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第7話 選択しようとする俺
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なぜ、こんなに俺の心臓はドキドキしているのだろう?
「まったく、コロはトロいな。はぐれるなと言っただろう。」
「でも、これは。」
はずかしい、と言おうとして俺はことばを飲みこんだ。ジンが鋭い目でキッと俺をにらんできたからだった。俺の右手はしっかりとジンの左手につかまれていた。しかもジンはいつもの革手袋をしていなくて素手だった。いったい、はたから見たら俺たちはどんな関係に見えるのだろう。仲のよい兄弟? 父親と子ども? そうは見えないよなあ…。
「ほら、着いたぞ。」
ジンの声で俺は我にかえった。白い石造りの平屋の建物の前に着いて、俺はいろいろ限界なので慌ててジンから手を放した。
「この建物はなんなのですか?」
俺は細くて柔らかかったジンの手のぬくもりをはやく忘れたくて、手をグーにしたりパーにしたりを繰り返したけど、ちっとも効果がなかった。
「入ればわかる。」
ジンは颯爽と扉を開けて中に入ってしまい、俺は慌ててあとを追った。中の部屋には行列ができていて、列の先にはテーブルがあり、羽ペンを持った偉そうな態度のじいさんがいて、並んでいる者たちと順番に話をしてなにやら書類に書きこんでいるようだった。
俺はジンにさらに質問をしようとしたができなかった。なぜなら、ジンがつかつかと行列を無視していちばん前に出てしまったからだ。俺はジンと他人のフリをしようとした。
「コロ! なにをしている、はやくこっちへこい!」
俺はため息をつくと、行列から突き刺さる非難の目にたえながら渋々ジンにちかづき、そばに立った。それを見かねたのか、受付のじいさんのひとりが席から立ちあがった。
「こらこら、チミたち。きちんと並ばんかいな。受付は順番じゃろが。」
「まったく無意味だ。どうせ私とコロが合格する。他はゴミだろう。」
ジンの暴言(しかも部屋中によく響く大声)に俺は血の気がひいて、逆に行列の人たちは血気盛んになった。
「なんだとてめえは、コラア!」
「来ていきなり調子にのってんじゃねえぞ!」
列に並んでいたのはいかにも強そうな装備の戦士やら鎧姿の騎士やら猛者っぽいのばかりだったので、俺はふるえながら愛想笑いするしかなかったが、ジンは完全無視でテーブルの上の書類にサラサラとなにかを書きこんだ。
「ほら、私とコロで応募する。うけとれ。」
「は、はあ。」
ジンはマントのすそを翻すと、大またにドアに向かった。(俺も含めて)みんなあっけにとられていて、ジンが放り投げた書類を慌てふためきながら受けとった受付のじいさんは俺に小声でささやいてきた。
「お前さんはあの御仁のお連れさんかね?」
「は、はあ。まあ、そのようですね。」
「あの御仁は王族か貴族のご子息かね? 人に命令するのが板についておられるな。」
「そ、そうですか。失礼いたしました!」
俺はじいさんとまわりの人々にぺこりぺこりとなんども頭を下げてから、慌ててジンのあとを追った。
大きな街に着いたと思ったら休む間もなくいきなり「応募」とやらはなんだったのだろう? 俺はジンのマントの裾を引っ張った。
「ジンさん、いいかげんに教えてください。さっきのはなんの応募だったのですか?」
「ああ、言ってなかったか? 最高に報酬の良い、しかも楽な仕事の募集だ。」
「仕事って?」
なんの相談もなしに、ジンが俺の分まで勝手に申し込みをしたことに俺はすこし腹をたてていた。ジンは手近なカフェのテラス席に座ると、俺にも席をすすめてきた。
「怒っているのか、コロ。」
「ええ、まあ。」
