オン・ワンズ・ワァンダー・トリップ!!

羽田 智鷹

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第二章 交錯・倒錯する王都

シス②

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 俺が目を覚ますといつもの見慣れたそこに天井があった。
 ピカピカの光沢があり、朝の眩しい日の光を反射している。
 
 俺たちが共同で住んでいる『家(ホーム)』は俺が来たときとは一掃したものとなっていた。
 なぜなら俺がいつ能力を使っても大事が起こらないようにと定期的に、張り替えたり、新調したりしているからだ。
 
 あれから二年間、俺は一切あの能力を使っていない。
 だから、むしろ能力のことを忘れないようにと頭の片隅においておくことを心がけていたくらいだった。
 
 俺は眠たい目を覚ますため、日光の直射する屋根へと向かった。
 
 俺たちの住んでいる『家(ホーム)』はこの街のハズレにあり、周りに家はあるものの、ほとんどが空になって朽ち果てている。
 そもそも、俺たちと外界との間に魔獣を防ぐ大きな結界はあるものの、それとは別にしっかりと周りに人が住んでいる地区は強めの結界が張られている。
 だからここに人が訪れるようなことはまずない。
 
 俺たちも畑や山から自給自足ができているため、街に赴く必要もなかったのだが。
 
 「はあ、なんで女のあたしよりもあんたの方がチビッコたちに好かれんのかね~」
 眠い目をこすりながら、ボサボサの赤髪をほったらかしにしているマギサが俺の隣を座る。
 「マギサが女に見えない性格をしているからだろ」
 「なにそれ。内容によっては今ここであんたを蹴飛ばしてもいいんだけど」
 ここからは街も森の見える。
 ある場所を境に、急に建物が立ち並ぶ光景はここから見ていると少々滑稽だった。
 それよりも、ここらのほうが森とはマッチする。
 「それよりあんた、戦うのをやめて、ここでチビッコどものガッコウでもやったらどうだい」
 「それだと、一人分の稼ぎが……」
 「心配することじゃないね。その分あたしたちの自由度が増えるからさ」
 さて、今日は何すっかなー。
 
 マギサは、本当に今日を生きていると俺は思う。
 子供に好かれたいと言うときもあれば、子供の何がいいんだ、というときもある。
 
 あれから二年、ここにいて色々な人のことが分かった。
 
 俺たちは装備が揃うと、森の外にあるダンジョンに時々訪れる。
 そこはなぜかダンジョンに棲みついていて、そこにしかいない魔獣が多くいる。
 何かの遺跡だったのか、幾つかの部屋が繫がり、地下深くへと続いている。
 そこにいる魔獣の体は薬や良好な食材、武器の素材へと変わる。
 だから俺たちはそれを街のギルドに売ってお金稼ぎもしている。
 
 しかし、当然魔獣と戦うということは時に自分も命を落とすことがある。
 俺も何度かその現場を見てきた。
 
 だから、それには一応のリーダーであるリューゲルの許可がないと行くことができない。
 
 俺はスタンの協力もあってどうにか参加できているが、正直足手まといになっている自覚はある。
 しかし弓を使っている分魔獣との接触は少ない。
 
 魔法が使えず、普通の武器も普通の人以下の扱いしかできない俺は参加せず、チビッコたちの面倒を見ていることが多い。
 
 最近は王が訪れるとなんとかで、街は積極的に物の売買がされるようになっていた。
 [おーい、シスとマギサ。そろそろ貴重品(アイテム)もたいぶ揃ってきたし、本格的にダンジョン攻略に行きたいって、リューゲルが言ってたぞ」
 下の方から声が聞こえてくる。
 みると、屋根を見上げているのはツンツン髪のラルトスだった。
 
 ダンジョン攻略というのは、まだ訪れていない階層まで目指すということだ。
 金稼ぎのときは一、ニ……時には三、四階層を彷徨うことが多いが、攻略を目指すということは一回一回の階をどれだけ時間を削れるかが出来を左右する。
 
 ラルトスは毎回、行った地形をメモっている。
 彼は絵を書くのがうまいのだ。
 「それとだ。シス、彼らの面倒を頼むぞ。最近機嫌が悪いからね」
 ここに住む住人はみな、自分のためにやりたいことをやっている。
 俺たちはここの最高年齢者になりつつあった。
 なぜなら、大人になるに連れて、ここを出て、この街を出て新しい新天地を探して旅に出るものがいるからだ。
 あるいはそれまでに死んでしまうか。 
 
 だか、ここにいる皆は今日を全力で生きている。
 今日は俺はチビッコたちをつれて、街を訪れることにした。
 
 「ねえ、しすー。あそこの店は何うってるの?」
 「ありゃあ、占いとかいうやつだな。でもあんな短時間で占えるほど俺たちの未来は単純じゃないだろ?」
 「そだねーー」
 「私、将来お嫁さんになるんだー」
 「しすの未来を見てみたーい」
 やだよ。変な結果が出たら立ち直れないかもしれないし。
 
