親友のために悪役令嬢やってみようと思います!

はるみさ

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第三章

20.噂

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 結局ソフィアはすぐには来ることが出来なかった。聖女として国の至るところで彼女の力を必要としているのだ、仕方ないだろう。

 その後、目が覚めたオルヒはまだ痛みもあるだろうに、泣きじゃくる私の頭を右手で優しく撫でてくれた。オルヒは一滴の涙も流さず、困ったように笑い、私の心配ばかりしていた。

 「でも、腕が…」と言って私がまた泣くと、「お嬢様のお髪を美しく結い上げることが出来ないのは残念ですわ」と寂しそうに微笑んだ。

 私の髪なんてどうだっていいのに…
 オルヒがどれだけ痛い思いをしたことか……。

 その後、私は通学も含めて、外出することを禁じられた。お父様があの手紙を見て、犯人が捕まらない今、外を出歩かせるのは危険だと判断したためだ。

 私は犯人を探しに行くことも出来ない、捕まえることも出来ない、そんな自分の無力さが歯痒くて堪らなかった。


   ◆ ◇ ◆


 そして、ニヶ月後、ようやく犯人が捕まった。

 犯人は街の二人組のごろつきだった。金を積まれて引き受けた、と彼らは話した。
 しかし、それ以上の情報は持っていなかった。依頼者は二人組で二人ともフードを深く被っていて、顔は見えなかったそうだ。

 ただ不思議なことが一つあった。
 犯人たちはニヶ月の間は捕まる可能性が高いから、絶対に部屋から出ないように、と言われ、王都から少し離れたところに家を与えられたらしい。そこには世話役が一人いて、その人が家事全般をこなしてくれた為、ごろつき達は何もしなくても生きていけたそうだ。

 そして、二ヶ月経ち、その家を出て王都へ戻ると、すぐに逮捕された、とのことだった。ついでに騎士団がその家に行くと、もう誰も住んでいなかったという。調べても何の手がかりも出て来なかった。

 お父様は犯人が捕まっていないことを危惧していたが、私には確信があった。これは確実にリィナの仕業だ。

 私を殺したいほど憎んでいるのなんて、彼女くらいしか考えられない。それにオルヒが襲われる前に私たちは言い合いになった。

 そこで彼女は私に我慢できなくなったんだろう。

 でも、私も大事な人たちを傷つけるつもりなら、許すわけにはいかなかった。

 私はお父様に頼み込んで、学園に行かせてもらうことにした。

 私が学園に行く日をソフィアに手紙で伝えると、ジョシュア様から手紙が届いた。心配だから送迎をしてくれると言うのだ。

 流石に申し訳なかったので断ろうと思ったが、お父様が是非そうするべきだ!と主張したため、私はその日、ジョシュア様と登校することになった。


   ◆ ◇ ◆


 「おはよう、アンナ。」

 キラキラした笑顔で、ジョシュア様は、出迎えてくれた。

 「お、おはようございます。すみません、今日は…。」

 私とジョシュア様を乗せて、馬車は走り出した。

 「いや、嬉しいよ。アンナと登校出来るなんて。
 卒業まで残りわずかだと言うのに、アンナは学園に来れなくなってしまったし、ソフィアとユーリは巡業で忙しいし、なんだか柄にもなく寂しくなってしまった。」

 ジョシュア様はそう言って視線を落とした。

 いつもしっかりしているジョシュア様が寂しそうにしている姿を見て、少しドキッとする。…これがギャップというものだろうか。

 「ジョシュア様…。
 ……私もです。みんなに会えず、寂しかったです。怖い気持ちは確かにありますが、早く外に出て、会いに行きたくて堪らなかったです。」

 「ふっ。会いに行きたくて堪らない、だなんて…嬉しいな。あわよくば、その言葉が私にだけ向けられるものであったら、いいのに。」

 ジョシュア様は自嘲気味に笑った。

 会いたかったことは確かなので、私はその寂しそうな顔を覗き込むように言った。

 「……ジョシュア様にも会いたかったですよ?」

 動きが止まる。一体どうしたんだろうか…?

 「……私は、今、試されてるんだろうか?」

 「え?」

 「連れて帰りたい……。」

 そんなことを言うジョシュア様がおかしくて、私は笑った。

 「ふふっ。大袈裟なんですから。」

 「いや、大真面目だ。」

 確かに顔だけ見たら、真面目だ。

 「ジョシュア様ったら。
 それに私、今日はリィナと話がしたいんです。」

 「……あぁ。でも、あいつと二人きりになるのは危険だ。
 俺も同席する。」

 「でも、ジョシュア様がいたら、リィナは本性なんて見せないと思うんです。二人で話をさせて下さい。」

 「だが……。」

 ジョシュア様が心配しているのがよく分かる。
 ……その気持ちを無碍にはできなかった。

 「じゃあ…
 リィナを空き教室に呼び出すので、ジョシュア様は教室の近くに隠れててくれますか?危険になるようなことがあれば、助けて下さい。」

 そう提案すると、ジョシュア様は深く頷いた。

 「……分かった。本当に気を付けてくれよ?
 特にあいつは最近様子がおかしいんだ。」

 「様子がおかしい?」

 どういうことだろうか?
 もうヒロインごっこはやめたのだろうか?

 「あぁ。他の生徒に対しての態度が酷いんだ。
 突然キレて、物を投げたり、物を壊したり…
 自分が真の聖女だ!自分がソフィアだ!と吹聴して回ったり…
 男子生徒を無理やり教室に引きずり込み、いかがわしいことをしているという噂まである。」

 私は絶句した。

 「もう諦めたのかもしれないな。そのゲーム通りに進まないということにようやく気付き、自棄になっているのかもしれん。中には精神が錯乱してるという者もいるくらいだ。」

 ジョシュア様はそう言うが、そんなことないと思う。諦めたのだとしたら、私のことなんて構わないはず。私の存在を消そうとしている今、彼女はきっと何かを企んでいるんだろう

 そんな話をしながら、私たちは二人、学園に向かった。

 学園に着くと、いろいろな人が心配してくれた。詳しいことは伝わっていないはずだが、ジュリーが、私は体調を崩しているらしい、と噂を広めておいてくれたそうだ。

 私は久しぶりにみんなと楽しい時間を過ごした。
 今日もソフィアはいないけれど、最近はちょこちょこと通う時間も捻出しているようだった。もちろん、ユーリとペアで。ジュリーの話によると、二人が並んで歩くと「勇者と聖女だ!」と至るところで騒ぎが起きるらしい。私としては大好きな二人がみんなに祝福されていて、とても嬉しいことだ。

 そして、ジュリー達からも最近のリィナは目も当てられないという報告を受けた。彼女の味方は学内には一人もいない!とアリシアは言い切っていた。最近ではウィルガも殆ど彼女に近寄らないらしい。ついでにライル様は公務でずっと学園に顔を出していない。

 絶対に近寄らない方がいい!とジュリー達にはかなり止められたが、私は彼女ともう一度話したかった。みんなの反対を押し切り、一人で昼食を食べる彼女のところへ行き、講義終了後に空き教室へ来るようにと書いたメモを渡した。

 リィナは、それを薄ら笑いで受け取った。
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