俺はすこしぶっきらぼうに答えた。紅茶と赤い飲み物が運ばれてくるまで気まずい沈黙があり、俺はそれにたえきれず、ごくごくと飲み物を飲んだ。それは冷たくて、濃いオレンジジュースみたいな味でおいしかった。
「コロ。怒りたいのはむしろ私のほうだ。」
ジンはお茶に何杯も砂糖を入れて、スプーンでしきりにかきまわしていた。ひどい猫舌なのか、ジンはふうふうとお茶を吹くばかりでひと口も飲まなかったが、ティーカップを持つ手がプルプル震えていて、どうやら俺の態度はジンに怒りの炎を灯してしまったようだった。
俺の予想どおり、ジンのお説教が始まった。
「貴様が今、飲んでいるそのジュースはいくらすると思う?」
「え?」
「ジュースだけではない。そもそも、だ。見ず知らずの貴様に、この私は親切にも衣食住を与えたばかりか、旅の間の安全も提供した。ちがうか?」
俺は痛いところを突かれまくって視線をジンから逸らした。そんな俺にジンは情け容赦なく追いうちをかけてきた。
「それなのに、貴様の頭には労働で私への大恩に報いようという、ごく当然の発想すら生まれんのか?」
「それは、そりゃ返したいですけど、僕にはなにもないですから…。」
「そんなことはないだろう。」
いつのまにやら俺の隣の席に座っていたジンは、顔を俺に異様に接近させてきた。たまらなくいい香りがして、俺は蛇ににらまれたカエルみたいに、いや、虎ににらまれたネズミみたいに縮こまってしまった。
「貴様には、かけた恩を存分に返してもらおう。忘れたのか? 私との約束を。」
ジンはカップを置くと、か細い手をのばしてきて俺の頬にそっとふれた。その瞬間、俺はビクッと激しく体全身で反応してしまった。
やめてくれ!
外見は少年だが俺の中身はおっさんなのに!
いや、少年でもまずいぞ、だってジンは!
俺はそう叫びたかったが、口にでたのは別の言葉だった。
「や、約束って何ですか?」
「貴様の身も心も、既に私のものだ。最初からそういう約束だろう。忘れたのか?」
そ、そんな約束したっけか?
ど、どうしよう?
俺は、
①悲鳴をあげる
②気絶する
③逃げる
のどれかを選ぼうとして、結局どれもできなかった。
「まったく、コロはトロいな。はぐれるなと言っただろう。」
「でも、これは。」
はずかしい、と言おうとして俺はことばを飲みこんだ。ジンが鋭い目でキッと俺をにらんできたからだった。俺の右手はしっかりとジンの左手につかまれていた。しかもジンはいつもの革手袋をしていなくて素手だった。いったい、はたから見たら俺たちはどんな関係に見えるのだろう。仲のよい兄弟? 父親と子ども? そうは見えないよなあ…。
「ほら、着いたぞ。」
ジンの声で俺は我にかえった。白い石造りの平屋の建物の前に着いて、俺はいろいろ限界なので慌ててジンから手を放した。
「この建物はなんなのですか?」
俺は細くて柔らかかったジンの手のぬくもりをはやく忘れたくて、手をグーにしたりパーにしたりを繰り返したけど、ちっとも効果がなかった。
「入ればわかる。」
ジンは颯爽と扉を開けて中に入ってしまい、俺は慌ててあとを追った。中の部屋には行列ができていて、列の先にはテーブルがあり、羽ペンを持った偉そうな態度のじいさんがいて、並んでいる者たちと順番に話をしてなにやら書類に書きこんでいるようだった。
俺はジンにさらに質問をしようとしたができなかった。なぜなら、ジンがつかつかと行列を無視していちばん前に出てしまったからだ。俺はジンと他人のフリをしようとした。
「コロ! なにをしている、はやくこっちへこい!」
俺はため息をつくと、行列から突き刺さる非難の目にたえながら渋々ジンにちかづき、そばに立った。それを見かねたのか、受付のじいさんのひとりが席から立ちあがった。
「こらこら、チミたち。きちんと並ばんかいな。受付は順番じゃろが。」
「まったく無意味だ。どうせ私とコロが合格する。他はゴミだろう。」
ジンの暴言(しかも部屋中によく響く大声)に俺は血の気がひいて、逆に行列の人たちは血気盛んになった。