 今日は四人がついてきた。
 ネモネ、ダリア、ロベリアにモクレン。
 彼女たちは俺たちのところに来て、だいぶ明るい性格になったものだった。
 「俺はあの店で、料理が食べたいぞ」
 なぜか、スタンもついてきていた。
 
 子供のほうが味覚が繊細である。
 俺たちはスタンが行きたいといった店で食事を取ることにした。
 スタンは香辛料が効いたピリ辛なスープを頼んでいた。
 そして、それをスタンはネモネに分けている。
 
 ネモネは一口すくって食べると、すぐさまスタンに文句を言い始めた。
 「何このりょーり。からくてしたがピリピリする。変な味」
 スタンは美味しそうに食べていたので、ひどく心外だ、といった表情だった。
 俺も試しに一口食べてみる。
 「あわわーー、ネモネとかんせつきしゅだー」
 ロベリアがどこから仕入れたのか、ホヤホヤな知識で勝手に動揺しているが、気にしないでおく。
 確かに舌をピリピリするような感覚はある。
 「スタン、お前の舌が劣ってるんじゃね」
 辛いものより甘党の俺がかろうじて食べれるものだった。
 
 子供のほうが舌がしっかりしているかは好き嫌いがはっきりしていると聞いたことがある。
 大人になるに連れて舌の感覚が麻痺するからなんでも食べれるようになるとか。
 
 「シスの舌もまだまだおこちゃまだな」
 誰も手を付けなくなった料理を一人でバクバクスタンが食べる。
 
 俺は頼んでいたあんかけを彼女たちに分けていた。
 「おいしーー」
 「私にもこのスキル身につけたほうがいいかな」
 「甘くて幸せ~」
 彼らの幸せは案外安く済みそうだな。
 
 「やっぱりシスは俺たちとはなんか違うよな」
 スタンは一人辛いものづくしのコースを堪能しながら、結論付けるように言った。
 
 それからも彼らの気の向くままに、適当に街を歩いた。
 街は王の訪問に備えて、街中を装飾している。
 
 彼女たちは普段、しっかり自分たちのできることを一生懸命やってくれる分、俺たちがしっかりと休息を与えなくてはいけなかった。
 彼らはまだ自分たちがどれだけできるのか分かっていないからだ。
 
 だいぶ日が傾いた頃、俺はある違和感を覚えた。
 何者かが俺たちをつけてきている。
 スタンもそのことに気づいたらしい。
 「シス。どうする?」
 「やっぱり、やつらの確認が最優先かな」
 しかし、追手がどんなやつなのか検討もつかない。
 そもそも俺たちが街を訪れること自体少ないのだ。
 「スタン、武器は持ってるか?」
 「ああ、戦闘になったら任せとけ」
 「一旦走るぞ」
 俺はそう言うと、両手にネモネとロベリアを抱えて走り出した。
 「えっ」「はうっ」
 二人共びっくりしたような反応を取る。 
 まあ、当たり前だよな。
 
 右手のロベリアはおとなしかったが、一方のネモネはそうはいかなかった。
 「うあー、いやっほーい。なんかそら飛んでるかんじ」
 スタンも残る二人を抱えてついてくる。
 「どこに行く」
 「帰る途中にある密集した住宅地だ。そこでやつらを確認しよう」
 街で穏やかに、のんびり暮らしている奴らとは違って俺たちは戦いにも慣れている。
 俺たちの方が身体能力が上だと心の中で決めつけていた。
 
 目的の場所付近まで来ると、やつらはしびれを切らしたのか、魔法を打ってきた。
 街の中では魔法の使用は禁止されているはずなのだが、お構いなしらしい。
 スタンは抱えていたダリアとモクレンを離して、俺の後ろに回らせると、剣を構えて魔法を打ってきた奴らに迎え撃つ構えを取った。
 
 「貴方方のホームまで行って助言しようと思ったのですが、逃げられてしまうのなら、今ここで貴方方に言っておきましょう」
 それは、この街を守る警備団の長だった。
 胸に光り輝くバッチがそう告げている。
 「私は貴方方に敵対するつもりはありませんのでひとまずは安心してください」
 そう言われて安心するほど俺たちは馬鹿ではない。
 「貴方方は、もうすぐこの街に王が訪問するのはご存知ですか? そこで我らの領主は一時的に外部の結界を解いて、外の街はここアウステルとは別の街だとアピールするつもりらしいのです」
 俺たちをアウステルから追放するということなのだろうか。
 「そこで、貴方方は、二日後には今のホームをでて、この街に移ってきてほしいのです」
 「俺たちに居場所はあるのか?」 
 スタンが威圧的に訊ねる。
 「はい、そこのところは大丈夫です」
 「なぜ、俺達のことを気にかけてくれる?」
 うまい話には裏があるかもしれない。
 「この街で、貴方方を要らない存在であると思っている人は半数以上いる。その街の外に住んでいる野蛮で不良だと。しかし私はそうは思わない。私の今の立場でなら貴方方を救うことができるかもしれない。私は自分の特権を有効に使おうと思っただけです」
 一応俺たちはこのことをリューゲルに伝えておくことにした。
 しかし、二日後とは決断するには急な話だと俺はその時思ったのだが、実際は二日では済まなかった。
 
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