親友のために悪役令嬢やってみようと思います!

はるみさ

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第二章 

9.全員集合

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 今日は初めての魔法学の授業だ。

 魔法学が行われるのは、学園の隅にある第二グラウンドだ。稀に魔法を暴発させる生徒がいるため、影響が出ないように、校舎から離れた場所で授業を行うらしい。

 私はライル様と二人でそこへ向かう。

 「緊張しますね…。」

 「大丈夫だよ、アンナには僕が付いてるからね。」

 そう言って、ライル様は私に微笑みかける。

 「ありがとうございます。
 ライル様はもう使えるんですもんね。」

 私を助けにきた時に魔法で水の龍を出して、消火してくれていた。

 「そうだね。でも、魔法を使うには基礎が大事だから、アンナたちと一緒にまた一から学ぶつもりだよ。」

 「私も頑張ればライル様みたいに使えますかね?」

 「きっとね。」

 ライル様は私に向かってウインクをする。
 キザな仕草も様になってるんだよなぁ…さすが王子。

 「頑張ります!
 ……あ、でも、火への恐怖心を先に克服しなきゃ。」

 「実際に属性魔法を練習するのはまだ先だから、ゆっくりやっていけばいいよ。まずは基礎から、ね?」

 「そうなんですね。ライル様はもう水の属性魔法をー」

 そこまで言いかけて、私はあることに気付いた。

 「あれ?ライル様の属性って火じゃなかったでしたっけ?」

 「そうだよ。」

 「火属性でも水の龍なんか出せるんですか?」

 ライル様はクスクスと笑う。

 「流石に無理だろうね。」

 「じゃあ、なんでー」

 「僕は両方とも持っているんだ。火も、水も。」

 「えぇ?!」

 今生きている人の中で二つの属性を持っているのはルフト先生だけだと聞いている。まさか、ライル様も二つの属性を持ってるなんて。

 それにゲームの中ではライル様の属性は確かに火だけだったはずだ。水の属性を持っているなんて聞いたことがない…。公開されてない設定か何かなのだろうか?他のルートで判明するとか?

