77 / 79
第二章 交錯・倒錯する王都
シス②
しおりを挟む俺が目を覚ますといつもの見慣れたそこに天井があった。
ピカピカの光沢があり、朝の眩しい日の光を反射している。
俺たちが共同で住んでいる『家(ホーム)』は俺が来たときとは一掃したものとなっていた。
なぜなら俺がいつ能力を使っても大事が起こらないようにと定期的に、張り替えたり、新調したりしているからだ。
あれから二年間、俺は一切あの能力を使っていない。
だから、むしろ能力のことを忘れないようにと頭の片隅においておくことを心がけていたくらいだった。
俺は眠たい目を覚ますため、日光の直射する屋根へと向かった。
俺たちの住んでいる『家(ホーム)』はこの街のハズレにあり、周りに家はあるものの、ほとんどが空になって朽ち果てている。
そもそも、俺たちと外界との間に魔獣を防ぐ大きな結界はあるものの、それとは別にしっかりと周りに人が住んでいる地区は強めの結界が張られている。
だからここに人が訪れるようなことはまずない。
俺たちも畑や山から自給自足ができているため、街に赴く必要もなかったのだが。
「はあ、なんで女のあたしよりもあんたの方がチビッコたちに好かれんのかね~」
眠い目をこすりながら、ボサボサの赤髪をほったらかしにしているマギサが俺の隣を座る。
「マギサが女に見えない性格をしているからだろ」
「なにそれ。内容によっては今ここであんたを蹴飛ばしてもいいんだけど」
ここからは街も森の見える。
ある場所を境に、急に建物が立ち並ぶ光景はここから見ていると少々滑稽だった。
それよりも、ここらのほうが森とはマッチする。
「それよりあんた、戦うのをやめて、ここでチビッコどものガッコウでもやったらどうだい」
「それだと、一人分の稼ぎが……」
「心配することじゃないね。その分あたしたちの自由度が増えるからさ」
さて、今日は何すっかなー。
マギサは、本当に今日を生きていると俺は思う。
子供に好かれたいと言うときもあれば、子供の何がいいんだ、というときもある。
あれから二年、ここにいて色々な人のことが分かった。
俺たちは装備が揃うと、森の外にあるダンジョンに時々訪れる。
そこはなぜかダンジョンに棲みついていて、そこにしかいない魔獣が多くいる。
何かの遺跡だったのか、幾つかの部屋が繫がり、地下深くへと続いている。
そこにいる魔獣の体は薬や良好な食材、武器の素材へと変わる。
だから俺たちはそれを街のギルドに売ってお金稼ぎもしている。
しかし、当然魔獣と戦うということは時に自分も命を落とすことがある。
俺も何度かその現場を見てきた。
だから、それには一応のリーダーであるリューゲルの許可がないと行くことができない。
俺はスタンの協力もあってどうにか参加できているが、正直足手まといになっている自覚はある。
しかし弓を使っている分魔獣との接触は少ない。
魔法が使えず、普通の武器も普通の人以下の扱いしかできない俺は参加せず、チビッコたちの面倒を見ていることが多い。
最近は王が訪れるとなんとかで、街は積極的に物の売買がされるようになっていた。
[おーい、シスとマギサ。そろそろ貴重品(アイテム)もたいぶ揃ってきたし、本格的にダンジョン攻略に行きたいって、リューゲルが言ってたぞ」
下の方から声が聞こえてくる。
みると、屋根を見上げているのはツンツン髪のラルトスだった。
ダンジョン攻略というのは、まだ訪れていない階層まで目指すということだ。
金稼ぎのときは一、ニ……時には三、四階層を彷徨うことが多いが、攻略を目指すということは一回一回の階をどれだけ時間を削れるかが出来を左右する。
ラルトスは毎回、行った地形をメモっている。
彼は絵を書くのがうまいのだ。
「それとだ。シス、彼らの面倒を頼むぞ。最近機嫌が悪いからね」
ここに住む住人はみな、自分のためにやりたいことをやっている。
俺たちはここの最高年齢者になりつつあった。
なぜなら、大人になるに連れて、ここを出て、この街を出て新しい新天地を探して旅に出るものがいるからだ。
あるいはそれまでに死んでしまうか。
だか、ここにいる皆は今日を全力で生きている。
今日は俺はチビッコたちをつれて、街を訪れることにした。
「ねえ、しすー。あそこの店は何うってるの?」
「ありゃあ、占いとかいうやつだな。でもあんな短時間で占えるほど俺たちの未来は単純じゃないだろ?」
「そだねーー」
「私、将来お嫁さんになるんだー」
「しすの未来を見てみたーい」
やだよ。変な結果が出たら立ち直れないかもしれないし。
