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第三章
18.聖女と勇者
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「ったく……勇者ってなんだよ。めんどくせぇ。」
ユーリが不機嫌そうにチキンにフォークを突き刺した。
「いいじゃない、聖女と勇者なんてまるで夢物語だわ!」
「ふふっ!アンナったら可愛いこと言うんだから。」
今日はユーリとソフィアと三人で王都のカフェにランチに来たのだ。ユーリはソフィアの専属騎士なので、二人はずっと一緒だ。最近のソフィアはとても幸せそうな顔をしている。
「でも、ドラゴンを討伐しちゃうなんて、すごいよねぇ!」
ユーリは私の言葉に眉を顰める。
「ん?討伐なんてしてねぇぞ。あのドラゴンはまだ仔竜だ。パニックになってたから気絶させただけ。」
「え。そうなの?」
「あぁ。うちの領地では三年に一回くらいはドラゴンが出てくるんだが、殺したことは一度もない。基本的にあいつらは温厚なんだ。今回の仔竜も迷子になってパニックになってただけだからな。あの後、拘束した上で生息地まで移送してもらった。」
「そうなんだ…。でも剣、突き刺してたのに?」
「ドラゴンの皮膚は分厚いからな。
あれくらいの突きじゃ、死んだりしねぇ。」
ユーリは何でもないことのように話す。
でも、これは本当にすごいことで、ドラゴンを倒すなんて王都に住む人間からしたら、一大事だ。実際に「黒の勇者」としてユーリの絵姿がライル様とソフィアの間に挟まれて売り出されるようになったし。
「へぇ。それでも、やっぱりユーリは勇者だよ!
聖女であるソフィアを二回も救ったんだもん。」
「ははっ。いつもギリギリだけどな。」
ユーリがポリポリと頬を掻く。
「本当よ。もうちょっと早く来てよね。」
ソフィアがツンと唇を出して不満を漏らせば、ユーリはソフィアの腰に手を回し、ぐっと引き寄せる。
「今回については悪かったって。もう離れないから。な?」
ソフィアは上目遣いで、おねだりでもするかのようにユーリを見つめ、それに吸い込まれるかのようにユーリはソフィアとの距離を詰め、二人の額はくっついた。
「……うん。絶対、よ?」
「あぁ。絶対だ。」
二人はクスクス笑い合う。
……私は一体何を見せられているんだろうか。仲が良いのは結構だが、見ているこっちが恥ずかしい。
「あー……、私、帰ろうか?」
「え?!あ…ご、ごめん!!
ちょっとユーリ、離れてよ!!」
ソフィアがぐいーっとユーリと離れようとするが、ユーリはそれを許さない。
「そう照れるなって。ほら、アンナに報告するんだろ?」
「報告?」
私が首を傾げると、ソフィアが頬を染める。
「うん……。あのね…、私たち婚約することにしたの。」
「えぇ?!本当に?!」
「嘘なんかつくかよ。本当だ。来月、正式に発表する。」
「うわぁー!嬉しい!!大好きなソフィアとユーリが婚約するなんて、夢みたいだわ!すごい、すごい!!
結婚は?いつするの?」
嬉しすぎて、私はバタバタと足を踏み鳴らしたいのを必死に我慢した。顔がニヤけて止まらない。ピンク色の頬で、本当に幸せそうに話すソフィアは、すごく可愛かった。
「卒業したら、すぐにでもしようと思ってる。
それでね、アンナ……。」
「ん?」
ソフィアは一度ユーリと目を合わせると、二人で頷き合った。
私に向き直ったソフィアは、真っ直ぐに私を見て言った。
「私たち、卒業して、式を挙げたらー
……王都を離れようと思ってるの。」
「……え。」
突然の告白に言葉が出てこない。
「ユーリと話して決めたの。私のこの魔力は王都だけでなく、国内のもっと色んな人に届けたいって。本当にこの力を必要としている人の中には王都まで来れない人も多くいると思う。
私を必要としてくれる人達のために、純粋に私は力を使いたいの。」
……その志は、まさに聖女だ。
今のソフィアに悪役令嬢なんて見る影もなかった。
「私が王都にいれば、嫌でもその力の在処を巡って、衝突が起こるわ。だから、私はどこにも属することなく、国内を回りながら、人々を癒していこうと思うの。」
「でも、国内は安全なところばかりじゃー」
「そうね。私一人じゃ無理だけど……
私にはユーリがいてくれるから。」
ソフィアがユーリを愛おしそうに見つめる。
ユーリもソフィアの髪を優しく指ですいた。
「あぁ。」
……もうソフィアには最強の味方がいるんだ。
愛し愛されるべき人が。それなら私はー
「……分かった!応援する!
