはそれに反論する。
「そんなことない。私よりずっとアンナの方が殿下の婚約者として相応しいわ。
私はあんな風に殿下と仲良くできないし、みんなにも慕われていないもの…。」
「そんなこと言ったら、私だって慕われてないどころか、知り合いも殆どいないのよ?
ソフィアは美しすぎて、みんな近寄り難いだけ。」
ソフィアは力なくフルフルと首を横に振った。
「そんなことない…。
私は口を開けば、酷いことばかり言ってしまうから。」
「じゃあ、それを直したらいいんじゃない?」
「……出来ないわ。」
「どうして?」
「……お兄様に怒られるもの。」
出た!!二人目の攻略対象!顔はいいけど、性格悪いのに、あんなので人気が出るんだろうか。そんなことを考えながらも、ソフィアに訪ねる。
「んーー。ジョシュア様はなんて言ってるの?」
「……誰も信じちゃ駄目だって。あと、見下されたら終わりだから、常に人を見下す側になれって。公爵家は王家の次に偉いんだからって。」
呆れた。人を見下すって……そんな奴が上に立つなんて嫌だな、私は。
「……随分と激しい考え方をお持ちなのね。」
「うん…。ある時から急にそうなったの。」
「そっか……。でも、ソフィアまでそれに合わせることはないんじゃないの?」
「……私と兄は一歳差だから、幼い頃から交流会に一緒に参加してるんだけどね…。
誰かと仲良くしようとすると、兄が怒るの。それに、誰かを褒めたりすると公爵家なんだからお前は遜ったりするなって…自分より爵位が低いものに優しくなんてしなくていいって。
幼かった私は、誰かと話す度にそんなことを言われ続けて、お兄様の言うことが正しいことのように思えてしまった。
でも、大きくなるにつれて…これじゃ駄目なんだって気付いた時にはもう遅かった。私の周りにはも誰もいなかったわ。
それにそんな話し方を続けてきたせいで、普通に話したいと思っても口からついて出るのは皮肉ばかり…本当に自分でも嫌になるわ。
……そして、そうさせたお兄様のこともどんどん嫌いになっていく。」
ソフィアの瞳にはじわりと涙が滲んでいた。
「ソフィア…。」
私がソフィアの名を呼ぶと、ソフィアは涙を拭って、私に笑いかけた。
「だから、私…アンナと出会えたことは本当に奇跡だと思ったの。私が言いたいことを汲み取ってくれて、どんな言葉もポジティブに受け取ってくれて…こんな優しい子がいるんだ、って。私にとっては、アンナは女神のような存在よ。」
「…め、女神ぃ?!」
信じられない。こんなちんちくりんが女神だなんて。
「えぇ。一人ぽっちの私を闇から救い出してくれた。アンナの前でなら素直な私でいられるの。私、アンナと一緒にいる時の自分が一番好きよ。」
救い出してもらったのはこっちの方なのに…そんなこと言う天使な親友に私は涙ぐむ。
「一人ぽっちの私を救い出してくれたのは、ソフィアよ。ソフィアがいなければ、今の私はないもの。」
「ふふっ。毎回、アンナは大袈裟なんだから。」
「大袈裟なんかじゃないんだってば!」
私たちは二人で顔を見合わせて、ふふっと笑い合った。
紅茶を一口流し込み、私はソフィアに尋ねる。
「でも、ジョシュア様が監視してたら、お茶会では話し方に気を付ける事ができるとしても…交流会では友人を作るのは難しそうよね?」
そう話す私にソフィアは言いにくそうに口を開いた。
「あの…アンナ…。私、悪い噂が立ちすぎて、お茶会の招待状も貰えないのよ。」
……公爵家令嬢なのに、お茶会の招待状が来ないとは。
「そ、そうなの?」
「うん…。」
それは困ったと頭を抱えてみたが、ふと名案を思いついた!
「参加できるお茶会があるわ!」
「え?どこの御令嬢のー」
「私よ。私のお茶会!」
「あぁ!」
私が主催するお茶会であれば、私がソフィアをフォローしてあげられる。
「まずは私がお茶会を主催するから、そこでイメージアップを図って行きましょう!」
「う、うん!でも、交流会ではー」
「次の交流会まではあと四ヶ月あるわ。それまでにジョシュア様と話してみましょ。まずはジョシュア様に何が有ったのかを調べなきゃ。」
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