今日は四人がついてきた。
ネモネ、ダリア、ロベリアにモクレン。
彼女たちは俺たちのところに来て、だいぶ明るい性格になったものだった。
「俺はあの店で、料理が食べたいぞ」
なぜか、スタンもついてきていた。
子供のほうが味覚が繊細である。
俺たちはスタンが行きたいといった店で食事を取ることにした。
スタンは香辛料が効いたピリ辛なスープを頼んでいた。
そして、それをスタンはネモネに分けている。
ネモネは一口すくって食べると、すぐさまスタンに文句を言い始めた。
「何このりょーり。からくてしたがピリピリする。変な味」
スタンは美味しそうに食べていたので、ひどく心外だ、といった表情だった。
俺も試しに一口食べてみる。
「あわわーー、ネモネとかんせつきしゅだー」
ロベリアがどこから仕入れたのか、ホヤホヤな知識で勝手に動揺しているが、気にしないでおく。
確かに舌をピリピリするような感覚はある。
「スタン、お前の舌が劣ってるんじゃね」
辛いものより甘党の俺がかろうじて食べれるものだった。
子供のほうが舌がしっかりしているかは好き嫌いがはっきりしていると聞いたことがある。
大人になるに連れて舌の感覚が麻痺するからなんでも食べれるようになるとか。
「シスの舌もまだまだおこちゃまだな」
誰も手を付けなくなった料理を一人でバクバクスタンが食べる。
俺は頼んでいたあんかけを彼女たちに分けていた。
「おいしーー」
「私にもこのスキル身につけたほうがいいかな」
「甘くて幸せ~」
彼らの幸せは案外安く済みそうだな。
「やっぱりシスは俺たちとはなんか違うよな」
スタンは一人辛いものづくしのコースを堪能しながら、結論付けるように言った。
それからも彼らの気の向くままに、適当に街を歩いた。
街は王の訪問に備えて、街中を装飾している。
彼女たちは普段、しっかり自分たちのできることを一生懸命やってくれる分、俺たちがしっかりと休息を与えなくてはいけなかった。
彼らはまだ自分たちがどれだけできるのか分かっていないからだ。
だいぶ日が傾いた頃、俺はある違和感を覚えた。
何者かが俺たちをつけてきている。
スタンもそのことに気づいたらしい。
「シス。どうする?」
「やっぱり、やつらの確認が最優先かな」
しかし、追手がどんなやつなのか検討もつかない。
そもそも俺たちが街を訪れること自体少ないのだ。
「スタン、武器は持ってるか?」
「ああ、戦闘になったら任せとけ」
「一旦走るぞ」
俺はそう言うと、両手にネモネとロベリアを抱えて走り出した。
「えっ」「はうっ」
二人共びっくりしたような反応を取る。
まあ、当たり前だよな。
右手のロベリアはおとなしかったが、一方のネモネはそうはいかなかった。
「うあー、いやっほーい。なんかそら飛んでるかんじ」
スタンも残る二人を抱えてついてくる。
「どこに行く」
「帰る途中にある密集した住宅地だ。そこでやつらを確認しよう」
街で穏やかに、のんびり暮らしている奴らとは違って俺たちは戦いにも慣れている。
俺たちの方が身体能力が上だと心の中で決めつけていた。
目的の場所付近まで来ると、やつらはしびれを切らしたのか、魔法を打ってきた。
街の中では魔法の使用は禁止されているはずなのだが、お構いなしらしい。
スタンは抱えていたダリアとモクレンを離して、俺の後ろに回らせると、剣を構えて魔法を打ってきた奴らに迎え撃つ構えを取った。
「貴方方のホームまで行って助言しようと思ったのですが、逃げられてしまうのなら、今ここで貴方方に言っておきましょう」
それは、この街を守る警備団の長だった。
胸に光り輝くバッチがそう告げている。
「私は貴方方に敵対するつもりはありませんのでひとまずは安心してください」
そう言われて安心するほど俺たちは馬鹿ではない。
「貴方方は、もうすぐこの街に王が訪問するのはご存知ですか? そこで我らの領主は一時的に外部の結界を解いて、外の街はここアウステルとは別の街だとアピールするつもりらしいのです」
俺たちをアウステルから追放するということなのだろうか。
「そこで、貴方方は、二日後には今のホームをでて、この街に移ってきてほしいのです」
「俺たちに居場所はあるのか?」
スタンが威圧的に訊ねる。
「はい、そこのところは大丈夫です」
「なぜ、俺達のことを気にかけてくれる?」
うまい話には裏があるかもしれない。
「この街で、貴方方を要らない存在であると思っている人は半数以上いる。その街の外に住んでいる野蛮で不良だと。しかし私はそうは思わない。私の今の立場でなら貴方方を救うことができるかもしれない。私は自分の特権を有効に使おうと思っただけです」