ソフィアとユーリのこと、離れてもずっと応援してるから!!」
私は精一杯の笑顔を二人に向けた。
「とは言っても、卒業まで暫くあるけどな。
まぁ、旅の予行練習を兼ねて、ちょいちょい遠くの街に行こうって話してるんだ。だから、数日から数週間くらい居なくなることもこれからは多くなる。」
「分かったわ。
でも、神殿も王家もソフィアを手に入れようとしてたのに、よく二人の婚約を許してくれたわね。」
「民衆が完全に私たちの味方になってくれたからね。アンナのおかげよ。あそこで提案してくれなかったら、ここまでスムーズに事は運んでなかったと思う。本当にありがとう。」
ソフィアが私に頭を下げる。
「いや、いろんな偶然が重なっただけで、私は何も…。
ドラゴンが来たのだって偶然だったわけだし。」
しかし、ユーリはその言葉に眉を顰めた。
「いや、それについては微妙なところだな。可能性が無いわけではないが、あの仔竜が王都の方まで来てしまうこと自体、前例がないほど珍しいことだからな。」
「え…誰かがまたソフィアを狙って……?」
「その可能性は否定できないな。」
沈黙が流れる。
暫くして、ソフィアが呟いた。
「………また、リィナさんかしら。」
「どうだろうな…。今、ライルが調べているが、当日のあいつに怪しい動きはなかったそうだ。しかし、妙に落ち着いた様子だった、と…。」
その後、飲んだ紅茶はやけに冷めてて、私の身体を芯から冷やした。
ユーリが不機嫌そうにチキンにフォークを突き刺した。
「いいじゃない、聖女と勇者なんてまるで夢物語だわ!」
「ふふっ!アンナったら可愛いこと言うんだから。」
今日はユーリとソフィアと三人で王都のカフェにランチに来たのだ。ユーリはソフィアの専属騎士なので、二人はずっと一緒だ。最近のソフィアはとても幸せそうな顔をしている。
「でも、ドラゴンを討伐しちゃうなんて、すごいよねぇ!」
ユーリは私の言葉に眉を顰める。
「ん?討伐なんてしてねぇぞ。あのドラゴンはまだ仔竜だ。パニックになってたから気絶させただけ。」
「え。そうなの?」
「あぁ。うちの領地では三年に一回くらいはドラゴンが出てくるんだが、殺したことは一度もない。基本的にあいつらは温厚なんだ。今回の仔竜も迷子になってパニックになってただけだからな。あの後、拘束した上で生息地まで移送してもらった。」
「そうなんだ…。でも剣、突き刺してたのに?」
「ドラゴンの皮膚は分厚いからな。
あれくらいの突きじゃ、死んだりしねぇ。」
ユーリは何でもないことのように話す。
でも、これは本当にすごいことで、ドラゴンを倒すなんて王都に住む人間からしたら、一大事だ。実際に「黒の勇者」としてユーリの絵姿がライル様とソフィアの間に挟まれて売り出されるようになったし。
「へぇ。それでも、やっぱりユーリは勇者だよ!
聖女であるソフィアを二回も救ったんだもん。」
「ははっ。いつもギリギリだけどな。」
ユーリがポリポリと頬を掻く。
「本当よ。もうちょっと早く来てよね。」
ソフィアがツンと唇を出して不満を漏らせば、ユーリはソフィアの腰に手を回し、ぐっと引き寄せる。
「今回については悪かったって。もう離れないから。な?」
ソフィアは上目遣いで、おねだりでもするかのようにユーリを見つめ、それに吸い込まれるかのようにユーリはソフィアとの距離を詰め、二人の額はくっついた。
「……うん。絶対、よ?」
「あぁ。絶対だ。」
二人はクスクス笑い合う。
……私は一体何を見せられているんだろうか。仲が良いのは結構だが、見ているこっちが恥ずかしい。
「あー……、私、帰ろうか?」
「え?!あ…ご、ごめん!!