 唖然として足を止めた私の手をライル様が引いた。

 「気付いてなかったんだね。」

 「は、はい……。」

 「まぁ、周りが騒ぐと煩いから、知らないフリしててよ。このことを知ってるのはごく僅かな人間だけなんだ。」

 「わ、分かりました。

 ……ライル様ってすごいですね。」

 「ふふっ。僕は女神に愛されてるからね。」

 そう言って、ライル様は笑った。

 誰が見ても美しいと口を揃える容姿に、類稀なる魔力持ち……ライル様が女神に愛されていると言うのも、納得できた。


   ◆ ◇ ◆


 授業が行われるグラウンドに着くと、そこには意外な人物がいた。

 「あれ…ユーリ?」

 「おう!」

 ユーリは私とライル様を見つけると駆け寄ってきた。
 ライル様は嫌そうに眉を顰める。

 ……そんなに嫌がらなくてもいいのに。

 「なんでここにいるの?」

 「なんでって酷いな。あったんだよ、俺にも魔力。」

 「うそっ!!」

 「ははっ!確かに驚きだよな。
 アンナにも俺にもあるなんて。」

 「うん。すごいね、おめでとう。」

 「アンナもな。」

 ユーリと二人で微笑み合うのを、つまらなそうにライル様が見つめる。それに気付いたユーリがライル様の肩に腕を回す。

 「そんなつまらない顔すんなよ。
 俺、本当は王子とも仲良くしたいんだぜ?」

 そう言ってユーリはライル様と肩を組もうとした。

 「ふん。馴れ馴れしい。大体僕の名前は王子ではない。」

 とは言うものの、ユーリの手を払い除けるでもなく、肩を組ませてあげるあたりが優しい。

 「だな!じゃあ、名前で呼ぶな!ラ・イ・ル!」

 唖然とする私をよそにユーリはニコニコとしている。
 殿下は呆れたような目線を送る。

 「お前…っ!」

 「俺のことはユーリでいいぜ!」

 「もういい……。」

 ……ライル様をライルと呼ぶのも、肩を組むのも、同年代の令息の中ではおそらくユーリだけだろう。ユーリは本当に怖いもの知らずだ。

 そこへジョシュア様が駆けてきた。

 「アンナ!」

 「ジョシュア様。今日からよろしくお願いします。」

 私がそう言って頭を下げると、ジョシュア様は優しく微笑んでくれた。

 「あぁ。私もアンナと同じ授業を受けることが出来て嬉しい。」

 目を細めて私を見つめるその瞳は優しい。きっとソフィアの親友ということもあり、妹のように思ってくれているのかもしれない。

 その時、ユーリが呟いた。

 「……ジョシュア?」

 その声に気づいたジョシュア様は、ユーリに視線を移す。

 「その黒髪…君がラスカシエ辺境伯のー」

 ユーリは人懐っこい笑顔を浮かべ、握手を求める。

 「ユーリだ。」

 ジョシュア様はにこやかにその手を握った。

 「宜しく、ユーリ。

 以前、アンナと一緒に平民街で私の知り合いを探してくれたそうで。その節は世話になった。」

 「別にいいよ。好きな女が困ってたから助けただけだ。」

 ジョシュア様は驚いたように目を見開いた後にフッと笑った。

 「そうか。……もしや君もアンナをー」

 「好きだけど?」

 はぁ?!
 なんでこんなところで訳わかんないこと言うのよ!

 「ユーリッ!!」

 私は声を荒げるが、ユーリはニコニコと笑っている。
 それを見てジョシュア様は笑いを堪えているようだ。

 「くくっ。アンナは殿下の婚約者だと言うのに、こんなに真っ直ぐ好意を伝えられる奴がいるなんてな。」

 その時、ライル様が特大の溜息を吐いた。
 射るような目線をジョシュア様に向ける。

 「お前も人のことは言えないだろ。
 全く僕の婚約者だと言うのに、お前らは何を考えているんだ。」

 「まだ婚約者だろ。未来は分かんないじゃん。」

 その時、ウィルガが来たのが見えた。

 三人が何やら仲良しそうなので、私はその輪からするりと抜け出して、ウィルガのところへ向かった。

 「ウィルガ、久しぶり!」

 ウィルガは腰から身体を倒して、きちっとお辞儀をする。

 「アンナ様。ご無沙汰しております。先日もご挨拶出来ずに申し訳ありませんでした。」

 「ううん。いいのよ。気にしてないわ。
 それよりも今は学友なんだから、そんな話し方は止めて。アンナって呼んでくれていいのよ?」

 ウィルガは首を横に振る。

 「いえ。そう言うわけにはいきません。」

 「もう…ウィルガは本当に真面目なんだから。

 トイ様とロミオ様は元気?」

 ウィルガには二人の兄がいる。しかし、ウィルガはその二人よりもずっと剣の才能も秀でて、容姿も優れていた。そのため、ゲームだと武の公爵家に相応しいと後継者に指名されるのだがー

 「はい。兄上達も元気にしております。」

 「そう、良かったわ。」

 その時、後ろで小さな声がした。

 「……ウィルガまで。」

 振り返るとそこにはリィナがいた。

 「リィナさん、こんにちわ。」

 私が笑顔で挨拶するが、リィナの顔は浮かない。

 「……こんにちわ。」

 「リィナ、どうしたんですか?元気がないですが。」

 ウィルガがリィナに尋ねる。

 もう二人の出会いイベントは終わってたっけ。
 庭園かどこか…だったかな?

 「ウィルガとリィナさんは知り合いなの?」

 「はい。私は庭園の花の世話を任されているのですが、リィナはそれをよく手伝ってくれるんです。昔、花屋で手伝いをしたことがあるからと言って。とても優しいんですよ。」

 ウィルガはそう言うと優しい笑みをリィナに向ける。

 「そんな……。」

 リィナは照れたように俯いた。

 「素晴らしいわね、リィナさん。」

 私がそう言うと、リィナは完全な愛想笑いを返してくれた。

 ……やっぱり相当、私は嫌われてるようだわ。

 その時、ライル様たち三人がやって来た。
 ライル様が私に声を掛ける。

 「アンナ、従兄弟との再会は無事に果たせたのかい?」

 「はい。ご存知だったんですね。」

 「勿論だよ。アンナに関することは全て覚えてる。
 最初に出会った時のドレスの色までね。」

 ……信じられない。すごい記憶力。

 「うそ…!」

 「本当だよ。薄ピンク色の花びらがあしらわれたドレスに身を包むアンナは、初めて会った時から天使のように可愛かったな。」

 「や、やめてください!!」

 本当に天使のような子がそこにいるのに、恥ずかしいことを言うのをやめて欲しい…!

 リィナはつまらなそうな顔をして、そっぽを向いている。

 その時、こちらに向かってくる。長身の男性が見えた。菫色の髪と瞳は、遠くからでもよく目立つ。

 ルフト先生はウェーブがかったボサボサの頭を掻きながら言う。その気怠げな感じでさえ、顔が良ければ色気になる。

 「揃ってるか~?始めるぞ。」

 ……ゲームの攻略対象が揃うと、圧巻だな…と私はどこか他人事のように思うのであった。
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