「なんだとてめえは、コラア!」
「来ていきなり調子にのってんじゃねえぞ!」
列に並んでいたのはいかにも強そうな装備の戦士やら鎧姿の騎士やら猛者っぽいのばかりだったので、俺はふるえながら愛想笑いするしかなかったが、ジンは完全無視でテーブルの上の書類にサラサラとなにかを書きこんだ。
「ほら、私とコロで応募する。うけとれ。」
「は、はあ。」
ジンはマントのすそを翻すと、大またにドアに向かった。(俺も含めて)みんなあっけにとられていて、ジンが放り投げた書類を慌てふためきながら受けとった受付のじいさんは俺に小声でささやいてきた。
「お前さんはあの御仁のお連れさんかね?」
「は、はあ。まあ、そのようですね。」
「あの御仁は王族か貴族のご子息かね? 人に命令するのが板についておられるな。」
「そ、そうですか。失礼いたしました!」
俺はじいさんとまわりの人々にぺこりぺこりとなんども頭を下げてから、慌ててジンのあとを追った。
大きな街に着いたと思ったら休む間もなくいきなり「応募」とやらはなんだったのだろう? 俺はジンのマントの裾を引っ張った。
「ジンさん、いいかげんに教えてください。さっきのはなんの応募だったのですか?」
「ああ、言ってなかったか? 最高に報酬の良い、しかも楽な仕事の募集だ。」
「仕事って?」
なんの相談もなしに、ジンが俺の分まで勝手に申し込みをしたことに俺はすこし腹をたてていた。ジンは手近なカフェのテラス席に座ると、俺にも席をすすめてきた。
「怒っているのか、コロ。」
「ええ、まあ。」
俺はすこしぶっきらぼうに答えた。紅茶と赤い飲み物が運ばれてくるまで気まずい沈黙があり、俺はそれにたえきれず、ごくごくと飲み物を飲んだ。それは冷たくて、濃いオレンジジュースみたいな味でおいしかった。
「コロ。怒りたいのはむしろ私のほうだ。」
ジンはお茶に何杯も砂糖を入れて、スプーンでしきりにかきまわしていた。ひどい猫舌なのか、ジンはふうふうとお茶を吹くばかりでひと口も飲まなかったが、ティーカップを持つ手がプルプル震えていて、どうやら俺の態度はジンに怒りの炎を灯してしまったようだった。
俺の予想どおり、ジンのお説教が始まった。
「貴様が今、飲んでいるそのジュースはいくらすると思う?」
「え?」
「ジュースだけではない。そもそも、だ。見ず知らずの貴様に、この私は親切にも衣食住を与えたばかりか、旅の間の安全も提供した。ちがうか?」
俺は痛いところを突かれまくって視線をジンから逸らした。そんな俺にジンは情け容赦なく追いうちをかけてきた。
「それなのに、貴様の頭には労働で私への大恩に報いようという、ごく当然の発想すら生まれんのか?」
「それは、そりゃ返したいですけど、僕にはなにもないですから…。」
「そんなことはないだろう。」
いつのまにやら俺の隣の席に座っていたジンは、顔を俺に異様に接近させてきた。たまらなくいい香りがして、俺は蛇ににらまれたカエルみたいに、いや、虎ににらまれたネズミみたいに縮こまってしまった。
「貴様には、かけた恩を存分に返してもらおう。忘れたのか? 私との約束を。」
ジンはカップを置くと、か細い手をのばしてきて俺の頬にそっとふれた。その瞬間、俺はビクッと激しく体全身で反応してしまった。
やめてくれ!
外見は少年だが俺の中身はおっさんなのに!
いや、少年でもまずいぞ、だってジンは!
俺はそう叫びたかったが、口にでたのは別の言葉だった。
「や、約束って何ですか?」
「貴様の身も心も、既に私のものだ。最初からそういう約束だろう。忘れたのか?」
そ、そんな約束したっけか?
ど、どうしよう?
俺は、
①悲鳴をあげる
②気絶する
③逃げる
のどれかを選ぼうとして、結局どれもできなかった。
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