ちょっとユーリ、離れてよ!!」
ソフィアがぐいーっとユーリと離れようとするが、ユーリはそれを許さない。
「そう照れるなって。ほら、アンナに報告するんだろ?」
「報告?」
私が首を傾げると、ソフィアが頬を染める。
「うん……。あのね…、私たち婚約することにしたの。」
「えぇ?!本当に?!」
「嘘なんかつくかよ。本当だ。来月、正式に発表する。」
「うわぁー!嬉しい!!大好きなソフィアとユーリが婚約するなんて、夢みたいだわ!すごい、すごい!!
結婚は?いつするの?」
嬉しすぎて、私はバタバタと足を踏み鳴らしたいのを必死に我慢した。顔がニヤけて止まらない。ピンク色の頬で、本当に幸せそうに話すソフィアは、すごく可愛かった。
「卒業したら、すぐにでもしようと思ってる。
それでね、アンナ……。」
「ん?」
ソフィアは一度ユーリと目を合わせると、二人で頷き合った。
私に向き直ったソフィアは、真っ直ぐに私を見て言った。
「私たち、卒業して、式を挙げたらー
……王都を離れようと思ってるの。」
「……え。」
突然の告白に言葉が出てこない。
「ユーリと話して決めたの。私のこの魔力は王都だけでなく、国内のもっと色んな人に届けたいって。本当にこの力を必要としている人の中には王都まで来れない人も多くいると思う。
私を必要としてくれる人達のために、純粋に私は力を使いたいの。」
……その志は、まさに聖女だ。
今のソフィアに悪役令嬢なんて見る影もなかった。
「私が王都にいれば、嫌でもその力の在処を巡って、衝突が起こるわ。だから、私はどこにも属することなく、国内を回りながら、人々を癒していこうと思うの。」
「でも、国内は安全なところばかりじゃー」
「そうね。私一人じゃ無理だけど……
私にはユーリがいてくれるから。」
ソフィアがユーリを愛おしそうに見つめる。
ユーリもソフィアの髪を優しく指ですいた。
「あぁ。」
……もうソフィアには最強の味方がいるんだ。
愛し愛されるべき人が。それなら私はー
「……分かった!応援する!
ソフィアとユーリのこと、離れてもずっと応援してるから!!」
私は精一杯の笑顔を二人に向けた。
「とは言っても、卒業まで暫くあるけどな。
まぁ、旅の予行練習を兼ねて、ちょいちょい遠くの街に行こうって話してるんだ。だから、数日から数週間くらい居なくなることもこれからは多くなる。」
「分かったわ。
でも、神殿も王家もソフィアを手に入れようとしてたのに、よく二人の婚約を許してくれたわね。」
「民衆が完全に私たちの味方になってくれたからね。アンナのおかげよ。あそこで提案してくれなかったら、ここまでスムーズに事は運んでなかったと思う。本当にありがとう。」
ソフィアが私に頭を下げる。
「いや、いろんな偶然が重なっただけで、私は何も…。
ドラゴンが来たのだって偶然だったわけだし。」
しかし、ユーリはその言葉に眉を顰めた。
「いや、それについては微妙なところだな。可能性が無いわけではないが、あの仔竜が王都の方まで来てしまうこと自体、前例がないほど珍しいことだからな。」
「え…誰かがまたソフィアを狙って……?」
「その可能性は否定できないな。」
沈黙が流れる。
暫くして、ソフィアが呟いた。
「………また、リィナさんかしら。」
「どうだろうな…。今、ライルが調べているが、当日のあいつに怪しい動きはなかったそうだ。しかし、妙に落ち着いた様子だった、と…。」
その後、飲んだ紅茶はやけに冷めてて、私の身体を芯から冷やした。
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