一応俺たちはこのことをリューゲルに伝えておくことにした。
しかし、二日後とは決断するには急な話だと俺はその時思ったのだが、実際は二日では済まなかった。
0
あなたにおすすめの小説
年増令嬢と記憶喪失
くきの助
恋愛
「お前みたいな年増に迫られても気持ち悪いだけなんだよ!」
そう言って思い切りローズを突き飛ばしてきたのは今日夫となったばかりのエリックである。
ちなみにベッドに座っていただけで迫ってはいない。
「吐き気がする!」と言いながら自室の扉を音を立てて開けて出ていった。
年増か……仕方がない……。
なぜなら彼は5才も年下。加えて付き合いの長い年下の恋人がいるのだから。
次の日事故で頭を強く打ち記憶が混濁したのを記憶喪失と間違われた。
なんとか誤解と言おうとするも、今までとは違う彼の態度になかなか言い出せず……
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
七日後に神罰が落ちる。上層部は「下を切り捨てろ」と言った——私は全員を逃がす
蒼月よる
ファンタジー
七日後、この港に神罰が落ちる。
追放された元観測士イオナだけが、その事実を知っていた。
しかも災害は自然現象ではない——誰かが、意図的に引き起こそうとしている。
港の上層部はすでに手を打っていた。「下層区画を緩衝被害区として切り捨てる」秘密契約。被害を最小限に見せかけ、体制を守る冷徹な計画だ。
イオナは元護送隊長ガルム、荷運び組合長メラとともに動き出す。
犯人を暴き、証拠を公開し、住民を逃がし、工廠を止める——すべてを七日で。
被害を「選ぶ」管理か、全員を「残す」運用か。
追放観測士の、七日間の港湾カウントダウン・サスペンス。
この作品は以下の箇所にAI(Claude Code)を利用しています。
・世界観・設定の管理補助
・プロット段階の壁打ち
・作者による執筆後の校正
三十年後に届いた白い手紙
RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。
彼は最後まで、何も語らなかった。
その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。
戴冠舞踏会の夜。
公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。
それは復讐でも、告発でもない。
三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、
「渡されなかった約束」のための手紙だった。
沈黙のまま命を捨てた男と、
三十年、ただ待ち続けた女。
そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。
これは、
遅れて届いた手紙が、
人生と運命を静かに書き換えていく物語。
貧乏男爵家の末っ子が眠り姫になるまでとその後
空月
恋愛
貧乏男爵家の末っ子・アルティアの婚約者は、何故か公爵家嫡男で非の打ち所のない男・キースである。
魔術学院の二年生に進学して少し経った頃、「君と俺とでは釣り合わないと思わないか」と言われる。
そのときは曖昧な笑みで流したアルティアだったが、その数日後、倒れて眠ったままの状態になってしまう。
すると、キースの態度が豹変して……?
【完結】王子妃候補をクビになった公爵令嬢は、拗らせた初恋の思い出だけで生きていく
たまこ
恋愛
10年の間、王子妃教育を受けてきた公爵令嬢シャーロットは、政治的な背景から王子妃候補をクビになってしまう。
多額の慰謝料を貰ったものの、婚約者を見つけることは絶望的な状況であり、シャーロットは結婚は諦めて公爵家の仕事に打ち込む。
もう会えないであろう初恋の相手のことだけを想って、生涯を終えるのだと覚悟していたのだが…。
断腸の思いで王家に差し出した孫娘が婚約破棄されて帰ってきた
兎屋亀吉
恋愛
ある日王家主催のパーティに行くといって出かけた孫娘のエリカが泣きながら帰ってきた。買ったばかりのドレスは真っ赤なワインで汚され、左頬は腫れていた。話を聞くと王子に婚約を破棄され、取り巻きたちに酷いことをされたという。許せん。戦じゃ。この命燃え尽きようとも、必ずや王家を滅ぼしてみせようぞ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる